世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜   作:お粥のぶぶ漬け

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第10話:慣らしの行軍と、清流の野外定食

保津川のせせらぎが、異世界の魔力を含んで心地よい低音を響かせている。

 待ち合わせ場所にやってきた紬は、昨日よりも少しだけ足取りが軽そうだった。

 

「霧島さん! おはようございます。……あれ、なんだか今日のお兄さん、雰囲気が昨日と違いますね?」

「そうか? ……あ、これのせいかもな」

 

 蓮は、腰に新たに吊るした小出刃包丁の鞘を叩いた。

 二人はそのまま、昨日の「薬草園」のさらに先、川の中流域へと足を進めた。今日の目的は、さらに広大なマップを埋めながら、ダンジョン特有の「魔力による疲労」に体を慣らしていくことだ。

【探索:広大なる中流域・岩礁エリア】

 ダンジョンの奥へ進むほど、空気は重くなり、一歩歩くごとに体力を奪われる。

 異世界の魔力が現代人の神経に干渉し、鈍い倦怠感を引き起こすのだ。これを乗り越える「抗体」を作るには、地道な戦闘と行動の繰り返ししかない。

 

「うぅ……、足が少し重くなってきました……」

「無理するな。盾を構えるとき、余計な力を抜け。加護の層を薄く、でも密度を上げるイメージだ」

 

 蓮は紬を先導しながら、周囲を警戒する。

 昨日のような「門番級」は現れないが、代わりに素早い**【水際(みずぎわ)のコボルド】**が群れをなして襲いかかってきた。

 

「佐伯さん、三時方向からくるぞ! 衝撃を『逃がす』練習だ!」

「はいっ! ……ふんぬぅっ!!」

 

 紬が盾を斜めに構える。コボルドの錆びた短剣が盾を滑り、火花を散らして空を切った。

 蓮はそこへ、小出刃包丁を逆手に持って割り込む。

 

『蓮、そいつらの喉元は硬い。横腹の“脂の乗った部位”から刃を入れろ!』

 

 神様のアドバイスが響く。蓮は、昨日の試し斬りで得た「光の糸」を見つめた。

 コボルドを「敵」としてではなく、解体すべき「素材」として見る。

 シュッ、と小出刃が閃くたびに、コボルドの連携が崩れ、一匹、また一匹と光の粒子へ変わっていく。

【正午:中洲の休憩と、抗体獲得の食事】

 数時間の戦闘と行軍を終えた二人は、川の真ん中にある平らな岩礁で腰を下ろした。

 紬の肩は上下に激しく動いている。ダンジョンの魔力に当てられ、顔色が少し青い。

 

「これが『削られる』って感覚か……。俺も、指先が少し痺れてる」

「でも……ここで食べれば、きっと慣れますよね?」

 

 紬の期待に満ちた視線。蓮は苦笑しながら、朝、試し斬りで収穫した【飛沫の岩魚】と、道中で摘んだ【清流ミント】、さらに自宅から持ってきた少しの米を取り出した。

 

「今日は『冷や汁仕立ての岩魚丼』だ。魔力酔いを抑える薬草も混ぜてある」

 

 蓮は小出刃を使い、岩魚の身を細かく叩き、ミントの清涼感を移していく。

 飯盒(はんごう)で炊き上げた熱々の米に、冷えた岩魚の叩きをのせ、神様から「奉納のついで」に分けてもらった霊験あらたかな味噌を水で溶いてかける。

【ログ:料理『魔力酔い払いの岩魚冷や汁』が完成!】

【品質:極上】

【効果:魔力耐性の一時的な上昇、スタミナ継続回復、および疲労の除去】

 

「おいしい……! 冷たくて、お腹の中からスーッとして、体が軽くなるみたいです!」

「ああ……、指の痺れが消えていくな。これが『慣らす』ためのブーストか」

 

 二人が食事を楽しんでいると、蓮のスマホのマップが微かに光った。

 今まで「真っ白」だったエリアが、自分たちの足跡と、摂取した食事のエネルギーによって鮮やかに彩色されていく。

 

『ガハハ! 良い判断だ。魔力の毒を食で制す。それこそが、この地で生きる知恵よ!』

 

 食事を終えた二人の体からは、先ほどまでの倦怠感が消え、代わりにダンジョンの空気と同調するような、静かな力が漲っていた。

 

「……霧島さん、もう少し先まで行けそうです!」

「ああ。今日はあそこの滝の裏までマップを埋めて帰ろう」

 

 一歩、また一歩。

 彼らの歩みは、ダンジョンという異界を「自分たちの庭」へと変えていく。

 亀岡のルーキーコンビは、着実にこの歪んだ世界の理を、胃袋から支配し始めていた。

 

 

【探索ログ】

• マップ踏破率: 2.8%(中流域・岩礁エリア確認)

• 霧島 蓮: レベル1.40(「魔力同調」の基礎を獲得)

• 佐伯 紬: レベル1.28(「衝撃受け流し」のコツを掴む)

• 今回のメニュー: 岩魚の冷や汁(魔力耐性UP)

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