書けましたー。
本当なら前回事件の金田一サイドをお送りしたかったのですが、それはまぁ次ですかね。
そして、いつも前おいてる中でも独自解釈、原作改変が今回は強め。
二次だからこその捉え方、変化をお楽しみいただけると幸いです。
さぁ、楽しんでください。
高遠が消え、金田一が去り、そのままぼんやりと動けずにいると遠くから橘達が戻ってきた音がする。
(・・・帰ってきたみたいだな)
部屋に戻って休まなければならない。顔色が悪く、覇気もない顔を誤魔化さなければならない。
そう考えてなんとか立ち上がり、扉から出たところで日用品や食材を持った橘達と鉢合わせしてしまった。
「戻られたんですね、皆さん。
来客後も少しこちらの部屋でぼんやりしてしまっ「なんでのんびりしておくように言った筈なのに、私達が出掛ける前より酷い顔になってるんですか? 葵は休むように言った筈ですよね?」
「ね、姉さん、もっと優しい言い方あるでしょ」
姉である棗のきつい物言いに葵が慌てたように注意するが、隣にいた橘が大笑いする。
「いや、棗くんの言う通りだな!
体調不良のような顔色の悪さが、今はもう何かに取り憑かれたような顔になっている。我々不在の短時間にこの別荘に悪霊でも来訪したのかね?」
「ハハッ、わざわざ先生の別荘に入り込むなんて命知らずな怨霊もいたものですね?」
『実はあの
「そんな君に事後報告だ。
君には今日より一週間、この別荘に滞在し、強制的な休養を取ってもらうことになった」
「は・・・?」
「安心したまえ、わしに男を拉致監禁する趣味もなければ、二十半ばに差し掛かろうとする男を愛でる気もない。
だが、そんな顔をしたまま君に東京に戻られるとわしが何かしたようだろう? 外聞が悪いのだよ」
(え? 炎上しようと、叩かれようと、面と向かって批評されようと平然としてるノンフィクション作家がなんか言ってる・・・ こわっ)
「なんだね、君はそんな顔も出来たのか」
「っ! からかわないでください、先生。
で、ですが、事務所のこともありますので・・・ 所長である僕が突然こちらに一週間も滞在するわけには」
「あぁその辺りも心配はいらんよ、既にわし自ら事務所に連絡はした。何人かの所員がこちらに駆けつけてくると口走ったらしいが、電話口で応答した彼女・・・ 舘羽くんだったかね? 彼女が有無を言わさず黙らせていたし、わしが伝えたこともしっかりと理解し、快く了承してくれた。
君は今日から一週間、何も考えずに軽井沢でのんびり過ごせばいい」
有無も言わさぬ橘の行動と言動に気圧されながら、立ち上がっていたにもかかわらず先程座っていたソファに戻らされていた。
「暮らす分には車がなければ不便な土地だが、一週間の滞在程度ならばそう悪いものではない。金がない人間は暮らしていけないがね」
「それはそうでしょうね・・・」
これまで関わってきた長野関連の事件と人物を思い出しながら苦笑すれば、橘は小城のその表情を見て溜息をつくが、すぐに何かを思いついたかのようにニヤリと笑った。
「よし、決めた。
小城くん、君は今から一週間、困ったように笑うこと、苦笑するのは禁止だ」
「突然すぎますし、横暴が過ぎませんか?」
橘の突飛な発言に笑顔を貼り付けて戦闘態勢に入るが、若造如きに負けんとばかりに鼻で嗤う。
「人生は何事も突然であり、己こそが人生の主だ。横暴に過ごすことの何が悪い?」
「周囲の人間が迷惑被るという点がかなり悪いですね」
「わしが何を書いているか忘れたかね? 日常に隠されていた事実を公に明らかにする、ノンフィクション作家だ。
(こんなんだから、いろいろな人に嫌われてんだよ・・・ いや、これぐらい神経太くなければやっていけないんだろうけどさぁ)
きっぱりと言い切る橘にげんなりしつつ、降参とばかりに両手をあげる。
「仮に橘先生に言われるがままに一週間もの期間に苦笑等を制限したとして、僕に何のメリットが?」
「ふむ、確かに条件を課すならば君への何かしら相応の対価が必要だな・・・ かといって、ここでの滞在費などと口走れば、君はすぐさま他のホテル等に行きかねない」
少し悩むように首を傾げながらも、橘は小城の反応をじっと見つめていた。
「わしからはすぐに浮かばんな、何か欲しいものはあるかね?」
「対価なんていらないので、制限をしないでいただきたいんですが・・・」
そう言いながらも制限に従って、素直に不快感を露わにしている小城に橘は笑う。
「そこですぐさまわしから金銭や作家としての権限・・・ 仮にも大御所であるわしの権力を遣おうとしない辺り、君という男は変わっている。金に対しての知識はむしろ深くすらあるというのに、君は本当に金に関心がない。
トレジャーハンターなどという、世間では一攫千金を狙っていると思われる一面もあるというのにな」
「・・・それは褒めてるんですか? それとも遠回しな嫌味か何かで?」
「そのどちらでもない。
わしはただ思ったことを、思ったままに口にしているだけだ」
(そういうところがあんたが原作で都築さんに殺された理由だっつうんだよ・・・)
「まぁいい、欲しいものが決まったら言うがいい。
君はもう律儀に制限を守ろうとしているのだからな、とにかく今日はもう気味が悪いほど青くなった顔をマシにするためにさっさと休むことだ」
大きく笑いながら部屋から出ていく橘を見送ることしか出来ず、溜息が出てしまう。
(もーやだー・・・ 変な男ばっかり集まってくるんですけどー)
絶対に声に出せない本音を内心で叫びながら、天井を見上げる。
「部屋に戻らなきゃなぁ・・・」
突然すぎる一週間の休暇。
やりたいこともなければ、やらなければならないことからも物理的に遠ざけられて『ただ休め』と言われる状況。
(そんな状況、
立ち止まってはいけない ――― 他人に足をすくわれるぞ。
振り返ってはいけない ――― 思い出せない過去に意味はないから。
この二つは記憶を思い出す前から彼自身を追い詰めて、だからこそ小城拓也という人間は就職を失敗した時点で全てを諦めたように冷めた目をしていた。
(でも・・・ そうじゃなくなった今も、俺はずっと必死になっていた。なるしかなかった)
現状を直視し続けろ ――― 目を逸らして、対応を間違えるな。
何かに追い立てられるように必死に進み続け、抗い続けて、いろいろと立て続けになってしまった今、うまく隠すことが出来なくなってしまった。
(そもそも金田一に会ってから、事件が立て続けすぎるんだよなぁ・・・)
幸い大半の案件は殺人事件に至らずに済んでいるが、頻度は考えたくない。
金田一の交友関係の広さが事件を生み、美雪からのおもわぬ誘いが旅行という名の事件に赴くきっかけとなり、剣持の頼みが警察案件という物騒な何かを持ってくる。
「また何か、余計なことを考えてません? 小城さん」
「っ!? 居たのかい、棗くん」
一瞬、体を浮かせて驚くとそんな小城の様子に棗も目を丸くしていた。
「驚きすぎじゃないですか? 居たっていうか、荷物とか片付けてお茶を持ってきたんですけど・・・」
「あ、あぁ・・・ ありがとう。
本当に駄目だな、全然気づかなかったよ」
「早く部屋に行った方がいいですよ、夕方にはまたフリー編集者の野中さんが橘先生を口説きに来ますから。
まぁ、口説きに来てるんだか、抱かれに来てるんだか、襲ってるんだかは知りませんけど!」
「野中さん、まだ諦めていないのか・・・」
汚らわしいとばかりに吐き捨てる棗に、短く揃えたウェーブのかかった髪の垂れ目の彼女を思い出し、軽い頭痛を覚えた。
原作において、橘の新作の出版権を求めた編集者の一人であり、参加者でありながら暗号の一部とされた彼女は、実に女性らしい方法を用いて橘を篭絡しようとしていた。
(けど、そんな彼女が橘先生に
出版権をかけたゲームの際には既に橘との肉体関係があり、既に橘よりも野中が夢中になっていることは明らかだった。それどころか他の出版社関係者が集まっているのを良いことに、自分達がそういう関係であることを匂わせるような触れ合いも行うという始末。
だが、橘自身は家族を持つ気はないらしく、本当に彼は橘なのかと疑いたくなるほど会場ではやんわりと野中との触れ合いを避けていた。
「そうですよ、早く部屋に戻らないと小城さんも先生と結婚するための道具にされますよ」
(ナニソレ怖い。でも、あの人ならやりそう)
原作ですら出版権を得るために体を使った女である、そんな彼女が本気で男を落とすために手段など選ぶはずがない。
「それじゃぁその、僕が言うのはおかしいけど・・・ 野中さんの対応、頑張って?」
「頑張りません。最低限の対応しかしません。応援もしません」
棗らしくないいっそ眩しさすら覚えるような笑顔で、何かのスローガンのように宣言されてしまって、表情が強張る。
「そ、そっか。それじゃぁ戻るね」
「夕飯の時間には一度起こしに行きます。
起きなかったら冷蔵庫に入れておきますから、適当に食べてください」
「うん、ありがとう」
彼女の細やかな気遣いに礼を言って、部屋で戻って深い眠りについた。
野中の訪問によりおおよそ二日間は部屋に引き籠ることとなり、途中で橘が金田一の訪問を知らせたが、何故か会わせてもらえず二人が対談したという事実だけを教えてもらうこととなり、大変困惑する羽目となった。
(やーだーもう、あの二人が対談してるとか事件発生フラグなんですけど。
口論とかしてないよね? ハゲとか酒乱とか、他の人の悪口とか言ってないよな?)
何よりあの野中が滞在している間に訪れていたという事実も不安である。
幸い作家である橘の屋敷には資料等が腐るほどあり、時間を潰すのには困ることはなかった。が、半日以上資料室に引き籠っていると、まるで介護するかのように棗か葵が外に連れ出そうとするのは困った。
(手馴れてるから、多分橘先生も似たよう感じで定期的に日光浴させられてるんだろうなぁ)
プール脇に置かれたデッキチェアやビーチチェアの活用方法を理解し、介護される側の気持ちを味わっていると、まだ帰っていなかったらしい野中がずんずんと近寄ってきた。
「ゲッ」
「小城さん、声が漏れちゃってます」
「・・・苦笑を制限されてると駄目だね、素直になりすぎて」
「先生の思いつきを律儀に守ってる、小城さんも小城さんですけどね。
いまだに対価を決めてないんでしょう?」
「だって守らなかったら、何されるかわからないだろう?
対価はなぁ・・・ 二人にここまで正直に言ってはいけないんだろうけど、橘先生と繋がりを持ってるってだけで十分すぎるというか」
二人と話していると近くまで来た野中がにっこりと微笑んだ。
「お久し振りね、小城さん。パーティ以来かしら?」
「お久し振りです、野中さん。
数日前から滞在していたのは知っていましたが、成果はいかがですか?」
「残念ながら芳しくないの。いつになったら橘先生は私に手を出してくれると思う?」
『え?』
野中からの想定外の発言に三人の声が揃い、目を丸くする。
「えって何よ? 私と先生が体の関係にあるとでも思っていたの?」
「年頃の子がいるので言葉を選んでください、野中さん」
「いいですよ、今更ですから」
野中さんへと座った目を向ける棗と困った顔をしている葵は実に対照的であり、顔がそっくりな彼女達が並ぶと不思議な感覚に陥る。
が、そんなことよりも野中の発言によって判明した事実に驚きを隠せずにいると、野中はとても困っているとばかりに頬に手を当てて腕を組んだ。
「まぁそれもそうよね。橘先生ってばあれだけ女性のいる店に通ったり、酔っている時はセクハラ発言をしているのに、いざ本格的に手を出そうとするとうまくかわされてしまって・・・ はぁ~、本当にどうしたらいいと思う?」
「非常に申し訳ありませんが、発言は控えさせていただきたく・・・」
どこかの政治家のような発言をしながら視線を逸らしてじりじりと距離を取るが、後退りした分だけ距離を詰めてくる野中に恐怖を感じた。
「小城さんほどのイケメンなら女性のこういう気持ちに応えたことはあるでしょう? 橘先生に家庭の良さを「いえ本当に、そういう相談は探偵ではなく弁護士とかにお願いします。いいえ弁護士も迷惑ですね、同性の方や同僚の方に相談なさってください。僕は完全に専門外ですので」
野中が完全に小城をロックオンしたせいでプールサイドで追いかけっこをする羽目となり、棗と葵は気がついたら姿を消していた。
(嘘だろ!? あの二人が見捨てるレベルでこの人ってしつこいの!?)
一時間ほどプールサイドで追いかけっこをしていると、笑いながら登場した
「橘先生、お部屋からの高見の見物、さぞや楽しかったことでしょうね! 見物料は高くつきますので、後日請求書を送付しますね!」
謎の体力のおかげで息はあがらないが、ある種の執着心を抱いた女に執拗に追いかけられるのは非常に恐ろしい体験であり、その元凶である橘に怒りを向けるのは仕方のないことだろう。
「まぁそう怒るな、小城くん。
秋田県の某村で少々興味深いスキャンダルを見つけてね、君にも少し協力してもらうことになりそうだ。調査を依頼できるかな」
「それはかまいませんが、女性関係に大変清らかであることが判明した橘先生は野中さんへの気持ちを如何にお考えかを本人にお伝えしていただけると幸いです!
はっきり言います! いい歳した大人なんですから僕を間に挟まずに自分達で片付けてくださいよ!!」
二十六歳女性と五十歳男性の恋愛に間に挟まれる二十三歳男性、カオスである。
「いやぁすまんな。
普段なら適当に相手をしてやるんだが、仕事を始めるとわしも集中して何も見えなくなる」
「相手なんてしてくださらない癖に・・・ 橘先生、私はそんなに魅力がありませんの?」
「いや? そんなことはおもっておらんよ。女性の身でありながらフリー編集者として独り立ちした非常に強い女性であり、垂れ目も厚い唇もとても魅力的だ。
だが、わしは今でこそ持て囃され、新作を書くたびに話題にあがるが、その一方で敵が多い。
社会悪をペンの力で告発するということはそう言うものだとわかっているし、わし自身はまったく気にしないが家族を作るとそうもいかん」
楽し気に語る一方で橘の目は笑っておらず、聞いていた野中と小城が笑っていないことに気づいた彼はすぐに楽しげに笑いだす。
「ハッハッハ! などと格好つけて言ってみたが、家族などという煩わしいものを作りたくないだけだな!
それにこんな容姿だ、金がなければ女にもモテんだよ。こうしてカツラを被って誤魔化しているが髪もなくなって、体型も見ての通りだ。一人で人生を楽しむには文句はないが、こんな男と並んで歩くのは女性の方が哀れだろう。
そういうことだ、野中くん。もっと歳の近い、働き盛りの真っ当な仕事の男を見つけたまえ」
そんなことを言ってから屋敷に戻るために身を翻した橘は、何かを思い出したように立ち止まり振り向いた。
「あぁしかし、そこの小城くんはやめておいた方がいいな。
個人的には興味深く面白いとは思うが探偵やトレジャーハンターなどという不安定な仕事をしている上に、隠し事が多すぎる」
(こいつにだけは絶対言われたくないお言葉いただきましたー!)
「そんなことおっしゃらないで、橘先生。
私はこんなにもあなたのことしか見ていないのに・・・ どうしてそんな意地悪ばかり」
(こっちはこっちで昼ドラみたいな発言いただきましたー!)
もはや居酒屋かホストのコールのようなテンションで心の中で叫びながら、視線を遠くに投げることで無表情を作り上げる。
「いじわるではなく忠告だな、二回りも下の君の人生を奪うことなどわしには出来んよ。
こんないつ棺桶に入ってもおかしくないジジイよりも、もっと良い男を見つけることだ」
「ちょっと待ってください! 橘先生!」
橘を追いかけていく野中を見送りながら、小城はしらけた顔しか出来ず、溜息をついた。
「何を見せられてるんだ・・・
しかし、秋田県でスキャンダル? あんな田舎でどんなスキャンダルがあるって言うんだ、か?」
言葉の途中で秋田の廃村で起こった血液型にまつわるある事件を思い出し、血の気が引く。
(まさか先生が言ってたスキャンダルって、吸血鬼伝説殺人事件だっていうのか?
いや確かに病院側のスキャンダルには違いないし、犯人である彼女から情報を買えば彼女の悲願も叶うが・・・)
『死を告知された末期の心臓病患者であった女性が、大怪我を負った少女に自分の体がどうなるかも理解した上で輸血をした』
この事件の始まりは一言で片づけるならこの程度のことであり、この事実がそのまま犯人に伝わっていれば殺人など起こることはなかった。
だが、そうはならなかった。
病院に勤めてい二神と海谷は少女の両親から五千万ものお金を要求し、同じボンベイ型の血液型であった看護師の緋色から限界まで血を抜き、足りなくなった分は患者であった辻 由利亜から血を提供させた。さらに患者を死なせたというスキャンダルと五千万もの不正の金を得たという事実を隠すために、吸血鬼伝説をでっちあげて村を廃村にまで追い込んでしまったのだ。
(この一件、関与しないで先生に任せていい気がしてきた・・・)
軽い頭痛を覚えながら、先程巻き込まれた件の怒りが冷めていないこともあって、橘に押し付けることを決意していると、空から何かが降ってきた。
「ん?」
見上げてすぐに腕に飛び込んできたものを受け止めると、腕の中には『(●・ω・)/ ヨッ!』と翼をあげて挨拶するマガドリ様がいて、小城は呆気にとられる。
「ミコトちゃん、来ちゃったのかい?」
(・´з`・)と不満げな顔をしているマガドリ様を見て、小城は力が抜けたように笑ってしまう。
「帰りが遅いから心配になってきてくれたんだね、ごめんごめん。
まだ一週間経ってないけど、そろそろ適当に言い訳して帰ろうか」
自然と口にした『帰る』という言葉に、小城自身気づくことはない。
その表情と声がどんなに穏やかで、優しい響きを宿していたことを知っているのはマガドリ様ただ一柱のみであった。
なんか橘先生を深堀したら、えらい歳の差の恋愛に発展しちゃったぞ☆
ふっしぎー☆
作品的にも息抜き回であり、小城のための息抜き回になりましたね。
いや、ちょっと事件出しちゃってますけど、サブタイにするほどではなかったので(;^ω^)
活動報告にも書いたのですが、体調不良のため感想返信が遅れます。早くて十九日に午後になります。
寒暖差の激しく、乾燥などが酷い時期になってきたので、皆様もどうかご自愛をー。