テンプルナイトの最後   作:dwwyakata@2024

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地下世界で新しい生活が始まります。

原作でも意外とミュータントと妖精や地霊がうまくやれている土地ではありましたね。

本作ではある程度状況について独自解釈を加えています。





3、新しい戦い

病院を出て、伸びをする。帯剣はしているが、既に平服だ。周囲はTOKYOミレニアムのホーリータウンほど綺麗ではないが。地底というと不潔で雑多というイメージとは違い。思ったほど汚染されていない。普通の少し寂れた街である。病院などは、上よりマシかも知れない。

 

完全に元には戻らなかった体だが。戦う事は出来そうだ。ただし、魔術が今後は主体になるだろう。

 

身体能力は前の七割が良い所か。それくらい。無理をしたという事だ。

 

テンプルナイトの制服は捨てた。部下達にはどうするか、自分で決めるようにいう。生き残った部下達も、何をされたかを説明されて、最初は混乱したようだった。だが、それでも。

 

それでも神を信じるという者も二名いた。

 

私は強制はしない。

 

貰った服を見やる。

 

それほどの上物ではないが、それでも丈夫で、戦うには充分だ。どうせ鎧なんて着ても、悪魔の攻撃には役に立たない。

 

地下にはたくさんのミュータントがいる。

 

それと同時に、比較的人間と友好的な悪魔も。

 

特に妖精や地霊が多いようだ。

 

それについては、私も何となく分かる。妖精はいい性格をしているが、邪悪な訳ではない。

 

地霊は実直で、働く事そのものが好き。

 

だったら、どちらも比較的人間とは馴染みやすいだろう。

 

プラズマ剣はそのまま使う。

 

これに関しては、退職費だと思う事にする。

 

怪我は幸い大した事がなく、歩くことも戦う事も問題はない。ただ、寿命はかなり縮んだだろうと言われた。

 

別にかまわない。

 

元から常在戦場の覚悟だったし。

 

何より過酷な仕事で命を削りながら働いていた自覚だってあった。どうせ長生きは出来なかった。

 

いずれ脳の血管でも切ったか。

 

心臓麻痺か。

 

そうでなくても、悪魔に食い殺されていただろう。だから、テンプルナイトをやめたところで、寿命が縮んだところで、別に変わるものもない。

 

戦士として、人に害を為す悪魔を駆逐して欲しい。

 

そう、額にも目がある老人に言われた。

 

指が多いくらいは当たり前。

 

もっと体に異変が出ている人がたくさんいる。

 

これは残留放射能の影響もあるにはあるらしいが、TOKYOミレニアムが垂れ流した廃棄物の影響が一番大きいらしい。

 

この様子だと、各地のシェルターで生き延びた人々が死に絶えているかも微妙だ。

 

むしろ上手くやれているかも知れない。

 

それに、である。

 

ザインの話によると、各地の神々も悪魔も、人が一番多く生き残っているこの東京に集まっているという。

 

だとすれば、他の地域や国の人は。

 

むしろ安心して生活出来ているのかもしれなかった。

 

見回りに出る。

 

雑多な悪魔の中には、テンプルナイトの制服を着ている部下に嫌悪を示す者もいるのだが。

 

地下には、メシア教の司祭もいた。

 

敢えて地下に潜って、この地に救いをという考えらしい。

 

ただし話を聞いてみたところ、上では破門扱いだそうだ。

 

悪魔達はメシア教に敵意は示していない。

 

天使や一神教を押しつけてくる相手には敵意を示しているが。

 

この人が無事である事が。

 

この土地が、思ったよりずっと安全である事を、示しているのかも知れなかった。

 

ただそれでも雑多な悪魔が出る。

 

それらを退治する。

 

素手で戦うのも馬鹿馬鹿しい話だ。

 

妖精がやっている武器屋などに顔を出して、換金できそうな私物を売ってしまい。それで武器を部下に買い与えた。

 

銃は使い慣れていないだろうし、剣と槍で良いだろう。

 

それなりの業物を買えたので、部下達も感謝していた。全員が私についてきたのは驚きだったが。

 

ただ、皆何処にも行く所がないからかも知れない。

 

悪魔を退治して、それらを報告する。

 

報告する相手は、ザインが紹介してくれた地霊の顔役だ。ティターンという、鎧姿の大男である。

 

本来はタイタン神族を雑多にまとめてそう呼んでいるらしく、ティターンという神様はいないらしいが。

 

これは後のイメージが形になって、アティルト界で出現したものだろう。

 

ティターンは寡黙で、黙々と話を聞き。仕事についての報酬を払ってくれる。どうやら、上手くやっていけそうだった。

 

助けた子供とすれ違った。

 

妖精の大人っぽい女性に連れられて歩いている。親をあの騒ぎで失ったのかもしれない。酷い事にならないといいのだがと思っていたが。思ったより平気そうだ。バルハラ出身者である。

 

子供でも、見た目よりタフなのかも知れなかった。

 

数日、そうやってパトロールをして回る。

 

妖精にも悪童はいるようで、パックという子供が悪さをしていたので。皆で連携して取り押さえる。

 

財布を擦られた大柄な妖精に、財布を返してやると。

 

頭を掻きながら感謝してくれた。

 

「あんたらテンプルナイトだろ。 怖い奴らだと思ってたが、やさしいな。 ありがとうよ」

 

「おいらには優しくねえ」

 

「悪さをするからだ。 とりあえずティターン殿に突き出すか」

 

「勘弁してくれよ……」

 

がっくりと肩を落とすパックをティターンのところに連れていく。私は仕事をこなして、小銭を稼ぎ。

 

それを部下達に分配。

 

一応宿舎も借りられた。

 

街の治安を守っている、大柄な地霊や妖精が何人かいたが。いずれも、私達の戦いを見ていたようで、バカにはして来なかった。

 

ただ、あまり清潔とは言い難い。

 

元々プレハブが廃棄されたものであるらしい。シャワーもあるが、さび付いていた。お湯も出るには出るが、水は飲まない方が良さそうだ。それに、まだ傷に染みるくらいには、お湯は温かった。

 

ただ、前ほどの過酷な仕事ではない。

 

部下達も過酷な仕事から解放されて、それで随分と楽になったと感謝していた。テンプルナイトの制服は脱いで、平服に替えた部下は。此処で意地を張っても仕方がないと思ったのだろう。

 

そうして、時間が過ぎていった。

 

 

 

しばらくして、ザインが来た。

 

傷はもうだいたい大丈夫だと話をすると、頼まれた。

 

「センターに対して反抗を呼びかけるべく、電波ジャックを行います。 貴方からも、証言をしていただけませんか」

 

「……分かった。 良いだろう」

 

「隊長、しかし大丈夫でしょうか」

 

「テンプルナイトをまとめて使い捨てるような連中だ。 躊躇なく襲いかかってきた天使達を見ただろう」

 

問題は、バルハラのパトロールに一緒に出向かなかったテンプルナイト達だが。

 

それは、どうにか逃げて貰うしかない。

 

既にテンプルナイトは殆どが殉職したか、過酷な労働で体を壊して倒れてしまった。だとすれば、もう。

 

ザインに連れられて、基地局だという場所に行く。

 

アンテナが多数ついていて、中では白衣の眼鏡を掛けた老人が何やら操作をしていた。

 

「出来たよ、きひひ」

 

「ありがとう。 アレフも独自に動いてくれている。 私は市民に訴えかけて、センターを内部から崩壊させるつもりだ」

 

「それがいいだろう。 アレフさんって、もうあんたより強いんだろう」

 

「そうだな。 私が最強の存在として作られたらしいのに」

 

作られた。

 

そうか。

 

やはりそうだったのか。

 

咳払いすると、ザインは画面に向かって話し始める。ホーリータウンを初めとする該当テレビを、電波ジャックしたようだった。

 

内容は、センターの暴虐を告発するものだ。

 

人体実験に悪魔を使っての自作自演。プロパガンダ。挙げ句に虐殺。

 

バルハラを喰らった悪魔、魔王アバドンが民を殺しているとき。バルハラから逃げようとしている民を、天使達が容赦なく殺していた事。

 

センターは天使達を用いて、民を殺す事を何とも思っていない事。

 

千年王国なんてまやかしで。

 

センター市民以外は、目的が達成されしだい皆殺しにされる事。

 

中々にセンセーショナルで激しい内容の告発で、それを穏やかな口調で続けるザインは。それでも声に怒りを常に込め続けていた。

 

「バルハラの消滅で、テンプルナイトが壊滅した事は皆ご存じだと思う。 だが、生き残りがいる。 証言して貰おう」

 

ザインが席を譲る。

 

私はフードを被ると、そのまま話し始めた。

 

バルハラで何が起きたのか。

 

文字通りの無差別虐殺だった。

 

天使が逃げようとする人々を殺戮し。必死に抵抗しなければならなかった。テンプルナイトも関係無しに皆殺しにされたのだと。

 

それだけじゃあない。

 

今までの悪魔の出現は明らかに不自然だ。

 

アレフというメシアを作り出すために、センターがやった二枚舌の卑劣な行動。それ以外にない。

 

テンプルナイトもダレスという偽メシアも。恐らくはベスすらも。

 

アレフというメシアを作り出すために作りあげられた土台に過ぎなかった。

 

それらを斬り捨てたセンターが。市民など守ると思うか。

 

テンプルナイトの生き残りがいたら、地下に逃げ込め。それでいい。

 

その場にいても殺されるだけだ。

 

市民もセンターの掃除屋には近付くな。

 

下手をすると気分次第で殺される事になる。

 

それを言い終えると、大きな溜息が出た。まさか、テンプルナイトとして、こんな発言をすることになるとは。

 

だが、怒りの方が大きい。

 

バルハラを丸ごと滅ぼして、目撃者もろとも皆殺しにする。

 

そんな事をするような連中、生かしておいてなるものか。

 

証言を終える。

 

報道をきった。

 

老人が、ひひひと笑った。

 

「この放送、センター内にも通ったと思うよ。 センター市民の中にも、センターに疑問を抱く者が出るかも知れないねえ」

 

「出て貰わないと困る。 人間が皆、バルハラを皆殺しにして平然としていられる者であっては困るのだ。 特権意識を拗らせたセンター市民であってもな」

 

「……」

 

基地局を出た後、聞く。

 

作られた、とは。

 

ザインは悲しげに目を伏せていた。

 

「貴方は聞いているのではありませんか。 人体実験や遺伝子関連で非人道的な事をセンターがやっているという話を」

 

「ああ、周知の事実だったな」

 

「私達はその完成品です。 ダレスもベスも。 アレフすらも」

 

「……」

 

最悪だな。

 

アレフも、ということは。

 

すなわちアレフは作られた存在で。メシアを作り出して、それで自作自演をするために。これだけの命を奪い去ったと言う事だ。

 

メシアなんかまったく現れない。

 

だったら作ってくれと思った事は確かにある。

 

だが、こんな犠牲を出す意味があったのか。私には、それがわからない。血塗られたメシア計画に、一体何の意味があるのか。

 

「センターの中枢にいる存在は、人間ではないのかも知れないのです。 ひょっとすると、四大天使かも知れません」

 

「四大天使……!」

 

「いずれにしても、何が相手であろうと負ける訳にはいきません。 既にアレフとともに、各セクターを救出する作戦を開始しています。 特にファクトリーは……あの強制収容所は救わなければなりません。 他の虐げられている人々も」

 

「分かった。 もし力が必要なら言ってくれ。 可能な限り、力になる」

 

私には、ザインとともに戦えるような力は無い。

 

バルハラで大岩を砕いた力を見て、それは一発で分かった。

 

アレフにいたってはそれ以上だという。

 

だとしたら、もう。

 

それでも、出来る事があるならしたい。

 

ザインの言葉が全て真実なら。テンプルナイトは、信じていた相手に殺されていった事になる。

 

それもただのくだらない自作自演の計画のために。

 

そうではないかと思っていた事が、全て真実だった可能性が高くなった今。

 

仇討ちをする資格は私にはある筈だ。

 

家畜は家畜として殺されていろ。

 

それは驕り高ぶった支配者の思想であったか。

 

だとしたら、

 

驕り高ぶったまま、地獄に叩き落としてやる。

 

 

 

ザインはそれから、地下に時々顔を出したが、それ以上に地上のセクターに潜入して、活動しているようだった。

 

私はテンプルナイト達とともに地下での治安維持活動に努めた。地下と言って良いものかは分からない。

 

むしろTOKYOミレニアムが空中都市に近いのかも知れない。

 

そもそも本来の都市の上に作られた巨大建物群。

 

それがTOKYOミレニアムだ。

 

見上げてみて、それを理解する。

 

そして、地下に降りるための通路もあるし、階段もある。それらには、いかにも強そうな悪魔が見張りについていた。

 

見回りをしていると、一緒に来た妖精の騎士。クーフーリンに聞かされる。

 

「センターとTOKYOミレニアムが出来た頃は、良くロウ勢力の天使達が此処に攻めこんできていた。 妖精達は必死に守ったが、それでも分は悪かった。 そんなとき、混沌勢力が味方をしてくれた。 だから我々は、混沌勢力を嫌っていない。 一方で、天使達と違って、我等を敵視しない人間もいた。 だから、天使達以外の人間を嫌う事もないのだ」

 

「そうか。 何も知らずに生きていたようだ」

 

「……あの階段の辺りで、何度も大きな戦いが起きた。 私は槍で多くの天使を貫いたが、多くの同胞も殺された。 出来ればもう、此処での戦いは避けて貰いたいものだ。 ここに来た人間が、あの病院を復興した。 それもまた事実で、あの病院の設備で多くの人も助かっているのだから」

 

クーフーリンはケルトの有名な戦士だが。

 

それでも、もう大きな戦いは嫌だと言う程か。本当に何度も何度も戦いが起きていたのだろう。

 

或いはだけれども。

 

もっと前の世代のテンプルナイトは、天使達と一緒に此処に攻めこんだりしたのかも知れない。

 

その可能性は決して低くないだろう。

 

テンプルナイトの衣装に敵意を示す悪魔も多かったのだから。

 

見張りを終えて、宿舎に戻る。

 

部下の一人が、敬礼する。

 

「隊長、実は」

 

「どうした」

 

「はい。 此方で結婚する事にしました」

 

「そうか。 良い事だ」

 

相手は誰かと聞いたが、此方にいる人間だそうである。病院で知り合って、それから良い仲になったそうだ。

 

多少体に異常はあるが、子供は産めるそうで。

 

双方同意の上での結婚であるそうだ。

 

私があっさり認めたので、ちょっと驚いたようだが。別に結婚したければすればいい。

 

今はテンプルナイトをしていた時に比べて、ずっと時間もある。寝る暇もないような状態ではない。

 

それから数日して。

 

ザインが来たのだが、連れていたのはテンプルナイト。上に残されていた一人だった。部下ではなく、別部隊の同僚である。

 

まあ私は隊長で、このテンプルナイトはヒラだったが。

 

「リンネ隊長!」

 

「無事だったようでなによりだ。 他の皆はどうした」

 

「いきなり宿舎に天使が押し入ってきて、それで。 皆殺しに……」

 

「そうか……」

 

ザインの話によると、私達がバルハラで皆殺しにされそうになった時と同時刻の事であるらしい。

 

だとすると、確信犯だったということだ。

 

この隊員は、隊長が庇ってくれて逃げ出して。それから潜伏していたのだという。

 

涙を流す隊員に、膝を突いて声を掛ける。

 

「良く生き残った。 テンプルナイトの本来の任務を以降は果たしていこう」

 

「本来の任務ですか」

 

「人々を害する悪魔から人々を守る。 我々の任務は、本来はそれだけだった筈だ。 その害する悪魔と言うのは、天使だって例外ではないだろう」

 

「……はい」

 

頷く。

 

私も、もうその辺りは吹っ切れている。

 

それにしても、四大天使が指揮をしているとしたら、センターの悪辣さはいったいどういうことなのか。

 

ザインに視線を送るが、首を横に振る。

 

ザインはかなりセンターの事情に通じているようだが、それでもセンターを支配している四大天使の悪辣さの原因を理解出来てはいないようだ。ザインで分からないのなら、私には分かる筈もない。

 

ともかく今は、此処に居場所を作るしかない。

 

それからは、部下達とともに、警備と悪魔の排除を続ける。穏やかな生活をしている悪魔もいるが。やはりチンピラ同然の輩もいる。

 

それについては人間も同じだ。

 

ガイア教団の中には、武装勢力を組織して、強盗をして暴れ回っている輩もいる。そういう連中は、昔はバイクに乗って暴れ回っていたそうだ。今はそれもできなくなって、ひたすら雑多な装備で弱そうな者を集団で狙う。相手は人間に限らない。

 

だからこそ、私達で対応する。

 

むしろ人間相手の方がやりやすい。全員畳んで縛り上げ、そして連れていく。ティターンの前に引きずり出すと、わめき散らしていたガイア教徒達も黙り込む。

 

それで、ティターンが何か秘宝を取りだして、罪を洗い出す。

 

罪が重い場合は、地下の更に深くに突き落とす。

 

まだ罪が軽い場合は、強制労働をさせる。

 

償いきれないような罪を犯している場合は、その場で首を刎ねてしまう。これに関しては、仕方がないだろう。

 

私も気になったので、罪を見てもらう。

 

ティターンは言う。

 

「お前の場合は、罪よりも罪の意識の方が大きいようだ」

 

「……」

 

「ベスという娘と、その世話係が見える。 この二人のことを考えているのか」

 

「そうだ。 ベスは幼い頃に、私の友人が世話係をしていた」

 

同じ孤児院出身の娘だった。同じようにテンプルナイトになった。

 

ベスという子の世話係になったと聞いた。テンプルナイトになったばかりだった。とても聡明で可愛い子だと、友達は言っていた。

 

だけれども、悪魔に襲われた。

 

理由はわからない。

 

分かっているのは、命がけで友達が時間を稼いだこと。悪魔になぶり殺しも同然の殺され方をしたこと。死体は二度と見られないほど悲惨な有様だった事。それを見て、涙しか出なかったこと。

 

悪魔は遅れて駆けつけたテンプルナイト達が倒した事。

 

ベスはひたすら泣いていたが。どうやら悪魔達の親玉を倒したのは、能力を覚醒させたベスであったらしいこと。

 

今では納得が行く。

 

ベスが強化人間として作られたのだとしたら。

 

最初から、私達とは違う土俵に立っていたのだ。

 

財産だとか親の才能だとかなんか、実際には土俵は違わない。親の才能なんか関係無く、バカはバカだし。金があろうと、一瞬で浪費して使い切る輩だっている。

 

実際に強力になるようにデザインされた子供だったら。

 

それは強力になる。

 

本当に土俵が違うというのは、そういうことだ。

 

「私はずっと無力なままで、今もそうだ。 ましてや弱体化した今ではな」

 

「そうか。 だが、少しでも出来る事をしている。 それだけで立派であろう」

 

「……」

 

「休むのだな。 伴侶でもいれば愚痴を言うことも良いのだろうが」

 

伴侶か。

 

そんなもの、作る気にもなれなかったな。

 

容姿も凡庸。ましてやこの気むずかしい性格だ。作った所で、上手く行くことなど想像もできない。

 

そして適齢期も過ぎた。

 

今はもう、他に出来るだけ不幸な者を作らない事を考える事しか出来なかった。

 

 

 

ザインがアレフを連れてくる。

 

間近でアレフと出会うのは初めてだ。

 

アレフが一礼してくる。

 

「ベスの上官だったと聞いている。 ベスが世話になった」

 

「いや、大した事はしていない」

 

「それでも礼を言わせて欲しい。 リンネ隊長、貴方の事は時々ベスから聞いていた。 真面目で人を本気で守ろうとしている立派な人だったと」

 

アレフの隣にいるのは、ヒロコという女性だ。

 

だが、どうしてだろう。

 

どう見ても、アレフの恋人には見えない。恋人というか、親子のようだ。母親と息子。ベスの事も、ヒロコは認めているようである。だとすると、なおさら親子じみている。それほど年は離れているようには見えないが。

 

これも闇が深い案件なのだろう。

 

アレフが大して年も離れていない相手に、母性を求めるような存在だとは思えないのである。

 

ヒロコもそれをあっさり受け入れて、相手を甘やかすような輩には見えなかった。

 

「これから俺たちはザインとともにセンターに殴り込みを掛ける。 センターは、ホーリータウンの酸素供給を停止すると脅迫してきた。 俺とザインがセンターの行動を悉く邪魔し、各地で人々を救出していたのが余程気にくわなかったらしい。 相手が四大天使だろうがなんだろうが、絶対に許せない。 必ず倒し灰燼に帰す」

 

アレフという青年は、がっと胸の前で手を合わせる。

 

側で見ると、一般的なコロシアムの剣闘士らしい姿だが。凄みが違う。ザインより強いというのも納得出来た。

 

ティターンより明らかに気配が大きいのだ。

 

出来る事はないかと申し出ると。あると言われた。

 

いざという時に、ホーリータウンの連絡通路を開ける。その時、人々を地下に誘導して欲しいと言うのだ。

 

それには、ザインの協力者達も手を貸してくれるという。

 

頷いていた。

 

身体能力は回復していない。

 

だが、以前に比べて充分に休息を取れている。部下達も、皆気力を蓄えて、それで仕事に出られている。

 

以前よりは、上手くやれる筈だ。

 

打ち合わせをする。

 

クーフーリンなど、人に近い姿の者を募って、地底から出す。

 

もうテンプルナイトはいない。

 

だから、同僚と殺し合いになることはないだろう。

 

ホーリータウンへの連絡通路に出向くが、想像以上に荒れていて驚いた。仮にもセンター以外ではもっとも安全だと言われていたセクターなのに。其処への連絡通路が悪魔だらけだ。

 

死体を囓っている悪魔を、プラズマ剣で斬り飛ばす。

 

妖獣の群れだった。

 

しかも囓られていた死体は、これは掃除屋だ。

 

それも、である。

 

死体を見る限り、純粋な人間だとは思えない。

 

動揺する部下達に、ザインの協力者が説明する。

 

「センターは不適格者として捕まえた人間を使って、悪魔合体までしていました」

 

「人間と悪魔を!?」

 

「はい。 既に突き止めています。 いわゆる掃除屋は、それらの完成型です」

 

「遺伝子を弄るだけではなく、そこまでの生命の冒涜をしていたのか」

 

溜息も漏れない。

 

四大天使が指導しているのだとしたら、一体何処まで腐敗しているのか。

 

途中で何度も悪魔に襲われる。これはしっかり悪魔を退治しておかないと、どれほど被害が出るか分からない。

 

天使も姿を見せた。

 

いきなり襲いかかってくる。

 

やはり、もう四大天使はおかしくなっていると見て良い。いずれにしても、斬ることに躊躇は湧かないし。

 

雷撃を浴びせて木っ端みじんになる天使を見ても、特に何とも思わなくなりはじめていた。

 

テンプルナイトになる前。

 

私は散々祈った。

 

人々を救ってくださいと。

 

その祈りは、何処に届いたのだろう。

 

少なくとも四大天使は、それを鼻で笑い飛ばしていたという事だろう。

 

部下がキレそうになっていた。

 

「隊長、俺、キレそうです。 今まで俺たちを使い潰していた連中が、どれだけ卑劣な事をしていたのか……!」

 

「私も同じ気分だ。 だから、怒りは悪魔共にぶつけろ。 それは天使も例外ではない」

 

「はっ!」

 

既に私の肉弾戦闘能力は、テンプルナイトの生き残りの中ですら最強でもなんでもない。魔術はそれなりに使えるが、地下の悪魔達にはもっと使える奴が幾らでもいる。人間ですらそうだ。

 

頭に機械をつけている掃除屋が来る。

 

確か超能力を強化しているタイプの奴だ。

 

けらけら笑いながら、手を此方に向けてくるが。疾風のように動いたクーフーリンが、顔面を槍で貫いていた。

 

「哀れだな。 もはや人としての意識すらないようだ」

 

「これだけ大々的に備えていると言うことは、センター以外のセクターは皆殺しにするつもりの可能性が高いな。 またアバドンを使うのだろうか」

 

「……分かりません。 ただ、とにかく連絡通路だけでも安全にしないと」

 

何度も戦闘を重ね。

 

それで、どうにかゲートまで辿りつく。

 

其処には人すらおらず。

 

天使パワー数体が護衛についていた。

 

それらを倒すが、パワーの質が落ちているように思う。ひょっとすると、精鋭はアレフとの戦いに動員されているのかも知れない。

 

ザインの協力者が、ゲートを開ける。

 

ホーリータウンに出るが、えっと声が出ていた。

 

雰囲気が違っている。

 

此処は前もたまに悪魔は出ていた。だが、今は。

 

かなりの悪魔の気配がある。

 

金持ちやらの「上級国民」が暮らしていたエリアなのだが。

 

もはやセンター以外の人間は、それこそどうでもいい。そうセンターが考えているとしか思えなかった。

 

「た、隊長……!」

 

「出来る事をやるしかない。 センターに突入するときに、ザインによるいざという時の避難勧告が流れるはずだ。 掃除屋が来るかも知れない。 周囲に備えておくんだ」

 

「分かりました……」

 

「テンプルナイトとして、俺は誇りを持ってた! 確かに弾圧とかやらされることもあったけど、それも人々を救うためだと思って、悪魔との戦いに体を張ってた! その果てが、これかよ!」

 

部下が血涙を流すような言葉を吐いた。

 

私は、それを咎められなかった。

 

しばし待つ。

 

該当のテレビは、散々電波ジャックされたからだろうか。既に停止している。行き交う人々は、怯えきった様子で周囲を見ていた。

 

悪魔がいつ出てもおかしくないからだろう。

 

けらけらと、顔だけ人間になっている妖鳥が、我が物顔に飛んでいる。

 

それを掃除屋は対処しようとさえしていなかった。

 

仕方がないので、代わりに私が雷撃の魔術で叩き落とす。

 

黒焦げになった妖鳥が地面で消える。

 

それにも、掃除屋達は興味さえ見せないようだった。

 

それからしばしして。

 

該当テレビが不意に起動する。

 

映っているのは、アレフだった。

 

奧に倒れている司教の群れ。

 

以前詰め所に来た司教も、混じっているかも知れない。

 

「センターを壟断していた悪魔は俺とザインで倒した。 奴らは薄汚い思念で、神の偽物まで作り出していた。 センターが行っていた悪事は、これから順次公表する。 非人道的な実験、悪辣な弾圧、虐殺まで記録に残されていた。 センターの者達は、これから一切の特権を剥奪する」

 

わっと、ホーリータウンの民達が歓声を上げる。

 

それだけ、アレフは仮に作られたメシアであっても、人々の希望になっていたのかも知れない。

 

ともかく、ホーリータウンの民が虐殺されることは避けられたか。

 

だが。

 

クーフーリンが言う。

 

「ホーリータウンの気配は変わっていない。 悪魔がいつ出てもおかしくない状況のままだ」

 

「確かに……」

 

「これはまだまだ休むどころでは無さそうだな。 いずれにしても、地下が天使に攻めこまれることだけはもうないのだろうが」

 

溜息が出た。

 

それから、アレフとザインがヒロコを伴って来たので、一緒に戻る。

 

ヒロコは青ざめていた。

 

何を知らされたのか分からないが。とんでもない事でも知らされたのだろう。聞くべきではない。

 

そう思ったので、黙っておく。

 

そのまま、一度地下に。

 

ザインは協力者達と一緒に、セクターで治安維持の仕組みを整えるそうだ。

 

私にも協力して欲しいというが。

 

もう私は、テンプルナイトになるつもりはない。

 

だが、ザインは頭を下げてくる。

 

「センターでの戦闘で、主要な掃除屋は倒れ、その制御システムも破壊しました。 もはや治安維持をするノウハウをもった人間がいません。 四大天使はそもそも、社会を維持することすら考えていなかったようです。 これから立て直さなければならないんです。 貴方のように、隊長としての経験があり、治安維持について知っていて、戦闘力も持っている人材が必要です」

 

「私はただの現場での指揮官だ。 一から全て組織を再編するようなことは出来ないぞ」

 

「分かっています。 それについては、センターに協力者を確保してあります。 それと、近々悪魔の出現は抑止できる可能性があります。 日本神話の神々を、アレフが解放してくれました。 協力すれば、恐らく雑多な雑魚程度ならどうにでも。 強い相手は、俺とセンターが使っていた対悪魔ロボットの部隊でどうにかします」

 

「……分かった」

 

そのまま、もとのオフィスに向かう。

 

そこは詰め所どころか、廃墟になっていた。

 

部下には、涙さえ流す者がいた。どれだけテンプルナイトが用済みの道具扱いだったか、これを見るだけで明らかだったからだ。

 

私は手を叩く。

 

「まずは片付けからだ。 それと、地下で結婚したお前は、地下に戻れ」

 

「し、しかし隊長」

 

「いいんだ。 ザインはああいったが、センターが潰れたからと言って、安全になった訳でもない。 ならば、人間は各地に分散して、一度に全滅するのを防がないとまずい」

 

これはバルハラの末路を見ての結論だ。

 

それから、ザインの協力者や。それから、ザインが呼びかけて集まって来た自警団を構成していた者達を組織化してくれたので。私は隊長として、皆に挨拶をした。

 

元テンプルナイトと聞いて、反発する者もいたが。

 

ザインがバルハラで人命救助のために必死に活動していたこと。

 

テンプルナイトが当て馬として使われて、メシアの登場を印象づけるために悪魔に惨殺されていくなか、それでも頑張っていたこと。それを告げると、納得してくれたようだった。

 

ザインは戦士より政治家に向いているようだな。

 

そう私は思い。

 

新しく組織された自警組織の長として。第二の人生を歩むことにした。

 

まだ、激動は続くだろう。

 

テンプルナイトは既に死んだ。

 

だが、今から。

 

新しい組織で、悪魔から人々を守る。それだけだった。






テンプルナイトは終わり。

新しい組織が始まります。

誰かがやらなければならないのです。

様々な事を経験したリンネは、それをためらうつもりはありませんでした。


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