不遇相伝術式で目指せアッチ側! 作:ズズツカイチェン
1ヶ月費やして書き溜めていたモノがなくなりました。
謝罪として明日も投稿したいところですが無理そうです。
幼稚園内にてスーツを着た長身の女性が巨大な肥えたトカゲのような見た目の呪霊から逃げ回る。
逃げている女性の息は整っており、未だに余裕があることを見て取れる。
(メールは送った、帳も下した。あとは悟くんが来るまで逃げ回れば良い。幸いに私はそれに特化した術式だからね)
女性が影を残して溶けるように地面の中に落ちた。
スーツを着た長身の女性、
その術式の効果として術式使用者を物質に潜り込ませることができる。
解除方法は地上に残されたままである術式使用者の影を踏むことにより強制的に解除させる、もしくは術式使用者自らが術式を解除することのみ。
しかし現在時刻は午後11時52分。周りに街灯はなく薄ぼんやりとした月明かりにより生まれた、視認が非常に困難な影を踏むことは決して容易ではない。
(物に潜り込んでいる間は外を見るどころか外の音も呪力すらも感じない。私の数少ない呪力が消える前に、早く来てくれたまえよ。悟くん)
須野原が術式を使用したことにより目標を失ったトカゲのような呪霊が暴れ、園内の遊具を壊していく。
遂に残った遊具は乱雑に積まれたタイヤの群れとジャングルジムのみになった、その時。
——身を潜めていた、
呪霊の背後に回り込み、拳に呪力を纏わせた打撃を放つ。
凛月は呪力による身体能力の強化ができない。故に身体硬度のみを強化した打撃。
全長3メートルほどもある呪霊に効くわけがない。そう思った凛月は次手を脳内で組み立てようした。
しかしそれは良い意味で裏切られる。
「あぁあ ぁああああぃあ あ ぃ ああ」
呪霊が地面をのたうち回るのを視認し、凛月は目を見開く。
その目に映るは呪霊の肉が溶けていく光景。
その光景は棒人間のような見た目の呪霊を屠った光景と重ねて凛月に見させた。
これは打撃によって受けたダメージではない。呪霊を今も、尚苦しめているのは凛月の呪力そのものである。
その特性は侵食。
呪力が呪霊の肉体に侵食し、侵食された呪霊の肉体と呪力が凛月の呪力へと分解吸収されていく。
「あ あそ あぼあそ ボッッ!」
呪霊がその巨体を生かして凛月を踏み潰してしまおうと両前足を上げる。
「もっとも俺がのぞんでいたことをしてくれたな。まったくいい子だナッ!」
凛月はあらかじめ左腕に留めておいた呪力を放つ。
咄嗟に呪霊が腹に呪力を集中させた。その瞬間に凛月の放出された呪力が当たり、腹に集中させていた呪力を溶かしただけに留まらず呪霊のその肉体すらも溶かして大きく抉る。
「ああぁあ あぃああ ぅああ」
呪霊の腹から紫色の血液のような液体がこぼれ落ち、呻き声をあげる。
「よわい……いや俺がよわいからか。この身体じゃあ、きもちの良いなぐりあいなんてできっこない。たたかいをたのしむのはとうぶん先かナ”ッ?!」
突如、凛月の側頭部を痛みが襲った。
(なんだっ?!あの異形とは距離を保っている!何で攻撃されッ!)
凛月が思考を加速させながらも状況把握のために呪霊を見れば、その口から呪力の篭った何かが飛び出していた。
(……舌か?透明だからか見えない。危ない危ない……エネルギーを頭に纏わせられなかったら脳みそをぶち撒けてたよ)
凛月は額に浮かべた脂汗を拭うと全身に呪力が纏わせてジャングルジムに向かい、走る。
憤慨した呪霊が舌を仕舞いながら、凛月のあとを猛スピードで追いかけた。
(何故かは知らないけど、あの見張りのお姉さんは消えた。ならフィールドを広く使わねぇとな!)
ジャングルジムを素早く登り、追いかけて来た呪霊に向かって凛月は跳び降りた。
自らの筋力で致命傷を与えることが難しいと理解した凛月は重力によるエネルギーを味方にすることにしたのだ。
既に呪霊の腹は抉れている。もう一度腹か、もしくは背中にダメージを与えれば貫通させて絶命させることができるだろう。
凛月は落ちている時間がやけにゆっくりと感じた。
嫌な予感がして全身に纏わせていた呪力を頭部に集中させた、その瞬間またもや凛月の側頭部に痛みが走る。
(またかよ!でも今度は舌じゃねえ、今度は何だ!)
視界に広がるのは穴を開けられボロボロと崩れていく蜥蜴のような呪霊の死体。
そしてその上に立つ人型と言って良いか迷う姿形の呪霊。
その姿は握り拳程度しかない目と口が大量についた胴体と頭部に、2メートルに迫るほどの長さを有する手足。
それは数日前、路地裏にて確認した例の呪霊であった。
(ここに来るまでに見ないと思ったが、まさか園内に潜んでいたのかッ!)
だらりとその長い腕を地に垂れ流す呪霊と見合う凛月。
「たしか前もふいうちしてたよね?ふいうち好きなの?しょうめんからの闘いはかんべんしてくださ〜いってか?」
軽口を叩く凛月の背中に怖気が走ったのは、その呪霊に睨まれた瞬間であった。
空中に穴が開く。開いたのは正面であったため様子見をするために凛月が軽く後ろに飛んだ瞬間、背中に痛みが走り吹っ飛ばさる。
吹っ飛ばされた先は正面にあった穴の近くであった。
それに気づかない凛月は何故吹っ飛ばされたのか確認するために後ろに振り返ろうとした瞬間、正面にあった穴から腕が出て来てまたもや空に飛ばされ、地面に落ちて転がる。
(成程、穴から腕が出て来てる。その腕にも呪力が篭ってあるからか頑丈だ。こいつ強いな)
眼前に再度穴が開いたのを確認して咄嗟に飛び起きた凛月。
その周りを囲うように穴が開く。
「おおすぎッ?!」
次々と凛月に襲いかかる腕。
反撃の隙を見い出せず、急所を守るので凛月は精一杯だ。
(早く対処しないと死ぬ!どうする……!)
凛月の心は焦りを見せていた。
「フッ……アッハハ!おもいだしてきたよ!」
しかし焦る心とは反比例するように凛月は声を出して笑う。
(5年ぶりだけど、やれるか?)
確実に凛月に向かって放たれる拳。
しかしそれは凛月に当たる軌道から外れて…… 否、外されていく。
凛月の行った行動は受け流しである。
視覚だけでなく腕に篭められている呪力を感知することにより視覚外からの攻撃すらも凛月は容易く対処していく。
(穴の数こそ多いが一度に襲いかかる腕の数は8本。
長さが微妙に違うのが厄介だが篭められている呪力で大凡の形を把握できる。
しかも俺の腕に纏わせている呪力が穴から出てくる腕に篭められている呪力を削っていってるし、俺と合っているんじゃないか?この闘い方)
次々と腕を受け流していく凛月は先程まで面白くなさそうにしていた呪霊の姿が今は見つからない事に疑問を覚えた。
腕に篭められている呪力より大きい呪力を感じたため、後ろに目を向けると既に眼前にまで来た長い腕があった。
凛月は咄嗟に纏わせている呪力を滑らせるように動かすことで何とか受け流すことに成功する。
「本体さんね……」
先程までは腕をダラリと垂れ流して棒立ちだった呪霊を見て思わず凛月は呟いた。
そして良い案が思いついたのか、ただ単にこの闘いを楽しんでいるのか。凛月の口角が上がる。
それを舐められていると思ったのか呪霊がその長い足を鞭のようにしならながら蹴りを放つ。
砂を巻き上げながら空気を裂く長い足。その呪力によって威力が強化された蹴りを凛月は見る。
見て。
見て。
見た。
鋭い蹴りが呪力によって硬化させていた凛月の腹に打ち込まれ、凛月は地面に跡をつけながら吹っ飛ばされる。
呪霊は己の攻撃が上手く決まり、まるでボールのように跳ねた凛月に向かって煽るような笑みを送る。
こんな事が起きたのだ。凛月の顔が負の感情を露わにしていると呪霊は考えた。
しかし吹き飛ばされた凛月の顔は未だに口角が上がっていた。
そんな凛月のことが気に入らない呪霊が再度呪力の篭った蹴りを繰り出す。
確かに凛月に迫ってくるその足。
それに対し、凛月は呪力を足に篭めて跳躍することによりその足を飛び越え、呪霊を殴りつけた。
殴られた呪霊は足を引き摺りながら倒れ、困惑の表情を露わにする。
「見させてもらったよ。エネルギーのしんたいきょうか」
少し舌っ足らずな話声でニコニコと口角を上げる凛月を見た呪霊の背筋に寒気が走る。
起き上がった呪霊は先程までの「玩具で遊ぶのが楽しい」とでも言うようなその態度は鳴りを潜め、殺意の篭った打撃を飛ばす。
空中から放たれる腕も健在で、その手数の多さは並みの術師であれば悪戦苦闘の末に殺されてしまうだろう。
だが身体強化をモノにした凛月の闘いは凄まじかった。
向かってくる腕を受け流し、本体である呪霊に迫り肉弾戦を仕掛ける。
単純な膂力であれば優位に立てる呪霊、しかし相手はブランクはあれど十年間以上も鍛え上げられた技術に加え、触れれば呪力と肉体をも崩壊させる呪力を纏っているのだ。
敗北の二文字が呪霊の脳内に浮かぶのに対し、凛月は余裕綽々と言った感じに自己分析を進めていく。
(思えばエネルギーの身体強化は既にできていた。体外に纏うことでその身体を硬くできていたのだ、これは皮膚とかの外側の肉体を強化しているってことだ。それなら筋細胞を一つ一つを包むように体内にエネルギーを操作すれば良い、俺は何をあんなに悪戦苦闘してたのか……)
自己反省を終わらせた凛月の拳が遂に呪霊の頭部を捉えた。
その時だった。
ゴトリと地面に何かが落ちる音がした。
「……は?」
そこあったのは空中に浮かぶ穴から落ちてくる気絶した子供であり、その腕部を見てみれば先程まで己が受け流し続けていたモノと一致する。
(誘拐事件の犯人はコイツか!誘拐した子供を穴の中に仕舞い込んで、その腕をエネルギーで強化して俺に殴らせていたんだ!)
気を取られていた凛月の腹に呪霊の投げた遊具だった物が凄まじい音を立てて当たる。
吐き気を感じながらも、やり返そうと呪霊を睨む凛月の目に意識のない幼女の首に手刀を突き立てる呪霊の姿が映った。
(人質かよ!頭回るなァバケモンの癖に!しかもあれは俺に犬の真似をさせた子供だ。知り合いを見殺しにするなんてできねぇぞ、どうすんだこれェ!)
動くことを封じられた凛月にお構いなしに次々と宙に穴を開ける呪霊。
これから起こることを理解することができても凛月は黙って受け入れるしかなかった。
四方八方から放たれる拳に加え、呪霊は幼女を片腕で担ぎながらもひたすらに遊具の残骸を投げ、安全マージンを確保しながらダメージを与えてくる。
凛月は体の至る所に血を滲ませ、息を切らしていた。
それに対する呪霊は苛々としているのがその態度から見受けられる程に憤慨しており、遂には物を投げるのをやめて再び幼女の首に手刀を突き立てた。
早く殺してしまいたいにも関わらず、凛月が呪力によって身体を硬化させていたため焦ったくなった結果であることを凛月は理解した。
(このまま硬化してると人質が殺されかねない……。はぁ……解くか、硬化を)
凛月の身体を覆う呪力が消えていく。これにより硬化も呪力による侵食も消え去った。
呪霊の夥しい量の目が吊り上がり、気色の悪い笑みを浮かべる。
ゆっくりと、楽しむように呪霊が凛月に近づいて行く。
覚悟を決めて目を瞑る凛月の耳に大地を踏む音を捉えている。
一歩。
一歩。
一歩。
一歩。
一歩。
……。
音が鳴ることもなければ己の身体に痛みが走ることもなく、それに疑問に思った凛月がゆっくりと目を開く。
目の前にいるのは呪霊ではなくサングラスをした長身で白髪のお兄さんだった。
「え……。だれですか……?」
「ん?俺?五条悟」
(誰だよ!なんでこんな時間に幼稚園にいるんだよ。いや、それは俺もか)
五条悟と名乗る人物に意識が向いてしまったため気が付かなかった疑問が一つ、凛月の脳内に浮かび上がった。
凛月は幼児のフリをしながら五条悟に問いかける。
「あれ?変なの……。いない」
「ああ、安心しな。その呪霊なら俺が祓ったからさ」
「じゅれい……」
異形の存在を認識して約3年半の時を経て、その名称を知った凛月は。
(”呪い”じゃねぇんだアレ!やっぱ呪術廻戦の世界じゃねぇじゃんか!この世界!騙された!)
密かに、この世界が呪術廻戦であるかもと期待していた凛月は少しキレた。
それも仕方のないことである。
呪霊という単語を初めに使ったのは両面宿儺であり、凛月が知る呪術廻戦の範囲ではまだ登場していない人物なのだ。
凛月がこの世界が呪術廻戦の世界だと知るまでもう少し。
◦須野原 彩美
27歳の179cmで眼鏡をかけたダウナーの雰囲気を漂わせる女性。
呪力の視認と術式を使用する事が可能ではあるものの、呪力による身体強化ができない。
◦肥えた巨大蜥蜴の呪霊
準二級程の実力を有する強さを持つ。
術式を持っておらず、透明な舌は自前の身体の作りによるものである。
◦腕長脚長の呪霊
準一級の等級を持つが準一級の中では最弱程度の実力である。
術式はモノを仕舞える亜空間を生成する効果を持つ。
対象の大きさの上限を狭め、仕舞い込める対象を人間のみにする術式の縛りによって上限なく仕舞え、対象を生きたまま、術者本人の呪力による強化を可能にしている。
その術式故に攫った人数によっては特級手前にまでなり得る。