オレと結婚してくださァァァァァァい!!!! 作:男子生徒
「今日から風紀委員会情報部に入部します!モルです!よろしくお願いします!」
あまりにも一方的な運命の出会いを果たした翌日。オレは純黒の制服を身に纏い、これから仲間となる人たちの前で不恰好な敬礼をしていた。
あぁ、みんな優しい。こんな不細工な敬礼なのに温かい拍手をしてくれるなんて……
「ただ、本当に自分なんかが入部してもよかったんでしょうか。銃もからしきですし……」
「それならば問題ない。確かに風紀委員会の任務は取り締まりや治安維持といった武力に物言わすことが多いが、こと情報部に関しては
『それに風紀委員会は万年人手不足ですしね』と部員の皆さんが茶化しながら雑談する姿を見て、ここはなんてアットホームな職場なのだろうかと感嘆する。
「早速だがモルには先輩部員とマンツーマンになってもらい、情報部の仕事を学んでもらいたい。ペアになりたい部員がいたら教えてく「あっ、じゃあ空崎さんでお願いします」早いな!?」
視線の先にはほんの少し困り眉を作る可愛らしい顔があった。
はぁ〜……すっげ〜眼福やわぁ〜……ずっと見てられる。
「いや、
「…………分かった。とりあえずこっちに来て」
空崎さんに呼ばれたので子鴨のように着いていく。
空崎さんに呼ばれてついてこないやついるゥ!?いねぇよな!!
あっ、申し遅れました。昨日一世一代の告白をして
─────
空崎さんに連れられて日が差し込む渡り廊下を歩く。周囲に人はいない。だけど物寂しさなんかちっとも感じないさ。だって空崎さんと二人っきりなんだからね。
「空崎さん、昨日は本当にありがとうございました。もし空崎さんがいなかったら、きっと今頃人生が没になっていました。しかも、ゲヘナ学園の入校手続きから部活の紹介まで何から何までお世話になって……」
本当に至れり尽くせりだ。とても初対面でプロポーズした怪人に対する施しではない。
「これくらい大した事ない。それに人生が没になるなんて大袈裟ね」
「いや、マジで本当に大真面目に終わりかけてたんです……」
絶対あの
まぁ、どう伝えても理解してもらえる構図が浮かび上がらないからいいけど……
「それより本当に良かったのかしら。
「空崎さん、何度も言いましたがオレはゲヘナ学園以外に所属するつもりはありませんでしたよ」
「………どうして?」
どうしても何も……
「空崎さんに一目惚れしたからです!!だから結婚してください!!」
「無理よ」
「ガーン!!」
人生二度目のプロポーズもあえなく撃沈。あれ、目から汗が……
「私を、その……す、好いてくれるのは嬉しいけど……私たち昨日会ったばかりじゃない。それなのにどうして成功すると思ったのかしら」
「魂が言えって叫んでたから……」
「……変わった人。ハァ、どうしてゲヘナには変わった人ばかり集まるのかしら」
オマケに奇人扱いされちゃった。うん、正論すぎて何も言えねぇ。
「私はあなたのことを何も知らない。それはあなたも同じ。だから、お互いゆっくり時間をかけて知っていきましょう。まずはそこからだと思うわ」
「そ、空崎さん……!」
変人だったとしても、寄り添う姿勢を崩さない優しさ。嗚呼、やはり彼女に一目惚れしたオレの目に狂いはなかった。本当に最高にいい人だ。
「それはそうとプロポーズはしていいですか?」
「どうして???」
─────
今更だが、この世界が元いた世界とは全く異なる異世界だと知ったのはついさっきだ。
まず、キヴォトスとは地名ではなく、数千の学園が集まって出来た超巨大学園都市の総称を指し示すものらしい。つまり、この世界の名前が【キヴォトス】なわけで、ゲヘナとかトリニティといったものが国名みたいなものだと思ってもらって構わない。
そして、キヴォトスは超銃社会であること。また、キヴォトスに暮らす人々は銃弾では死なないということだ。
最初は『バケモン?』と思ったが、よくよく考えたらオレも目覚めの一発もらってたのに(めちゃくちゃ痛かったけど)ピンピンしていたし、人のことをバケモンと思う資格なんてなかったんですよね。
さて、勘のいい人はお気付きだろう。
銃如きでは死なないこの世界では、否が応でも銃に触れる機会が訪れてしまうということに。
「まったく、昨日の今日でこの騒動。本当に面倒くさい」
情報部だから、まず最初の仕事は情報の精査だと思ったでしょ?オレもそう思っていました。
最初の任務は市街地で暴れるヘルメット団の鎮圧です。
ぶ、部長……?情報部はそこまで戦場に出ないんじゃ……?
「…………」
「……大丈夫?足が生まれたての子鹿みたいよ」
「ヘァ!?こ、これは武者震いですよ武者震い!全然へっちゃらです!」
空崎さんがいる手前、男の見栄で何とか取り繕えているが、ぶっちゃけ一人だったら泣き喚いた後に泡吹いて失神している。
あぁ、これは、あれだ。完全にトラウマになっている。
あの痛み。マッチョの全力グーパンを一度に十発受けたかのような痛みと、脊髄ごと揺らされる衝撃。
あの感覚は今後も慣れない───否、
なのに、アレをこれから何十と受けると思うと……
「………無理は良くない。昨日の後遺症がまだ残っているのね。今日は私が鎮圧するから、あなたはあの路地裏に隠れていて」
………気遣われてしまった。
あまりにも慈悲深く、そして
空崎さんは本当に優しい人だ。オレみたいな役立たずを邪険に扱うどころか、心の底から心配してくれる。
だから、だからこそ─────悔しいなぁ。
「ふんっ!!!」
「ッ!?」
自身の頬を思い切り叩いた。やけに張りと艶のある良い肌だった。
ただ、普通に痛い。
「────いったぁい……」
「な、何してるの?」
「あはは、すみません。ちょっと喝を入れようと思いまして……」
……そっか。好きな人に
きっと、空崎さんはオレを路地裏に避難させた後、すぐさま鎮圧に向かうのだろう。一度も振り返ることなく、オレの存在なんて最初からなかったかのように。
対してオレは路地裏で指を咥えて見ているだけ。目を輝かせながら、バカみたいに空崎さんを褒め称える言葉をツラツラと吐くのだろう。
それが悪いって言いたいんじゃない。
ただ───惨め。嗚呼、あまりにも惨め。いっそその場で死んだ方がいいほどの負け犬っぷりだ。
そんなんじゃダメだろう。
そんなんじゃ、いつまでも。
そんなんじゃ、空崎さんは一生見てくれない。
「───オレも行きます。どれだけ役に立てるか分かりませんが、それでも」
「…………分かった。でも、無理だけはしないように」
「ふふっ、無理だなんてそんな。元より無理なんかしてないですよ!HAHAHA……!」
「……嘘つき」
う、嘘じゃないですよ?オレは誰よりも正直者ですから。ホントホント(汗ダラダラ)。
疑いの目を向けてくる空崎さんの視線から逃れるように、今一度戦場を見渡す。どこもかしこも穴だらけで、今も容赦なく銃撃戦をしている。
しかし、不思議と恐怖は薄れていた。
さらに、改めて自身の装備を見る。
オレの聖剣はこの支給用の拳銃一丁のみ。防弾チョッキなんてものは勿論ない。RPGだったら“始まりの村”とかで装備しているぐらい心許ない装備だ。
しかし!強武器はなくてもクールでキュートなヒロインならここにいる!ならば怖いものなし!
「ここで活躍して空崎さんにカッコイイ所を見せるぞ〜!!」
雄叫びと共に初の戦場へと繰り出す。
オレたちの闘いはこれからだ!
結果、数発でノックアウトしました。
突貫したのは良いものの、銃撃戦の基本も知らないズブな素人が特攻したところで、それは相手からしてみればネギを背負ってきた鴨なわけでして。
結局ほぼ空崎さんに任せる形になっちゃった。とんだ生き恥だね!あ゛〜、お空が綺麗だな゛〜……(現実逃避)
「その…………大丈夫?」
「へへっ、へへへっ、こんな雑魚でごめんなさい粋がってごめんなさい自分なんて所詮アリンコノミムシ以下です生きててすみません……」
「これは重症ね……」
恥ずかしい、恥ずかしいよ!あんな威勢よく飛び出して数秒でノックアウトは流石に恥ずかしいよ!空崎さんに合わせる顔がない。
幻滅されたに違いない。空崎さんが掛ける言葉一つ一つが怖い。今だけは空崎さんの言葉を聞きたくないとすら思っている。
「確かに、ヘルメット団にコテンパンにされたときはビックリしたけど……」
「うぐっ!?」
「拳銃で特攻したときは“なんて無謀なことを”なんて思ったけど……」
「ガハッ!?」
空崎さんもうやめて!オレのライフはもうゼロよ!?
「────でも、あなたは立ち向かったじゃない」
宝石の如き輝きを持つアメジスト色の瞳がオレを写す。
真っ直ぐだった。あまりにも、愚直に、真剣な眼差し。
それが今言ったことがお世辞や煽てるための言葉ではないことの証左となる。
「どうしてかは分からないけれど、きっと銃弾が怖いなのね。だからあんなにも震えていた」
蹲るオレの手を優しく包み込み、慈愛を照らす女神のような温かい声でオレの凍てついた心をとかしてくれる。
「だけど、あなたは逃げなかった。恐怖に打ち勝った。それだけでも凄いことよ」
「……でも、空崎さんにご迷惑ばかりおかけして……」
空崎さんに褒められた。
そのことに自然条件で嬉しさや達成感が湧き出る……が、やはり複雑なものは複雑だ。もっと別の方向で褒められたかったから。
「強さが全てじゃない。人には誰だって得意不得意があるし、無理に強くなろうとしなくていい」
「…………いえ、オレは強くなりたい。ならなきゃいけないんです」
「どうしてそこまで……」
……………どうして、か。
「───あなたに並び、超えるため」
空崎さんに守られ続ける人生なんて嫌だ。そんなんじゃ彼女の心を射止めることなんか出来やしない。
認識を改めよう。ただ一緒にいるだけじゃ、この人に相応しい人間になれない。
オレは
「─────」
「あの?空崎さん?」
「あっ、いや、えぇ、そうね……い、良い目標だと思うわ……!」
「???」
なんか顔を真っ赤にしてそっぽ向いてしまった。なんて可愛らしい表情なのだろうか。
で、ところで何で???
「………なら、一つ提案があるんだけど」
「提案ですか?もちろん良いですよ」
「まだ何も言ってないわよ」
「空崎さんが仰れば何でもやります」
「あなたの将来が心配になってきた……」
「ご心配なさらずに、空崎さん限定なので。むしろ空崎さん以外だったらNOの比率の方が高いですよ」
「それはそれでどうなのよ」
ここで一つ咳払い。細く綺麗な人差し指を立てて、その提案を告げる。
「私があなたを鍛えるわ。見たところ銃の構え方も分からないようだし、基礎の基礎から全部教える。どう?」
…………なんだ。やっぱり即答して正解だったじゃないか。
「よろしくお願いしまぁぁぁぁす!!!それと結婚してくださぁぁぁぁい!!!」
「それは無理よ」
「ガーン!!」
しまった、嬉しくてついプロポーズが……!
「今日からですか!?」
「いえ、明日からよ。今日は英気を養いなさい。じゃあ、鎮圧も出来たことだし、次にその後の対処も教えていくわ。いい?」
「はい喜んで!!」
純銀の髪を靡かせながら振り返る彼女の背を追う。
小柄であるその背中が、あまりにも大きくて、遠い。
だけど、きっといつか届かせてみせると心に誓った。