原作で殺された、私の推しだよ(怨嗟)
話数分けてもよかったけど、私だったらどこで分けられてもイラッとしそうなので一話で。
一万五千字越えてるけど、どうぞ。
(今日はいい天気だなぁ・・・)
陽のあたる明るい事務所で小城は穏やかな気持ちで窓から外を眺める。
現在事務所にいるのは社会人として相応の年齢である徹、舘羽、狩谷の三名であり、平日の昼間ということもあり、下の喫茶店も今日は緑一人である。もっとも仮に喫茶の方が忙しくなっても、急ぎの仕事もない現状であれば徹と舘羽をそちらに出せる余裕もある。
「今日はいい日だね」
学生身分である他の所員がいないのは寂しいと言えば寂しいが、争いごともなく、事件もない日々が小城の理想であり、こうしたのんびりとした時間はまさに至福である。
「そりゃそうよ、普段厄介ごとを持ってくるのは金田一くんだもの。彼がいない日なんていつもこんなもんじゃない」
「舘羽さんのいう通りですよ、所長。
もしくは所長の先輩とか、金田一くんの知り合いの刑事さんとかから何か来なければここでの仕事なんて調べ物ばかりじゃないですか」
舘羽と狩谷の言葉に徹も同意するように頷き、小城も苦笑いである。
「けど所長、夕方頃に女性の方が二人訪問予定あること忘れてないわよね?
下の喫茶店でって話だけど、仕事ではないの?」
「あぁ、それなら問題ないよ。
僕に気を使って事務所に連絡をくれたけど、半分はプライベートだからね」
「ということは、半分は仕事ですか。
女性関連となると・・・ ストーカーですか?」
重度のシスコンにとっても、女優になっても何ら不思議ではない妹達を持つ家族としても他人事ではないためか、徹の目がきらりと光る。
「どちらかといえばアフターケア、かな。
三年前・・・ 僕が二十一の頃に一人で札幌に旅行に行ったことがあって、その時に男から逃げる一人の女の子を保護したんだよ」
第一志望が終わった就職活動の後、日本や世界のあちこちを回っていた時に保護した少女を思い出し、遠い目をする。
「・・・はい、小城探偵事務所です。あぁ母さん、うん、うん・・・ 今、所長に下に降りてもらうよ。
所長、お客さんがお見えになったそうですよ」
「あぁ噂をすればだね、それじゃ少し行ってくるよ。
徹、少しの間事務所を頼むよ」
他の所員に送り出されて小城が階段を降りて喫茶店に入れば、そっくりな二人の女性が嬉しそうに顔をあげ、一人は立ち上がって小城に抱き着いてきた。
「拓也兄さん! 久しぶり!」
「蓮子ちゃん、久しぶり。綺麗になったね」
「もう姉さん、嬉しいからってはしゃぎすぎよ? 小城さんが困っちゃうわ。
小城さん、お久しぶりです」
「あぁ、花江ちゃんも久しぶり。
二人とも、頑張ってるみたいだね」
静と動、顔こそそっくりだが対照的な双子の姉妹を優しく撫でてやれば、女性達も頬を染めて嬉しそうにそれを享受する。
小城もまた妹にそうするように優しく声をかけ、頭を撫でてやりながらも穏やかな目で二人を見つめていた。
「ごめんなさい、拓也兄さん。
本当はこっち来てからすぐに挨拶に来たかったんだけど・・・」
「仕方ないさ、だって二人は・・・」
「あー! 最近人気が出始めた女優の文月花蓮とその妹でデザイナーの北見花江だー!!」
「金田一くん」
空気も読まず、店内という公共の場においてのマナーも考えず、また女優への気遣いも忘れた金田一へと小城はニコリと殺気にも似た冷たい笑みを向ける。
「ひっ!? 殺気!?」
「殺気? 殺意なんて君には抱いていないよ?
ただ少しばかり君への実習内容に不備があったかもしれないから、内容の見直しが必要かなって思ったくらいで」
「ひいぃぃ!?」
「大丈夫、少しばかり僕と徹の座学を増やすだけだから大したことはないさ。
主にマナーや一般常識の辺りを、ね」
あくまで笑顔のままの小城に金田一が怯えきるが、蓮子の方がそんな少年を興味深そうに見る。
「兄さん、その子がバイトで入ったっていう男の子?」
「兄さん!? 所長ってまさか二人の兄貴だったりすんの?!」
驚愕する金田一の口を押え、そのままヘッドロックしておく。
「そうなんだけど・・・ なんだかうるさくて申し訳ないね、二人とも」
「気にしないでください、私達は小城さんに一言挨拶に来ただけですから。
それどころか二十歳のお祝いや引っ越し祝いまで贈ってくださるだけでなく、住む場所だって探すとき手伝っていただいて・・・ 本当に小城さんにはお世話になってばっかり」
「いいんだよ、僕が君達を放っておけないだけなんだから。
ほら、ショーケースからケーキを好きなだけ選んでおいで。君達が夢に近づいたお祝いにね」
「でも・・・」
「ほら花江、兄さんもこういってくれるんだからケーキを選びにいきましょ」
遠慮しようとする花江に姉である蓮子の方を見やれば、蓮子は嬉しそうに笑って妹の手を引いてケーキを選びに行く。
「で? 所長、どこで知り合ったんすか?」
「三年前・・・ 僕が二十一の頃に一人で札幌に旅行に行ったことがあって、その時に男から逃げる一人の女の子を保護したんだよ」
当時はまだ金田一と同じ年齢だった少女が追ってくる男に怯え、泊まっていたホテルにかくまって事情を聞いてやれば、親を亡くして養父母の元で辛い生活を送っていた彼女を小城は他人とは思えなかった。
男から逃げていたのも関係を強要されたことに加え、何か薬物を打たれそうになったことで身の危険を感じ逃げたが、危険がある以上妹を頼ることも出来ず宛てもなく彷徨っていたところを小城と出会ったのだ。
「その後なんやかんやあって離れ離れになっていた妹さんとあぁして暮らせるようになって今年から東京に出てきたんだけど、君も知っての通り姉妹揃って多忙な身でね。僕はいいって言っても、挨拶しに来るって聞かなくて」
「なーるほど。だから、兄さんって言われて慕われてるってわけだ」
保護していく中で男の身辺を調べ、男は勿論それに関連していた麻薬組織や関係者が丸ごと警察に捕まったというのは余談である。
「いやー、俺はてっきり所長が妹プレイとか好きな変態かと 「金田一くん、君はそんなに僕らに何か奢ってくれるのが趣味なのかい?」 すんませんでした!!」
金田一の失言を防げば、ちょうど二人がケーキを抱えて戻ってきた。
それぞれ皿に乗るケーキはみな違い、仲良く分け合って食べる二人を小城は優しく見守る。
「僕も親が早逝していて養父母の元で育ったからね。二人のことが他人のように思えなくて、ついつい助けてあげたくなるんだよ」
そう言いつつ蓮子の口元についたクリームを拭いてやる姿は兄そのもので、蓮子も恥ずかしがることなく満面の笑みで感謝を告げてくる。
「へぇ? 所長も苦労してんだなぁ」
「僕に限ったことじゃないけどね、まぁいろいろあったよ。
さっ、君はそろそろ上に戻ってくれないと今日の分のバイト代が出せない」
「へーい。
あ、相談あるんであとで時間貰ってもいいっすか?」
「・・・あぁ、わかった」
「今の間、何すか!?」
誰も好き好んで死神に愛された男の相談に乗りたくはない。
二人と談笑を楽しんだ後再会の約束を交わして別れれば、すぐに定時の時間はやってくる。大きな仕事もなく一日を過ごして帰っていくメンバーを見送り、事務所の自分の席で小城を待つ金田一を手招きする。
「それで金田一くん、相談って何だい?
美雪ちゃんのご機嫌取りなら僕より千家くんに相談してほしいんだけど」
「実は・・・ って違いますから!」
「何か事件に関係してることなら、それも僕じゃなく剣持刑事か明智警視に相談してほしい」
「おっさんはともかく明智警視はちょっと・・・ ってそうじゃなくて!」
「給与の前借りは出来なくはないが、おすすめはしないな。
こういうのは癖になってしまうからね、学生の頃から借金の悪癖をつけるのはよくない」
「だから違いますって!」
金田一が必死に否定するため、小城はむしろ三つのいずれかであってほしかった相談事を真面目に聞く体勢に入る。
「ふむ、違ったか。
皆が帰った後に相談するなら、これぐらいのことだと思ったんだけど」
何かを調べるなら人手がある方が断然楽であり、疑問点や意見が欲しい時も人はいるに越したことはない。
「それが俺の高校で創立祭があるんすけど、『放課後の魔術師』って名乗る奴から脅迫状が届いてるらしくて、それを調べてほしいんすよ」
「脅迫は普通に犯罪だから警察を呼びなさい」
「そういうと思ってましたけども!
ただおかしな七不思議の噂が流れて、七不思議を全て知ったら『放課後の魔術師』に殺されるってオチなんすよ! なのに、ウチの学校のミステリー研究会が噂の真相を調べて犯人を究明しようと動いてて、俺はそのミス研の部長に勧誘されてるんすよ!」
すっぱり切り捨てる小城に金田一がなおもいえば、小城は考えるふりをしつつも焦る。
(オイオイオイ、勘弁してくれ。これって『学園七不思議』か? まだ誰も死んでない・・・よな? そうなると今すぐに動き出したい。
っていうか! 脅迫状が届いてるなら警察呼べや! 呼ばないってことは後ろめたいことでもあんのか、あんの校長! あったね! 不倫ですもんね!! 後なんだっけ? 裏口入学でしたっけ!?)
「・・・わかった、明日の放課後に僕が学校に向かうよ」
「っ・・・! 所長、ありがとうございます!
明日は俺もちょうどミス研に行ってみようと思ってたんで、校門前で待ち合わせでいいっすか?」
「あぁ、それで頼むよ」
「それじゃ俺、明日放課後に校門で待ってます! 失礼します!」
帰っていく金田一を見送り、小城は頭を抱えたくなる衝動を抑え、先ほどあがったばかりの数名の所員に連絡を取るところから始めた。
翌日、約束通りの時間に校門に行けば自然と人の目が集中してくる。
(金田一はまだいいが・・・)
金田一の隣に美雪がいるのはわかる、彼女は金田一の子守も同然だ。だが、不思議なことにミステリー研究会部長である桜樹 るい子の姿もある。
妖艶な雰囲気を持つ少女は美しく、ミステリーという謎めいた世界は彼女にふさわしい。事実、彼女の残した暗号により事件は解かれ、彼女の観察眼と推理力は犯人を恐れさせた。だがそれ故に、彼女は原作において短命に散った。
この世界は、金田一よりも早く真実に辿り着いた者は犯人の手にかかるよう運命づけられている。
「所長ー! こっちこっち!」
金田一の呼ぶ声に手をあげて応えてやれば、るい子も小城へと笑いかけてくる。
「初めまして小城さん、私はミステリー研究会の部長を務めています、桜樹 るい子です。金田一くんからいろいろと聞いているわ。
それに・・・」
意味深に小城へと向けられる目は、高校生とは思えぬほど妖艶で神秘的だ。
「いくつかの迷宮入りで終わってしまった事件を闇から救い上げた、とても頭の切れる方。
私、あなたのような頭のいい男性が好きなの」
その言葉に小城は内心で冷や汗をかくが、当然顔に出すようなへまはしない。
確かに小城はいくつかの事件に関わっていたがその多くは殺人事件ではなく、問題にはなったが事件にまではならなかったことを解決へと導いている。つまり、小城の名が表立ってあがることなどほぼなかった筈だ。
「なるほど、だから金田一くんを勧誘したと。
君自身、とても知識が深く、観察眼に優れているようだ」
「あら、褒めてくださるのね。光栄だわ」
にこにことやり取りを続ける二人に金田一は頭をかいて照れる。
「所長、そんなに褒めないでくださいよ。所長だって東大法学部のエリートじゃないっすか」
「就職活動に失敗して探偵に落ちぶれたエリートだけどね」
「そんな事情があったんすか!?」 「えっ!?」
驚く金田一と美雪とは違い、驚く様子を見せないるい子は既にその事実を知っていたようだった。それすら肩を落とす様子もなく、興味深そうに小城を見つめる瞳は変わらない。
「機会があればぜひ小城さんからいろいろなお話を伺いたいわ、今度事務所にお邪魔してもいいかしら?」
「勿論、歓迎するよ。
僕や金田一くんに限らず、事務所には君と話が合いそうな頭のいい人員が揃っているからね」
「ありがとうございます。
金田一くん、小城さんを案内してあげて。私は先に部室の方に行ってるわ」
「へーい」
お互いに手を振って別れる中、金田一は小城を肘でつつく。
「で、俺達に限らず話が合いそうな頭のいい人員って誰っすか?
千家とか檜山先輩は彼女いるから紹介されても修羅場になるだけじゃ・・・ ていうか所長、桜樹先輩に超狙われるじゃないっすか」
「徹のことだよ。
事情があるから多少は仕方ないとはいえ、いい加減緑さんや三人にばかりべったりさせているわけにはいかないだろう。あれじゃぁいつまでたっても舘羽くん達に恋人が出来ないし、るりちゃんにも本格的に嫌われてしまうよ」
「あー・・・ 副所長のシスコンマザコン、スイッチ入るとやばいっすもんね。
俺もたまにるりちゃんと遊んでると睨まれますもん」
「そうだね、今まさに美雪ちゃんがモップを振りかざしてるみたいにね」
「うっそだろ!?」
「小城さん! いくらなんでも一ちゃんがるりちゃんと遊ぶことを怒ったりしません!」
「うん、嘘」
「所長!?」 「小城さん!」
その件で既にるりから苦情が出ているため小城も何とかしようと動いてはいるのだが、妹を想う兄の気持ちもわかるため複雑である。
「それにね金田一くん、僕には当分恋愛をする余裕なんてないよ。
それに君達と同じ年齢の時はとにかく必死に勉強だけをしていたから、青春とは無縁だった。だから、恋だの愛だのはよくわからないんだよ」
必死に養父母の期待に応えようとしながらも、いつかそんな養父母を見下そうと必死だった青春時代を思い出しながら、小城は目を閉じる。
「それに君みたいな困った相談事を持ち込まれる時もあるしね」
「それはその・・・ いつもありがとうございます」
「かまわないよ。
いくら頭がいいとは言っても君はまだ高校生なんだから」
そういって金田一の頭をポンポン叩き、ミス研へと案内されていく。木造の古びた校舎は思ったよりも立派で綺麗なもので、時代の流れの中で作り替えられるのは惜しまれる。もっともそれも、おかしな七不思議が流れていなければの話だが。
連れていかれるがまま研究会の部室に入れば、そこには神経質な女生徒と得意げに笑う男子生徒とやや太目な男子生徒が先に座っていた。中央の教壇には勿論部長であるるい子の姿があり、小城を見てニッコリと笑う。
そして最後に彼女の隣に座る顧問の姿が視界に入り、小城は平静を装うことに必死である。
(原作から思ってたけど、本当に絵になる女の子だよなぁ。そして、犯人いたー!)
「真壁くん、尾ノ上くん、佐木くん、鷹島さん、こちらが金田一くんのバイト先の探偵事務所の所長である小城さんよ。
今回、この一か月の間に届いた脅迫状について、そしてその送り主を名乗る『放課後の魔術師』について捜査の協力をしてくださる。つまり、この創立祭で私達ミス研が発行する会報の協力者ね」
「その話、少し待ってほしい」
小城がストップをかければるい子は勿論全員の視線が集まってくるが、それを気にせずに続ける。
「噂になっている七不思議事態はウチの所員の千家くんにも話を聞いたけれど、以前からそうした噂話はあったようだから平時なら調べてもらっても一向にかまわない。
けれど今回、学校側に一か月の間に五通もの脅迫状が届いている。
この脅迫状も年に一度なら通り魔的な知らない誰かの悪戯、月に一度なら生徒の悪戯の範疇だが、木造校舎から新校舎への立て直しの計画が立ち上がっている段階かつ週に一度のペースで送られてくるなんて異常だよ。加えて、同時に流され始めた七不思議とその結末の『殺す』という明確な一文は作為的であまりにも偶然が重なりすぎている」
あの後、千家や美雪からも情報提供してもらったが、改めて話を聞くとあまりにも短期間に起こりすぎている。
「今の状況を見るにこの七不思議を知ろうとした者を脅かし、知った者を害そうとする意志を持った者が存在しているのは間違いない」
「つまり小城探偵は、噂の亡霊ではなく脅迫を行った犯人からの襲撃に警戒するべきだと?」
小城の言葉に真壁が反応し、他の面々も改めて告げられた事実を前にわずかな怯えを見せる。
「ミステリー研究会の君達を前にして言うのはあれだけど、僕はこれまで妖怪や幽霊、怨念の類に遭遇した試しがなくてね。ミステリーやオカルトを信じていないんだ。
仕事も含めそこにあるのはただ目の前で起こった事実と、それに関わった人達の人生だけだよ」
自分自身も含め所員の誰もがそうであったように、本来なら悲劇に終わった彼らの人生を変えてしまったことが正しかったのか。先日再会したあの双子の姉妹の原作との相違はなんなのか、考え出せばキリがない。
だが、それらは全て否定しようもなく目の前で起こった事実であることに変わりはなかった。
「僕は君達子どもを守る一人の大人として、君達の安全を優先したい。
だからお願いだ、脅迫状を送った犯人が捕まるまでは七不思議の究明をやめてくれ」
そういって頭を下げる小城にミス研のメンバーは驚きを隠せず、誰もが言葉を切りだせずにいた。当然だろう、高校生という年頃の思春期であると同時に多くの者が反抗期を併発する彼らに大人が自分達子どもに頭を下げて何かを願うこともなければ、ここまで真摯かつ直球に自分達を案じてくれることなどほとんどの場合はありえないのだ。
ミス研のメンバーは全員が無意識に部長であるるい子へと視線を集め、その判断をゆだねる。視線を向けられた彼女は考え込むように眉を寄せ、何かを思いついたように顔をあげた。
「わかりました。私達ミス研は脅迫状の犯人が捕まるまでの間、七不思議の究明を諦めます。
けど一つ、お願いがあります」
そこで一区切りし、るい子は小城を見据える。その表情にはいつものようにどこか余裕のある妖艶な笑みをたたえて。
「あなたはこれから私達の安全を守るために脅迫状の犯人を特定するために捜査を行う、私もその捜査に同行させてください」
問いかけではなく捜査を行うことを断定する彼女に、ミス研のメンバーは再び驚くが小城は否定しない。否、否定する云々よりも彼女を捜査に連れていっていいものかと判断に迷っていた。
捜査の中で彼女が一人で先に答えに、あの遺体に気づいてしまったら?
彼女を危険視した犯人に殺されてしまったら?
もし、原作で見つけてしまった以外の遺体を見つけてしまったら?
可能性は高く、危険を考えだしたらキリがないほどに溢れている。
加えてこの事件は金田一の作品において、数少ない犯人の明確な殺意ではなく不安や恐怖心から起こった殺人であり、十年前に亡くなった彼女も含めて禍根の一切ない被害者のみの事件だ。
原作においても、もし金田一が謎を解かなかったら最終的な被害者がどれほどまで及んでいたかなど考えたくはない。それほど被害者がどれほど増えてもおかしくはなかった事件でもある。
(しかし・・・)
ここで断ったとしても、彼女が七不思議究明を諦めるとは思えない。むしろ単独で行動し、あるいは自分の捜査にひっそりとついてきた場合の方が彼女の命の危険は増すだろう。
事件に関与した人間が一人で行動する、それは死亡フラグ以外の何物でもないのだから。
「・・・わかった、君の同行を認めるよ。ただし、絶対に僕の傍を離れないことが条件だ。
彼女以外に同行を希望する者も同じだ」
希望者を確認するように小城が見渡せば、当然とばかりに手をあげる金田一と金田一の制服の端を掴む美雪。そしてカメラを回す佐木も手をあげている。
「それ以外の子達は僕を送ってくれた所員が校門で待機してるから、彼の車に乗って帰宅するように。金田一くんと同学年の森下 麗美ちゃんが車の傍に立っているから、それを目印にするといい」
「そ、そこまでする必要あるんですか?」
尾ノ上が問いかければ、小城は強く頷く。
「君達は七不思議に関わってしまった。そしてこの校舎は『放課後の魔術師』の住処とされているからね、警戒はしすぎなんてことはないよ」
「で、では私は七不思議について活動を控えることを校長に報告してきます」
どこか逃げるように去っていく
「檜山さん、車持ってたんすね」
「いや、車は事務所用に僕が用意した物だよ。
都内なら必要ないとは思っていたけど、君の行動範囲は都内を軽々飛び越えてしまうから・・・」
「ちょっ!? どういう意味っすか!?」
小城の言葉に対して言い返そうとする金田一とは違い、美雪は『あー・・・』と納得しているのが現実である。
「檜山と狩谷、徹辺りにはもうこの際補助を出して船舶とヘリコプター、大型の免許辺りもとってもらおうかな・・・」
「だから、なんでっすか!?」
「ほら君に島とか行かれると、ね?」
「所長ー!」
「ほぅ、その辺りの話は今度ぜひとも聞いてみたいですね」
「うっせーよ! 佐木!」
溜息まじりにいう小城に金田一はショックを受けるが、否定できない己の人生が恐い。そんな二人を見ながら美雪は驚きつつも嬉しそうで、聞いていたるい子は微笑ましそうに笑う。
なんだかんだいいながらも小城は、所員を巻き込んでまで金田一を見捨てる気はないと言っているも同然なのだから。
「それで小城さん、まずはどこから向かうのかしら?」
小城を試すように問いかけるるい子に、小城はにこやかに笑う。
「まずはこの校舎の歴史や情報が残っていそうな用務員室かな。
本当なら校長室や図書室とかがいいんだけど、部外者がそちらの校舎までうろついたら他の生徒や教員達も怯えてしまいかねないしね」
校長の後ろめたさを考えれば、最悪追い出されかねない。ましてやそれが、問題児である金田一の知り合いとなればなおさらだろう。
「でも意外でした。先輩がこんなあっさり七不思議の究明をやめるなんて」
「そうね、私もそう思うわ」
移動しながらも美雪がいえば、るい子はフフッと笑う。
「私だって頭ごなしに否定されたり、曖昧な言葉で危険だけを告げられたら反発していたでしょうね。けれど、事実に基づいた確かな意見と私達を心配していることを言葉だけでなく行動で示してくれている小城さんを信頼したのよ。それに・・・」
流れるように視線を小城に向けつつ、るい子は笑みを深める。
「昨日勧誘した金田一くんが相談することが出来るのは昨日のバイトだけ、彼が情報収集にかけられる時間は一日もない。にもかかわらずここまで情報を集めた人の捜査を間近に見るチャンスだもの、逃す手はないでしょう?」
もっというのなら所詮バイトの学生が言うことを戯言とせずに相手をするところもなのだが、るい子があえて言うことはなかった。
「大したことはしないけどね。僕のすることなんて人を頼ったり、資料を捲るだけだから」
視線を向けられた小城は飄々と笑いつつ、金田一は実習内容の一部を思い出して遠い目をする。
「そっすね、ペット探しと資料を読む練習とか言って超分厚い動物図鑑とか読ませるくらいっすもんね」
「ハッハッハ、利緒ちゃんのおかげでいい参考資料を手に入れることが出来て助かってるよ」
金田一からの苦情にも近い不満を笑って受け流しつつ、前を行く金田一、美雪、るい子、佐木の先導に従っていく。
「ねー所長、『放課後の魔術師』はなんでこの校舎が壊されたら困るんすかね?
つーか、校舎の立て直しなんて学校関係者ぐらいしかわかんないことなのにどうやって知ったんだ?」
(そーいうところだぞ! 金田一ぃ!!)
いきなり犯人に近づく何気ない疑問を口に出す金田一に小城は心の中で叫ぶ。今ここに犯人がいたら、彼は確実に階段から突き落とされているだろう。
「まぁ、学校関係者あるいは生徒の関係者が脅迫状を送ってきているのは確実だろうね」
(つーか犯人どこ行った!? 最悪戻ってきても絶対にこの子達の傍を離れなきゃいいか? 徹、狩谷、早く連絡をくれぇ!)
適当な言葉で場を誤魔化しつつも内心は冷や汗が止まらず、昨晩あることを頼んだ二人の所員からの連絡が早く来ることを切に願っている。
そういって一見はなんて事のない会話を楽しみつつ用務員室に辿り着けばそこには男性がおり、小城は頭を下げつつ入室する。
「立花さん、ちょっと資料を見させてもらいますね」
顔見知りらしいるい子は一言そう断りつつ、男は入ってきた者を見ると制服を着ていない小城で視線を止める。
「かまわないが、そちらの方は・・・」
「あぁ、彼は金田一くんのバイト先の上司で私立探偵の小城さん。
今日はミス研の会報のテーマについて相談を乗ってもらっていて、その関連でこの校舎の歴史について知っておきたいそうなの。
小城さん、こちらは警備員の立花さん」
紹介されるがまま小城も頭を下げれば立花と呼ばれた男は小城の両肩を握りしめるように掴み、小城を含めたその場の誰もが驚き、彼を警戒する。
「頼む! 娘を、十年前に失踪した娘を見つけてほしい!!」
「失踪した、娘?」
(あっ・・・)
人に掴みかかられた恐怖から一瞬固まる小城から漏れ出た言葉は、内心の戸惑いと合致する。
(忘れてた・・・
この事件の終わりって犯人も十年前の被害者の親に殺されるんだった)
「十年前に失踪した娘って・・・ まさか的場先生が言っていた七不思議に関わって行方不明になったっていうあの?」
(こらぁ! るい子くん! 君のそういう聡い所が真っ先に殺された一因なんだぞ!!)
「警察も、他の探偵も相手にしてくれなかった! 十代の少女が失踪するなんて珍しくない、思春期特有の物だと!
けどちひろは、そんなことをするような子じゃない! 絶対にこの学校に何かあるに決まってる!! ちひろは今もどこかできっと・・・」
「立花さん、落ち着いてください。
今、僕の事務所の所員達がこの高校について調べを進めている筈です。失踪事件なんて真っ先に調べていくべき案件。そして、それがすぐに報告されていないということはそこから何か気にかかることがあってより詳細な調査の必要を感じたということです」
立花を刺激しないように穏やかに告げれば、彼も我に返ったように小城の肩から腕を離す。
「申し訳ない・・・ これまであまりにも誰も関心を持ってくれなかったものでね。
まるでなかったことにするように、ちひろのことを誰も探そうとしてくれなかった」
悔しそうに拳を握りしめる立花を小城は無意識に視線をやり、一度目を閉じてからその肩に優しく触れた。
「所長、携帯光ってますよ」
「あぁ。ここで出るから、少し静かに頼むよ」
そう前置いてから扉の横へと行き、いつでも何かあっても対処できるようにしておく。金田一らは用務員室にあるいくつかの本などに目を通し始めていく。
『所長、いくつかわかったことがあります』
「あぁ、順に報告してくれ」
実質副所長であり、結果報告を指示していた徹の電話に先を促せば電話口からはいくつかの資料を捲る音が聞こえてくる。
『まず十年前にあった失踪事件以外、学校設立以後事件は起こっていません。七不思議の話はすべて創作によるものだと結論が出ました』
「あぁ」
『ですが学校設立以前、三十年ほど前その建物は高畑製薬という薬品会社の研究所であることが判明しました。
と同時に、その薬品会社にて新薬開発のために雇われた人間が消息を絶っています。おそらくこちらは警察にも情報提供を願えば詳細な人数と氏名が出るかと』
「素晴らしい仕事だよ、徹。
それ以外にわかったことは?」
『事件については警察の捜査打ち切りや会社側の守秘義務、失踪についてもありふれた情報しか出てきませんでしたが・・・ 一人だけどちらの件にも、そして今もその学校に在籍し続けている人物の名前が出ました』
一晩のうちにここまで調べ上げる徹と狩谷を称賛しつつさらに先を促せば、徹の声はワントーン低くなり、警戒しているようにも聞こえる。
『的場 勇一朗、その男は以前高畑製薬の一研究員であり、十年前の失踪事件の頃、推理小説部の顧問をしています。そして今もその学校に在籍し、この件に関係している。そして彼なら・・・』
「わかった、ありがとう。
徹と狩谷は今集まっている情報を報告書にまとめておいてくれ、いつでも提出できるようにね。それと行方不明になっている青山ちひろについて、引き続き調査をお願いするよ」
『わかりました。
この段階では警察を動かせるような証拠が何もありませんからね』
その先を言わせずに校舎側に聞こえても問題ない言葉を選ぶ小城に、徹も悔しそうにいう。
ここまでわかっていてもまだ何も確証はなく、証拠はない。そして、明確なものがなければ警察は動けない。動く権利を得ることが出来ないのだ。
『所長、くれぐれも的場には気をつけてください。
追い詰められた犯人は何をしでかすかわかりませんから』
「ハハッ、徹が言うと重みがあるね」
『笑ってる場合じゃないでしょう、所長。
金田一くんと一緒にいて、ここまで怪しい男が学校にいる。その上で、この件に関連した情報を多く知ってしまってる所長は危険ですよ』
ジョークを挟んで場を和まそうとすれば、徹からは重たい事実を突きつけられる。彼の言う通り、もはや小城とて犯人にとって危険人物であることには変わりはない。命を狙われる対象の一人なのだ。
「わかってるよ、そのために檜山にも動いてもらってるんだから。
僕はうまくやる。だから、事務所は任せたよ」
『いや、檜山に動いてもらってるのは所長の安全というより生徒の安全でしょ・・・ はぁ、とにかくお早い御帰りを。全員で所長を待ってますから』
遠回しに『所長が帰ってくるまで全員で事務所待機しているので、さっさと帰ってきてください』と言われたが、『気にせずに定時であがれ』と言って聞くような所員はどこにもいない。おそらくバイトの千家すら残って小城の帰りを待つだろう。
「わかった、ありがとう。それじゃ、また事務所で」
向こうにも聞こえるように溜息を一つついてから通話を終わらせて周囲を見れば、状況はさして変わってはいない。
金田一とるい子は資料を捲りながら時に論議を始め、二人の話を聞きつつ自分なりの意見をいう美雪とカメラを回し続ける佐木。
一見凸凹なチームだが、案外この四名で事務所を開けばいいチームワークを発揮してくれるかもしれない。もっとも金田一とるい子は能力と好奇心が高すぎるがゆえに危険と隣り合わせになりそうだが。
「四人とも、いくつかこっちで結果が出たから一度まとめよう。
るい子くん、部室を使ってもいいかな?」
「えぇ、勿論」
「それと立花さん、あなたも一緒に同行してもらってもかまわないですか?」
「私も・・・? まさか娘のことで何かわかったのか!?」
「気になる点はありましたが、そちらは残念ながら・・・ ですが、所員には彼女についても調べるよう指示を出しました。何らかの結果は得られるはずです。
ですが、今は身の安全を優先して大人であっても一人で行動するのは控えていただきたい」
「・・・わかった」
犯人だと疑っているようにも聞こえるかもしれないが、いつ何が起こるかわからない以上誰だろうと一人で行動するのは避けた方が賢明だろう。
そう言って全員で部屋を出る中でるい子はやはり意味深に小城へと笑いかけ、隣を歩きながら話しかけてくる。
「周囲に気を配れる男性って素敵だわ」
「おや? さっきの僕にそんなところはあったかな?」
「ふふっ、あなたはずっと私達に気を配って心を砕いてくれてるでしょう?
本当に優しくて素敵で、素晴らしい・・・ けれど、それがどこから来るものか、いつか知ってみたいわ」
深く吸い込まれそうな雰囲気を醸し出す彼女に、小城はふっと笑う。
「買い被りすぎだよ、るい子くん。
僕はただすぐにトラブルを拾ってくる金田一くんが心配で、職業柄少しばかり知識があって、君達よりも大人ってだけさ」
「ちょっ?! 俺だってトラブルに巻き込まれてる被害者っすよ、所長!」
「いいかい、金田一くん。
普通の被害者は恐怖が勝って、トリックの解明や犯人への考察を自分からしたりはしないんだよ?」
金田一の反論に肩をすくめて返せば美雪は頷いて同意を示し、佐木はそんな状況をニコニコしながらカメラに収めている。
そうこういいながら部室につき、さぁ席に座ろうかという時にそれは起こった。
激しい音と共に校舎が揺れ、窓ががたつき、棚から本が飛び出していく ――― そう、地震である。
「皆、机の下へ! とにかく姿勢を低くして、頭を保護するように!」
小城が注意を呼びかけつつも、周囲を見渡す。
ガラスが割れれば机の下にいても怪我はする、最悪校舎が潰れれば机の下など逃げ場がなくなるだけ。そして何より原作の通りならばあれがいつ飛び出してきてもおかしくはない。
そして現実とは、いつだって最悪の方向へと転がる無情なるもの。
強い揺れが収まったその直後、貼られていたポスターを破きながら、制服を纏った白骨死体が転がり落ちてきた。
『!?』 「きゃぁぁぁ!」
白骨死体の登場に全員が驚き、美雪は悲鳴を上げる。
「白骨死体・・・? まさか、七不思議の真相は・・・!」
「るい子くん、今は考察をしている場合じゃない。金田一くん、むやみに触れようとしない! 佐木くんはとりあえずカメラ止めようか、ご遺体を前にして流石に不謹慎だよ」
「現場証拠は多いに越したことはないでしょう、小城さん」
「・・・その通りだ、でも警察が来たらすぐ撮影を止めるよう 「皆さん、強い揺れがありましたが大丈夫でした、か・・・?」
あちこちに注意を飛ばす小城に最悪のタイミングで
「あ、あぁ・・・ ああああああ! 許してくれ、青山くん! 私が、私が悪かった! だから、許してくれえぇ!」
そして彼は突然錯乱を始め、誰もが驚きを隠せない。
だが、その言葉の欠片は彼自身がその白骨死体の関係者だと証明し、また死体が誰かを理解させるには十分過ぎた。
「青山? 青山ちひろなんですか? この遺体は」
(佐木一号の馬鹿あぁぁ! そんなんだから君は別の事件で死ぬんだぞ!!)
この面子は揃いも揃って察しが良い所が美点であり、欠点であり、同時に死亡原因でもある。
「ちひろ・・・? お前がちひろを・・・!」
(なんでこの人ナイフなんて持ってんだよ!? いや今はそれどころじゃない、駄目だヤバイこれは・・・!)
立花の目が怒りと殺意に包まれるのを小城は確かに目撃した。そして、彼が懐から出したナイフに目を見開いた。だが驚いている暇などなく、体を動かさなければ彼は間違いなく的場を刺し殺す。ならば迷ってる暇も、躊躇している暇もないのだ。
「よくも! よくもちひろを!!」
姿勢を低くしナイフをもって突貫する立花と今なお錯乱状態にある的場の間に体を割り込ませ、立花の体をナイフごと受け止める。
小城の体を物理的な衝撃が襲い、小城のその姿を見て周囲にも衝撃が走る。
「所長!」 『小城さん!?』 「いやぁ! 小城さん!」
「僕は問題ない! 金田一くん、君は的場さんを押さえててくれ!
それから君、護身術の実習内容強化決定!」
「は、はい! って、今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
「るい子くん、君は警察に連絡! 君なら今の状況を的確に伝えられる!」
「えぇ、わかったわ」
「美雪ちゃんは僕の携帯から事務所に連絡をとって、誰が出ても『対応K』っていえばわかるから! 佐木くんはそのまま現場を撮っててかまわない!」
苦しむ様子もなく指示を飛ばし、立花の腕をひねりあげてナイフを取り上げ、美雪へと携帯を投げ渡すさまは鮮やかでおもわず男二人は『おー・・・』と称賛する。
「止めないでくれ! こいつが、こいつが私の娘を!」
「・・・っ! いいえ、止めます! あなたの怒りは正当で、その行動でしか晴れることがない無念だったとしても!」
家族を殺された無念と怒り、殺意。それを小城が否定することは出来ない。だが、視界の隅に崩れ落ちた遺骨と制服が映り、押さえる力を緩めることはない。
謎への好奇心と答えを求める探求心、真実を知って公に明らかにしようとする正義感を持った少女が十年前に殺された。その時点で的場が自首していれば、彼女一人の死を背負うだけで済んだのだ。誰もが七不思議のことなど忘れ、いつか校舎が壊される日が来て死体が出てきても製薬会社に責を問われるだけで、的場が一身に罪を背負うことなどなかった筈だ。
全てを隠そうとした、それが的場の最大の罪。
そして罰は、少女が死んだ日からずっと彼に罪悪感となって与えられている。
だが
「あなたの娘はそんなこと望まない! 子どもが父親に自分の復讐を望んだりなんかしないんだ!」
(あぁくそっ綺麗事だ! 立花さんだって本当はわかってるってわかってるよ、でも・・・ それでも許せないって気持ちだって俺にはわかるんだ)
自ら吐き出した言葉に眉間に皺が寄るが、その言葉に立花の体から力が抜け、床に彼の涙が落ちていった。
「ちひろ・・・」
膝から崩れ落ちてなく立花からナイフだけはしっかりと取り上げつつ、彼に何も言えずに何も持っていない方の手を肩に置く。
(一方的に奪われただけの彼に、俺が何を言えるんだ・・・ いや、俺だけじゃないか)
周囲を見渡せばすっかり大人しくなった的場を羽交い絞めにしたままの金田一と電話応対が終わった美雪、カメラを持ったまま複雑な顔の佐木がいるだけだった。
「小城、金田一、無事か!?」
沈黙と扉を壊さんばかりに入ってきた剣持警部に小城は感謝の想いと共に苦笑いで出迎え、後はもう警察にぶん投げようと決めた。
「剣持警部、あとはお願いできますかね」
「あぁ、よくやってくれた! 後は俺達警察に任せろ!」
大きく胸を張って応えてくれる剣持は、どこの探偵漫画の刑事よりも頼りになる最高にカッコいいおっさんだった。
剣持とその部下によって的場と立花が取り押さえられ連行され、青山ちひろの遺骨が回収されていくのを見ながら、立花から取り上げたナイフを剣持へと渡す。
「剣持警部、これが立花さんが所持していたナイフです」
「おぉ、話は聞いたがお前ナイフ持った相手の前に出るとかやめとけ。
いろいろと漏れもなく説明してくれたが、通報してくれた生徒もひどく焦ってたぞ」
「小城さん、怪我はなさそうですね。よかった・・・」
それと同時に剣持の後ろについてきていたるい子が小城の身を確認し、的場を他の警官に託した金田一達も小城の周りに集まってくる。
「所長、一体どうやって無事だったんすか!?
後ろから見たらどー見ても刺さってて、俺達超焦ったんすからね!」
「あー・・・ これのおかげかな」
左腕をあげて腕時計を見せれば、そこにはうっすらと線が残っていた。だが、そんなものを見せられてもわかる筈もなく、ただ一人剣持だけが理解したらしく小城の肩に手を置いて力を籠める。そんな剣持からありがたいお説教が飛び出す前に小城は金田一へと線を指さしつつ説明を始めた。
「咄嗟に腕時計をナイフ目掛けてぶつけて軌道をずらしたんだ。
あとは見ていた通り、空いていた右手で彼の手を掴んで捻りあげて押さえた。ただそれだけのことだよ」
「おっ前なぁ~! それ、成功したからいいが失敗してたら最悪死んでたぞ!」
剣持の言う通り、うまく腕時計とナイフがぶつかり軌道がずらせたから成功したが、軌道がずらせなければ小城の腹にナイフが刺さり重傷、仮に軌道がずれていたとしても腕時計に当たらなかった・あるいは軌道があらぬ方向にそれていたらこちらも最悪重傷。成功したからよかったが、その成功率がいかに低いものであったかは言うまでもない。
「てか、所長がごっつい金属バンドの腕時計つけてたのってそういう理由!?」
「いや、檜山くんにはサバイバル用の多機能なやつを勧められたんだけど、僕は時計にこだわりがなくてね。金属バンドでそこそこ丈夫な物を選んだだけなんだけど・・・ まさかこういう風に役に立ってくれるとはね」
あまり嬉しくないことをその苦笑いが語り、腕時計は修繕に出さないとなぁと零す。
「でも小城さんに怪我がなくて本当によかったです。
相談に乗ってもらって、いろいろしてもらってるのに小城さんを怪我させてしまったなんて揚羽さん達に申し訳ないですから」
「まったくだわ」
美雪の言葉にるい子が同意を示すが、子どもらしくない二人に剣持はどうしたものかと頭を掻き、小城は呆れつつも二人の頭に優しく手を置いて撫でてやる。
「最初に言ったろう、君達は子どもで僕ら大人は君達を守る義務がある。だから、君達子どもがそこまで責任を感じることなんてないんだよ」
この世界では高校生である筈の彼らはあまりにも大人びていて、当人達も大人であろうとしすぎている。事件には高校生だけではなく、他の大人が多く居るにも拘らずにだ。
(君達も、蓮子ちゃん達も、揚羽くん達も、速水玲香も・・・ まだ子どもでいていいんだ)
願いにも似たことを想いながら撫でる手は止まらず、小城は剣持に視線を向けた。
「剣持警部、ウチの所員の調査結果は今日の内にそちらにお送りします。
これ以上僕らに聴取等は必要ですか?」
「そいつは助かる。だが、送ってもらうのは悪いからここでの処理が終わったら俺が直接取りに行くから気にすんな。
何があったかはあらかた聞いてるし、現場の記録はそこのカメラボーズのおかげでばっちりだからな。もう帰ってもいいぞ」
そう言って他の指示に戻る剣持に一礼し、小城は金田一らに向き直る。
「それじゃ帰ろうか。
すぐに檜山と狩谷を呼ぶから、るい子くん達も車で家に送っていくよ」
そうして各々を家へと無事送り届け、青山ちひろ以外の被害者を出すことなく『学園七不思議』は幕を閉じたのだ。
北見蓮子=不破鳴美(『異人館殺人ホテル事件』における犯人『赤髭のサンタクロース』)
異人館ホテル殺人事件もついでに握りつぶすスタイル。
(まぁこれは佐木一号の生存でバレてた気もする)
るい子先輩が死なずにすんで余は満足じゃ。
でも言わせて。
なんで事務員、人を殺すに十分なサイズのナイフを持ってたの? 常に持ち歩いてたの?
読み直した時、なんの前振りもなくナイフ出てきて驚いたんですけど?
次話はこれの事後話