世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜 作:お粥のぶぶ漬け
ジャーキーの山椒の風味が喉に残る中、蓮はさらに奥へと進んでいた。
『神の肴』というスキルは、どうやら魔物の鮮度と質を極限まで保ったまま「加工」して抽出する、料理人にとっての神業に近いものらしかった。
「……ま、今は生き残るのが先決だけど」
保津峡の深い霧を分け入ると、前方で激しい金属音が響いた。
カキン、カキンと、何かが硬いものに弾かれる音。そして、野太い咆哮。
「あわわわ! 来ないでください、痛いの嫌なんです!」
悲鳴の主は、大きな円盾(ラウンドシールド)の影に隠れて丸まっている少女だった。
彼女を囲んでいるのは、三匹の**【マッド・サラマンダー】**。体長一メートルほどの火を吹くトカゲだが、少女が構える盾は、その熱を吸い込むように青白く光っている。
「……あいつ、役所にいたやつだ」
蓮は思い出した。資格取得の際、ステータス画面を見た職員が「……全部『耐久』かよ。極端だなぁ」と頭を抱えていた少女、**佐伯 紬(さえき つむぎ)**だ。
彼女のステータスは、異世界の防御システムを八百万の神が「鉄壁の蔵」として魔改造したもの。攻撃力は皆無だが、不落の防御力を誇る。
「おい、大丈夫か!」
「ひゃああ! 人間の声!? 助けてください、この子たち、全然諦めてくれなくて!」
蓮は霧に紛れて接近した。
【丹波霧隠】が発動し、サラマンダーたちは背後に立つ蓮に気づかない。
『蓮よ、あのトカゲの尻尾はいい出汁が出るぞ。焼き切らずに、綺麗に落としてみせろ』
頭の中に響く「神様」の無茶振りに応え、蓮は『打刀・改』を横に一閃した。
霧の中から現れた刃が、三匹の尻尾を同時に切り離す。
【ログ:マッド・サラマンダーの尻尾を「収穫」】
【スキル『神の肴』発動!】
【ドロップ:サラマンダーの尾の燻製(ピリ辛仕立て)】
「……よし、取れた」
尻尾を失ったサラマンダーたちが、戦意を喪失して霧の奥へ逃げ帰っていく。
残されたのは、腰が抜けて座り込んでいる紬と、蓮の手に現れた、ホカホカと湯気を立てる「燻製」だった。
「だ、大丈夫か? 佐伯さん」
「……え、あの、ありがとうございます……。えっと、その手に持っている、美味しそうな匂いのするものは……?」
紬の鼻がひくひくと動く。
彼女のステータスは耐久全振り。その分、莫大なスタミナを消費するため、彼女は常に「空腹」というデバフを抱えやすい体質だった。
「これ? ……食うか? 攻撃アップのバフ付きだぞ」
「い、いいんですか……? いただきますっ!」
紬が燻製を一口かじると、彼女の周囲に黄金色のエフェクトが立ち上った。
【ログ:仲間(仮)の防御力がさらに上昇しました】
【ログ:お礼に「蔵の守護」の波動を分け与えられました】
「……美味しい。こんなに美味しい食べ物、私、初めてです」
涙目で燻製を頬張る紬。
攻撃力ゼロの「絶対の盾」と、魔物を美味しく調理する「神の料理人」の卵。
霧のダンジョンで、奇妙な二人組のパーティが結成された瞬間だった。
『ガハハ! いいコンビだ。盾が守り、包丁が捌く。蓮よ、次はもっと大きな獲物を狙うぞ。俺様の晩酌を豪華にしろよ?』
神様の笑い声と共に、霧が少しだけ晴れ、より深い階層への道が姿を現した。