今回の事件のラストです。
キャラ説明は後書きにて、せっかくの連休なのでもう一つ事件を書き上げたい!(願望)
突然、席を立って榊原の元に向かった小城に剣持が止めるのは間に合わず、慌てて手を伸ばそうとする剣持をちらりと見てから『大丈夫ですから、待っててください』とばかりに微笑んでみせる。
「すみません。
今、お時間よろしいでしょうか?」
「・・・申し訳ありませんが、どちらさまで?」
「申し遅れました。私の名前は小城 拓也。
実は私はいくつかの慈善団体を立ち上げ、所有しておりまして・・・ いえ、口頭で説明するよりも見ていただいた方が早いですね。こちらの名刺をどうぞ」
笑顔を貼り付けて名刺を渡し、そこには小城自身が創設した難病支援や孤児やわけあって親と生活が出来ない子ども達への支援・・・ 社会的弱者と呼ばれる者達の支援や援助を行っている慈善団体の名が記されていた。
「それが何か?」
突然現れた小城を怪しむ彼の反応を当然だとばかりに受け止めて、笑顔のまま彼の向かいの席に腰かける。いつもならこんな強引な勧誘はしないのだが『今回ばかりやむなし』と内心で言い訳して、名刺を眺めて戸惑う彼へとはっきりと告げる。
「単刀直入に言いましょう、私はあなたを教師として雇いたい」
「は・・・?」
「勿論、あなたの事情は存じています。
気を悪くするかもしれませんが、半年前の一件についても」
戸惑う榊原がその一言で表情を硬くして俯き、彼がテーブルの下で拳を握ったであろうこともわかってしまう。
だが、今はそれを気遣うよりも強引でもいいから話を進めることを選ぶ。
(初対面である以上不信感は仕方ない。ましてや、彼にとって傷である事件も把握している僕は彼にとってその一件を糾弾する可能性がある恐ろしい何かだ)
常ならば避ける強引な
「あなたとそう変わらない年齢の身ではありますが、私はいろいろと情報通でしてね」
「それなら何故、勧誘を? 俺が、私がしたことは教員としてあってはならないことです。
どんな形であれ、例え誰がどれだけ否定しても、私は一人の守るべき生徒をこの手で・・・」
握りすぎて白くなっている彼の手は震え、彼にはその手の中に自分が侵してしまった許されてはいけない罪が見えているのだろう。
状況証拠が彼の罪を否定し、法が罰することはなく、学校もまた彼を守った。
普通の人間ならば諸手を上げて喜ぶような状況にも関わらず、教師であることを誇りに思い、正義感が溢れる彼は己を許さなかった。
だからこそ『自殺を考えている学生を助けられるかもしれない』という
(なんでこんなにもまっすぐな人間が苦しんで、殺されなきゃならなかった?)
彼がもっと図太ければ、卑怯な人間であれば。
亡くなってしまった生徒に対して『偶然だ』と、『仕方ない』と割り切ってしまえる人間であったなら、彼は死なずに済んでいた。
(けど・・・ そうじゃなかったら
平手打ちをしてしまったが補導された生徒を厳しくも正しく導きたい、自殺を考えるような学生に思い留まってほしい、そんな彼だったから・・・ 家族にすらまともに相手にされることもなく、人生を適当に生きていた彼女にまっすぐ正面から向き合う誠実な彼を、彼女は愛していたのだ。
「・・・私の慈善団体には、様々な理由で学校に行くことが出来ない子どもがいるんです。病気であったり、経済的理由、心に傷を負った子などで、それは仕方のないことだ。ですが、世間はそんな彼らに対し『学校一つまともに通えない弱い人間』と冷たく判断してしまう・・・ 幼い頃から辛い現実を目にしてきた彼らにそれはあまりにも非情すぎる。
榊原さん、私はこの現実を変えたい」
罪を抱いた手をとって握りしめ、驚いた彼と目が合った。
「生活を支援するだけでは、お金だけでは駄目なんです。
彼らが学力の重要性であることを理解することが、学校に通えなくとも学びを得られるだけの環境は・・・ 私には用意することが出来ない」
中卒で働くこともあり、まだまだ高校を出たら社会に出る者が多く、大学に通うなんてことは勉強するだけの頭があるか、生活に余裕のある一部の人間がすることが常識。さらに親や仲間がおらず、後ろ盾のない社会的弱が生きるにはまだまだ厳しい時代。
社会的弱者が守られることもなく、努力なくば立っていることも出来ない現状で、学力は彼らを状況を変える武器となる。
「彼らに未来を切り開くだけの力を、知識という武器を、学歴というわかりやすく社会に認められる評価を、彼らに持たせてやりたい・・・ 持てる機会を与えたいんです。
榊原さん、どうか我々にあなたの力を私に貸していただきたい」
「・・・っ!」
小城の言葉に榊原は目を見開き、光を宿していくのがわかる。
「返事は今すぐでなくてかまいません。どうか、ご検討いただけますと幸いです。
その場合は名刺にある番号にご連絡ください」
「あの・・・ 小城さん、一ついいですか?」
彼の手を放して席から立ち上がれば、彼に呼びかけられたことで立ち止まる。
「なんでしょう?」
「あなたがどうして慈善団体を立ち上げ、そこまで彼らに支援をしているかを聞いてもいいですか?」
彼の問いに小城は目を伏せ、苦笑する。
「私は幸い親戚に引き取られて武器を得ることが出来た身ですが、彼らと同じ立場だったんですよ。
今も紆余曲折あって世間で言うところの立派な職業からは程遠いのでお恥ずかしいのですが・・・ 『もっと自由に、何かを選べる立場であったなら』とありもしない夢を見ることはあります」
そこで間を置いて外を見るふりをしながら、二浪して学力があがらないことに苛立ってストレス解消にこの一件に関わった〈乱歩〉を視界に入れる。
「長々と言葉を並べてしまいましたが、結局は私は自分が経験した苦労を子ども達にしてほしくない。
ただ、それだけなんですよ」
「そう、なんですか。
答えてくださってありがとうございます」
「いえ、こちらこそ突然声をかけてしまってすいません。
それでは失礼します」
榊原から離れてまっすぐ会計へと向かえば、慌てて剣持も小城を追いかけてくるので何か言われる前に二人分の会計を済ませ、さっさと店の外へと出る。ゴミ捨て場に視線を向ければそこには既に山のように積まれていたゴミも、近くに停められていた自転車もない。
「おい、小城! スカウトについては聞いてなかったぞ!!」
「そりゃ僕が個人的に彼に頼もうと思っていたことなので、剣持さんには話しませんよ。
僕個人で動こうとしていたのも、彼に教師として・・・ いえ、学校を作るわけではないので教師というのもおかしいのですが、勉強を子ども達に教える立場になってもらいたかったんですよ」
事件が起こる前にそんなことは考えていなかったので正しくは前後逆だが、一人で行動しようとした建前にはなるのでしっかり言い訳として利用する。
「お前、なんでそこまで・・・」
「私立高校で教鞭をとっていた優秀な教師が職に就いてないなんて、もったいないでしょう?」
剣持の口から飛び出しそうな問いを軽くかわしながら、小城はわざとらしく欠伸をして通りかかったタクシーに拾って飛び乗る。
「さ、剣持さん。やるべきことはやったんです、この後は良い休日を過ごされてください。
私もこの後は自宅に帰って、ぐっすり眠ることにしますよ」
「おい、待て! 食事代渡・・・」
最後まで聞くことなくタクシーにゴーサインを出し、小城は自宅へと戻っていくのだった。
電脳山荘殺人事件を未然に防いだ翌日、先日の午後には榊原から色よい返事を貰ったことで慈善団体の教育に力を入れるきっかけ作りは出来たことに安堵する。
(人手はまだまだ足りないけど、零から一に変わったのは大きい。幸い、四ノ倉学園の一件で講師の伝手も皆無ってわけじゃない)
榊原とはまた違った意味で熱血な鉢巻をしていた講師を思い浮かべつつ、事務所の所長室で飲み慣れた揚羽の入れてくれた紅茶を口にする。
「美味しい・・・」
おかしな様子の剣持の相手をするのも、実質軽犯罪で捕まった二人しか罰せていないことも、完全犯罪を仕損じた彼らが別の計画を企てかねないと不安要素が残っていることも・・・ モヤモヤとした感情ばかりが残っている現状を、一杯の紅茶が安らぎを与えてくれる。
「小城さん、失礼シマス」
そうしていると所長室の扉がノックされ、返事をするとマリアがマガドリ様を抱えて入室してきた。
「ワガ神が小城さんを心配なさってイマシタノデ」
「あぁごめん。あれこれ考えることがあったから、この一件の最大の功労者であるミコトちゃんを労えてなかったね」
小城の言葉に『(。´・ω・)ん?』と不思議そうな顔をするマガドリ様に、事件前から注文しておいた一万円近いお値段がする高級クッキー缶を机に出す。江戸時代に創業された和菓子屋が手掛ける和風クッキーや金平糖、富士山や日本の四季を象った和三盆に結び寒天が詰まっていた。
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°と大喜びするマガドリ様を見ながら、『一気に全部食べないで、少しずつ食べるんだよ』と頭を撫でる。
「あぁ、所員の皆にもミコトちゃんのより小さい缶だけど人数分買っておいたから後で渡すよ。私用で突然留守にしてしまって悪かったね」
「私用、デスカ? あれって」
その発言にぎこちない顔をするマリアを見ないふりをし、なんてことはないことのように笑ってみせた。
「依頼じゃない、事務所の利益になっていない。結果論ではあるけど、事件も何も起こらない。
僕はただ剣持さんと一緒に楽しく徹夜でおしゃべりして、翌朝に近くのレトロな喫茶店で食事を楽しんで解散したんだ。完全に私用で、休日だね」
「・・・デスガ、休み明けですのに顔色が優れません。
何かを憂慮サレテイルのでは?」
「実を言うとね、軽犯罪で逮捕出来た二名以外は一切罪に問えていないことが不安なのさ。
彼らがまた同じようなことを、それも今回の反省点を活かして、さらに複雑で秘匿性の高い完全犯罪を企てるんじゃないかってね。
別に全員を罰したいとも思っていないし、出来るとも思ってない。たまたま見かけた、実行されてしまうかもしれなかった殺人を防ぐことだけでも十分すぎるのだけど・・・ いや、これは望みすぎだね。人はそこまで万能じゃない」
マリアに対し素直に答えると、数枚のクッキーを味わうように食べていたマガドリ様が目を光らせて『(๑و•̀Δ•́)و任せとき!』とポーズを取ったので、小城が固まってしまう。
「ミコトちゃん、それは心強いけど・・・ くれぐれもやりすぎちゃ駄目だからね?」
若干冷や汗を流す小城に『(o^―^o)ニコ』と意味深に笑んで、大切そうにクッキー缶を抱えて神棚へと引っ込んでいった。
(大丈夫だと信じたい・・・)
宗像家の先祖へと罰をあてた事例を考えると不安を覚えるが、一度任せてしまった以上は神であるマガドリ様に裁量を任せるしかない。無事を願うほどお人好しではないが、人を殺さなかった以上は死んでほしいと願うほど非情にはなれなかった。
数日後、何故かマガドリ様の占いサイトに熱心な客がついたと舘羽から報告があがり、軽く必要情報を眺めるとそこには例のチャットルームのメンバーと合致していた。
(まぁでも・・・ 偶然とか、気のせいだよな)
キラリと意味深に光るマガドリ様の目を見ないふりをしつつ、明智との食事会に備えるのであった。
マガドリ様に献上したクッキーは実在するクッキーを参考にしています。
お高いです、デザイン素敵です(しかし、作者は食べたことはない(´;ω;`))
そうでなくても缶に入ったクッキーの特別感って異常ですよね・・・ 素敵なデザインの缶ってそれだけで購買欲を刺激されますし。
キャラ説明、行きます!
榊原 秋男
→ 原作『電脳山荘殺人事件』の犯人【トロイの木馬】の婚約者だった人物。原作では電脳山荘のメンバーによって事故を装って殺され、それらを調査した彼の婚約者 琢磨ゆりが真実を知り、殺人事件が起こることとなった。
今作では小城が徹底的に彼らの実行することを潰した結果、『自殺願望をもった女生徒を救った』という事実と、スカウトによって『子どもを救う手伝いが出来る』ということで彼の心は救われることとなった。
琢磨 ゆり
→ 『電脳山荘殺人事件』における犯人【トロイの木馬】。前述した榊原の婚約者であり、元教え子。彼に救われて大学に進学し、当時はまだまだ新しいパソコンの知識も深い優秀な女性。彼女の考えたトリックは『ネット上の顔を知らないメンバーが初めて会う』ということを徹底的に利用し、〈アガサ〉に成りすまし、〈スペンサー〉を騙し、〈パトリシア〉へと疑いの目を向けさせ、〈ワトソン〉や〈乱歩〉にも不和のタネをまいた。
今作では登場しなかったが、婚約者が前を向き、仕事を見つけることが出来たことから彼女の幸せは遠くない未来にやってくることだろう。
〈僧正〉貴志 日出夫 〈乱歩〉辰巳 哲 〈スペンサー〉飯田 文江
〈ぱとりしあ〉浅香 奈々 〈シド〉吉行 淳也 〈ワトソン〉泉 健一
〈アガサ〉本名不明
→ 電脳山荘のメンバーであり、榊原を殺したメンバー。彼らは実に賢く、それぞれが実行することは何気ないこと・実行する時は互いの顔がわからなくても問題ないように・それでいてその行動を実行に移したことだけはお互いに確実にわかる形で計画を実行に移し、成功させてしまった。
が、原作では【トロイの木馬】にそれら全てを意趣返しされる形で殺されており、彼らの『罪悪感の無さ』が彼女のスイッチを強く押したようにも見える。
今作では〈シド〉と〈スペンサー〉のみが軽犯罪で逮捕されており、このことからチャット内にて口論になって『電脳山荘』は解散。悪夢や小さな不幸が重なった末に『神降臨!』という占いサイトに辿り着き、そして・・・(以下略)
本物〈アガサ〉が名無しだった事実に少し笑ってしまった。