三話目ー!
絵崎蔵人の死体を発見して一晩が経過し、小城は朝早くに起きてしまったことでベッドの上でぼんやりと天井を見上げていた。
すると、音もなく天井の点検口が開き、するすると慣れた手つきでいつも使っている顔の怪盗紳士が降りてくる。
「小城さん、おはよう。
でも少し残念、あなたの寝顔を見てみたかったわ」
「それは無理ですよ。
僕は眠りが浅いので、物音ひとつで目を覚ましてしまうんです」
「あら、そうなの?
それじゃぁ隣に誰かと眠るなんて絶対無理じゃない、恋人とかいた時はどうしてたのかしら?」
紳士どころか淑女からも遠い下世話なことを朝から口にする彼女に呆れ切った視線を向け、溜息を零す。
「そういった関係になった女性は、これまで一人もいませんのでわかりません。
学生時代は学歴から、ここ数年は僕のお金を目当てに言い寄ってハニートラップをかけてくるような方もチラホラいましたけど、全部ご遠慮いただきました」
「あら、不能?」
「あなた、『怪盗無礼者』に改名した方がいいんじゃないですか?」
軽蔑していることを隠しもせずに冷たい視線を向けても、彼女は気にする様子もなくケラケラと愉快そうに笑っていた。
「学歴で寄ってきた方は僕がエリート人生から外れた時点で離れ、ハニトラさん方は大抵裏に誰かがいたり、僕からお金を引き出そうと必死で僕が自分で選んで行っている仕事にも口出ししようとしてくる・・・ いずれにせよ、とても不快な人ばかりでしたので、やんわりと遠くへ行っていただきましたよ」
「やんわり、ね。何をしたのかしらね~」
まるで小城が悪いことでもしているかのように言う彼女に嫌気がさしつつ、自分に触れようとして来た彼女の手を払って、本題を問う。
「それで何の御用で?
この建物の中でいくらいろいろと誤魔化していても、その姿で僕と接触するのは避けるべきでは?」
「ホント、あなたはつれないわね。
これならあの坊やを誘惑したり、からかったりした方が楽しそう」
「もうしてるじゃないですか。
美雪ちゃん達がいる前であからさまに作り物の胸を押し付けて、ありもしない絵崎の話で興味を引いてたでしょう?」
「若いわよね~。あーんな可愛い嫉妬見せるんだから、かーわい♪
金田一くんも素敵だわ。あんなに女の子に興味津々なくせに反応がいちいち
嫉妬する少女らを思い出してクスクスと笑うのを見て、いい加減鬱陶しいので釘をさす。
「あまり僕の周囲にちょっかいを出すなら、こちらも本格的にあなたを敵として認識して排除に動きますよ?」
「あら怖い、どうなっちゃうのかしら?」
「どうなると思いますか?」
ニッコリと笑いながら告げる小城と笑顔を崩さない怪盗紳士の間に不可視の火花が散り、先に目を逸らしたのは怪盗紳士だった。
「はいはい、あなたの大切な子達に手を出さないわよ。
あの坊やや刑事さんはともかく、あなたを出し抜くのは大変そうだもの」
「ご理解いただけたようでなによりです。あなたがそれを守ってさえくれれば、
そろそろ戻った方がいい。あまりしゃべっていると他の人に聞かれた時にめんどうですし、何かしら対策をしててもバレたら面倒でしょう?」
「はいはーい。
あなたが宝探しを手伝ってさえくれれば、それ以外は自分でどうとでもするから」
(こいつ、本気でどうにかしてやろうか)
余裕綽々とばかりに現れた点検口に戻っていく怪盗紳士にそんなことを考えながら、溜息をつきながらベッドに寝そべる。
(さてっと、朝食を終えたら金塊を見つけないとね)
眠れないとわかりながら目を閉じて、静かに時間が経つのを待つことにした。
持ち込まれた食材で女性陣が作ってくれたホットサンドをありがたく頂き、男性陣は片付けに精を出す。完全な役割分担の中で金田一と赤門が喧嘩を始めたので狩谷が最終的に鉄拳制裁を下してから全員の前で正座で説教されるという醜態を晒し、皆の笑い者になっていた。
(赤門くんのこんな姿、結構珍しいんだけどなぁ。
まぁ普段だと傍にいるのが皆年上ばっかりだし、東大にいた時だって面と向かって噛みついてくるような金田一くんみたいな人はそういない事を考えると、今回連れてきたのは成功だったのかな)
自分以外にもトレジャーハンターを数名必要であること、それに加えて出演者達と比較的年齢が近い方がいいとの判断で赤門とえみりを推薦した。どちらも同年代と仲良くするには難がある性格だが、見ている限りは不器用ながらもコミュニケーションをとっている。
(うん、よかったなぁ)
「小城さん、人が説教されている姿を見てニコニコしているのは人間性を疑われますよ」
「へッ、一度は東大に入ったお前が俺と一緒に説教されてる姿なんて最高に面白いんだからしかたねーよ」
「っ! 誰のせいでこんな醜態をさらしていると! 大体、お前が僕に突っかかるから・・・」
「うーん、まだお説教が足りないのかな? それとも拳が足りてない?」
『もう十分です!』
喧嘩している時は何もかも合わないとばかりに言い合っているというのに、謝罪の言葉は揃っているところにおもわず小城が噴き出してしまった。
「な、仲良しじゃないか、二人とも」
『仲良くない
また揃った二人に再び笑いの輪が広がり、えみりが携帯をいじりだす。
「これ、いつものトレハンメンバーに共有しておきますね」
「はぁっ!?
や、やめたまえ! 次会った時、なんて言われるか・・・」
「え~? 大丈夫ですよぉ。
ちょっとからかわれて、酒の肴にされるだけですから」
「それが問題なんだ!」
だが、えみりの隣にいる小城は知っている。
今、携帯をいじっているのはただのフリで、さっき二人が仲良く喧嘩している間に内容をメールで一斉送信を終わらせていることを。しかもえみりは小城の視線に気づき、口元に指をあてて『シーッ』という仕草をしたので黙って頷いた。
「楽しいのはえぇけど、そろそろ本格的に宝探ししましょか」
「そうだね。これはこれで楽しい映像だけど、動きがなさ過ぎてしまうから」
(ちょっと待て、ディレクター。
お前、死体が出たのは伏せて、番組としては使う気なのか?)
内心に抱いた疑問はそのまま心の内に留め、声に出すのは『そうですね』という当たり障りのない同意の言葉。
「さて、普通に探しても見つからない。軽くダウジングしてもインゴットの形を模した扉のせいで金属だらけで、一つずつ確認するにしても精度の高いダウジングとなるとえみりちゃんの負担があまりにも大きい」
「それにあの扉のどれかが金塊だってことも確定してないものね」
アリスの言葉に他の面々も同意するように頷けば、マリアも少し考えるように俯く。
「ワタシ達もダウジングに参加できればイインデスガ、やはり精度の高いモノトナルト専門家ではないとムズカシイデスネ」
「トレハンメンバーの時は知識とか経験、行動力と役割分担あっての共同作業が基本ですし、これだと私にばっかり負担が大きすぎるから実行する私と私を推薦した師匠の手柄になっちゃいますよね?
私は別にかまわないですけど、それやっちゃうと金塊探しツアーとしては成り立たなくなるんじゃないですかー?」
素朴な疑問とばかりにわざとらしく言うえみりに金田一が『確かに』と頷いており、他の面々も納得したようだ。
「それじゃまずはさ、状況を整理しようぜ!」
気を取り直して金田一が言えば、広いキッチンのテーブルに皆が集まっていく。
テーブルの上に出されるのはこの建物の間取り図とディレクターが用意した時価三億円相当の金塊のレプリカ。船の中で一度目にしているのもあって、金塊に対しての驚きはほとんどないが、小城は金塊の塊をどこか冷めた目を向けていた。
「この島のどこかにこの金塊のレプリカと同じものがある筈なんだけど、一トン近い重量がある。で、この宝を見つけるためのヒントらしいヒントは何もない。
あるのは、『この島のどこかに時価三億円相当の金塊』があるって事実だけ」
(改めて言われると孤独に死んだはずの
原作でも明かされることのなかった事実に気づいて、背筋に冷たいものが触れたような感覚になる。しかも絵崎の年齢を考えるとこれまでの財宝に関する事件とは違ってかなり日は浅く、語り継がれるような逸話もない。そして、この建物自体も廃墟というには新しく、話題にあがるようなものが何も見つからないのだ。
だというのに、番組の企画に使われるほどの知名度・あるいは確かにそこに何かがあるという情報が何者かによってもたらされたのだ。
(・・・うん、考えるのやめよう。
怪盗紳士がなんで知ってたかなんて知りたくないし、今回のように盗みを楽しむためだけに舞台を作り上げたんだとしたら悪趣味すぎる)
そんなことを考えていると金田一を中心に美雪と玲香、はるかにえみり、そして赤門が積極的にあーでもない・こーでもないと意見を交わし合っている。
死体のあった部屋にある資料を調べるべきだという赤門、いっそのことダウジングに反応する全てを調べることを提案するえみりは実にトレジャーハンターらしい確実な方法だ。
だが、素人であり、知識のないはるかは部屋に割り振られた番号の意味を気にしており、玲香も少し考えてから『そもそもこの建物の形も、扉の形も変わってる』と首を傾げた。
(あぁ・・・ 本当に梓は賢いな)
考えることすら無意識にごく自然に彼女へと手を伸ばし、当たり前のように頭を撫でる。
「え?」
「あっ・・・」
驚いたように顔をあげた玲香と目が合った瞬間、自分がした行動を理解して目を見開いて、慌てて手を引っ込める。
「も、申し訳ない! 年相応に考え込む姿を見てたらなんだか微笑ましく感じてしまって、こんなことを・・・ 「所長、な~に慌ててんすか。所長が俺らの年代褒めたり、慰めたりするときに頭撫でたりなんてよくやることじゃないっすか。むしろ俺、玲香ちゃんにもそうやって分け隔てなく褒めたり、撫でたりしてくれるの見て、なんか嬉しいっす」
言い訳を並べようとする小城に金田一はむしろ嬉しそうに笑い、見れば美雪も微笑んで頷いていた。
「なんかわかるかも。
小城さんはアイドルだとか、何かがあっただとか、そういうことも何も気にしないで普通の女の子や子どもとして扱ってくれるんだってわかって、凄く安心するっていうか」
「小城さんはソウイウ方ですから」
マリアもどこか嬉しそうに同意していると、はるかはなんだか嬉しそうに笑って言った。
「小城さんって、なんだかあたしのお兄ちゃんみたい。
お兄ちゃんも昔、宿題のプリントを解いてたあたしの隣で今みたいに頭を撫でてくれたことあります」
皆にニコニコされている二人はお互いに戸惑っており。どこか気まずそうに視線を合わせる。
「えっと・・・ 全然嫌じゃなかったので気にしないでくださいね! 所長さん。
それとも今日だけ、私のお兄ちゃんになっちゃいます?」
彼女からの不意打ちの
だが、そんな感情の全てを心の底に沈ませて、誤魔化すように微笑みを貼り付ける。
「一日限定であっても速水玲香のお兄ちゃんになったら、全国のファンに刺されそうだから遠慮しておくよ」
「確かに! 同い年の俺だって、玲香ちゃんになら『お兄ちゃん』って呼ばれてみたい!」
「それ、フミちゃんに伝えておくね」
「あいつが俺を
俺のことを可愛く『お兄ちゃん』って呼んでくれるのは、るりちゃんだけなんだ!!」
狩谷の絶妙な合いの手に金田一が悲鳴のような叫びをあげれば、美雪が溜息を零した。
「るりちゃんは徹さんや舘羽さん達の妹でしょ。
それにるりちゃんは良い子だから、誰にでもそう呼んでるじゃない」
「ワタシも『マリアお姉さん』って呼んでクレマス」
「それなら私が呼んであげましょうか? はじめおにいちゃん?」
「でも、君が妹になってくれたら・・・ それはとても幸せなことだろうね」
「所長さん? 今、なんて・・・」
「いや、なんでもないよ。
しかし、はるかちゃんのお兄ちゃんは誇らしいだろうね。まさか自分の妹がトップアイドルの一人になっているんだから」
聞き返されたのを適当に返していると、金田一が何かに気づいたようにレプリカの金塊を見つめており、突然大きな声で『あっ!』と叫んで彼の決め台詞を続けた。
「謎は、全て解けた!」
彼は無意識に手を伸ばす、大切な大切な宝物へと。
感じた心はそれを望み、考えてしまうとその手は止まる。
それはそれとして、怪盗紳士と小城のやり取りってこれまでのどのキャラとも違って書いてて楽しい。