ラストの謎解きー!
さぁー、次はあれでこれだわ。盆休みの内にもう少し進めたい!
昼食の時間である十二時が近づいてくると、一人また一人と応接間に集まってくる。
あと十分で十二時になるというところで最後の一人である神明が昨日から何も変わらない酒に酔った赤ら顔で応接間に来たところで、金田一が嬉しそうに声をかけた。
「おっ来たな、神明さん。アンタが揃うのを待ってたんだよ」
「ん? それはどういう意味だ」
「おいおい、酒飲みすぎて朝の勝負をもう忘れたとか勘弁してよ。も~」
聞き返してくる神明に金田一はわざとらしく両手を広げて首を横に振り、しまいには大きな溜息をついた。
「『アンタらが負けました』って話なんだから」
『!?』
金田一の発言にその場にいる多くが全身で驚きを表現したかと思ったら、次の瞬間ざわざわと騒ぎだした。
「そんなバカな・・・」 「だって、昨日の今日なのよ? もうトリックが解けたとでもいうの?」
「あらあら、負けちゃったみたいね」 「やった、やった・・・! これで借金が・・・」
候補者のそれぞれの言葉を聞きながら、その場の全員の声を黙らせるように神明が声を荒げた。
「ば、馬鹿を言うな!!
昨日の今日でワシらも一切何もわかってない暗号や謎をお前如きが解ける筈が・・・!」
「あるんだなぁ~、それが」
ケケケと笑いながら金田一は神明に、『遺書 山之内恒聖』と達筆な字で書かれた手紙を見せつける。その遺書をわざとらしく田代と有頭に読んで、確認してもらう。
「こ、これは確かに山之内先生の筆跡です」
「では、お預かりして読み上げ・・・「その前にどうやってこの謎を解いたって言うんだ!」
有頭が黙々と役目を果たそうとしたところで犬飼が割って入り、金田一へと向かって叫ぶ。
「勿論、ちゃーんと説明してやるよ。
耳かっぽじってよーく聞「はじめちゃん、言葉遣い! 小城さんがここにいたら怒られるわよ!」 うっ! 俺が暗号を解いた方法をご清聴ください!!」
美雪の注意がとんだことで金田一が半ばやけ気味に言葉遣いを直し、佐木兄弟が笑いながらロシア人形を持って現れる。
「んじゃ、皆さん。
山之内 恒聖が最後に残した暗号を、一つずつ紐解いていくとしましょうか」
「え? 先輩の今の口調って小城さんの真似だったりします?」
「人によってなんでこんなにあわないんでしょう? これもちょっとしたミステリーですね」
「はじめちゃん、似合わないからいつもの口調でいいよ」
「お前らなぁ~、言いたい放題過ぎだろ! つーか美雪、お前に注意されたから言葉遣い直したんだぞ!」
出鼻をまさかの味方によってくじかれ、おもわず叫ぶ。
「ごめんごめん。でも、いつもの口調で大丈夫だよ。
人に向かって言葉を荒げなければ、ね」
「ったくよぉ・・・
まずさ、ここにある人形を見て、何か気づかないか?」
誤魔化すように一度咳払いをしてから、金田一は全員と向き直って質問を投げかけた。
「人形・・・? 僕らクインテットと同じ楽器を持つ人形だがそれが何か・・・」
「身長は皆バラバラだし、衣装だってロシアの民族衣装よね?」
「暗号の『前から順に』って言葉から身長に関与してるんだろうが、まだ何も・・・ 大体たった半日で謎なんか解ける筈がないだろうが」
犬飼、梅園、神明がそんなことを言いながらロシア人形に近づいて凝視する中、一歩離れた場所にいた幽月があることに気づく。
「あら、楽器の大きさが皆同じなのね」
「その通り!
実はこの人形って人形の背丈は全員違うんだけど、楽器側は全員共通して二十センチなんだ」
そう言いながら楽器が二十センチであることをメジャーで測って示しながら、首を振った。
「でももし人形を精巧に作るなら、この比率って若干おかしくてさ。もうちょいサイズが変わってくるんだよ。つまりこの楽器は、わざと同じ二十センチにされてるんじゃないかって思ったってわけ。
だから、人形が持つ楽器のサイズと実物の楽器のサイズを並べてやって」
そこで金田一は説明しながらメモを書いていく。
『(人形名) (楽器のサイズ比)
第一バイオリンのコンスタンチン 20:60
第二バイオリンのターニャ 20:60
ビオラのオリガ 20:65
チェロのエミール 20:120
コントラバスのイワン 20:200』
「で、これを比率にしてやると上からコンスタンチンとターニャが1対3、オリガが1対3.25、エミールが1対6、イワンが1対10になる」
「そ、それが何だって言うんだ!」
「ここで皆も気づいてた、『前から順に~』って暗号に繋がるんだよ」
神明が怒鳴れば金田一は怯むことなく告げ、そこで犬飼も気づいたように顔をあげた。
「まさか、この比率を使って人形の身長を人間のサイズに計算して並べるのか!?」
「そっ! あとはもうミステリーに詳しい皆さんはわかるだろ?」
メモの続きにはさっき金田一が言った比率、さらにその隣に人形の身長と比率に従って算出された人間サイズの身長が書き加えられる。
『(人形名) (楽器のサイズ比) (人形の身長/人間サイズでの身長)
コンスタンチン 20:60 → 1:3 → 50/150
ターニャ 20:60 → 1:3 → 40/120
オリガ 20:65 → 1:3.25 → 40/130
エミール 20:120 → 1:6 → 30/180
イワン 20:200 → 1:10 → 20/200』
「で、あとはこれを『楽団の朝礼は前から順に首は刈られる』っていう暗号に従って、背の低い順に並び替えると・・・」
『T ANYA
O LIGA
K ONSTANTIN
E MIR
I VAN』
「時計!?」
「時計って・・・ この館に時計なんて一つしかないじゃない」
「あの大きな時計のどこに隠したって言うんだ・・・?」
「馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
「へぇ・・・ なるほどね」
驚き、隠し場所に気づき、それでもわからないとばかりに呟き、自分が出し抜かれたことを信じられず、普通に感心する。五人がそれぞれの反応を見せる中、金田一はさらに続けていく。
「でも、まだこれだけじゃわからない。
さらにここに暗号文の続きである『さぁお次は数合わせ 2番の子の首を5番目の子の首の右に並べてみてごらん 楽しいリズムの始まり始まり』に従って、二番のオリガの頭文字のOを、五番のイワンの頭文字であるIの右に並べてやると」
名前に丸をつけながら、指示に従って下の空欄に書き足すと『IO → 10』が現れる。
「10って・・・ じゃぁ、この10は何を示してたって言うんだよ!」
もはや冷静さは消え失せた犬飼が金田一に詰め寄れば、ニヤリと笑った。
「そのまんまだよ。あの時計、一時間ごとに楽し気なリズムを鳴らすだろ?
わかった時は時間ギリギリだし、時計のところに降りるのはクッソ危なかったけど、十時の鐘が鳴ったら仕掛け扉が現れて、その中にはさっきの遺書が入ってたってわけ」
これで謎ときは終わりとばかりに金田一が有頭の手にある遺書を指し示せば、全員の視線がそこに行きつく。
「で、では、開封し、読み上げます」
全員の視線が集中する中で有頭は恐る恐る手紙を開封し、読み上げていく。
「やぁ、親愛なるクインテットの諸君。私の人生最後のトリックであり、謎解きの催しは楽しんでいただけただろうか?
まず、友人である君達に詫びたいことがある。君達は勘違いしてしまっただろうが、この第二の遺書を見つけた者に私の全ての財産を相続する権限は発生しない。
これが私の人生最後の君達との交流であり、ゲームだったのだ」
そこまで聞いたところで候補者達は戸惑い、顔を見合わせる。
「最初の日の夕食前に話したように、私は君達が金銭的な問題を抱えていることを知っていた。そして、それを非常に心苦しく思っていた。だが、私達の関係はあまりにも近く、仕事のことを考えると直接的な金銭のやり取りはすべきではない。
だが、私が死んだ今は別だ。
この遺書を発見した者が誰であれ、我が親愛なるクインテットの諸君が抱える問題を解決するだけの金額をそれぞれに相続するものとする」
『!?』
全く想像していなかったらしい彼らは驚き、遺書の中にはそれぞれが必要としている額まで書かれているようでその金額が読み上げられていく。
「何故あいつが慰謝料の額まで把握しているんだ! 問題解決に必要な額を相続させるなんて善人ぶりながら、やっぱり陰湿な男じゃないか!!」
そう言いながらも神明の目には一筋の涙が零れ、それは他の面々も同じだった。
「せ、先生・・・ あなたって人は本当に僕らを・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい! 先生・・・!」
「ありがとございます! ありがとうございます・・・!!」
「私達は最後まで、山之内先生をわかってなかったのかもしれないわね」
流れる涙を腕で拭う犬飼と何故か謝罪の言葉を口にしながら口元を押さえる梅園、膝をついて感謝を告げる宝田にフッと笑む幽月。
だが、遺書はまだ続いていた。
「そして、この館をこれまで長く仕えてくれた田代くん、君に相続してもらいたい」
「えっ・・・」
まさか自分の名が出ると思っていなかった田代は驚き、その目にはすぐ涙が伝い、空を仰いでいた。
「こんな辺境の別荘、私という変わり者にも君はよく仕え、尽くしてくれた。その労をねぎらうにはあまりにもささやかなものだが、どうか受け取ってもらいたい。
それでもなおあり余る遺産については別紙に書いた慈善活動の団体に寄付するものとする。
さてあまり長くなってはいけない、最後に感謝をもって君達と別れよう」
そこで読んでいた有頭の言葉が止まり、彼もまた涙を流していることに気づく。
「この遺産相続に携わった弁護士事務所を始めとし執事の田代くん、親愛なるクインテットの諸君。
君達のおかげで私の人生はとても満ち足り、楽しいものだった。それでは一足先にあの世にて、君達との再会を待つこととしよう」
そう締めくくられたところで金田一は一人、廊下に出ていった。
(謎解きは間違ってないし、あの遺書だって実際仕掛け扉の向こうにあった。
けどなんだ? この違和感は)
昨日の山之内のメッセージを始め、佐木達によって見つかった館の仕組みから見え隠れする悪意。
覗き穴にマジックミラー、鍵がなくても出入りできるいくつかの部屋と遺産を求めるように煽るようなメッセージ。そして、把握されていた参加者の金銭問題。
(なんなんだ、この気持ち悪さは・・・ それにあのローゼスって奴は俺の勘違いじゃなければ)
「名探偵のお孫さん、こんなところにいたんですね」
今まさに考えていた人物が目の前に現れ、金田一は睨みつける。
「あんたもどうしてこんなところにいるんだよ? ローゼスさん。
いや、地獄の傀儡師 ――― 高遠遙一!」
「君なら気づくと思っていましたよ、金田一くん」
彼の指摘によって高遠は仮面を外して素顔を晒す。だが、その素顔は楽しくて仕方がないと微笑んでいた。
「あんた、どうしてこんな催しに参加してるんだよ? 何が目的だったんだ?」
「友人である幽月さんの助っ人として参加していることに、嘘偽りではありませんよ」
「それならどうして本気を出して挑まなかったんだ? あんたならこの程度のトリック、すぐにわかっただろ」
金田一の問いかけに高遠は微笑みを浮かべながら壁に身を預け、内緒話をするように口元に一本指を立てる。
「この遺産相続の催しの台本を、私と小城くんで書き換えたんですよ」
「は? それ、どういう意味だよ!?
所長と一緒に書き換えたって、なんで・・・!」
「言った通りです。山之内 恒聖という人間は世に知られているような人格者ではなく、その最期に残された催しも遺書も美しいものではなかった。
人格者の仮面の下に隠れていた彼の素顔は陰湿で執念深く好色、強欲で残忍なものでした。そして、この館で彼が書いた事件の脚本もまたしかり」
ローゼスの仮面をくるくると手の中で弄びながら、自身の顔に添えながら金田一を隙間から覗く。
「山之内の脚本を理解した小城くんは、私に提案しました。
彼の遺書を書き換え、最後に残した遺作をこの世から消滅させ、ありもしない・・・ いいえ、ある意味で世に知られたままの山之内 恒聖の最期を作り上げることをね」
全てを語りながら高遠は金田一の反応を楽しむように一歩ずつ近づいていき、彼の耳元でささやく。
「
「違う!」
高遠の言葉を金田一は大声で否定し、近づいてきた彼を振り払うように腕を振り回した。
「所長はお前なんかとは違う! あの人は人の命を弄ぶことも、刈り取ることなんて絶対にしないんだ!!」
「えぇ、彼はまだ自分を解放していない。いいえ、出来ていないのが正確ですね。
彼はまだ思いのままに自分を解放させる、鍵を開けていない」
「鍵? あんたは所長の何を知ってるって言うんだよ!!」
「さぁ、なんでしょう? フフッ、ハハハハハハ!」
楽しくて楽しくて仕方がないとばかりに笑う高遠は、どうにか笑いをおさめて大袈裟に胸に手を当てて頭を下げる。
「では金田一くん、私はもうこれで失礼しますよ。
次に会う時は君のために作り上げた最高の脚本の元で、高名なるお祖父様の名を懸けるにふさわしい舞台で共に演じるとしましょう」
そう言って高遠は闇の中に消えていき、もう金田一が手を伸ばしても届くことはなかった。
綺麗な山之内が世に残り、バッチィ山之内は闇の中。
けれど、必要最低限しか渡さないし、金額を把握してるぐらいの彼らしい皮肉さを織り交ぜて。
そして、高遠、人生楽しみすぎじゃね???