世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜 作:お粥のぶぶ漬け
翌朝、蓮と紬を待っていたのは、昨日とは一変した保津峡の姿だった。
この保津峡ダンジョンは、地元の人間が知る山歩きの道とは全く異なる。異世界と融合したことで、空間そのものが引き延ばされ、一歩踏み込むごとに「横」への広がりを見せていた。
「霧島さん、見てください……。昨日あんなに歩いたのに、地図がまだ全体の数パーセントも埋まってません」
紬がスマホのマップ機能を見せてくる。そこには、蛇行する川と無数の枝道、そして「未探索」を示す霧がどこまでも広がっていた。
第一階層といえど、その広さは亀岡市全体を飲み込むほどに肥大化している。
「縦にも深いけど、横の移動だけで日が暮れそうだな」
二人は川沿いから少し外れ、切り立った岩場が続く「断崖エリア」へと足を踏み入れた。マップ埋めを兼ねた探索だが、ここに出てくる魔物は、昨日のサラマンダーとは気配が違う。
その時、蓮の『丹波霧隠』が不穏な揺らぎを見せた。
「佐伯さん、止まれ! 右の岩壁だ!」
蓮が叫ぶのと同時に、ただの崖だと思っていた岩塊が「展開」した。
体長三メートルを超える巨躯。岩に擬態した巨大な甲虫、**【ロック・ライノ・ビートル】**だ。異世界の重力魔法を帯びたその角が、重戦車のような勢いで突進してくる。
「ひゃあぁっ! 『鉄壁の蔵』、全開です!!」
紬が盾を地面に叩きつけ、腰を落とす。
ドォォォン!! という衝撃音が渓谷に響き渡った。
並の探索者なら盾ごと粉砕される一撃。だが、紬の「耐久全振り」のステータスが、その衝撃を物理的に地面へと逃がす。
「……っ、重いっ! でも、弾き返せます!」
「ナイスだ、佐伯さん!」
蓮はビートルの懐に飛び込んだ。
刀を構え、その硬質な甲殻を観察する。普通に斬れば刀が折れる。だが、蓮の目には、甲殻の継ぎ目にある「調理の急所」が光って見えた。
『蓮、そいつの背負ってる岩の下だ。そこに最高級の“蟹身”に近い筋肉が詰まっておる。……身を傷つけるなよ、包丁(刀)を寝かせろ!』
「包丁を寝かせる……こうか!」
蓮は刀を水平に寝かせ、ビートルの角が振り上がった一瞬の隙に、甲殻の隙間へ滑り込ませた。
「斬る」のではない。関節の構造を理解し、「外す」のだ。
スルリ、と手応えが変わる。
蓮が刀を引き抜くと同時に、ビートルの巨体がバランスを崩して横転した。
【ログ:ロック・ライノ・ビートルに致命傷】
【スキル『神の肴』発動!】
【ドロップ:岩甲虫の肩肉(冷製ボイル済み)】
【品質:極上】
【効果:一時的な防御力の永続上昇(微)、物理ダメージ軽減バフ】
「……よし。こいつ、この階層の『門番級』か? サラマンダーとは比べ物にならない硬さだったぞ」
蓮が収穫した大きな身を確認していると、紬が盾を抱えて寄ってきた。
「霧島さん、すごいです……。あの大きな魔物を、一瞬で『食材』にしちゃうなんて。……でも、マップの先を見てください。あんな感じの気配が、あと何十箇所も点在してます」
スマホのマップには、新たに感知された強力な魔物の反応が、点のようにあちこちに表示されていた。
広大な第一階層。横への広がりは、まだ始まったばかり。
二人は、手に入れた「肩肉」を分け合い、少しずつ強くなる魔物の気配を感じながら、じっくりと、確実に霧のマップを埋めていくことにした。
【現在の探索状況】
• マップ踏破率: 1.2%(亀岡保津峡エリア・第一階層)
• 確認済み魔物: ロック・ライノ・ビートル(中堅)、ウィンド・ホーク(上空警戒中)
• 霧島 蓮: レベル1.25(解体技術が少し向上)
• 佐伯 紬: レベル1.18(衝撃を逃がすコツを掴み、空腹度も良好)