オレと結婚してくださァァァァァァい!!!! 作:男子生徒
広い校庭の中央に佇む二つの影。
一人は見目麗しい少女。しかし、その小さな体躯に見合わないゴツく大きい武器を手にし、悠々自適と立ち聳える。
一人は平々凡々な黒髪の少年。ピストルと盾といったあまりにも貧弱な武器を携え構えている。少々浮ついた雰囲気を醸し出している。
そして、その二人を囲むように、周囲には疎に観衆が居座る。その誰もが固唾を呑みながら二人の行く末を見守る。
「いつでも来て」
「はい!よろしくお願いします!」
その一言と共に少年は駆け出す。
ブレる体幹を脇を締めることで固定し、その銃口を少女へと向け、発砲。
脳天に突き刺さるかと思われたその銃弾は、少女によって難なく弾かれれる。
少女は弾いた銃弾の行方を一瞥することなく、周囲の野次すらも認識していない。彼女の視界に映るのはたった一人の存在。徐々に近づいてくる少年の一挙一動のみを見ている。
「今日は近接戦でいきます!銃の強みは遠距離から攻撃が出来ることですからね!」
などと、作戦をバカ正直に話し、威嚇射撃しながら突貫してくる少年に少女は僅かに頬を緩める。
「えぇ、そうね。確かに間合いを潰されて良い気分になる人はまずいない」
「ですよね!」
「ただ────」
少年が自身の目の前までやって来るのを
少年は脊髄反射で頭部丸ごと横にズラすが、少女の足蹴りで体の軸がブレ、盛大に背中から落下する。
「相手も近接戦闘の対策をしていることを忘れてはならない。こんな風にね」
最後に銃口を向けて試合終了。
完敗。完膚なきまでの
しかし、彼の心はこれ以上なく満ち足りていた。ひとえに、好きな異性と同じ時間を過ごせている幸福からだが。
「あ゛〜……今日も完敗か〜。空崎さんはやっぱりスゴイなぁ〜」
「そう簡単に勝てたら師事している意味がないじゃない。それに、あなたもちゃんと成長しているわ」
「本当ですか!?やった!」
大の字になりながら心の底からの屈託ない笑顔を咲かせる彼を見て、彼女もまた目を細め、頬を緩ませる。
彼を師事し始めて気づけば数週間。最初はモルの真剣な眼差しに心を動かされて提案しただけであったが、この数週間で彼女にとっても大切なひと時となっていた。
|事の張本人〈モル〉はその事実を知る由もないが。
「お疲れ様。よく頑張ったわ、モル」
小さき巨人───空崎ヒナはモルに手を差し伸べる。その姿はさながら戦場に舞い降りた女神。大袈裟かもしれないが、少なくとも彼の目にはそう映っていた。
その笑顔が、その優しさが、その温かさが、彼の心音をさらに高鳴らせる。彼の魂に燈が宿る。
ビバ青春、ビバ今世───彼は心の中でそう唱えた後、躊躇いなくその手を取ろうと伸ばし────
「はい、ありがとうござ「した……いえ、負傷者一名発見。直ちに救護を開始します」ギャアアアアアアア!?!?」
「………………」
差し出した手は虚しく空を切る。
ただ空間と握手する少女が校庭の中央に取り残されたのであった。
─────
「見慣れた天井だ……」
驚きだよ、まさか見慣れない天井ではなく見慣れた天井を口にするようになるとは……
ここはゲヘナ救急医学部の部室。所謂保健室的な場所。
そんな場所に来た───否、連行された理由は、目の前でオレの体に傷薬を塗ってくれている子であるわけだが。
「全身に擦り傷、腕に筋肉の炎症、背中と足に数ヶ所の打撲、その他諸々。よく毎日これだけ傷だらけになることができますね」
「多分そのうちの何個かはここまでの道中で出来たものもありますね」
「それはつまり…………私が見ていないうちにまたしても銃撃戦をしていたということでしょうか?」
「オメェのせいだよオメェの」
はて?と首を傾げる彼女の名は氷室セナさん。
ここ最近毎日顔を合わせている(強制)人物であり、オレを保健室通いにさせている主な原因である。
この子、本当に容赦ない。マジで怪我人を死体のように扱ってくる。じゃないと校庭からここまで引き摺りながら運ぶなんてことはしないだろう………しないよね?
「それで、本日はどのように負けたのですか?」
「負け前提で話すのやめません?」
「でなければ地面に臥していないでしょう」
「…………ぐう」
「ぐうの音が出ないからってぐうの音を出さないでください」
正論が痛い。どうやら彼女は心が硝子で出来ていることを知らないようだ。
ここに通い始めて(強制)数週間。最初の頃は淡々と作業をこなしていた彼女だったが、その空気感に耐えられなかったオレがふと空崎さんとの特訓の話をしたのだ。
その日以来、彼女は度々こうして尋ねてくるようになった。会話も増えたように思う。相変わらず掴みどころのない不思議な人ではあるが。
「というか、あの速さで回収しに来てんだから、どっかで見てたんじゃ?アレはもう待機していたとしか思えないスピード感だったんスけど」
「えぇ、その通りです。あなた方が校庭で撃ち合いを始める時間帯は大体把握していますから。それに分かりやすく野次も出現します。今日もどちらが勝つかで賭け事を楽しむ声が響き渡っていましたよ」
「見せもんちゃうぞ!」
見られていたのは知っていたが、まさか本人の許諾なしに賭け事をしていたとは。オレは良いが空崎さんにはちゃんと許可を取れよ!
「まだ質問に答えてもらっていませんが」
「え?いや、知ってるんですよね?待機して見てたんだから。何でオレに聞くんですか?」
そう問いかけると、澱みなく動かしていた手がピタリと止まる。何となく困惑している雰囲気が出ていると直感する。
「…………言語化しづらいです。ただ、何となくですが、あなたから直接聞きたいのかもしれません」
「敗因を?」
「見事な負けっぷりをです」
「そこまで言ってない……」
まぁ良いけど……
といった感じで、氷室さんに今回の見事な負けっぷりをこれでもかと分かりやすく説明した。あと、やっぱりスゲー悔しかったこととか、やっぱり空崎さんはスゴイといったひとつまみの自慢も添えて。
ただ、全てを聞き届けた彼女は『頭の中も診察した方がよろしいでしょうか?』なんて容赦のない一言でぶん殴ってきたのでオレは泣いた。
「空崎ヒナの戦闘力はここ最近のゲヘナでも話題になっています。そんな相手に単騎で真っ直ぐに突っ込むのは愚策としか。今回は訓練という名目上なかったようですが、相手が誰であれ本来は近づいてくる時点で迎撃されていますよ」
「………………………………確かに!!!」
「やはり頭の中も診察いたしましょうか?」
「そんときオレは患者じゃなく死者になってますよ」
「それは僥倖ですね」
「何が???」
この子怖い……やっぱりゲヘナって変な人多いな〜……
「治療が終わりました。まだ痛みを感じる箇所はありますか?」
「ん〜……ないっス。いやー、本当にスゴイ!何でいつも痛みが綺麗さっぱりなくなっちゃうのか。不思議だ」
「業務ですから」
氷室さんの腕前は素人目から見ても本当にスゴイ。なのに本人はそれを嵩に懸かるようなことはしない。まさに必殺仕事人って感じ。
「いつもありがとうございます、氷室さん。本当に感謝してます」
「…………えぇ、まぁ、はい。そう真っ直ぐに感謝されると照れてしまいますね」
そう言う割に無表情なんだが。まぁ、本人がそう言ってるんだしそういうことにしておこうか。
─────
「空崎さんどこ〜……?」
氷室さんと別れた後、空崎さんの元へ行くために、一度校庭に戻ったがいなかったので校内を探し回っている。
しかし、何だかスゴイ人だかりだ。どうしてこんなに………
────ギュルル。
「………そういえば、もうお昼か」
どうやら自分の腹時計は正確無比なようで、時計を見ればちょうど12時を回った頃だった。
ということは、ここにいる人たちはみんな食堂に向かっているということなのだろう。
「お腹空いた……でも空崎さんを探さないと……あぁでも……」
のらりくらりと考えていれば、無自覚にも足は食堂へと歩みを進める。
もしかしたら空崎さんもお昼を摂っているかもしれないし……だから決して欲望に忠実というわけではないからな。
「唐揚げ定食めっちゃウメェ〜!!」
オイこの唐揚げ定食バカみたいにウメェな!
ご飯二杯、いや三杯いけちゃうわ!
たくさん食べること、それ即ち栄養を蓄え筋肉をつけること。何事にも力に変えるべし。空崎さんだってそうする。ならオレもそうする。
「あらあら、豪快かと思いきや随分と綺麗にお食べになられるのですね。私、お出しされた一皿を丁寧に食する御方は好きですわ」
「いや〜それほどでも〜……………ん?」
隣から銀髪の美人さんがオレの茶碗を覗き見ていた。何だろう、すごくシュールだ。
ついでに言えば、彼女の目の前にはオレと同じ唐揚げ定食がある。
「あまりにも美味しそうに食べていらしたので、つい私も唐揚げ定食を購入してしまいました」
「えっ、そんなに目立ってました?恥ずかしい……」
「うふふ。それでなんですが、もしよろしければ相席してもよろしいでしょうか?」
「む?」
意外も意外だ。こんな美人さんなら引くて数多だろうに、どうしてわざわざオレと一緒に昼食を摂りたいなどと言い出してきたのか……
まぁ、断る理由も特にないし、全然OKだけど。
「もちろん!ささ、お隣は温めておきました」
「ふふっ、そんなまさか────本当に温かいですわね」
もしかしたら空崎さんが来るかもって思って両サイドの席を温めてて良かったぜ。
そんなこんなで見知らぬ美人さんと会話しながら唐揚げ定食を食べていく。
聞けばかなりのグルメな人だった。話せば話すほど、食に対する拘りみたいなものを感じられた。
それにしても、見惚れるぐらい綺麗な所作で箸を運ぶものだ。話し方も丁寧だし、もしかしたら結構良いところのお嬢様だったりして?
「この唐揚げ定食、本当に美味しいですね」
「ですよね〜。初めてお食べになられたんですか?」
「いえ、実は以前この唐揚げ定食を頼んだことがあるのです。ですが、以前食べた時は“普通”で、美味しくも不味くもないといった評価だったのです。何か特別な調味料を付け加えたのでしょうか?」
結構ガチで考え始めちゃった。
でも、何となくだけど、その答えは調味料とか秘密の隠し味とか、そんな
「そりゃそうですよ。一人で食べるより、誰かと一緒に食べた方が美味しいに決まってますし」
「─────」
「オレだってそうです。あなたが来てくれたお陰でより唐揚げ定食が美味しくなりました」
人間って不思議よね〜。形も大きさも味も同じ筈なのに、どうしてか誰かと一緒に食べるとより美味しく感じられる。唐揚げウンメェ!
「───ふふっ、ふふふっ。嗚呼、そうだったのですね。誰かと談笑し、共に食事を楽しむことこそが最高の調味料であり隠し味だったのですね。そして、それこそが人類の叡智であると」
えっと、何だろう。悟り開いちゃった?なんか味の探求に人生を捧げた仙人が最期に辿り着く答えみたいになってるんですけど。
え?待ってオレらって昼食摂ってるだけなんだよね?
「決めました。私、共に味を探究し合える仲間を集めようかと思います。共に食事をし、より美味しく感じられるような、そんな同志を」
「えっ、あっ、そう……」
「そこでなんですが、是非あなたに私が創設する部活動に加入していただきたいのです。あなたとなら毎日の食事が美味しく感じられるような気がするのです」
うぅ〜ん、気持ちは嬉しいんだけど……
「その〜……実はもう部活動に加入してまして……」
「そうなのですか?………ならば仕方ありませんね。残念ですが勧誘は諦めます。本当に残念でなりませんが。えぇ、本当に……」
「あっ、で、でも!こうやって偶に一緒に食事は摂れるし!連絡してもらえればいつだって!だから、その……」
あまりにも暗い顔をするものだから、浮気がバレた男の如く思いつく言葉を羅列してしまった。
そんな醜態を見てか、銀髪の美人さんはクスクスと笑い始めた。うん、死んで良いかな?
「…………そんな風に優しくされたら、引くにも引きたくなくなってしまうではありませんか」
「ゑ?」
「やっぱり諦めきれません。今回はフラれてしまいましたが、これからも何度もお誘いします。いつでも歓迎ですので、もしそちらの部活動に嫌気がさしたらいらしてください」
なるほど、かなりアグレッシブなパワー系お嬢様だったか。
とはいえ、ぶっちゃけ風紀委員会を辞める未来が想像できない。理由は空崎さんがいるから。空崎さんが辞めるならその限りではないけど……
「まぁ、一応選択肢には入れておきます」
「ふふっ、では私はもう行きますね。………今日あなたと出会えて良かった」
銀髪の美人さんは全く身に覚えのない感謝を告げた後、綺麗なフォームでスタスタと食堂の玄関────ではなく東の壁沿いで足を止めた。
……?何をしているのだろうか。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」
壁に手を添え、顔をこちらに振り返る彼女。
何故だろう、すごく、すっっっっごく嫌な予感がする。
「私は黒舘ハルナと申します。以後お見知りおきを、モルさん」
─────食堂の壁がぶっ壊された。
何故壊したのか、何故壊さなくてはならなかったのか、それは誰にも分からない。
ただ、そのブチ抜いた穴から颯爽と駆けていく彼女の後ろ姿を見てこう思った。