世界再編 〜現代は異世界と混ざりそれでも進む〜 作:お粥のぶぶ漬け
ダンジョンの外は、いつもの亀岡だった。
霧に包まれた山々を背に、蓮は市役所での換金を終え、紬と「また明日」と約束を交わして自宅への道を歩く。リュックの中には、神様から授かった『神域の小出刃包丁』と、自宅用に持ち帰った少しの魔獣肉が入っている。
「ただいま」
「おかえり、蓮。……あら、今日は随分と遅かったじゃない」
玄関で出迎えたのは、エプロン姿の母・美津子だった。奥の居間からは、テレビのニュース番組の音と、何やら激しくゲーム機を叩く音が聞こえてくる。
「兄貴、おかえり! 初ダンジョンどうだった? 魔石いっぱい拾った? 強いスキル出た!?」
ドタドタと廊下を走ってきたのは、中学二年生の妹・結衣(ゆい)だ。彼女はこの「神話融合」後の世界にどっぷり浸かっている世代で、将来は「魔法少女」ならぬ「魔法探索者」を夢見ている。
「いや、魔石っていうか……肉を少しな」
「肉!? またお兄ちゃんの『おつまみスキル』? もー、もっとド派手な爆発魔法とか覚えてよ!」
文句を言いながらも、結衣の目は蓮が取り出した【銀紋の野ウサギのモモ肉】に釘付けだ。
「……蓮、これ、凄く綺麗な肉ね。変な臭みも全くないわ」
母が驚いた顔で肉を受け取る。
「神様の加護で、下処理済みなんだ。今日はこれで、ちょっといい夕飯にしよう」
その夜、霧島家の食卓には「野ウサギの和風ロースト」が並んだ。
一口食べた父が「なんだこれは、疲れが吹き飛ぶぞ……」と唸り、結衣は「お兄ちゃんの料理人スキル、意外とアリかも……」と夢中で頬張った。
家族の笑顔。それもまた、この世界を八百万の神々が守ろうとした「美味しいところ」の一つなのだと、蓮は静かに実感した。
翌朝:保津川上流「せせらぎの岩場」
翌朝、蓮は再びダンジョンへ向かった。
紬との待ち合わせまで少し時間がある。蓮は一人、昨日とは別の、水気が豊かな岩場に立っていた。
目的は、神から授かった『小出刃包丁』の試し斬りだ。
「……出してみるか」
蓮が念じると、手の中に一振りの包丁が現れた。
長さは十五センチほど。だが、その刃紋はまるで保津川の清流が凍りついたかのように美しく、握った瞬間に蓮の視界がパッと開けた。
『ガハハ! 目覚めたか。それはただの刃ではない。食材の“命の通り道”を見せる眼を使い手に与えるのだ』
神の声に応えるように、目の前の水溜まりから、一匹の魔物が飛び出した。
【飛沫(しぶき)の岩魚(イワナ)】。
全身を硬い氷の鱗で覆った、第一階層の隠れた強敵だ。
「……見える」
蓮の目には、岩魚を覆う氷の鱗の「継ぎ目」が、細い光の糸のように強調されて見えていた。
刀(打刀)の時は「面」で捉えていた感覚が、この包丁に持ち替えた瞬間、針の穴を通すような「点」の精度に変わる。
岩魚が水鉄砲を放ち、蓮の顔先をかすめる。
蓮は一歩踏み込み、小出刃を逆手に持ち替えて、その「光の糸」をなぞるように滑らせた。
シュン。
手応えは、水に刃を通したかのように軽い。
岩魚は空中で一瞬だけ制止したように見え、次の瞬間、氷の鱗だけがバラバラと剥がれ落ち、中から完璧に三枚に下ろされた状態の「身」が、蓮の用意していた竹の皮の上に重なった。
【ログ:飛沫の岩魚を「調理完了」】
【スキルレベル:包丁捌き(小出刃)が上昇!】
【ドロップ:極上・岩魚の洗い(冷気エンチャント済み)】
「……これだ」
蓮は震える手で包丁を見つめた。
ただ殺すのではない。最高の状態で「活かす」。
この小さな包丁が、異世界の巨大な龍や魔王すらも「料理」する未来が、微かに、だが確かな予感として蓮の胸に宿った。
「さて……佐伯さんと合流して、今日はこの『洗い』で朝飯にしようかな」
蓮は包丁を消し、満足げな表情で待ち合わせ場所へと歩き出した。
【現在の進捗】
• 霧島 蓮: レベル1.35(調理精度が大幅に向上)
• 新規獲得称号: 【小出刃の使い手】
• 今日の家族サービス: 妹の好感度が微増、母の料理の負担が激減。