世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜   作:お粥のぶぶ漬け

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第5話:盾との霧の中の出会い

ジャーキーの山椒の風味が喉に残る中、蓮はさらに奥へと進んでいた。

 『神の肴』というスキルは、どうやら魔物の鮮度と質を極限まで保ったまま「加工」して抽出する、料理人にとっての神業に近いものらしかった。

 

「……ま、今は生き残るのが先決だけど」

 

 保津峡の深い霧を分け入ると、前方で激しい金属音が響いた。

 カキン、カキンと、何かが硬いものに弾かれる音。そして、野太い咆哮。

 

「あわわわ! 来ないでください、痛いの嫌なんです!」

 

 悲鳴の主は、大きな円盾(ラウンドシールド)の影に隠れて丸まっている少女だった。

 彼女を囲んでいるのは、三匹の**【マッド・サラマンダー】**。体長一メートルほどの火を吹くトカゲだが、少女が構える盾は、その熱を吸い込むように青白く光っている。

 

「……あいつ、役所にいたやつだ」

 

 蓮は思い出した。資格取得の際、ステータス画面を見た職員が「……全部『耐久』かよ。極端だなぁ」と頭を抱えていた少女、**佐伯 紬(さえき つむぎ)**だ。

 彼女のステータスは、異世界の防御システムを八百万の神が「鉄壁の蔵」として魔改造したもの。攻撃力は皆無だが、不落の防御力を誇る。

 

「おい、大丈夫か!」

「ひゃああ! 人間の声!? 助けてください、この子たち、全然諦めてくれなくて!」

 

 蓮は霧に紛れて接近した。

 【丹波霧隠】が発動し、サラマンダーたちは背後に立つ蓮に気づかない。

 

『蓮よ、あのトカゲの尻尾はいい出汁が出るぞ。焼き切らずに、綺麗に落としてみせろ』

 

 頭の中に響く「神様」の無茶振りに応え、蓮は『打刀・改』を横に一閃した。

 霧の中から現れた刃が、三匹の尻尾を同時に切り離す。

【ログ:マッド・サラマンダーの尻尾を「収穫」】

【スキル『神の肴』発動!】

【ドロップ:サラマンダーの尾の燻製(ピリ辛仕立て)】

 

「……よし、取れた」

 

 尻尾を失ったサラマンダーたちが、戦意を喪失して霧の奥へ逃げ帰っていく。

 残されたのは、腰が抜けて座り込んでいる紬と、蓮の手に現れた、ホカホカと湯気を立てる「燻製」だった。

 

「だ、大丈夫か? 佐伯さん」

「……え、あの、ありがとうございます……。えっと、その手に持っている、美味しそうな匂いのするものは……?」

 

 紬の鼻がひくひくと動く。

 彼女のステータスは耐久全振り。その分、莫大なスタミナを消費するため、彼女は常に「空腹」というデバフを抱えやすい体質だった。

 

「これ? ……食うか? 攻撃アップのバフ付きだぞ」

「い、いいんですか……? いただきますっ!」

 

 紬が燻製を一口かじると、彼女の周囲に黄金色のエフェクトが立ち上った。

【ログ:仲間(仮)の防御力がさらに上昇しました】

【ログ:お礼に「蔵の守護」の波動を分け与えられました】

 

「……美味しい。こんなに美味しい食べ物、私、初めてです」

 

 涙目で燻製を頬張る紬。

 攻撃力ゼロの「絶対の盾」と、魔物を美味しく調理する「神の料理人」の卵。

 霧のダンジョンで、奇妙な二人組のパーティが結成された瞬間だった。

 

『ガハハ! いいコンビだ。盾が守り、包丁が捌く。蓮よ、次はもっと大きな獲物を狙うぞ。俺様の晩酌を豪華にしろよ?』

 

 神様の笑い声と共に、霧が少しだけ晴れ、より深い階層への道が姿を現した。

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