事件的にはラスト!
が、これの後日談書きます!
後書きで軽く作者の語りが入ります! 警告警告!
小城が北海道から無事帰ってきたのと入れ違いで、金田一が美雪と佐木兄弟と共に北海道へと旅立っていった。
「小城さん、おかえりなさい。
北海道はどうでしたか?」
「あぁ、依頼主に報告書を渡して、周辺を少し散策させてもらうことが出来たよ。
依頼人も今頃は相続関係の催しに参加しているんじゃないかな?」
土産の分配を舘羽とマリアに任せ、マガドリ様が小城の体にへばりつくように身体チェックをされながら揚羽の紅茶を飲むとようやく一息がつけた気がした。
「ふぅ・・・」
「お疲れですね、やっぱりこちらに顔を出さずにお帰りになられた方が・・・」
「いや、大丈夫だよ。有名な挿絵画家とその知り合いの方に会って、北海道にいる間は一緒に行動していたから少し気疲れしてしまってね。
事務所に戻ってきて、いつもの揚羽くんが入れてくれた紅茶を飲んでいたら・・・ なんだか安心してしまったんだ」
「それはその・・・ 光栄です」
ポッと顔を赤らめながら嬉しそうに微笑む揚羽に小城も笑み、その様子を見て非常に申し訳なさそうに千家が声をかける。
「その所長・・・ 話は舘羽さんから聞いてると思うんですけど、金田一と七瀬が佐木兄弟と一緒に入れ違いで北海道に行ってて、なんでも所長が依頼された相続に関与している別の人から協力を仰がれた形だったんですけど・・・」
「あぁ、話は聞いてるよ。でも、大丈夫。
現地でいろいろと調査した結果、安全だとわかったから僕がこっちに戻ってきたんだ。対応Kの可能性があったら、流石にこっちに戻ってこないで金田一くん達と一緒に行動しているよ」
肩に手を当てて首を回しつつ、軽く伸びをする。
(しばらくはゆっくりしたいけど・・・ まだ無理かなぁ。
未だに所在不明の
そんなことを考えていると小城の胸ポケットの携帯が振動し、画面に出た『北見 蓮子』の名前に驚きつつも電話に出る。
「どうかしたのかい? 蓮子ちゃん」
『兄さん、久しぶり! 突然なんだけど、今から事務所に行ってもいいかしら?』
「かまわないけど、蓮子ちゃんが前もって連絡なしなんて珍しいね。
何かトラブルかい?」
電話向こうから聞こえてきた少し慌てた様子の彼女に小城の声はおもわずどこか緊張感のあるものとなるが、それは彼女の明るい声が否定された。
『ううん、違うの。むしろ嬉しいことで「蓮子姉さん、やっぱり突然は悪いですから・・・」 いいから! あんたがちゃんと前向いて歩いて、行動したうえであたしを頼ろうしてるんだから、黙ってついてくればいいのよ!』
電話向こうから聞こえてきた花江ではなさそうな声に首を傾げつつ、『あと三十分くらいでつくから、下のカフェで待ってて!』と言ってから電話が切れ、小城は苦笑いしてしまう。周りを見れば全部聞こえてたらしい面々も同じように笑っており、狩谷が静かに廊下への扉を開けた。
「そういうことだから、ちょっとカフェで話してくるよ」
揚羽の紅茶を一息で飲んでから、カフェの窓際の席で待つこと三十分弱。
妹である花江がデザインした服を纏った蓮子が一人の女性の手を引いて、小城のいる席へとやってきた。
「拓也兄さん、本当に突然ごめんなさい! でも、私が一番に頼れるのって兄さんだけで・・・」
「頭なんて下げなくていいよ、いつでも頼っていいと言っているのは僕なんだ。むしろ褒めてあげたいくらいだ、抱え込まずに僕に相談してくれてありがとう。蓮子ちゃんは素直な良い子だね」
下げていた頭を優しく撫でてあげれば、顔をあげた蓮子は嬉しそうに頬を赤らめていた。
「それで、その子はどうしたんだい?」
頭を下げる蓮子に続く形で頭を下げたままの女性へと視線を向ければ、蓮子がまるで妹の花江にするのと同じように彼女を支えるように腰に腕を回し、彼女に勇気をもらったように女性は顔をあげる。そして、顔をあげた女性を見て、小城は一瞬言葉を失った。
それはついさっき所在不明で捜索しようと考えていた桐江 想子、その人だったのだ。
「初めまして、桐江想子です」
「あ、あぁ・・・ 僕は小城拓也、この上にある探偵事務所で所長をやっているんだ」
「兄さん、この子ね・・・」
そこから蓮子が語ったのは彼女との出会い、そして彼女が今ここに来るまでの経緯だった。
二年前のある日、女優になろうと奮闘する日々を送っていた蓮子が道端で男に無理やり連れていかれようとしていた彼女を助けたことが始まりだった。
が、親切に手を伸ばした蓮子の手を想子は乱暴に振り払った。
「ちょっとやめてよ! 確かにさっきは失敗したけど、こうやって体を売れば金になる! こんなことしなきゃあたしは生活だって出来ない!!
アンタみたいに小綺麗な格好して、毎日キラキラ楽しんで生きて、将来に不安だってなさそうなアンタには私の気持ちなんて絶対わかりっこ・・・」
言葉の先は続くことはなく吹雪の中に響いたのは頬を打つ音と、悲しい目をして彼女を見つめる蓮子だった。
「わかるわよ、私だってつい一年前まであんたとそう変わらなかったんだから。
世の中なんてロクなもんじゃなくて、私ばっかりが不幸で、これからの人生はずっとどん底だって」
夜の闇を覆いつくすように降り注ぐ雪の中でもはっきりと見えたのは彼女が感じた絶望の一端、しかしそれでも蓮子は想子が振り払った手で彼女をしっかりと抱きしめた。
「でも、そんなことない。そんなことなかったのよ。
不幸ばっかりとか、これからずっとどん底なんて絶対にないから」
「何よ、なんで・・・ なんでそんなこと言えるのよ」
戸惑う想子の頭を蓮子は優しく撫でる。
「あの日、あたしが兄さんに会えたみたいに・・・ あんたは今、あたしと会った。
だから大丈夫、狭いワンルームで悪いけど一緒においで」
そこから少しの間、彼女が高校に通うための手筈が整うまで共同生活が送っていたのだという。
(そうか、君が救っていてくれたのか。あぁ・・・ こんなに嬉しいことないよ)
話を聞いていた小城の目からは涙が溢れ、涙を拭うよりも早く二人へと手を伸ばしていた。
「二人とも、本当によく頑張ったね。君達はとても偉いし、凄い」
「ちょっと兄さん! 髪がぐしゃぐしゃになっちゃうし、想子が戸惑ってるからやめてあげてよ」
「あっ、そのえっと・・・ そのそんなことなくて! むしろ父を思い出すので、もう少し撫でてもらってもいいですか?」
「想子? アンタ、私の前での気の強さ、どこにやったの?」
「蓮子姉さんは黙ってて! だって、私が高校に通えたのってこの人が作った慈善団体のおかげなんでしょ?! 緊張ぐらいするわよ!」
さっきまで大人しそうな様子から原作を思わせるような気の強そうな彼女の言葉に、小城は出ていた涙が引っ込んで笑ってしまった。
「ハハッ、君が楽な方でかまわないよ。
そうか、僕の慈善団体がしっかりと必要な子に届いているんだね・・・ よかった」
たまに慈善団体の活動にチェックを入れているとはいえ、それらを通してちゃんと助かっている事実に安堵する。
「それでここに連れてきたってことは彼女は東京で生活するのかい?」
「そうなの。それでこの子の亡くなったお父さんが昔、作家を目指していたんですって!」
「作家になりたいとは思ってるんですけど、まずは本に関わる仕事に就きたくて、司書の資格を取ろうって決めたんです。本当はあのまま地元の北海道で資格を取ろうと思ったんですけど、蓮子姉さんが誘ってくれて・・・ 東京の大学で学んで、資格を取ることにしたんです。
今日は明日あるオープンキャンパスに備えて蓮子さんのところに来たら、こちらに引っ張ってこられちゃって・・・」
どこか恨みがましい目で蓮子を見る想子に小城はまた噴き出してしまい、笑われた想子は顔を真っ赤にする。
「笑ってばかりでごめんよ。でも、蓮子ちゃんが僕にしてほしいことはこれでよくわかった」
「流石兄さん、話が早い!」
「小城さんはまだ何も言ってないし、蓮子姉さんは少しは遠慮した方がいいと思うんだけど」
「アハハハハハ、花江ちゃんとはまた違った可愛い妹が出来て楽しいだろう? 蓮子ちゃん」
「ちょっと生意気過ぎて、口が悪いけどね」
「それも全部、蓮子姉さんのせいだから! あと私、花江ちゃんの前では素直だもん!」
どうにか笑いを治めて、小城はニコニコしたまま頷く。
「うん、想子ちゃんの大学が決まったらまた連絡をくれればいい。
住む部屋も、奨学金の手続きも全部手伝ってあげるから、君は何も心配することなく勉強に励みなさい」
言いながら名刺を想子に手渡し、立ち上がる。
「支払いは僕がしておくから、今日はここで好きなものをたくさん食べてから帰りなさい。
あと蓮子ちゃん、これで東京案内もしてあげるといい」
財布から数枚のお札を渡し、主人である緑さんにアイコンタクトをすれば静かに頷いてくれた。
「こ、小城さん・・・ 悪いです!」
「いいのいいの。あたしの妹みたいなアンタは兄さんにとっても妹同然なんだから、しっかり甘えた方が喜んでくれるわよ」
「そうとも。
だから、『悪い』とか『すみません』よりお礼を言ってくれた方が嬉しいかな」
蓮子と小城の言葉に彼女は驚くが、少しだけ目を潤ませながらはにかんだ笑顔で口にする。
「何から何まで本当に・・・ ありがとうございます」
楽しいカフェでのやり取りを終え、事務所を閉めてから自宅へと戻るとタイミングを見計らっていたかのように携帯が鳴る。蓮子とは違って名前は表示されなかったが、小城は再び電話を取った。
「もしもし」
『こんばんは、小城くん。
遺産相続の話し合いが無事に片付いたことをお知らせしますよ』
電話向こうから聞こえてきた彼の声に、小城は狭いベランダへと少しでも綺麗な空気を吸い込んで気分を入れ替える。
「それは何よりです。それにしても・・・ 流石は人格者で知られている山之内先生ですよね」
小城はまるで本気で感心しているような声音で、少しだけ大きめな声で話し出す。
「まさか親しい友人の皆さんが抱えているトラブルを解決するだけのお金を託し、あの邸宅は長年仕えてくれた執事の方に残した上に、それでもなおあり余る莫大な遺産を慈善活動に使って欲しいと寄付なさるなんて」
『えぇ本当に。
山之内先生の高潔な心と行動は多くの方の胸に残り、素晴らしい作家として名を残すことでしょうね』
「遺作があったなんて噂もありましたが、山之内先生の作品は『彼が生きている間に公開されたものが全てだ』と交友のあった橘先生が明言されましたし、噂は所詮噂でしたね」
『フフッ・・・ えぇ』
もう我慢できないとばかりに電話向こうでクスクスと笑い出す彼に、小城はつられることもなく無表情だった。
『あぁ、そうそう幽月さんから伝言です。
「あなたのおかげで助かったわ、今度はプライベートでお会いしましょう」とのことです』
「『喜んで』とお伝えください」
『えぇ、わかりました。
・・・あぁ、まだ電話を切らないでください』
そこで小城が電話を切ろうとしたところで、それを察した彼がストップをかける。
「なんですか?」
『ちゃんと働いた私を褒めてください、小城くん』
その言葉に『何言ってんだ、こいつ』という苦々しい顔をし、電話向こうにまではっきりと聞こえるように溜息をついた。
「言ったでしょう? これは依頼料の代わりだと。あなたは僕に代金を支払っただけで、褒めるようなことは何もしてない筈です。
それにそちらに行った金田一くんの反応も楽しんでいるんでしょう? 労力に見合うだけの対価を・・・ いいや、それ以上のものをあなたは得たはずだ。むしろ僕にお釣りを渡すべきでは?」
『お釣り、ですか。
私の推測が正しければお釣りでは足りないほどのことを、君は私にしたような気がしますが』
「なんのことですか? 僕は北海道に行って、幽月さんとあなたに報告書を渡した。ただそれだけしかしてません。
それでは今日はもう休みますので、失礼します」
『あぁ、そうでしたね。
あなたは遺作や遺書をなかったことになんてしていないし、催しそのものをちょっとした謎解きと楽しい食事会になんて変えた事実なんてなかった。
そういうことになっています』
電話の向こうで今日一番の笑顔を作っているだろう彼に苛立ちを感じて、小城はやや乱暴に電話を切った。
作者が語るから気をつけて! 警告警告!
この事件で死んでほしくなかったのは、幽月さん。
単純に外見が好きだったというのもありますが、彼女が原作で死んだ時、彼女の目を閉じさせた高遠さんがとても印象的でした。
言葉としては奇術師として怒りを抱いていた彼の感情が垣間見えたあのシーンが、どうしても頭から離れなかった。
そして、迷いに迷った末、かなり原作から乖離させて救うことにしたのは桐江さん。
正直、好き・嫌いの二択を突きつけられたら嫌い。
悲劇に酔い、過去に縋り、ありもしない夢想を抱いて、多くの人々に嫉妬や怒りを向けた。挙句、悲劇によったまま逃げるように死を選ぼうとしたところも好きになれない。
でも、だからこそそんな原作の彼女から乖離させることで救ってみせた。
この世界の彼女は、トリックノートの存在を思い出しません。
父親が抱いた夢と温かい思い出だけを抱えて、彼女は司書になることでしょう。