世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜   作:お粥のぶぶ漬け

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第4話:霧の街のルーキーと、想定外の「初おつまみ」

保津川下りで知られる風勝な渓谷は、今や「D級指定ダンジョン:保津峡魔谷」へと姿を変えていた。

 役所での登録を終えた蓮は、その足で保津川沿いのゲートに向かった。貸与された標準装備の「打刀・改」を腰に差し、緊張した面持ちで霧の中へ足を踏み入れる。

 

「……まずは、ステータスの詳細確認だ」

 

 蓮はスマホを取り出し、自分専用に書き換えられたインターフェースをスワイプする。

【探索者:霧島 蓮】

【神徳レベル:1】

【装備:銘・市役所配布(物理攻撃+10)】

【メイン加護:丹波霧隠(たんばきりがくれ)】

 ・霧の中での気配遮断率+50%。

 ・「霧の神」に気に入られたため、稀に敵の攻撃が「スカ」になる。

【パッシブ:神の肴(かみのさかな)】

 ・魔物のドロップ品を、一定確率で「最高の酒の肴(バフ付き)」に調理済みの状態で抽出する。

 

「……『神の肴』? 調理済み?」

 

 蓮が首を傾げたその時、霧の向こう側から「グルル……」と低い唸り声が響いた。

 異世界の神が放った尖兵、**【フォレスト・ウルフ】**だ。本来なら数頭で群れるはずの魔物だが、一頭、はぐれ個体が霧の中から飛び出してきた。

 

「――っ、きた!」

 

 蓮は反射的に刀を抜く。

 ウルフが鋭い牙を剥いて跳躍する。本来、素人の蓮なら避けるのは困難な速度。しかし、その瞬間、蓮の周囲の霧が生き物のようにうねり、ウルフの視界を遮った。

 

『今だ、若造。鼻っ面を叩き割れ!』

 

 頭の中に響く、酒好きそうな豪快な男の声。

 蓮は夢中で刀を振るった。

 不格好な一撃だったが、加護によってウルフの姿勢が崩れていたため、刃は深く喉元に吸い込まれた。

 ズシャッ、という肉を断つ感触。

 ウルフは光の粒子となって消え――その場に、異世界のシステムではあり得ない「何か」が転がった。

【ログ:フォレスト・ウルフを討伐】

【スキル『神の肴』発動!】

【ドロップ:ウルフ・ジャーキー(山椒風味)】

【効果:30分間、スタミナ回復速度が上昇します】

 

「……ジャーキー? 石じゃなくて?」

 

 蓮は足元に落ちた、丁寧に真空パック(のような霊力膜)に包まれたジャーキーを拾い上げた。

 異世界の魔石がドロップするはずの場所に、旨そうな匂いを漂わせる「おつまみ」が鎮座している。

 

『ガハハ! それは俺様への供物だが、初陣の祝儀だ、食っていいぞ!』

 

 頭の中の声が、愉快そうに笑う。

 どうやら蓮の加護を与えた神――亀岡の山々に鎮座する大山咋神(オオヤマクイ)の系譜の誰か――は、蓮を「自分の晩酌のための仕入れ担当」として育てるつもりのようだった。

 

「……異世界の侵略って、もっとシリアスなもんじゃなかったのかよ」

 

 蓮は苦笑しながら、山椒の香るジャーキーを一口かじった。

 ピリッとした刺激と共に、全身に力がみなぎる。

 霧の向こうでは、まだ多くの「食材(魔物)」が息を潜めている。蓮の探索者人生は、どうやら胃袋と神様の機嫌に左右される、賑やかなものになりそうだった。

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