二話目ー!
剣持からは『警察としてはこの程度では動くことが出来ない』という予想通りの言葉が返ってきたため、それを了承したうえで知ってしまった以上は悪い冗談として流すことが出来ないこと、計画実行日に現場となる喫茶店やその近辺で張り込みをし、計画の始まりを告げる落書きを消すことと電話ボックスを蹴り割る人物に声をかける旨を告げる。
「小城、お前まさかそれを一人でやろうってんじゃないだろうな?」
「一人でやるに決まっているじゃないですか。
これは仕事でもなければ、必ず事件につながるとも限らない・・・ 僕個人がたまたま目にしたネット上の落書きを気にして、計画実行の始まりである軽犯罪を深夜から見張るんですよ? 大事な所員をそんなことに巻き込めるわけないでしょう?」
当然のように頷く小城に剣持は真剣な顔をしてじっと見つめ、頭を掻きながら溜息をついた。
「・・・お前って奴は、ずっとそうしてたんだな」
その言葉はあまりにも小さく、隣にいた金田一の耳にしか入ることはなかった。
「所長、俺も・・・!「駄目に決まってるだろう、深夜に補導されたいのかい?」 それはそうっすけど、俺だってこんなん知っちゃったら何もせずにはいられないっすよ!」
「高森さんの時は折れたけど今回はそうはいかない。そもそも君は学生で、学生の本分は勉強だ。
バイトに人生をかけるようなバカな真似も、巻き込まれたわけでもないのに自分から事件や犯罪に首突っ込むようなことをするんじゃない!」
「それなら俺がついていく」
叫ぶ金田一に小城もおもわず大きな声を出したが、二人の間に入りながらきっぱりと告げた。
「おっさん?」
「確かに警察としては動けないが、俺個人でお前に同行するってだけならたまたま喫茶店で会って長話をしちまったってことに出来るだろ」
「それはそうですが・・・ 剣持さん、何度も言っていますが、仲間内での戯言の可能性もあります。なんの確証もないことに剣持さんの貴重な休日を潰すのは「そんなのはお前も同じだろうが」
怒鳴ることもない静かな声で告げられた言葉の先にいた剣持の姿に、小城は何故か一瞬だけ父親と重なって見えた。
(・・・いや、何もおかしいことはないか。この人、三人の子持ちだし)
これまで自分と接してきた剣持らしくない様子に違和感を覚えるが、なんらおかしいことではないと否定する。
「小城、七不思議も、長野のホテルの時も、最近で言うならバルト城でのことも警視と金田一から聞いてるが、お前はなんでも一人で済ませようとしすぎだ。『俺ら警察を頼れ!』とは動けない時もあるから言えん。けどな、もっと周りの人間を頼れ。
ましてや俺はお前よりもずっと年上で、なんなら父親みたいな年齢差があるんだ。ドーンと頼ってこい!」
腕を組んで大きな壁のように仁王立ちする剣持に、金田一がプッと笑う。
「おっさん、どうした~?
所長に対して頼れる大人ムーブしようとするとか、今更過ぎておもれーんだけど」
「俺からすればお前も小城もそう変わらん、まだまだ子どもみたいなもんだ。だが、こいつはずっと・・・ それこそそこらの大人よりよっぽど自分より下の者を、弱いもんを守ろうとしてる。
そんな立派な奴の力になりたいと思うことの、どこにおかしいところがある?」
金田一の揶揄うような物言いに剣持は顔を背けながらもしっかりと自分の意見を口にしており、彼の意見に小城は目を丸くしていた。
(どうしたんだ、この人?
いや、これまでだって別に態度は悪くなかったけど、俺のことなんて警視の知り合い且つエリートってだけでもっと構えてたっていうのに)
「ハハッ、ちげーねーや。おかしなとこなんて一つもないでーす。
じゃ、おっさん、今回はおっさんに所長のこと任せるから。しっかり頼むぜ?」
「おう、任された」
「僕を警護対象か、監視対象みたいな言い方をしないで貰いたいんだけどなぁ」
「あながち間違っちゃいねぇな。
俺から見てるとお前、かなりの頻度で怪我をしてやがる」
剣持の言葉に金田一がうんうんと強く頷いており、当の小城はそんな二人から目を逸らす。
(こっちも別に、好きで怪我してるわけじゃないんですけどねぇ?)
「それと、俺の方からこの件は警視にも相談しておく。
結果次第じゃ近隣の警察パトロールを増やすことにはなると思うが・・・ まぁ、警視が動くようならちゃんと連絡するから心配しなくていいぞ」
(いや、それはかなりいらないっていうか、不安なんですけど?)
心の中での呟きは声に出さず、彼らに見えている顔には苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
『電脳山荘』のメンバーによる計画実行の日、小城と剣持は情報通りに〈乱歩〉がアルバイトをしているだろう喫茶店を訪れていた。
(剣持さんがマジで明智さんに相談した結果見回りが増えて、落書きを始めた〈スペンサー〉と電話ボックスのガラスを割った〈シド〉も軽犯罪として注意やら、回収されてったけど・・・ どうなるんだ?)
深夜から男二人が喫茶店に居座るのは不審に思われることを考え、急遽借りた喫茶店が見渡せる賃貸の一室から喫茶店を見守っていると、高校生か大学生と思われる男女が警察官に注意されたり、交番に連れていかれたりするのを目撃し、剣持と共に溜息をついた。
「今のところ、計画通りに行動しようとしてる奴が二人も現れてるんだが・・・ お前の心配が大当たりしてるぞ、小城」
「杞憂で終わってほしかったんですけどね、僕も」
双眼鏡を降ろしつつ、眠気覚ましにと事前に買っておいたコーヒーとカカオ度数の高いチョコレートを半ば義務のように口に入れて、胃の中に流し込む。
「喫茶店が開く時間になったら、こんなもんじゃなくもっと良いもんを食うぞ」
(いや、それなら無理に付き合わなくてよかったんですけど・・・)
「おい小城、珍しく思ってることが顔に出てるぞ。
お前ら探偵も張り込みや尾行は得意かもしれんが、俺ら警察の得意分野でもあるんだ。というか、お前は人を頼らなすぎなんだ。この前も言ったが、お前はもっと人を頼るということをだなぁ・・・」
まるで父親のように説教しようとする剣持に驚きとわずかに笑みを零しながら、手をかざしつつも距離を取る。
「そういう父親のような説教は金田一くんだけにしてあげてください。さっ、剣持さんは少し仮眠されては? あのチャットでの会話が正しければ、この後は喫茶店が開店するまでは何も起こりませんから」
今度は剣持が驚き、言葉の意図に気づいて噛みついてくる。
「お前、俺を年寄り扱いして仕返ししてるつもりか!?」
「あぁ、流石に気づかれましたか。
こちらを子ども扱いしてきたので、五十を前にしてらっしゃる剣持さんも相応の扱いがよろしいかと思いまして」
にこやかにそう告げれば最初こそ怒りを露にしていた剣持が突然笑い出し、金田一にするのと同じように小城の頭を乱暴に掻き回してきた。小城にとっては完全に想定外の行動に驚いてしまい、彼のされるがままとなってしまう。
「ったく、お前って奴は生意気言いおって。
だがまぁ・・・ 確かによる年端には勝てんからな、お言葉に甘えて少し寝させてもらう。何かあったらすぐ起こせ。絶対だからな!」
言うが早いか、剣持はすぐに小城が用意した寝袋に入っていびきをかく。
彼のそんな姿に苦笑していればタイミングを見計らったように携帯が鳴り、見れば明智の名前が表示されていた。
「もしもし」
『小城くん、首尾はいかがですか?』
「それを聞く時点で既に報告は受けていて、状況を知っていらっしゃるのでは?」
どこからか見ている気すらする明智の言葉に軽く頭痛を覚えながら、溜息が電話の向こうに聞こえないように静かに息を吐き出す。
『えぇ、大学生の男女二名がそれぞれ軽犯罪で現行犯逮捕されたのは聞いていますよ。
ですが、どうせなら現場を全て見ていた君から話を聞いておきたいんです』
(明智さんって、こういうところが高遠さんに似てるんだよなぁ。八割どころか全て把握してるのに、本人の口から聞きたがるところとかさぁ・・・)
「報告通りですよ。
深夜に喫茶店の前で落書きをしていた女性は最初に巡回していた警察に現行犯逮捕。次いで電話ボックスのガラスを叩き割った男性については剣持さんが声をかけ、近くの交番に連行して同様に逮捕されたようです」
『今回の一件・・・ もし「君が知る」という奇跡が起こらずに事件に発展していたら、一体どうなっていたんでしょうね? 小城くん』
まるで何かを探るような彼の言い方に小城の目は細くなるが、彼はあえて笑う。
「彼らによる完全犯罪が実行される ――― それをさせないために明智さんも僕に手を貸してくださったんでしょう?」
『えぇ、その通りです。
ですが、困ったものですね。こんな前例が出来上がってしまった以上、ネットについての法規制を進めていかなければなりません』
「その辺りは僕の領分ではありませんので、あなた方警察に頑張っていただくほかありませんね。
ネット上の悪戯と馬鹿にせず、恐ろしい大事件が起こってしまう前に・・・ 公的に罰せられるものだということを公に認知しなければなりません」
『君が手伝ってくれると楽なんですがね。
小城くん、
「ハッハッハ、ご冗談を」
明智が本気であることをわかった上で笑って流すと何とも言えない沈黙が流れてしまい、その沈黙こそが『私は本気ですよ』という圧に感じられる。
『・・・この話はここまでにしましょう。
君を
(いい加減、諦めてほしいんだけどなー)
「そうしていただけると助かります。
今日は一日、剣持さんと行動を共にしますので、後日剣持さんからも報告を受けると思いますが・・・ 今回の一件についての話し合いも兼ねて、どこかで食事でもご一緒にいかがですか?」
『おや、君の方からそんな申し出をしてくれるのは珍しいですね。
何か私に相談事でも?』
「いえ何も。
何度も電話で報告するのが面倒ですし、関わった人間として軽犯罪で現行犯に捕まったその後のことを伺いたいと思っているだけです」
勘ぐってくる明智の言葉を交わしつつ通話を切り、コーヒーを流し込んでから溜息を零した。
(
突然変わった剣持の態度、明智の言葉の節々から感じられる何かを探ろうとしている様子。
「こんな胡散臭いことをしているんだから当然と言えば当然か。
探偵とトレジャーハンターなんて、疑ってくれって言ってるようなもんだしなぁ」
わざとらしく呟きながら、いびきをかいて無防備に眠る剣持へと視線を向ける。
(・・・明智さん伝いに家族のことを知られたのは確実かな)
困ったように笑いながら、持ち込んでいた毛布を彼へとかけるのだった。
喫茶店が開く時間となる少し前に剣持を叩き起こし、喫茶店近くのゴミ捨て場が燃えないごみの収集日であることと歩道の近くに置かれたまだ中身の入っているポリ容器。そして、近くに停められている自転車を確認する。
「おや、こんなところに中身が入ったゴミが出てますね?」
「そりゃいかんな。
幸い蓋は壊れとらんし、とりあえずは蓋をして持ち帰ってから正しい処分法で後で捨てるとするか。何か袋とか持ってるか?」
「えぇ、コンビニ袋にでも入れて持ち帰るとしましょうか」
わざとらしい小芝居をして、落書きがなくとも危険なガスを発生させる可能性が高い洗剤を回収しておく。
「しかし、中身が残ってる洗剤の処理法を知らない方っているんですね。
こういうものは中身の洗剤を布や新聞紙に染みこませてから燃えるゴミへ、ポリ容器の方は軽く濯いでから不燃ごみで処理するのが一般的なんですが」
「大方、そういうのをするのが面倒になった横着もんが適当に捨ててったんだろ。
まったく、最近の若いもんはなっとらん」
「僕もその最近の若いもんなんですよ、剣持さん」
「すまん、全部を一括りしたらいかんな。
つい最近、それを実感したばっかりだっていうのに・・・ 俺らの世代のこういう頭の固い部分もお前ら若者からしたら不満を持たれる部分だな」
溜息をつきながら反省する剣持を連れて店内に入ればチェーン店にはないどこか古めかしくも落ち着いた雰囲気のある店内、座り心地の良いソファ席とセンスの良いテーブル。緑の店がモダンならこちらの店はレトロであり、この雰囲気を愛して通う常連もいるだろう。
「小城、お前、ちゃんと食ってるのか?」
「剣持さん、あなたは僕の父親ですか?
ちゃんと食べてますよ・・・ 皆からも似たような心配をされてほとんど見張られているようなものなので」
カレーをがっつく剣持の前でナポリタンを食べていると榊原秋男が訪れ、店内にある電話を利用している。
「で、小城、怪我の方はどうなんだ?」
「もっとマシな話題ないんですか・・・ 先日から僕のことを心配ばかりしますけど、本当にどうしたんです?」
「いや、なんだ・・・ 男の一人暮らしはいろいろと雑になるだろ? 改めて人生の先輩としてお前のことが心配になったというか」
グダグダと言い訳を並べる剣持に苦笑いしか出来ず、話しながらも榊原へと視線を向けていると彼はまだ電話中。視界の端には掃除道具を手にした〈乱歩〉であろうと青年が外に向かうが五分と経たずに戻り、掃除道具に使われた様子は見られなかった。
しばらくしてから榊原は電話ボックスへと向かうが、何事も起こらずに電話を終えたらしく、明るい表情で席へと戻ってきた。
(これでよしっと)
彼が無事であることに安堵し、食事と飲み物を終えたタイミングで小城は席を立って彼の元へと向かうのであった。
『おや、剣持の様子が・・・?』
みたいな感じだったので書いてて笑ってしまいました(笑)
でも、剣持さんの面倒見のいい、愛情深いところがとても好きなんですよね。
キャラ説明は次の話の後書きにて!