やっと書けました!
四話構成なので、明日から三日間はいつも通り一話ずつ朝の六時投稿します。
さぁー、楽しんでください。
怪盗紳士への返答を明日に控えた日、事務所の電話が鳴り響く。
いつも通りの舘羽による丁寧な対応が聞こえる中、舘羽が電話を保留にし、小城の方を向き直った。
「所長、週刊ケンタイの和田さんからお電話です」
「和田さんから?」
(和田さんが事務所に電話してくるなんて珍しいな・・・ またインタビューかアンケートの協力かな)
「お電話替わりました、小城です」
『小城はん、お久し振りですわ。
いつきはんからいろいろ話は聞いとりますし、お見舞いは送りましたけど、怪我の具合はどうです?』
「お久し振りです、和田さん。骨なのですぐには治りませんが、激しい運動を控えるように言われているぐらいで日常生活には問題はありません。
それでどういった御用件で?」
事件となってしまったことで広く知れ渡っている怪我については困ったものだし、小城が罪に問わないと選択したと知ったいつきが誰よりも早く行動し、友人のメディア関係者と共に真木目を静かに追い詰めたことは知っている。
だが、それらを知ってなお小城はいつきを止めるようなことはしなった。
(僕の許しは訴えないこと、
でも、精神状態が不安定なことを踏まえてもあれだけ言われたんだ。いつきさん達の行動を止めようとまでは流石に思わなかったんだよなぁ)
『小城はん、恋琴島は知っとりますか?』
「!?
い、いえ・・・ 知りません。和田さんから話題にされるということは何かその島になにか問題があるか、お宝でも眠っているんですか?」
和田から出ると思っていなかった島の名前におもわず知らないふりをしつつ話を聞くと、なんでも先日ある情報筋から恋琴島について話を聞き、その島にあるとされる金塊探しツアーの企画を立てたいのだという。
(
強硬手段というには遠回しだが、確実にこちらが断りづらいところから攻めてくるのが性格の悪さを感じる。そして、この反応も含めて怪盗紳士は楽しんでいることだろうことがわかって、殊更腹が立つ。
『この話を知り合いのテレビディレクターにしたら「面白い!」言ってくれまして、どうせなら週刊誌の記事だけに終わらせずテレビで一企画として連携しないかってもちかけられたんですわぁ~』
さらに続いた和田の言葉に小城の表情がなくなり、頭の中で警報が鳴りだす。
そして、それはそのまま現実となってしまう。
『「二大トップアイドル・速水玲香と夕凪はるかが行く! 宝探しツアー!!」いうですけど、その同伴者としてプロのトレジャーハンターであり、警護も出来る小城はんにお願いしたいんですわ。あと、これは僕じゃなく知り合いの案で申し訳ないんですけど、小城はんとこにいる金田一耕助のお孫さんがおるでしょう? 話題作りとして彼にも是非参加してほしいんですわ。なんでも玲香ちゃんとも親しいみたいやし、頭も回る。いくつかの事件にも関わってる聞きますし、それに小城はんのところにおるなら人間性も心配する必要ないですわぁ』
(あの野郎・・・! 人の神経を逆撫でる天才だろ!!)
どこまでも事態を自分が面白いと思う方へと持っていこうとする怪盗紳士。
しかもあれこれ突いてどちらも参加させるという、小城からすれば最悪の状況に発展している。
(しかも、ここで俺が断れば絶海の孤島で二人がどうなるかもわからない)
いくら事件が起こるような火種がなくとも原作において事件ホイホイ筆頭であり、怪我や誘拐に事欠かない二人だ。放っておくことが出来るわけがない。
この時点でもう小城にはもう断るという選択肢はなくなり、直接返答するまでもなく『YES』以外の答えを潰されたのだ。
(クソがっ!)
『小城はん?』
「あぁ、すみません。警護なら僕だけじゃなく他の所員を連れていくことになるので少々考え込んでしまって・・・ 金田一くんは番組としては『事務所のアルバイト』よりも『金田一耕助の孫』として紹介したいでしょうし、そうなる僕以外に一人か二人が精々といったところでしょうか」
『まぁそうなりますやろなぁ。その辺りはもう少しこっちでも考えますんで、また連絡しますわ』
「はい、お願いします。
わかってるかと思いますが企画内で『事務所のアルバイト』として扱わない以上、金田一くんに関してはそちらの関係者が金田一くんとやり取りすることとなると思います。ですがくれぐれも彼を軽んじたり、馬鹿にすることなく、彼が学生であることをご配慮願います」
『わかっとります。僕も幼い娘がおる身ですし、小城はんのとこの大事な所員。いくら有名になるようなことをしてても子どもは子どもですわ、僕ら大人で責任もって守らんと』
娘を大事に思う父たる心強い和田の言葉を聞いて、怪盗紳士に対して抱いていた怒りが多少静まり、顔が優しいものへと変化する。
「ありがとうございます。
トレジャーハンターや宝探しなら金田一くん達と同年代の参加者がいた方がいいですよね? これは提案なのですが・・・」
和田に大人としての義務を共有できたことから、小城も本格的に今回の企画の参加者としての意見を告げ、数名の名をあげながら今後の予定について話し合ったのち、電話を切る。
(うん、まだ提案程度だけど和田さん側に出来ることはした。あとは・・・)
時計を確認してから剣持の携帯へと発信を押し、数コール後に電話の向こうから聞きなれた彼の声が響く。
『おぉ、お前から連絡なんて珍しいな。どうした?』
「それが金田一くんが絶海の孤島で行われるツアーに参加することになりまして」
『はぁ!? あいつ、今度は何やらかした!?』
剣持の大声が耳から頭を貫く形で逆の耳へと通過し、キーンとした痛みが耳と頭を襲う。
「いえ、金田一くんはまだ何もしていませんよ。
そのツアーに僕も警護を兼ねてプロのトレジャーハンターとして同行を求められましてね、ただ彼が参加する上にこんな場所でしょう? 何があってもおかしくはないので、剣持さんにはお話を通しておきたくて」
『そもそもそのツアーに参加させないっつうのは無理なのか?』
「ハハハハ、僕もぜひそうしたいんですけどもうテレビ局と編集者が動き出しちゃってて無理ですね。一切根拠もなく『彼がいると事件が起こるから、危険を避けるために企画を破棄しろ』なんて言って信じてくれると思いますか?」
本来なら小城もぜひそうしたいのだが、既に二つのメディアが乗り気である以上もはや止めることは出来ない。剣持もそう思ったのだろう、ガシガシと乱暴に頭をかく音が聞こえてきた。
『わかった。その日は俺も休暇を取って、動きの取りやすい場所に待機しておく。一番近い港の警察署近くにいることぐらいしか出来なくて悪いが・・・・』
「いえ、十分すぎますよ・・・ むしろ貴重な休日を潰してしまって本当に申し訳ありません」
警察も『こいつがいて事件が起こるかもしれないから、この近辺に待機しておきたい』なんて言って通るわけがない。
『いや、俺も金田一を事件に巻き込んじまってる一因の一人だ。こんくらいはどうってことねぇよ。
しかしお前も気苦労が絶えねぇな』
「子どもを守るのは大人の役目、所員を守るのは所長の役目ですので、大したことはありませんよ」
『ホント、警視の知り合いってだけで疑った過去の俺をぶっ飛ばしたくなる・・・ 悪かったな、初対面の時は』
申し訳なさそうに謝られたことに小城は少々驚きつつ、フッと笑う。
「気にすることはありませんよ。こんな若造が事務所を構えているんです、侮られることは慣れています。
それではまた詳細がわかりましたらご連絡します。もしかしたら、僕よりも先に金田一くんから連絡が入るかもしれませんが」
『わかった。どっちの連絡が来てもいいようにしておくし、俺の方でも準備を始めておく』
「ありがとうございます。それでは」
携帯を切ったところで深い溜息を零していれば、揚羽が気づかわし気な視線と共に紅茶を持ってきてくれた。
「所長、何かトラブルがあったんですか?」
「あー・・・ まぁ和田さんが僕と金田一くんにツアーに参加してほしい旨を伝えられてね」
その言葉に室内にいる全員が何かしらの物音をたて、それは神棚の方からも例外ではなかった。
(神様からもこんな反応を貰うんだから流石
「だから剣持さんに電話してたのね・・・」
「うん。だから、その時は徹を中心に留守を頼むことになると思う。
それと一人か二人、同伴もしてもらうことになって、その辺りはまた和田さんから詳細が来た時に決めることになる」
全員に現時点での情報を共有しつつ、温かい紅茶を飲んで心を安定させる。
(現段階で出来ることはした。次は・・・ 明日会う予定の怪盗紳士に文句ぐらいは言わないと気が済まない)
紅茶に自分の顔が映り、その顔はいつもの穏やかさはなく険しい表情になっていることに気づいて、眉間の皺を指でほぐす。
「トップアイドルの二人とも共演することになりそうだし、下手すればテレビに出るかもしれない」
「
「プッ、確かに」
檜山の容赦のない言葉に狩谷が笑えば、徹だけがしらけた目を向けていた。
「断ってもよかったのでは?」
「僕が断ったら、金田一くんだけが連れていかれるね。勿論、なんやかんや理由をつけて美雪ちゃんまで連れて。
それに警護とトレジャーハンターのどちらの方面からも仕事として頼まれたら、とてもじゃないが断れないよ。下手に知り合いにこの仕事を振るなんてことも出来ないしね」
「ソウ、ですよね・・・ デスガ、これって対応Kになるんでショウカ?」
今回同様に金田一や美雪からもたらされたわけじゃなかったにもかかわらず、結果的に対応Kに等しい状況になった事件の関係者であったマリアの言葉に苦笑いしか出ず、頷く。
「連れていく所員の選抜はあとになるけど、それとは別に数名の参加者を提案して、聞いていた通り剣持さんにも連絡を取った。今出来ることはしたから大丈夫だと思おう。
何事もなければいいし、何かあっても対応できるように留守組にも相応の準備をしてもらうことにもなるから、その時は頼むよ」
改めてそう告げればそれぞれがそれぞれの返事をしたのを聞いて、小城は一度所長室に下がる。
内側から鍵をそっとかけ、皆の前で取り繕った表情が無へと変わっていく。
(あの子と会うのは避けられない、か)
攫われた時の妹、テレビの向こうの速水玲香。そして、原作の中で散々見た速水玲香。
いくつもの彼女が浮かんでは消え、最後に聞こえるのはいつも幼いあの日の妹の声。
『お兄ちゃん、たすけて!
お兄ちゃん~~~!!』
「っ!」
怒りで漏れそうになる声を喉を握ることで防ぎ、喉の奥へと押しとどめる。
胸中に宿った怒りがあの日のものなのか、こちらの反応を楽しむためにあの子にまでちょっかいをかけてきた怪盗紳士へと向けているものなのかはわからない。
(落ち着け。あの子を守る、それだけでいい)
喉を握っていた手をだらりと下げ、静かに深く息を吸う。
(やることは変わらない。対応も出来てる。あとは無事、仕事をこなすだけだ)
そう自分に言い聞かせていると不意に携帯が光り、知らないアドレスから来たメールを開けば短い文章。
『和田さんから連絡はあったかしら?
よかったら今から、あの映画館でデートしましょう?』
(デート、ね。
お断りだよ、クソ女)
落ち着かせたはずの心に怒りが宿るが、先ほどまでと違い小城はあくまで冷静だった。
彼女の掌で転がされるのは非常に不愉快だが、現段階では連絡を無視することは出来ない。
(いいだろう、乗ってやるよ。怪盗紳士)
「でも、この依頼は高くつくぞ?」
怒気の孕んだ声でそれだけを吐き出して、彼は適当な理由をつけて約束の映画館へと向かったのだった。
怪盗紳士が小城さんを怒らせたぞぉ(笑)