世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜 作:お粥のぶぶ漬け
翌朝。蓮と紬は、期待に胸を膨らませて下流域の「秘密の山葵田(わさびだ)」を再訪した。
そこには、昨日の芽からは想像もつかないほど、青々と立派に育った**【古の山葵】**が、清流の魔力を吸って静かに光っていた。
「……うわぁ、一日でこんなに。神域の成長速度って、やっぱり異常ですね」
「ああ。異世界の魔力が、ここでは完全に『肥料』に変えられてる証拠だな」
蓮は『神域の小出刃包丁』を抜き、根を傷つけないよう慎重に一本を収穫した。
すりおろす前から、ツンとした刺激の中に、どこかフルーティーで甘い、高貴な香りが漂う。
『蓮よ、そいつは琵琶湖の底で数千年の眠りについていた品種の末裔。……さあ、昨日のカニと合わせろ。贅沢にいけ!』
「了解、神様。……佐伯さん、今日はここで朝飯にしよう」
蓮は手際よく準備を始めた。
昨日の【鉄槌のサワガニ】。その太い脚の身を贅沢に解体し、小出刃の背を使って『古の山葵』を丁寧にすりおろしていく。
「……あ、霧島さん。その包丁、すりおろす時も光ってる……」
「本当だ。食材の『細胞』を壊さずに、香りだけを解放してるみたいだ」
完成したのは、【鉄槌サワガニの氷結洗い・古の山葵を添えて】。
さらに、カニの殻から濃厚な出汁を取り、道中で採取した「清流ミント」で香りを整えた**【カニ殻の清汁】**。
【ログ:料理『神域の紅白朝食』が完成!】
【品質:極上(神託クラス)】
【効果:全ステータスの微増(永続)、および「神の視点」の一時的な付与】
「いただきます……っ!」
紬がカニの身にたっぷりと山葵をのせて口に運ぶ。
瞬間、彼女の目が見開かれ、背後の盾が共鳴するように共鳴音(チャイム)を鳴らした。
「……っ!! 山葵が全然辛くないです! いえ、辛いんですけど、その後に波のように甘さがきて、カニの旨みが……脳を直接叩いてるみたい!」
「俺も……。これ、レベルは上がってないけど、体の『芯』が太くなった感覚があるぞ」
異世界のシステム的なレベルアップが「外付けの強化」だとすれば、蓮の料理による強化は、自分自身の魂の格を底上げする「内側からの進化」だ。
これこそが、八百万の神々が仕組んだ、マッチポンプへの最大級の皮肉。
「ふぅ……。霧島さん。なんだか私、もうどんな攻撃が来ても防げる気がしてきました」
「ハハ、頼もしいな。……でも、油断は禁物だ。このワサビ、まだ数本ある。大事に育てて、ここを俺たちの『補給基地』にしよう」
二人が満足げに完食し、残ったワサビを丁寧に手入れしていると、保津川の上流から、今まで聞いたこともないような「高く澄んだ鈴の音」が聞こえてきた。
それは、第一階層の奥深く、**「滝の主」**が動き出した合図だった。
【ステータス・中間報告】
• 霧島 蓮: レベル1.50(調理時の魔力操作が「職人級」に到達)
• 佐伯 紬: レベル1.42(山葵の効果で「精神耐性」が大幅アップ)
• 現在のメニュー: 古の山葵(極上品。他県ならこれ一本で家が建つレベル)