真Ⅱのシナリオで、ベスが悲惨な死に方をしたことをよく覚えている方は多いかと思います。
あれもベスが用済みになったから使い捨てられた訳ですね。
歴代でも屈指の悪辣なロウ勢力の真Ⅱのセンター。
いちテンプルナイト隊長にすぎないリンネは、それを止めることも出来ず。嘆くことしか出来ませんでした。
ベスが映像の向こうで倒れている、
私は、思わず絶句して、足を止めてしまっていた。
アレフが行く所、悪魔が倒される。アレフを怖れるように、悪魔もでなくなる。
その代わり、アレフがいない所にとてもテンプルナイトでは手に負えない悪魔が出る。それを何度か繰り返した時だった。
バルハラエリアにメシアを名乗る青年ダレスが現れ。
あっさりトーナメントを制覇。
メシアでは無いのかと噂が流れ始めていたアレフに挑戦状を叩き付けたのである。
アレフはそれに乗って、戦いが始まり。
そして、アレフを圧倒したメシアを名乗る青年ダレスの攻撃から。アレフを庇って。そして、ベスが。
あの善良で。
花のようだったベスが。
倒れて、血を流している。
呆然としているアレフ。捨て台詞を吐いて逃げていったダレス。
そして倒れているベスを無視して、アレフの側で。
大司教が演説していた。
「見たか民よ。 偽メシアは倒され、真のメシアが降臨した! このアレフこそ、真のメシアである!」
「待ってくれ! ベスをたすけ……」
「アレフを讃えよ! メシアが今降臨されたのだ!」
アレフ、万歳。
わめき声のような喚声が轟いている。アレフは涙まで流しているが、喜んでいるようには見えない。
ベスが医療班によって運ばれて行くが、あれはどうみても助かりっこない。
陰謀が始まった。
それを、私は感じていた。
もう残り少ないテンプルナイトに、指示は来なくなった。だから、殆ど自発的にパトロールをするしかなかった。
テンプルナイトの代わりに彼方此方に掃除屋が見張りについていて。それらは犯罪者を見つけると、その場で射殺してしまう。
アレフに対する熱狂は異常で、一部の民草は困惑しているようだった。
私もだ。
もはやすっかり寂しくなったテンプルナイトの本部に出ると、部下の一人。左目を失い、眼帯をつけている古参の部下が来る。
「アレフとダレスの試合を観ましたか」
「ああ。 ベスは残念だった。 テンプルナイトにいてくれれば、どれほどの希望になったか分からない」
「いえ、それはそうなのですが。 あまりにも不自然が過ぎるとおもいまして」
「……ああ」
確かにその通りだ。
あのダレスという青年、とてもではないがアレフに勝てる実力とは思えなかった。私にも分かるくらいだった。
それなのに。
戦闘が始まると、不意にアレフの動きが悪くなった。
数多の悪魔を討ち取って来たアレフの強さは、何回か間近で目にした。だから、あれがあんな程度の動きをするはずがないことは理解できていた。
メシアと呼ばれて驕ったか。
いや、違う。
そもそも、アレフという青年の戦闘力、人間の範疇を明らかに超えていたのだ。
間近で戦闘を見たとき、人間の数倍は背丈がある悪魔を、真正面から殴り倒していた。悪魔は大きさで強さが変わる訳ではないのだが、それにしても限度がある。
悪魔を倒すとマグネタイトになる。それを吸収していると、強くはなる。私もテンプルナイトとして悪魔と戦い、多少は強くなったが。
それも個々人で差があり、どうしても強くなれる限界が存在している。
アレフはそれが底無しだったように見えた。
だからこそ分かるのだ。
あの時は、どう見ても動きがおかしかったと。
それに対して、ダレスは戦闘が始まるといきなり加速したように動きが良くなっていた。見る間にアレフを追い詰めて。
それで。
ベスが、アレフを庇って、袈裟に斬り倒されていた。
ベスがアレフに何か死に際に囁いていたようだが、それは聞こえなかった。有難うとか、無事で良かったとか、そういう言葉だろうか。
最近は特にベスとアレフは仲睦まじく、恋人のように見えていた。実際問題、恋仲になっていたかも知れない。
だからベスがアレフを庇うのはおかしくはない。
おかしくはないのだが。
気になるのだ。
「ベスはアレフを知っているようだった」
「何の話です」
「アレフとベスが一緒に行動する前に、私の所にベスが来たのだ。 その時、そういう話をしていた。 何もかもがおかしい。 あの唐突に現れたダレスという青年、まるで殺されるために殺されたようなベス。 混乱しながら、メシアと持ち上げられたアレフ。 全部一つの線でつながっているのではないのか」
「陰謀論でないといいのですが」
陰謀論ね。
そんな可愛いものであったのならいいのだが。
人間の社会は、核戦争の前に比べて何千分の一に縮小している。噂では他の国にもまだ僅かな生き残りがいるらしいが。まき散らされた放射能よりもオゾン層が破壊された事による宇宙放射線の影響が強烈らしく、人間が今後復権する可能性はないそうだ。
TOKYOミレニアムを牛耳っているセンターは。明らかに何かをしていると見て良い。そもそもアレフの活躍がどうも意図的に仕組まれているようにしか思えない。
かといって、ガイア教徒らに味方するのもおかしい。
彼奴らも彼奴らで、やっていることは無秩序主義なんていうろくでもない代物だからである。
溜息が出る。
「ベスの墓参りをしたいが……」
「もはや我々には任務は与えられていません。 行くのは自由であると思いますが」
「そうだな。 ベスの墓は何処か分かるか」
「センター内ですね。 恐らくは入る事は出来ないでしょう」
そうか。それもまた、そうだろうな。
しばらく言葉が出なかった。
全てが終わり始める予感は。
間もなく現実となる。
センターの高い建物を見上げる。
古くには千mのビルなどを作る計画はあったが、殆どは電波塔などで高さを稼いでいるものだった。
要は、実際にはそんなものは作れなかったのだ。
しかしながら技術は発展する。センターにある中枢は、千mを実際に超えている。電波塔などでの稼ぎなしでだ。
人類の最後の技術力を結集して作りあげたのが、あのTOKYOミレニアムの象徴であるセンターである。
今日はバルハラエリアに来ていた。
なんだか治安が良くなったようだが。どうにも妙だ。暴力と同時に存在していた活気が失われている。
部下達も困惑している中、連絡が来た。
「リンネ隊長!」
「どうした、緊急事態か」
「はい! すぐにその場を離れてください!」
悪魔か。
いや、アレフが偽メシアことダレスを追って地下に行ったという噂を聞いたが、それ以降は悪魔は比較的大人しくしていたはずだ。
だとすると。
すぐに部下達を急かして、ターミナルへ急ぐ。
悪魔が出たとしても、掃除屋が片付けるだろう。そういう甘えが、何処かにあったのかも知れない。
それに誰も、テンプルナイトなど見ていない。
アレフがどうせ悪魔を倒してくれる。
テンプルナイトなんててんで弱いじゃないか。
その言葉が、市民の中で浸透している。
それに、掃除屋が悪魔を始末している今、テンプルナイトなんていても何の役に立たない。
そう思った瞬間、ドカンと揺れが来ていた。
これは。
明らかに様子がおかしい。
ターミナルはダメだ。
「連絡通路に急げ! 市民を避難させろ!」
「は、はいっ!」
「連絡通路が塞がれています!」
「何だと……!」
TOKYOミレニアムはそれぞれのエリアをつなぐ連絡通路が存在している。それらは決して安全では無いが、ターミナルで空間転移出来ないときは、命綱になるものだ。市民が逃げ出して、右往左往している中。
連絡通路には、巨大な岩がいつの間にか鎮座していた。
困惑する中。誰かの声が響いていた。
「この岩を破壊する! さがってくれ!」
「皆、さがれ!」
「行くぞ!」
岩が吹っ飛ぶ。
濛々たる煙の中、立っているのは。
以前、僅かだけあった事がある天才児、ザインだった。
「巨大な悪魔の反応が、バルハラエリアを丸ごと飲み込もうとしている! この通路を急いで逃げてくれ!」
「に、逃げろ!」
「アレフはどうなったんだ!」
「見ろっ!」
誰かが叫ぶ。
バルハラのコロシアムが、何かの黒い球体に飲まれようとしている。風。その球体に吸い込まれるようだ。
必死に市民を逃がす。テンプルナイト達が困惑する中、私は叫んだ。
「テンプルナイトの仕事を思い出せ! 悪魔から市民を守る事だ!」
「わ、分かりました、隊長!」
「急いで避難通路に人を誘導しろ! 一人でも多く逃がすんだ!」
「此方だ! 走れ!」
私も走る。
盾を放り捨てて、倒れている老人を担いで、避難通路に。
避難通路には、ザインと協力者らしい人間が何人かいて、次々に人々を誘導している。だが。
見てしまう。
避難通路に現れる天使。
天使がたまに姿を見せることは知っていたが、あれは。
明確に逃げようとしている人々に、立ちふさがっている。
それを、ザインが瞬く間に引き裂いていた。
凄まじい強さだ。テンプルナイトなど、及びもつかない次元である。
「急げ! 退路は確保する! 走れ!」
「なんなんだよ! エリアまるごと飲み込む悪魔なんてありかよっ!」
「た、隊長……!」
逃げてくる人々を嘲笑うように。
その黒い球体はコロシアムを飲み込み。雑多な町並みを飲み込み。逃げようとする人々を片っ端から飲み込んでいた。
悲しい悲鳴を上げて、空に吸い込まれていく幼子。その幼子を、白い獅子のような悪魔が咥えると、着地。連絡通路に走り込む。
あれは、確か魔獣ケルベロスか。
バルハラエリアの長であるマダムという女性がボディーガードにしていると聞いていたが。
「これ以上は無理です!」
「救える範囲で救え! くそっ……!」
「アレフがいてくれれば……!」
ダメだ。部下までアレフに頼り切っている。テンプルナイトは弱いという固定観念を植え付けられている。
あんなもの、アレフがいたところでどうにかなるものか。
風が、明確にどうにもならなくなってきた。もう助けられない人は、見捨てるしかない。必死に地面にしがみついている子供を抱えると、走る。鍛えていない筈がない。その筈なのに、どうしてか体がとても重くて。
引っ張られる。
だが、それでも、連絡通路に子供を差し出す。ザインが受け取る。部下達が、早くと叫んでいる。
必死に連絡通路を掴んで、後ろを見る。
黒い闇が。
間近にまで迫っている。
これまでか。
それでも、必死に足を動かす。ぐっと踏みしめて、自分を連絡通路に押し込む。ザインが連絡通路を無理矢理に閉じた。
まるで悪魔。それも、とんでもない高位悪魔のような剛力だ。
風が止む。
それでもまだ安心できない。
既に全身の力が抜けるようだが、それでもまだやらなければならない。盾は落としてしまった。
だが、剣がある。
連絡通路の中はまだ阿鼻叫喚だ。天使がザインの協力者らしい人間と決死の戦いをしている。
天使が。人々を殺戮しているのだ。
「天使よ! 貴方方は何故にこのTOKYOミレニアムの無辜の民を殺戮する! 貴方たちを信仰している存在だぞ!」
「この穢れた街の民は生かしておくなと命令を受けている。 殺し尽くすのみ」
鎧姿の天使は機械的にそういう。
ザインと協力者が必死に戦っているが、数が足りない。今も次々に人が殺されている。それに、後ろだって。
あの黒い巨大な球体の悪魔が、連絡通路の扉を破ったら。ひとたまりもなく、此処の人々だって殺されてしまう。
「皆、武器を手に取れ」
「は、はい……」
「相手はあの天使達! 民を脅かす存在を打ち破る!」
「は……はいっ!」
部下が気合を入れ直す。
いや、目に生気が戻っていた。私は、雄叫びを上げると、恐らく下級二位アークエンジェルと思われる天使に、プラズマ剣で斬りかかる。そのまま背中から、真っ二つに斬り下げていた。
早くこの先に。
叫び、次々に天使を倒す。
中級三位パワーが、赤い鎧と槍を揃えて立ちはだかってくる。槍は、既に逃げ惑う民の血に塗れていた。
ゆるさん。
天使がわざわざ出てくるなんて、誰の差し金か決まっている。どういう理由でこんなことをしたかは分からないが、センターによる行動なのは確定だ。
最初は戸惑っていた部下達も、いい加減悟ったのだろう。
センターによって、捨て駒にされて。
そして今、使い捨てにされた挙げ句消されようとしていると言う事に。
斬る。
次々に天使を撃ち倒す。皆殺しだ。お前達を信じていた人間を、一体どれだけ殺した。
どれだけ殺せば気が済むのか。
一斉に槍を突き出してくるパワー達。いい。こっちに集中してくれるだけで、全然マシだ。それだけ人々が逃げられる。
槍を斬り伏せ、パワーを盾ごと斬り下げる。
槍が体を何カ所も抉る。だが、その程度で諦めていられるか。
天使の首を刎ね飛ばし、更には胴斬りにする。プラズマ剣の味はどうだ。笑いさえこみ上げてきている。
こんな奴らの思惑で、今まで使い捨てにされ殺されていたのか。
今度は、お前達が。
使い捨てにされ、殺される番だ。
どれだけ斬ったか、刺されたか。斬られたか。覚えていない。
気がつくと、辺りには膨大な天使の死体と。何人かの部下の亡骸。そして、私の腕から離れた義手。
それに、助けられずに天使の手に懸かった人々の亡骸が散らばっていた。
ザインが悪魔を呼び出して、回復の魔術を掛けてくれる。私は、血を吐く。生きているのが不思議なくらいだ。
「リンネ隊長ですね。 テンプルナイトでありながら、協力してくれたこと感謝します」
「もはやテンプルナイトとして扱われているかわからないがな。 それにこの怪我では、もう何もできん」
自分でも分かる。
気絶する寸前は、もう視界がぼやけていたが。それでも、無機的なはずの天使達が、明らかに恐怖を浮かべて私を見ていた。
あれは明らかに化け物に対する恐怖の視線。
私はそれだけの力を短時間で絞り出した。
その代償として、全身の筋肉は断裂を起こし、既に戦士としては死んだと感じた。回復魔術でも、もう戦えるようにはなるかどうかすら怪しい。
まだ生き延びていた部下が、担架に乗せてくれる。
このまま民の多くは地下に逃げるという。
地下。
話は聞いている。TOKYOミレニアムに防がれるようにしてある場所。ガイア教団の潜伏先として有名だが。
ザインによると、実際は妖精達と汚染で奇形を持った人々が主に暮らしている場所なのだそうだ。
また、僅かな数だが。
TOKYOミレニアムのセンターの圧政を疎んで、逃げ込んだ人々もいるらしい。規模はバルハラとは比較にもならないが、それでもちいさな街は幾つもあるということだった。
「随分と詳しいな」
「私も色々あってセンターの闇を見て、決別したのです。 それで今は、これよりアレフとともに、センターと戦おうと思います。 アレフも流石にこの有様を見れば、動かざるを得ないでしょう。 アレフとは古くからの仲です。 あいつは基本的に悪を許せない存在であったからです」
「そうか……」
「さっきのは、恐らく魔王アバドンでしょう。 バルハラは、人間を戦わせてメシアになりうる強い戦士を選抜するためのエリアでした。 アレフという存在が出現した以上、もはやバルハラは必要ないとセンターは判断したのでしょうね」
クズが。
私が吐き捨てると、ザインは悲しそうに目を伏せた。
そのクズに与して働いていたことを、許せないようだった。
私もある意味その同類と言う訳か。
地下に進む。バルハラのあった空間は完全にえぐれていて、地下からも見上げることが出来る。
それで驚いたのは、くすんでいると聞かされていた外は、意外と青空があるということだった。
それに太陽も、直に光を浴びると宇宙放射線がと聞いていたのに。それもないようである。
少なくとも異常は感じない。
「宇宙放射線の影響はどうなっている」
「あれはセンターによるプロパガンダです。 そもそもシェルターも、実際には用を為しておらず。 宇宙放射線の害をアピールするために、敢えて毒物を撒くようなことまでしていたようです。 実際にはオゾン層は核戦争でダメージを受けず、核兵器による放射能は既に中和されたことが分かっています。 それほどの長期間、致命的なダメージを与える程、核兵器の放射能は凄まじい代物ではなかったということですね」
そうか。私も騙されていたか。
意外に近代的な病院に運び込まれる。私が助けた子供は、助かっただろうか。老人は。悪魔が人間と一緒に働いている。
地下はもっと地獄みたいな場所だと想像していたのだが。
思ったより余程まともだ。
アドレナリンが切れてきたからか、鈍痛が全身に走り始める。上に残されたテンプルナイトは無事だろうか。
だが、私が何があったか話をしても。聞くかどうか。
私は無力さを感じながら、治療を受ける。
治療をしてくれる医師は、人間ではなかった。医療の神様らしいが、どこの神なのかは分からなかった。
※アバドンによるバルハラの破滅について
原作でもショッキングなシーンです。本作ではその破滅から、少しでも人々を救おうとリンネは奮闘します。
しかし所詮は一般テンプルナイトに毛が生えた程度の実力です。
助けられた人はわずか。
そして天使達の所業を見てついにリンネはセンターに見切りをつけることになります。