三話目ー!
金田一が動く!
二人に勝負を吹っ掛けた金田一に対し、その様子を黙って見ていた面々は少々驚きつつも最初に動いたのは仮面の奇術師 ローゼスであり、彼は拍手と共に立ち上がった。
「ローゼスさん?」
幽月が彼の様子に不思議そうに首を傾げていると、金田一らの元に歩み寄っていく。
「なかなか面白そうな勝負が始まり、個人的には非常に興味深い。
一参加者である以上、この勝負の公平な立会人になることが出来ないのが残念でなりませんが・・・ どうでしょう? 幽月さんが勝者となった場合も君の勝ちにすることで、私に君を応援させていただけませんか?」
「え?」
「つまり実質、幽月さんと宝田さんは共同戦線を張ると?」
思ってもみなかった申し出に金田一が戸惑っていると犬飼がすぐさま事実確認として助っ人の雇い主であり、遺産相続の候補者である幽月と宝田へと視線を移す。
「い、いえ・・・ 私は・・・」
「遺産相続とあなた達の個人的な競争は別問題で、ローゼスさんが金田一くんを応援するのは好きにしてもらってかまわないわ」
戸惑う宝田とは違い、幽月はにこやかに『共同戦線は張らないが、ローゼスの行動を止めることはない』と遠回しに告げたことで犬飼も神明も胸を撫で下ろした。
「それならかまわんよ。
奇妙な仮面男にも、名探偵の孫にも負ける気はせんからな」
「僕もかまいませんよ、むしろそれぐらいのハンデがあった方がいいかもしれませんね」
二人の言葉を金田一はもう聞いておらず、ローゼスに向かって軽く頭を下げた。
「そうやって味方になってくれるだけでスゲェ嬉しいよ、ローゼスさん。
まっ、出来るだけ自力で勝ちにいくつもりだけどさ」
「いえいえ、感謝されることではありませんよ。
お互い助っ人同士ですから、ちょっとした仲間意識を持っているだけのことです」
「そっか。
でも、あんたの声ってどっかで聞いたことある気が済んだよなぁ~。俺達ってどっかで会ったことあったりする?」
「私は全国を渡り歩いて場所を選ばずにマジックを披露していますので、もしかしたらどこかでお会いしてるかもしれませんね」
出会った時に感じた違和感をせっかくの機会だと思いローゼスに尋ねてみればうまくかわされてしまい、彼は幽月の傍へと戻っていった。
そして、無事朝食を終えた後、美雪と佐木兄弟と話し合いを始めていた。
「竜太、竜二」
「「はい、先輩」」
「お前らはこの後田代さんに頼んで、この館の間取り図からおかしなところがないか確認しつつ、館を歩きながら調べてくれ。
下手に触れたりしないで、違和感を覚えたところの録画と地図に目印をつけてくれるだけでいい」
「お任せを」
「腕が鳴りますね! 兄さん!」
珍しく名前を呼ばれ、金田一からの指示にどこか嬉しそうに頷いて了承する。
「美雪、お前は・・・」
「はじめちゃんについていけばいいのよね?」
何も言わずともわかっているとばかりに彼の服の端を掴む美雪に、金田一も自然と笑みが零れていた。
「おう、一緒に来てくれ!」
「うん!」
それぞれが自分のやるべきことを理解したところで、金田一は三人を改めてみる。
「いいか? 何もないとは思うけど安全優先を忘れんなよ?
これで怪我なんてしたら俺ら、マジでどこに行くにしても事務所の誰かが付いてきて旅行は常に保護者同伴なっからな?」
「それ、はじめちゃんが言っちゃうの?」
「この中じゃ一番危ない目に遭ってる筆頭ですもんね!」
「次に多いのは七瀬先輩なので、正直僕と竜二のどっちかと配置変えた方がいいんじゃないですか?」
「お前らさぁ・・・ リーダーとして仕切ってる俺をかっこよく決めさせる配慮とか出来ねぇの?」
金田一の言葉に三人が三人とも笑いながら言葉を返すと、金田一は拗ねるように唇を尖らせる。
「嘘嘘、はじめちゃんったら拗ねないの。
ちゃんと舘羽さん達に言われたこと守ろうとしてるはじめちゃん、偉い偉い」
「七瀬先輩のそれは子ども扱いであって、かっこよく決めるタイミングを奪ってますけどね!」
「よかったですね、先輩。
七瀬先輩に良い子良い子までしてもらえて」
幼馴染には頭を撫でられ、後輩二人にはからかわれた金田一は両手を力強く上に向けて立ち上がる。
「だー!!
お前らそうやっていつまでも俺をからかいそうだから、もう解散解散! 佐木兄弟も散れ散れ!」
『はーい』
話し合いどころか、表情も締まりのないままそれぞれがやるべきことをやるために行動に移しはじめた。
佐木兄弟は田代の元へ。金田一は美雪と共に暗号文を手にして露西亜人形が置かれている部屋へと向かおうとすれば、幽月とローゼスも作戦でも話し合うつもりなのか、今まさに幽月の部屋へと入ろうとする二人と鉢合わせする。
すると、金田一達の気配に気づいて振り返った彼女の髪の隙間から火傷の痕が見えてしまい、言葉を失ってしまった。
「あぁ、ごめんなさい。こんなものを見せてしまって」
「い、いえ、こちらこそごめんなさい。
その・・・ その火傷の痕って昨日のメッセージの話にも出た・・・」
美雪が言いにくそうに聞けば当の幽月はなんて事のないように笑い、『流石に廊下で話すのは憚られるから』と部屋へと招かれる。
「ごめんなさいね、嫌なものを見せてしまって」
「い、いえそんな・・・ 私こそ不快な思いをさせてしまって」
「いいのよ。こんなものを見てしまったら誰だって怯えてしまうし、嫌な顔の一つや二つしてしまうわ。
むしろあなたみたいに謝って、気遣ってくれるのは良い方で、酷い人だと不快感を隠しもしないで悪く言ったりもするもの」
「そんな、酷い・・・」
「あなたは本当に良い子ね。でも残酷なことを言ってしまうけど世の中、あなたみたいに良い人ばかりじゃない。
現に人格者で知られていた山之内先生だって私達がお金に困っていることを把握していながら、友人同士の関係を壊しかねないこんな催しを準備していたんだもの。
もしかしたら山之内先生は私達を友人と呼ぶ一方で、憎み、妬み、怒り、忌み嫌っていて、ただ本心を隠していただけなのかもしれないわね」
「え? それってどういう意味っすか?
だって、あのメッセージを聞く限りじゃ、遺産相続の候補になった皆さんって親しい友人同士だったんでしょ?」
幽月のおもわぬ発言に金田一が問えば、彼女は楽しそうに語りだす。
「私ね、実は昔、山之内先生の作品にトリックの答えを匂わせる挿絵をこっそり書き込んじゃったの」
「ええっ!?」 「それってかなりまずいんじゃ・・・!」
カミングアウトのように語られた事実に、彼女も当時を思い出して溜息をついた。どうやら結構な騒ぎになったのか、挿絵を描いた彼女にもクレームやバッシングが来たのだろう。
「その時、山之内先生は笑って許してくれたけど・・・ 本音はどうだったのかしら?
私以外の四人もそれぞれが山之内先生と大なり小なり何かがあったとするなら、何かしら憎まれていてもおかしくはないわ。殺したいとまではおもわずとも、『今の関係が壊れてしまえばいい』と考えてしまうくらいにはね」
「で、でも、人と長く付き合っていれば、そんなことはよくあることじゃ・・・」
「えぇ、よくあることだわ。
でも、どうしても許せないことは人によって全然違うし、次の日には忘れてしまう人もいれば、生涯根に持つ人もいる」
そう言いながら彼女は煙草に火をつけ、深く息を吸ってから煙を吐き出し、清涼感あるミントの香りが室内に広がっていく。
「人格者とした知れた先生の仮面の下に隠された素顔・・・ もしかしたら第二の遺書が見つかった時こそが、本当の『山之内 恒聖』との出会うことになるのかもしれないわね?」
彼女の不穏な言葉に薄暗い何かが部屋に漂っているように感じられ、金田一と美雪の背中に冷たいものを伝っていく。
「それは山之内先生は勿論、この館にいる方々に限ったことではありません」
それまで黙っていたローゼスが口を開き、彼女同様に火傷を隠しているらしい仮面に触れる。
「人は誰しも仮面をかぶり、何かを隠して生きているもの・・・ その目的も意図も、仮面の下に隠された本心すらもわかっているのは自分自身だけ ――――― もしかしたら自身ですら把握出来ていない本音も、あるのかもしれませんね?」
彼の意味深な言葉のそのすぐ後に二人は部屋をお暇し、広い館の廊下を二人で歩いていく。
「なんだか怖いね、はじめちゃん」
「んー? さっきの仮面とか本心とかの話?」
「うん・・・
人格者として振る舞って、親しくしていた友人である五人を集めた山之内 恒聖の本心がもし幽月さんが言うようなものだったら・・・ ううん、それだけじゃなくて誰しもがそんな本心を隠しているのかもしれないって考えたら、なんだか何を信じたらいいかわかんなくなっちゃう」
俯き不安そうにしながら慎重に言葉を選び、自分の気持ちを伝えようとする美雪の言葉を待ちながら、金田一はそんな彼女の手を当たり前のように握った。
「バーカ、何言ってんだよ。
人間、誰だって少しは仮面をかぶって生きてるもんさ。洋服来てるのと一緒で、俺だってそんなもんかぶってるよ。ホントの顔ばっか見せてたら、恥ずかしくて生きていけないだろ?」
不安がる彼女の気持ちが少しでも晴れるようにわざと笑って明るく言いながら、一度立ち止まって俯く彼女の顔を強制的に上を向ける。
「大事なのは何のために仮面を被るか、だ。他人を傷つけないために被る仮面だったら、それはちっとも悪いことじゃない。
な~んて、じっちゃんの受け売りだけどさ。美雪みたいに素直でまっすぐしてる奴なんてそうそういねーよ、そこがお前のいいとこだけどさ」
「・・・私だって隠してることあるよ」
「え?」
目の前にいるのに小さすぎて聞き逃してしまった言葉を聞き返せば、美雪はその言葉を掻き消すように問うてくる。
「じゃぁ、はじめちゃんはどんな仮面を被ってるの?」
「えっ? 俺?」
「なんか今、凄く、それが知りたい・・・」
頬を染めて尋ねてくる彼女に金田一の顔を真っ赤に染まり、慌てて顔を背ける。
「そ、そりゃお前! 教えたら仮面の意味ねーじゃん?
隠さなきゃいけないぐらい、こっぱずかしいことだよ!」
「え~、なにそれ。だったら尚更、気になっちゃう。
教えてよ、はじめちゃん」
「また今度な!」
「今度っていつよ~!」
「今度は今度っ!」
幼馴染二人による甘酸っぱいやりとりこそ映像におさめるべきだというのに悲しいことに佐木兄弟はここにおらず、そのじゃれ合いは人形のある部屋に辿り着くまで続いたのであった。
他の部屋と同様に美しい調度品が揃えられた部屋に入れば、窓際の棚の上には映像と同じ右から背の高い順に並べられた五体のロシア人形。
「これが映像にあった人形達か。
人形の首ってのを名前の頭文字って捉えて『前から順』ってなると背の順だけど、それはもう佐木兄弟が昨日の晩やって、よくわかんねーことになってんだよなぁ」
「・・・あれ?」
金田一と共に人形を見ていた美雪があることに気づいて、指で人形達が持っている楽器の大きさを調べ始める。
「ん? どした? 美雪」
「あ、ううん。関係ないかもしれないけど・・・ この人形達が持ってる楽器の大きさって皆同じなんだなぁって思って」
「え? どういうことだ?」
「ほらっ、見て」
そう言って彼を引っ張って数歩下がったところから人形達を見ると、そこには当たり前のように人形達が並んでいて、金田一は意味がわからず首を傾げた。
「こうやって遠くからとか、映像で見ると人形の大きさで楽器のサイズも実際の楽器のサイズに合わせて作ってあるように見えたけど」
近づいて自分の掌で楽器を比較していくと、どの楽器も全く同じであることがわかる。
「ほらね? 楽器のサイズは皆同じなの。
でも、考えてみればそうよね。サイズ感を人形の背丈に合わせてたら統一感がなくなっちゃうし、こんな小さなイワンに大きなコントラバスなんて持たせられないもの」
「ハハッ、確かに。
大体、そこまで精巧に比率まで考えて人形を作ったりなんか・・・」
そこで金田一は何かに気づき、ハッ!とする。そして、檜山によって強制的に持たされた十特ナイフやらパラコードが入った腰につけられる小さなポーチからメジャーを引っ張り出し、人形の身長を測って、ポーチに入ってたメモ帳に何やら書き出していく。
「突然どうしたの? はじめちゃん」
他にもいろいろと書き込んでいる彼の手元を覗き込もうとすると、金田一は明るい表情で振り向いた。
「美雪、お前スゲーよ!」
「え? え? 何が?」
「うし! 時間ももうすぐだし、今から取りに行っちまおうぜ!!」
「何を?
きゃっ!? ちょっと、はじめちゃん! 少しは説明してってば~!」
腕時計を確認してからその手をとって走り出す彼に説明を求めることはあっても文句も言わず、振り払うこともせずに付き合う彼女は、どれほど彼の周りに友人がいても彼の最大の理解者なのだろう。
一方その頃、佐木兄弟は田代から館の間取り図と平面図を貰い、またこの館についての話を聞いていた。
「田代さん、この館は元は貿易商だったロシア人が建てたホテルだったとお話を伺った金田一先輩から聞いたんですが・・・ どんな方だったんですか?」
「あぁ、そのことですか。
以前、私も先生から伺って、この館の中に置かれてる本にも書かれているのですが・・・世界的に有名な奇術師 ユーリ・イワノフだったそうです」
「奇術師が?」
「えぇ、先生曰くこの館はミステリー作家の自分にピッタリなんだと」
「なるほど。
図面と一緒に貴重なお話までありがとうございます」
地図を受け取った竜太はふと田代の背後にあるキーストッカーが目に留まり、じっと見てしまった。
「兄さん? どうかしたんですか?」
「いや、随分変わった形の鍵束だなぁと思ってつい・・・」
「御覧になりますか?」
「いいんですか?」
「かまいません。どうぞこちらになります」
キーストッカーの鍵を開け、じゃらりと音をたてる鍵束を見せながら鍵を一つつまんで説明を始めた。
「こちらの鍵も作られた当初からの物で鍵はロシア製の複製が困難なものでして、リングと鍵を繋げている紐も細い金属と炭素繊維で作られた特別製となっております。
一度、山之内先生が興味を本位で切ってみようと試みたのですが、ワイヤーカッターでも切ることは出来ませんでした」
そう言ってわずかに傷ついた紐を見せ、竜二は素直に感心していると竜太は鍵束を受け取って少しいじる。
「・・・確かに厳重ですが、この鍵は外そうと思えば外せそうですね」
「えっ? 兄さん、それってどういうことですか?」
「いや、さとみさんからいろいろとマジックを教えてもらってると知恵の輪が得意になっていってね。
といっても、鍵をマスターキーからはずすなんて謎解きには関係ないだろうからしませんのでご安心を」
外せると言われて不思議そうにマスターキーを見ている田代に、外し方を耳打ちすれば驚いたような表情をされる。
「あぁ、今ここで試すのはやめた方がいいですよ。
察しのいい方やマジックに慣れてる方は思いつきますけど、全員が知ってしまったら万が一何かあった時を考えると心配なので」
「わ、わかりました」
そこで田代の元から離れ、一つずつ入れる部屋を巡っていく。
山之内の部屋、佐木兄弟の部屋には何もなく、空室となっていた部屋には怪しげな仮面が並んでいたのが嫌に気になったのでチェックをいれ、金田一と美雪の部屋にも入って行く。
「何もなさそうですね、兄さん」
「いや・・・」
美雪の部屋にて壁にある何かに布がかけられており、試しにめくってみるとそれは鏡だった。
「埃がつくのを防いでるんですかね?」
「いや、これは七瀬先輩が何かに気づいた可能性がある」
「何かって、なんでしょ?」
「七瀬先輩も舘羽さんに女性が自衛するためのあれこれを教わっているみたいで、多分何かがあるんだろうけど・・・ 竜二、試しに壁の向こうにある先輩の部屋に回ってみてくれないか?」
「はいっ!」
竜二が駆けて行ったかと思ったらすぐに戻ってきて、今さっき録画したばかりの映像を見せてくる。
「兄さん! 見てください!! マジックミラーになってました!」
「あぁなるほど、だから布をかけて対策したのか」
美雪が察しているということは既に金田一もこの件を知っているということを理解して、次の部屋に向かったが犬飼と神明の部屋は当然断られてしまい断念することになった。
『ハッ、部屋に仕組みだ?
そんなものが仮にあったとしても、あの暗号に何が関係あるというのだ。まったく、これだから十代の探偵気取りは嫌いなんだ!』
と、相変わらず酒がなみなみ注がれたグラスを手にして吐き捨てた神明。
『フッ、暗号を見れば人形が関係しているのは一目瞭然なのに館を調べさせるなんて。
流石は推理しない探偵事務所のアルバイトだ。営業のように足で稼ぐなんて、泥臭い真似をするんですね』
感心するように見せかけて、鼻で嗤ってるに等しいことを言った犬飼。
「兄さん。僕、あの二人大っ嫌いです」
「まったく同意見。だから、あの二人が油断している間に動いてさっさと頭を下げてもらおう。
当然撮影もしっかりと、ね」
怒りを露にする竜二ともはや鼻歌を歌わんばかりに上機嫌になっている竜太は対照的だが、笑顔とは何も喜びだけを表す手段ではない。笑顔の始まりは古くは歯を剥き出しにする威嚇表情であり、本気で向き合う意思表現でもあるのだ。
宝田の部屋に向かうとあっさりと調べる許可は下りたのだが、彼は心底困ったように溜息を零した。
「はぁ・・・ しかし、いつきさんの勧められて君達を連れてきたけど、失敗だったかな」
おそらく愚痴の類いだと判断して佐木兄弟が黙っていると、彼はまた溜息を零してさらに言葉を続ける。
「正直困るんだよ、神明先生と揉められるのは。
君達学生にはわからないかもしれないが、大人の世界は横の繋がりが重要なんだ。確かに神明先生は酒におぼれて最近ロクに原稿をあげてくれないけれど、あの年齢まで評論家として活躍してきた業界の生き字引に等しいんだよ? そんな大御所がへそを曲げてウチの雑誌には協力しないなんてなったらどうなるか・・・ 大体、神明先生が言ったことはなにも間違ってないだろう?」
「・・・それはどういった意味でしょう?」
流石に最後の言葉だけは聞き捨てならず竜太が問い返せば、宝田は鼻で嗤った。
「彼がバイトしてる事務所の所長のことだよ。探偵だっていうのにあちこちの業界に妙な人脈を広げて、挙句の果てに株でも大成功してるといつきさんから聞いたよ。
トレジャーハンターにしても、人脈にしても、犬飼くんが言っていた事件にしても、彼はただただ幸運の女神に愛されていたってだけの話じゃないか」
宝田の発言に言葉を失い、竜二は兄を見やれば竜太は何も言わずニコニコとしながら撮影を続けていた。
「どうぞ続けてください、宝田さん」
「な、何を撮ってるんだ! 続けるって何を・・・」
「どうぞ、続けてください。あなたの醜い本心を僕らの前で存分に吐き出すといい。
あなたに運があれば、もしかしたらこの映像はどこかで紛失したり、壊れたりするかもしれませんよ?」
笑顔のまま言葉を繰り返し、彼が言った言葉の一部を流用した。
「や、やめろ! やめてくれ!! 今の言葉はなかったことに・・・!」
「安心してください、小城さんはあなたみたいな方を相手にすることはありませんから。
もっとも、あなたの知り合いであるいつきさんがどう判断するまではわかりませんけどね」
宝田が慌てて手を伸ばすのをひらひらと避けながら部屋を出ていけば、扉を閉めた時の音の違和感に気づいて、二人でニヤリと笑った。
「扉に何かありそうですね、兄さん」
「あぁ、少しばかり仕返しも出来たし、少し気が晴れた」
そう言っていると廊下に突然拍手が響き、音の方向を見るとそこには幽月とローゼスが立っていた。
「お見事、名探偵のお孫さんにはとても優秀な友人がいるようですね」
「本当に。小城さんの教えを受けていると、高校生でもここまで出来るのね。
将来がとても楽しみだわ」
くすくすと笑う二人に対して竜太はまるでマジシャンのように大袈裟に頭を下げつつ、手を差し出す。
「お褒めに預かり光栄です。
では、お二人の部屋を調べてもいいですか?」
「かまわないわ・・・ っと言ってあげたいところだけど、それには及ばないわ。私の部屋は既にローゼスさんが調べてくれたの」
「えぇ、どちらの部屋にも仕掛けがありましたよ。
幽月さんの部屋にはワインセラーへと続く道、私の部屋には内側から鍵を使わずに外へ出る通路がありましたよ」
「いいんですか? 僕らにそんなことを教えてくださって」
「えぇ、私ももう小城さんの友人の一人、彼への侮辱は聞き捨てならないわ。遺産は確かに欲しいけれど、あなた達に協力してあげる」
『ありがとうございます』
「それなら私も、あなた達に協力しようかしら?」
微笑みを浮かべて優しい言葉を向けてくる幽月に二人揃って頭を下げていれば、おもわぬ言葉と共に足音が近づいてきた。
「梅園さん、聞いていたの?」
「えぇ、私も噂に聞く小城探偵には前々から興味があったの。
なにせあの多岐川 かほるが捕まった事件に関わっていたんだもの」
煙草をくわえて現れた梅園は佐木兄弟に向かって手招きをし、部屋へと招く。
「ほらっ、調べるなら早く入りなさい」
「梅園さん、高校生に手を出したらスキャンダルよ?」
「出さないわよ!! 大体、私が手を出したいのはこんな子どもじゃなくて小城探偵の方よ!」
「小城さんを?」
梅園から飛び出したおもわぬ発言に幽月が首を傾げると彼女は強く頷き、ぎらついた目で手を動き出し始める。
「そうよ!
話を聞くと随分羽振りがいいみたいだし、いろいろな人と関わってるんでしょ? 一緒に居るだけで小説のネタに困らなそうじゃない? それに私みたいな女を連れて歩けば彼にだってプラスに働くことだってきっと・・・」
聞くに堪えない内容から逃げるようにサクッと梅園の部屋を調べて立ち去り、佐木兄弟は食堂や応接間などの調査に向かうのだった。
蝋人形城の時もだけど、小城の悪口言う奴って心配になる・・・ その仮面の奴に聞かれてたらヤバいですよ(⌒∇⌒)
さー、次がラスト。お楽しみに(^▽^)/