やっと書けました!
①から④まであるので、残り三本はいつも通り連日朝六時に予約投稿しておきますのでお楽しみに!
さて、予想出来た方はいましたか?
出来ても、出来ていなくても楽しんでください。
事務所内で参加者を募ったところで恋人になるかもしれない男女の逢瀬を邪魔するような野暮も、面白半分で参加するような者はほとんどおらず、最終的に参加となったのは小城と金田一、美雪となった。
(コンサートか・・・ 明智さんはなんていうか、本当に裕福な家庭で育てられたエリートって感じだよな。
っていうか、あれだけ心配してたのに徹はついてこなかったし)
もしかしたら家で家族で話し合いをしたのかもしれないが、当人達から明かされていない家庭の話を聞くのは憚られた。
金田一と美雪がコソコソと話しているのを聞きながら、小城はどこかぼんやりとパンフレットを眺めていると、奏者一覧の中にあった一人の女性に目を見開く。
(常葉 瑠璃子!?)
「しょ・・・ 小城さん、どうかしたの?」
「いや、金田一くん達と同い年の子が奏者にいたから少し驚いてしまってね」
「あぁ、常葉瑠璃子ですね。
まだまだ若いですが、バイオリニストとしては十分すぎるほどの実力を発揮し、コンクールは勿論こうしたコンサートによく出演しています。また彼女の容姿や経歴からマスコミからも脚光を浴びているようですよ」
「経歴、ですか・・・」
明智の言葉におもわず目を細めてしまい、マスコミに対する複雑な思いを感じずにはいられなかった。
(マスコミも、一般人も、他人の悲劇が好きなのはよくわかってるよ。だってその方が・・・
「瑠璃子?」
明智の言葉に金田一も小城が持っていたパンフレットを覗き込んで『あれ? 常葉瑠璃子って・・・』と驚いているのでパンフレットを手渡し、美しく成長し、着飾った彼女へとかつての面影を探すように見つめていた。
「はじめちゃん? どうしたの?」
「いや、同じ名前の奴を知っててさ。
小五の夏だったかな? お袋達と三泊四日で軽井沢に旅行に行った時に知り合った奴の一人でさ」
「あぁ、はじめちゃんだけが全然帰ってこなかった時の?」
「そうそう。郵便局でそいつらと知り合ってさ、そいつらが世話になってる金持ちのおじさんが俺のどこが気に入ったんだか、なんだかんだで残りの夏休みは軽井沢にいたんだよなぁ。
懐かしいなぁ・・・ あいつら、今はどうしてんだろ?」
目を細めて、あの夏の日を思い出してる金田一の言葉に耳を傾けつつ、明智と舘羽も何やらいくつかの言葉を交わして交流を深めていた。
(ふむ・・・ しかし、この二組に挟まれてると)
「なんだか僕、凄く場違いだね?」
「は? しょちょ・・・ 小城さん、突然何言ってんすか?」
「何って、見てごらんよ」
聞き返してくる金田一に、小城はわざとしらけたような目で順に左右を視線を送る。
「右ではこれからカップルになるかもしれない明智さんと舘羽さんが友好を深め、左では初々しくも付き合いの長い幼馴染カップルも同然の君達が仲良くおしゃべりしてる・・・ まさにダブルデートに挟まる場違いな男じゃないか」
(いや、明智さんと金田一くんを隣同士にしたり、舘羽くんと美雪ちゃんを挟んでも喧嘩するからこの席順は仕方ないのだけど、それでも僕をど真ん中にすることはないんじゃないかな? もういっそ席を離して、別々に見るとかさぁ)
かといって、舘羽の恋路を応援することに徹した揚羽とマリアはついてきてくれず、檜山と麗美はそもそもバイオリンが出るようなコンサートには関心がなく、千家と利緒のカップルはコンサートよりも自宅デートや犬達との交流の方が楽しいとのことだった。
「べ、べべべつに美雪とはそんなんじゃ!」
「そ、そうですよ、小城さん。私とはじめちゃんはまだ・・・」
慌てる高校生二人に対し、明智は口元を押さえるようにして笑う。
「フッ、それはなんだか申し訳ないことをしましたね、小城くん。
ですが、僕もまさか金田一くんしか一緒に来ないとは思っていませんでしたので」
「いや、普通の感性持ってたらあんな提案しないし、デートに複数の人間を来るように誘ったりはしないのよ」
「おや、そうですか?
でも仕方ないでしょう、君のお兄さんも所員の皆さんもとても心配症で、私を君を奪っていくような男だと思われるのは非常に不本意ですので」
(それも明智さんの普段の行いによるものなんだよなぁ・・・)
遠い目をしながら見守っていると、舘羽だけが視線の意味を正しく理解して同意するような表情をしている。
「そろそろ始まるみたいですよ」
口元に指をあてて静かにするように促しながら、全員が奏者が紡ぐ音楽へと集中することになった。
無事コンサートが終わり、会場を出て売店等に人々が流れていく中で小城は会場の端の人気のないところで座っていた。
(邪宗館殺人事件・・・ 常葉 瑠璃子、か)
全く想像していなかったところでの遭遇に対処を考えつつ、小城はバイオリンを手に舞台に立っていた少女を思い出す。
金田一らと同じ年齢でありながら、既にプロの一人として立つ姿は速水玲香に似た何かを感じずにはいられず、年齢や容姿からもマスコミから脚光を浴びている。
小四の夏、両親と弟二人を失った彼女を、偶然捜査に関わった菌類研究者の権威である絵馬 龍之介に引き取られた ――――― それは決して偽りではない。
(だが、それは・・・)
どろりとした感情が溢れだしそうになりながら、視界と思考がその感情に吞まれるように暗く俯き、狭まっていく。
『そんなに怖いのですか? 妹さんの今の幸せを壊すことが。
その幸せは全て偽りの上で成り立っているものだと、あなたは知っているというのに』
不意にどこか遠くから、地獄の傀儡師の言葉が蘇る。
(偽りの上・・・)
(これは事実だ。事実だよ、何も嘘偽りなんかじゃない)
「フーッ・・・」
深呼吸をする時にまず重要なのはまずしっかりと息を吐き出すこと、そうすると肺は空になって新しい空気を入れる余裕が生まれる。
だが、呼吸をしても何も変わらない。
心の奥底で『許していいのか?』と尋ねてくる。
(違う、やめろ。俺は許したいわけじゃない。そもそも
大体、この事実をどう明かすって言うんだ? 何の脈絡もなく、金田一の知り合いというだけで調べるなんて理由になんかならない)
考えを振り払うように会場へと視線を向けると、身なりを整えたお客の中にいた一人の女性と目が合った。
「あら小城さん、偶然ですわね」
「茅さん、お久し振りです」
「フフッ、そうですわね。お互い、何かと忙しい身ですもの。
でも、小城さんは以前こうした芸術面に疎いとお話しされていましたのに・・・ 今日は誰かと同行でもされているのかしら?」
「えぇ、明智さんと所員数名と一緒に楽しんでいました」
「あら、明智さんまでいらっしゃるのね」
いつもの余裕の笑みで告げられても全く驚いているようには見えず、むしろ来ていることは想定内とも取れる茅の言葉に小城も微笑みながら頷く。
「どうやら明智さんは結婚相手を探していらっしゃるようで、それならば僕の事務所にいる優秀な女性事務員のお話をしたら彼女ともども僕らも招待してくれまして、今に至るというわけです」
「それだけではないのではなくて?
警視庁でも、明智さんが高校生の男の子に夢中になってるお話しは聞いたことがありますわ」
(いや警視庁で噂になってるのかよ、誰か止めろや)
「えぇまぁ、その高校生の男の子も今は僕の事務所のアルバイトでして・・・」
「あら、それは是非事務所に足を運んでお会いしたいわ」
「それはかまいませんし、明るくて良い子なのは認めますが・・・ あまり特別扱いをするのはやめてあげてください」
「フフッ、小城さんはお知り合いを大切になさる方ですものね」
座っていた小城の頬に触れながら、耳元で囁くように唇を寄せた。
「そういうところがとても、魅力的だわ」
「茅さん、からかうのはやめてください」
苦笑交じりにやんわりと遠ざけるが彼女は意味深に微笑み、気を悪くした様子は見られない。
「本気だと言ったら、少しは考えてくださる?」
「茅さん・・・」
小城が困ったように笑えば茅もそこが引き際だと判断し、軽く手を振ってから去って行った。
(一難・・・ とまでは言わないが、茅さんはどこまでが冗談で、どこからが本気かがわからないところが困ったもんだ)
年齢不詳の美人からの誘いを躱している事実を周囲がどう思っているかについては考えたくないが、小城に恋愛を考える余裕はない。
(恋愛、か・・・ 僕には縁遠いものだよ)
何故か脳裏に揚羽とマリアが浮かんで胸が締め付けられるが、頭を振って考えを散らす。
「お客様、先程から顔色が悪いようですが・・・ 体調が悪いのでは?」
会場のスタッフらしい男性が膝をついて尋ねてくるが、何故かその男性を見た瞬間に背筋に悪寒が奔る。
本能的が告げている、この男性は彼だと。
「ご親切にどうも。
ですがご心配は不要ですよ、高遠さん」
余裕の笑みを浮かべてサラッと名を呼べば、今度は会場スタッフが驚いた顔をしてから深い微笑みを向けてくる。
「いえやはり顔色が悪いのでこちらの部屋へ、ここは少々騒がしいので」
傍目には体を支えられるように、実際は逃げられないように腕を掴まれながら施設管理等に必要な道具が収められている一室へと連れてこられてしまった。
(うーん、蝋人形城以来の拉致監禁。これ、任意同行とかじゃないから普通に罪に問えるし、扉が完全に閉じられてるから監禁罪が成立するんだよなぁ・・・)
逆を言えば、扉が十センチでも空いていれば監禁罪は成立しないのである。
が、小城のそんな内心を知ってから知らずか、どこにでもいるようなモブ顔の会場スタッフに変装した高遠が微笑んだ。
「よくわかりましたね? 小城くん。
私はまだ何もしていない上に、君の前に現れただけだというのに」
「別にあなたの仕草や行動でわかったわけじゃありませんよ。
ただなんとなく、そんな気がしただけです」
「なんとなく、ですか。
やはり君と私には誰にも侵すことの出来ない深い繋がりがある・・・ そう思うとなんだか、たまらないものがありますね」
(やめろ、そんな艶めかしい視線で俺を見るな)
ねっとりと絡みついてくるような視線を感じて後退っても、そこは逃げ場のない室内。すぐに背中に壁が当たり、どうしたものかと模索する。
「それで? あなたはどうしてこんなコンサートで、会場スタッフに変装しているんですか?」
「君がそんな質問をするということは、まさかご存知ないんですか?
この会場には、私が作る舞台に立つにふさわしい
あたかも『君はもう知っているんでしょう?』とばかりに質問を投げかけてくる彼に、小城は目を見開いた。
「もっともまだ種にしかすぎませんし、彼女はまだ何も知らない。
ですが、私は既に芽吹かせるために必要な条件を揃えています」
ニコニコと楽しげに語る彼が懐から取り出したのは切り抜かれた古い新聞記事が二枚。そこに書かれていたのは一人の遭難者の死と、キャンプをしていた家族の不幸な食中毒事故について。
「・・・徒に人の古傷をえぐる行為は怪盗紳士と程度が同じですよ、高遠さん」
「おやおや、君が焦るなんて珍しい。それにその様子・・・ やはり君は知っていたんですね。もっとも、それは無理もない。
親同然に育てている者が犯した罪も知らずに育てられ、実際は愛と庇護を与えている者こそが最も憎むべき存在である ――――― あなたの妹さんが置かれている状況に、とてもよく似ているのですから」
(やめろ!)
反射的に叫ぼうとした喉を自らの手で絞めることで押さえつけ、乱れていく呼吸を整えようと意識し、壁に身を預ける形で座り込んでしまう。高遠は苦痛に歪む小城の姿が愛おしく仕方ないとばかりに見つめ、彼が背中を預ける壁へと手をつけ、追いつめるように顔を近づける。
「フフッ、いつまで抵抗するんです? 楽になりたいでしょう?」
誘う言葉は甘く優しく、人を堕とす悪魔の囁きは彼によって実在が証明されているかのようで。
「離れてください・・・ 人が苦しむ姿を見て喜ぶなんて、悪趣味ですよ。
それに僕は、楽になることなんて望んでません」
「私が悪趣味? そんなの今更でしょう。君は忘れがちですが、私は殺人鬼で犯罪者なのですから。楽になることを望んでない? それは少し違う、より正確に言うならばあなたはただ迷っているだけに過ぎない。
きっとこの一件は、君にとって良い機会になる」
優しく微笑みながら告げる高遠は先程の二枚の新聞記事を小城に握らせ、身を翻して距離を置く。
「小城くん、私と一つ、ゲームをしませんか?」
「ゲーム・・・?」
呼吸が詰まり、浅い息のままでなんとか言葉を理解しようと高遠を見れば、その表情は照明との逆光で見えず、自身の口元に一本の指をあてていることだけがわかった。
「私が彼女を復讐者として躍らせる前に、足掻いてください。
君が彼女を復讐者としなかったら成功。出来なかった場合は彼女の手は血に塗れ、惨劇が招かれる」
「僕に・・・ メリットがありません」
「可哀想に、頭が回っていないんですね。彼女の復讐が実現し、成功したらどうなるか。わかりませんか?
あなたの大切な子が、まさに同じ状況で、何も知らずに生きているじゃありませんか」
「―――っ!」
呼吸が完全に止まり、高遠を睨みつける。
「フフッ、美しい・・・ ようやく君が激しい感情を向けてくれている気がしますよ。
では、ゲームの賞品も決めなければなりませんね。何が欲しいですか? 小城くん」
「もし僕が勝ったら、あの子に手を出さないと誓ってください。
あの子に近づくな。その指先も、声も、何一つとして、絶対に届かせるな」
冷静であろうとする小城の顔から仮面がずれ、怒りや復讐を宿した素顔が垣間見えたことを高遠はとても嬉しそうに微笑んだ。
「かまいません。
では、私が勝った場合はそうですね・・・ まず一度だけ、私と共に一つの舞台を作っていただきましょう」
互いに否を唱えることもなく、賞品は決定し、小城はゆっくりと立ち上がる。
「今の君は、とても魅力的な顔をしている。
あぁ、その顔は他の誰にも見せたくない・・・ 君の全てを私が独り占めしてしまいたい」
普段の小城ならば内心で何かを叫びそうな所だがそんな思考すらも今はなく、ただこの男から
「わざわざ望まずとも、あなたしか見ることはありませんよ」
彼の反応を見ることを拒むように置き去りにして部屋から出れば、人混みの中で自分を探す金田一達を見つけ、一度深く呼吸する。
(・・・切り替えろ。あの人達に、あの子達にこんな顔を見せるな)
何をやるべきか、どうすればいいかはわかっている。
常葉 瑠璃子を復讐者にしないためには・・・
(さぁ、罪と向き合ってもらおうか。絵馬 龍之介)
最近高遠さん書いてると、『自分って薔薇小説(柔らかい表現)も書く才能あるかも』って思う不思議・・・ 嗜好的には花園違いなんですけど(;^ω^)
ていうか、出すたびになんでこんなに艶々してるの?
下手すれば、今作で一番人生エンジョイしてるよね?