A.O.Zじゃだめなのかっ!!!   作:サクナ

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第六話「僕は、どうすればよかった?」

お兄ちゃんの眠たそうな目をした愛車の車内、重苦しい空気が私達の周りを包む。

 

すぐ近くで実の父親が逮捕され、虐待を受けていたまいちゃん、悪いと思っていても尾行した私、まいちゃんの目の前で父親を殴り拘束したお兄ちゃん。全部に責任があったのかもしれない。

 

「っ...ええっ...僕....お父さんに...抗うことが...出来なかった...」

 

まいちゃんは嗚咽を抑えるように苦しそうな声で話した。

 

「昔はお父さんとお母さん、妹で楽しかった...っ...。でも、お母さんが事故で死んで....」

 

「........」

 

「........」

私もお兄ちゃんも何も声をかけることができなかった。私達の弱さだ。

 

「妹は....伯母さんの所へ引き取られて...それからお父さんは...毎日...えっ..えっ..暴力を私に振ってきて....中学だからバイトもできなくて...休みの日にはエッチな事してお金を稼いでたの...。」

 

「でも...稼げてもせいぜい月に3万ほどで...電気代、ガス代、ご飯代、水道代...生活費、貯金、税金、家賃でいっぱい取られていって...残るのは殆どなかった....。っつ...」

 

「僕は...僕は...」

 

「僕は、どうすればよかった....?」

 

壮絶だった。私、なんで気付けなかったんだろう。どうすればよかった、なんて言われたら、頭を悩めるしかない。

 

「辛かったな。...あの時、『こんなに美味しいご飯を食べるの初めて』って言ってただろ?その時に俺が気づいていればこんなことには....」

 

「ううん...お兄さんのせいじゃないですよ....私の弱さが...私がお母さんに似たから....」

 

「そんなことを言ってるんじゃないんだ。みんな..っ...みんな悪いんだよ....」

 

お兄ちゃんは昔から涙を流さない人だった。でも、今は泣きそうなのを必死に堪えているようだ。

 

「まいちゃん...ごめんね。...私も悪いんだよ...」

 

「そんなことないよ....」

 

どうやら、足りない資金は母親の遺産からだった。いつも父親は酒に溺れていて、暴力、性的暴行はひどいときは毎日あったらしい。

 

プラモデルの資金はパパ活で多く貰ったときの貯金から捻出していたらしい。ヤスリとニッパーなどの娯楽類は伯父から貰ったものだった。

 

正直生々しかった。カーラジオから流れる音楽も、耳に入ってこない。聞こえるのはキーンという音だけが脳という湖の水面を揺らしているだけだ。

 

「あ。そうだうさちゃん。今日は帰れないって伝えたから。夜だけど、三人で気分転換で港に行かないか...?」

 

気を遣ってくれたのだろう。まいちゃんはコクリと頷いた。勿論私もだ。外の空気を吸いたい。

 

お兄ちゃんの眠たそうな目をした愛車は、バイパスから『ブルーライン』という元高速道路だった場所を通りながら海へ向かっていく。

 

「僕、海に行くのは6年ぶりな気がします。お母さんが死んでしまう1年前の夏に海に行った記憶があります...」

 

「そうか.....すまん、なんか辛いことを聞いたな。」

 

本当にお兄ちゃんは申し訳なさそうな顔をする。するとまいちゃんは泣き腫らした顔で精一杯の笑顔を作り、

 

「いえ...綺麗な記憶は、それが最後ですから。」

と答えた。

 

やばい...めっちゃ罪悪感半端ない...

 

うん、そうこうしているうちになんだか眠くなってきたな。....

 

もう、眠ってしまおう。私は、今日のことは忘れたいことだらけでいっぱいだった。本当はまいちゃんが一番辛いはずなのに、私が逃げてるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

.....んぇ....ん?

 

どうやら私は眠ってしまっていたらしい。体には毛布がかかっている。車内時計は狂っていて当てにならないから、スマホの画面を見る。時刻は12時を過ぎている。

 

運転席と後部座席には誰も座っていない。エンジンは切られている。

 

私は眠たい目をこすりながら、ドアを開ける。暗くてほとんど何も見えないが、車に寄りかかって会話するお兄ちゃんとまいちゃんの姿はギリギリわかった。

 

「お、うさちゃん起きたか。」

 

「おはよう。うさぎちゃん。」

 

「...ここどこ?」

 

「エーゲ海」

 

私は驚愕した。ええっ?!お兄ちゃんどこまで行ってるの?!大陸横断してるじゃん!

 

「じょーだんじょーだん。でも、日本のエーゲ海さ。夜で何も見えないけどな。」

 

「また、一緒にA.O.Zのガンプラ作ろうね。いいもの、用意してるから!」

 

「うん!」

 

今日のことは、心の奥にしまっておこう。

 

私は、真っ暗な中、ただ遠くを見ていた。

 

するとお兄ちゃんが、罪を独白する刑事ドラマの容疑者のように、重苦しく口を開けた。

 

「実はな、バッテリー上がったんだ。」

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