二話目-!
「あ、小城さん、こんなところにいたんすね!
まったく、一人でフラフラしたら駄目じゃないっすか」
「悪かったね。少し気分が悪くなってしまったから親切な会場スタッフのお言葉に甘えて、別室で休憩させてもらってたんだ」
金田一に注意をされてしまい、軽く謝罪していると金田一の後に続くように美雪と明智、舘羽が集まってきた。
「気分が悪くなったって、大丈夫なの? 顔色もまだ悪いようだけど・・・」
「大丈夫だよ。
ただあまり皆に心配をかけるのは良くないからね、解散した後はまっすぐ帰らせてもらうとするさ」
「そうしてください。
誘った側としても、君を体調不良にして返したとなれば事務所の皆さんに会わせる顔がないので」
「そうですよ、小城さん。小城さんが倒れちゃったら、皆凄く心配するんですから。体は大事にしてくださいね」
「そうだね、ありがとう」
次々と投げかけられた言葉に苦笑しながら頷いていると、金田一が嬉しそうに話しだす
「それはそうと小城さん、聞いてくださいよ! 俺が小五の時に出来たダチの一人がさっきの演奏者の中にいて、もうびっくりしちゃってさぁー!
パンフレット見た時は気のせいかなーって思ったんすけど、舞台の上で俺のこと見つけたみたいでわざわざ探して駆けてきてくれたんすよ。元々バイオリンの才能があったことは知ってたけどプロになっちまってるなんて思ってなかったし、もうスッゲェ美人になってて・・・ あ、バイオリン弾いてた常葉 瑠璃子って言うんですけど」
パンフレットを開きながら見せてくる彼の喜びようを微笑ましく見ていると、美雪と舘羽も似たような視線を向けており、明智だけが興味深そうに覗き込んでいた。
「金田一くんが将来有望な彼女と交友を持っているとは・・・ 君の人生はどうなっているんです?」
「はぁ~? 普通の人生を送ってますけど?
そら明智さんみたいに教養の高いエリート人生は送ってませんけど、お袋が友達多かったり、旅行先で仲良くなった友達があちこちにいるんですぅー」
「フッ、君は何を勘違いしているかはわかりませんが・・・ 質の良いものを学んでいても相応の友人には巡り会えるものなんですよ」
(何故、張り合う? そして明智さん、こっち見んな。
明智の視線を感じて、軽く周囲を見割すことで視線を逸らせば、そこにはまだまだ人で賑わう会場に会場スタッフに変装した高遠が消えていくのが見える。
(あの人が与えてくれる猶予がどれくらいかわからない以上、すぐに行動に移さないと駄目だな)
「小城さん、どうかしたの?」
「いえ、先ほどお世話になったスタッフの方が戻っていくのが見えて、つい目で追ってしまっただけだよ」
「そうならいいけど・・・」
どこか腑に落ちないような顔をする舘羽に、彼女の察しの良さに苦笑するしかなく、未だに続く二人の言い合いに視線を向けると金田一が小城の手を引いて物理的にも会話に引っ張り込んでいく。
「しょ、小城さんも明智さんになんか言ってやってくださいよ!
ハッ、もしかして・・・ 瑠璃子と俺が知り合いだって知ってたんじゃ「あのね、さっきの会話をちゃんと聞いてたら、君だってちがうことぐらいわかるだろう? どうして君は、明智さんに対してだとそんなに冷静さを欠くのかな?」
「フフッ、それはどうでしょうね?」
ついさっきの会話で知り合いだと知らなかったとわかっているにもかかわらず、斜め上発言をしようとする金田一を小城が溜息交じりに止めている。だというのに、対する明智は意味深に微笑むという火に油を注ぐ行為をしてくる。
「明智さん? あなたもどうして、金田一くん相手だとそんなに大人気ないんです?」
「そうですか? 私としては他の方と変わらぬように接しているつもりなのですが・・・」
(つまり完全無意識かよ)
「今度、明智さんと金田一くんが揃う時は録音機器を持ち歩いて、後日会話を聞かせてあげますよ。
勿論金田一くんにもね、二人とも少しは反省点が見えてくるでしょ」
美雪へと話を振ろうか一瞬迷うが、どちらとも仲がいい彼女に同意を求めても困ってしまうのは目に見えている。どうしたものかと溜息をついていると、美雪と舘羽から労わるような視線を向けられていた。
明智と舘羽、金田一と美雪の二組に分かれるように間に立ちながら、場の空気を換えるために周りに迷惑にならない程度に手を鳴らす。
「さて明智さん、この後は少し舘羽くんと二人で行動しては?
皆で仲良く音楽を楽しむのは結構ですが、男性が女性をデートに誘っておきながら中学生みたいな集団行動なんて・・・ あまりにも行動が残念過ぎますので」
明智から返答をされる前に今度は金田一へと視線を向け、行き慣れていないコンサートにいつもより着飾っている二人に微笑む。
「金田一くんと美雪ちゃんもせっかくお洒落してるんだから、もう少しどこかで遊んで来るといい。
僕は気分がすぐれないので今日はここで失礼しますよ、帰りはタクシーを拾うのでここで解散ということで。それじゃ皆さん、また事務所で」
四人を、いや二組のカップル未満を残して小城は颯爽と会場を出てタクシーを拾うのであった。
六年前、浅間山で遭難して亡くなった出島丈治と絵馬龍之介について調べあげ、古いタウン誌も伝手を使って手に入れる。そして、軽井沢に別荘を置く橘へと連絡を取り、宿泊費を払うので数日間お世話になりたいと告げれば、あっさりと承諾された。
事務所を徹らに任せ、マガドリ様を連れることもなく単身で軽井沢へと飛び、出島丈治が見つかった場所や向かったとされる浅間山へと足を運び、廃屋となっている建物の地下室を冷たく見下ろしていた。
(ここで監禁ね、いい趣味してらっしゃる)
あちこちが腐り、人が住むどころか、歩くことすらままならないこんな場所に閉じ込められた。足を折られて身動きもとれず、食事を与えられることもなかった。
(人の弱みに付け込んで金を強請った者の末路がここ、か)
龍之介の失態に気づき、金を強請り続けた出島。
罪の意識に苛まれて大学教授という立場を捨て、彼の罪の象徴に等しい瑠璃子を引き取って育て、それを正当化するように引き取られた不幸な生い立ちを持つ二人の天才。
「・・・正しさなんてもの、この世のどこにあるって言うんだ」
金を強請った出島は紛れもなく屑であり、殺されても仕方ないような男だった。
だが、龍之介が誤った表記をしたことで常葉一家を殺してしまったのは紛れもない事実であり、タウン誌として掲載された以上は被害が一家族だけなんてことはあり得ない。公にされていないだけで、どれだけの食中毒が起こったかは不明のままだ。
(誤表記によって起こった食中毒が罪に問われるかはわからない・・・ でも、それなら誤表記であることを公表し、対応していけば問題が起こることもなかった)
『出島が最初に金銭を強請ってきた時、金銭を渡してしまった』
この時点で既に、龍之介は間違えてしまった。一時でも自分の地位や名誉を守ってしまったことが今回の事件を招き、人を殺すという犯罪にまで手にかけることになった。
(そして事態は、それだけに収まらなかった)
六年前、ここを訪れた少年少女が・・・ 正確に言うならば金田一と荒木 比呂が彼を、謎の呻き声とバッグを見つけてしまい、後日再びやってきてしまった荒木は死体となった出島を運ぶ龍之介を目撃してしまった。
そして、六年後に金田一が部屋掃除で見つけてしまった記事を見つけてこの地を訪れ、養父を守りたかった荒木は龍之介による出島殺害を隠そうとした。
(養父を守ろうとして行動したのに、それが裏目に出て彼女にキノコの誤表記の一件がバレてしまうなんて・・・ 最大の皮肉で、最悪な行き違いが起こった)
『昔のことなんだから、忘れるべきだ』
瑠璃子に糾弾された荒木が放った言葉は、それぞれが龍之介の違う罪に向けられたものだった。
その結果、瑠璃子は仲間と呼び慕った者を自らの手で殺し、家族を奪った龍之介も殺してみせた。それも家族を誰に奪われたかを理解してすぐに、一切の準備もしないで、あの敷地内にあるものだけを使って、だ。
歴代最速とも言える一切迷いのない行動は彼女の激しい怒りと深い悲しみの表れであり、金田一によって二人の行き違いが明らかにされた時の瑠璃子は錯乱し、自ら命を絶とうと一時間近く暴れ続けた後意識を失い、放心した。仲間三人に語り掛けられ、後悔の涙を流して、彼女は警察に自首した。
それを見送って軽井沢の地を去ろうとした金田一は、自分が事件を解明して軽井沢を訪れたことを後悔していた。
『なぁ美雪、俺が来なかったら、比呂は死なないで済んだのかな?
瑠璃子は人を殺さずに済んだのかな?』
彼が零した悲痛な問いかけと涙を受け止めるのは、いつも彼女だった。
『そんなこと考えちゃ駄目だよ、はじめちゃん。殺人を犯した人がいて、殺された犠牲者がいたんだもの。
それを放っておけずにはじめちゃんが軽井沢にやってきたのは、けして間違いじゃなかったと思う』
『だけど・・・』
『ねぇはじめちゃん、自動車がなかったら交通事故に遭って死ぬ人もいなくなるけど、救急車も来ないわけだから怪我した人は病院に間に合わずに死んじゃったりするでしょ? そういうことなんじゃないかな。
はじめちゃんには神様がくれた才能があるんだもの、それを使わないでいるなんて駄目よ。後悔するのは仕方ないかもしれないけど、そのせいで前に進めなくなったらはじめちゃんははじめちゃんじゃなくなっちゃう』
彼女はけして金田一の悲しみや怒りを『わかる』とは口にしない。けれど、どんな時だって金田一に寄り添う。自分なりの意見を持ち、金田一に真剣に向き合って、彼が悲しむ時はただ静かに胸を貸す。
『電車が来るまでだよ、はじめちゃん』
包み込むような優しさとほんの少しの厳しさが、いつだって金田一を支えているのだ。
「僕がこれからしようとしていることは ――― 何も正しくなんてないんだ」
誰も聞いていない独り言は虚しく響き、自嘲気味に笑う。
(なんてそんなの今更、か。
僕が・・・ 俺がしていることが正しかったことなんて、一度もない)
起こるはずだった原作を歪め、事件関係者の人生を狂わせ、罪に問われることなく終わった人間が罪に問われることもあった。
(俺がしていることはずっと、ただの自己満足で自分勝手)
「それでいいんだ。そこから始めた以上・・・ やれるだけ足掻いてやる」
そう呟いて廃屋を後にし、橘の別荘へと向かった。
今回はキリの良い区切り優先しているせいか、一話の文字数があまり多くない(-ω-;)ウーン
いや文字数は目安だし、それを狙って書くもんじゃないとわかってるんですけどね。