俺と彼女と召喚獣   作:黒猫箱

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問:以下の問いに答えなさい。
『(1)4sinX+3cos3X=2の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を一つ答えなさい。
(2)sin(A+B)と等しい式を示すのは次のどれか、①~④の中から選びなさい。
①sinA+cosB

②sinA−cosB

③sinAcosB

④sinAcosB+cosAsinB』


姫路瑞希の答え
『(1)X=π/6  (2) ④』

教師のコメント
そうですね。角度を『゜』ではなく『π』で書いてありますし、完璧です。


土屋康太の答え
『(1) X=およそ3』

教師のコメント
およそをつけて誤魔化したい気持ちもわかりますが、これでは解答に近くても点数はあげられません。


吉井明久の答え
『(2) およそ③』

教師のコメント
先生は今まで沢山の生徒を見てきましたが、選択問題でおよそをつける生徒は君が初めてです。


神崎達哉の答え
『(2)⑤』

教師のコメント
吉井君よりも酷いです。




第5問『vs.Dクラス』

 

 

 

 午後──。

 昼休みの終了を告げるチャイムが校舎中に響き渡ると同時に、俺たちFクラスとDクラスによる試召戦争の火蓋が切って落とされた。

 俺たちの布陣は、現在前線に秀吉率いる先攻部隊、彼らとFクラスの中間あたりに明久率いる中堅部隊が展開している。皆今回が初陣というだけあり、気合の入り方が半端じゃない。試召戦争は開戦早々から怒号の飛び交う混戦となり、それを聞きながら俺は雄二と共にFクラスの教室で待機していたのだった。

 

「……解せぬ」

 

「気持ちは分かるが我慢してくれ、達哉。お前はウチの秘密兵器なんだ。最初から使う訳にもいかないだろう?」

 

「む〜……」

 

 Fクラスの代表は雄二だから、彼の指示には基本的に従うつもりでいるが、しかしこの退屈感は如何ともしがたい。そんな俺の心情を察してか、雄二は小さく溜息をついて、

 

「なんなら、達哉が指示を出してもいいぞ?」

 

「うえ? いいのか?」

 

「まあ、今ならまだ大丈夫だろう。それに、達哉なら俺たちに不利になるような滅茶苦茶な指示は出さないだろうしな」

 

 そこまで言われてはこちらもやらない手はない。雄二の言葉を快く受け入れて俺はまず戦場全体の状況を把握するために耳を澄ました。

 

『さあ来い! この負け犬が!』

 

『て、鉄人!? 嫌だ! 補習室は嫌なんだっ!』

 

『黙れ! 捕虜は全員この戦闘が終わるまで補習室で特別講義だ! 終戦まで何時間かかるか分からんが、たっぷりと指導してやるからな』

 

『た、頼む! 見逃してくれ! あんな拷問耐えきれる気がしない!』

 

『拷問? そんなことはしない。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味が勉強、尊敬する人物は二宮金次郎といった理想的な生徒に仕立て上げてやろう』

 

『お、鬼だ! 誰か、助けっ──イヤァァッ──(バタン、ガチャ)』

 

 ふむ、把握。

 

「横田。今から俺が言う言葉をそのまま明久たち中堅部隊に伝えてくれ」

 

 教室の入り口で待機していたクラスメイトの横田を呼び寄せる。

 

「何て伝えればいい?」

 

 駆け寄ってきた横田は、右手にペンを、左手にメモ帳を持ちながら俺の言葉に耳を傾けた。そんな彼に俺は笑顔を向けながら、

 

「『逃げたらコロス』」

 

 この三十秒後、教室の外から『全員突撃しろぉーっ!!』という明久の切羽詰まった怒声が聞こえてきた。

 

「さすが達哉だな。今の指示、明久の行動を先読みして出したのか?」

 

「ああ、当たり前だろ。状況が悪くなったらすぐ逃げるのが明久だ」

 

 それは去年一年あいつと共に過ごしてきて嫌というほど理解していることである。明久に退路はない。

 

「前線部隊、今戻ったぞい!」

 

 俺と雄二が悪どく笑い合っていると、前線で戦っていた秀吉が帰って来た。彼の他に帰還したのは二人ほど。前線部隊はほぼ壊滅と言っていいだろう。今は明久たち中堅部隊が入れ替わりでDクラスと戦っている。

 

「秀吉、無事でよかった」

 

 俺は秀吉に近付き、彼の両肩に手を置いた。今はとにかく、秀吉が無事だっただけで嬉しかった。他の男どもはどうでもいい。

 

「う、うむ……ありがとうなのじゃ、達哉……」

 

 秀吉はほんのりと頬を染めながら視線を外す。その仕草があまりにも可愛いく、つい抱き締めたい衝動に駆られてしまう。別に飢えているわけではない。

 

「おいお二人さん。イチャつくのは構わないが、今は試召戦争の方にに集中してくれると助かる」

 

 と、そんな雄二の呆れを含んだ声が聞こえてきて、ハッと我に帰った秀吉は俺から一歩後ずさる。

 

「わ、ワシは点数を補給してくる!」

 

 そしてそのままテストを受けるために教室の奥に行ってしまった。折角の癒しがいなくなってしまい悲嘆する俺だったが、すぐに立ち直り、雄二の元に歩み寄る。

 

「で、状況はどうだ?」

 

「あまりいいとは言えないな。さっきの達哉の伝言の効果が無くなって、明久たちも徐々に押され始めている」

 

 いくら時間稼ぎが目的とはいえ、このまま押し切られれば一気に本陣に敵が雪崩れ込んできてしまう。そうなれば俺たちに勝ち目は無い。さてどうするかと悩んでいると、前線部隊の須川が教室に入ってきて、俺と雄二の元に駆け寄ってきた。

 

「代表、神崎! 教師に偽情報を流すよう吉井に指示されたんだが、何か良い案はないか?」

 

 あ、ピーンと来た。

 

「須川、俺にいい考えがある」

 

「本当か!」

 

 頷き、指で須川を呼び寄せて耳打ちをする。しばらく俺の考えを相槌を打ちながら聞いていた須川は、途端に顔を戦慄に歪めた。

 

「ま、マジかよ……! さすが神崎……何て恐ろしい策を思いつくんだ!」

 

「これもFクラスの勝利のためだ。頼んだぞ、須川!」

 

 恐怖と畏敬に体を震わせる須川を奮い立たせ、俺は親指を立てる。すると須川も「任せとけっ!」と親指を立て返してダッシュで教室を出て行った。

 

「須川に何て指示したんだ?」

 

「すぐに分かる」

 

 首を傾げる雄二にそう返し、その言葉に合わせるように、ピンポンパンポンと校内放送を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

『連絡致します』

 

 声の主は須川だった。

 

『船越先生、船越先生。吉井明久君が生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうなので、至急体育館裏までお越し下さい』

 

 瞬間、教室内だけでなく、戦場全体が凍り付いた。

 船越先生とは、数学を担当している45歳独身の女教師で、婚期を逃した結果、ついに生徒たちに単位を盾に交際を迫って来るという、男子にとっては鉄人以上に恐れられている存在である。

 

「た、達哉……お前……」

 

 さすがの雄二も、船越先生を使った非情な作戦にドン引きしていた。気持ちは分かるが、しかし雄二よ、俺だって鬼じゃない。明久を生贄に捧げるという行為に心が痛んだんだ。三十秒くらい。

 

 ともあれ、明久の文字通り体を張った(というか張らせた)行動に、再びFクラスの士気が上昇。劣勢だった戦況をなんとか互角まで戻すことに成功し、さらに雄二自らの援軍によってDクラスの部隊を一時撤退まで追い込むことができた。しかし深追いは危険とFクラスも一時撤退し、俺たちと明久たちは教室で合流を果たした。

 

「明久、良くやった!」

 

 生き残った前線部隊が補給テストを受けて点数を回復させた後、俺は心身共に疲れ切っている明久に近付き、満面の笑みで彼を褒め称えた。

 

「……ありがとう達哉。さっきの校内放送、聞こえてた?」

 

「バッチリと」

 

 というか、指示を出したのは俺だし。

 

「そう……それはそうと達哉、須川君がどこにいるか知らない?」

 

「そろそろ戻ってくると思うぞ?」

 

「そっか……良かった」

 

 そう笑顔で呟いた明久の懐で、キラリと包丁が光った。

 

「殺れる……僕なら殺れる……!」

 

「殺るなっての」

 

 その目に確かな殺意の色を帯びながら、明久は「早く逢いたい……」と包丁を見つめた。そんなに船越先生に追い回されたのが辛かったのか。

 

「ちなみにだが……」

 

 そんな明久の姿を見て、雄二が彼の側にやって来る。

 

「あの放送を指示したのは達哉だ」

 

「シャアァァァアッ!!」

 

 明久は鋭く踏み込み、懐の包丁を躊躇なく突き出した。狙いは避けにくい上に致命傷になりやすい肝臓。

 

「あ、船越先生」

 

 しかし俺は特に慌てず、今の明久にとって恐怖の象徴の名を口に出す。すると明久は「ちぃっ!」と舌打ちをして、卓袱台を蹴散らしながら掃除用具入れに飛び込んだ。

 

「おいおい明久、そんな所に隠れたらもしバレた時に逃げ場が無いぞ? 俺が開かないように鍵を掛けておいてやる」

 

「うん、頼むよ達哉!」

 

 明久から許可も貰ったので、俺は彼の入った掃除用具入れが開かないよう、厳重に鎖で縛り、ついでに南京錠で鍵を掛ける。これで扉が開かれることはないだろう。外からも、もちろん中からも。

 

「さ、バカは放っておいて、そろそろ決着をつけるとしようぜ、雄二」

 

「そうじゃな。ちらほらと下校しておる生徒の姿も見え始めたし、頃合じゃのう」

 

「……………(コクコク)」

 

「おっしゃ! Dクラス代表の首級を獲りに行くぞ!」

 

『おう!』

 

 雄二の号令に答えて、生き残った者たちが次々と教室から出て行く。俺もその流れに乗って教室を出る……その前に。

 

「明久、船越先生が来たって、嘘だから」

 

 その瞬間、ガタガタと掃除用具入れが激しく揺れるが、鍵と鎖でビクともしない。俺はそのまま明久を放って戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「下校している連中に上手く溶け込め! 取り囲んで多対一の状況を作るんだ!」

 

 雄二の声が戦場全体に響き渡る。次の俺たちの戦略は、下校時間のどさくさに紛れて敵に近付き、取り囲んで一気に討ち取るというものだった。姑息な手段と思われるかもしれないが、クラスの半数以上を既に補習室送りにされている今、Fクラスが勝つためにはこれしか手段が無いのである。

 

「Dクラス塚本、討ち取ったり!」

 

 一際大きな声が上がる。Dクラス前線部隊の指揮に当たっていた塚本を倒したようだ。各クラスのHRが終わり、先生が捕まえやすくなったということでこの作戦は非常に上手く回っていた。指揮官を失ったDクラスの前線部隊は、Fクラスの作戦の前に崩されていく。

 

「援護に来たぞ! もう大丈夫だ! 皆、落ち着いて取り囲まれないように周囲を見て動け!」

 

 しかし、ここでDクラス代表・平賀源二率いる本隊が援軍に駆け付けた。

 

「本隊の半分はFクラス代表・坂本雄二を獲りに行け! 他のメンバーは囲まれている仲間を助けるんだ!」

 

『おおーっ!』

 

 平賀の号令の下、あっという間に俺たちの周りがDクラスメンバーで囲まれる。こちらにも本隊がいるからそうそうやられはしないが、戦況はかなり厳しい。

 

「Fクラスは全員一時撤退しろ! 人混みに紛れて撹乱するんだ!」

 

「逃がすな! 個人同士の戦いなら負けない!」

 

 平賀の指示により分散していくDクラス本隊。平賀自身を守る近衛部隊をも追撃に回したことで、彼の周りの防備が一気に手薄になった。この機を逃さず平賀を討ち取りたいところだが、あいにく他のメンバーは敵の猛攻に遭い、手が回らない。

 

「達哉!」

 

 その時、雄二が俺を呼び寄せた。

 

「待たせたな、今こそお前の力を見せつけてやれ」

 

「……良いのか?」

 

「ああ、最後の策を実行するにはお前の力が必要だ。派手に暴れろ」

 

 許可が出た。その瞬間、俺は口の端を獰猛に吊り上げ、Dクラスの本隊に突撃した。

 

「おい! こっちに向かって誰か来るぞ!」

 

「Fクラスか!」

 

「ぶっ倒せ!」

 

 俺の接近に気付いた三人の近衛部隊が瞬く間に俺を取り囲み、古典教師の向井先生の承認の下で召喚獣を召喚した。

 

「へっ! Fクラスのくせに一人で突撃するとはバカな奴め!」

 

「やっぱりFクラスだな。状況判断もできないとは」

 

「お前なんか瞬殺さ!」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべながら眼前に立ち塞がる三人。しかし俺は、焦るわけでもなく、笑った。

 

「ハッ、バカはお前らの方だろうが」

 

 そして、手を前に突き出し、三つの音を紡ぎ出す。

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 魔方陣が展開し、まるで地面から木が生えるように召喚獣が形成される。

 その姿は、言うなれば日本一の兵。

 腰元まで届く長い鉢巻を額に縛り、炎のように紅い十字槍を携えた、俺の分身。

 

 

 古典

 

 Fクラス

 神崎達哉 398点

  VS

 Dクラス

 中島一郎 87点

 笹島圭吾 96点

 中野健太 92点

 

 

「バ、バカなっ!? 398点だと!?」

 

「Aクラスレベルじゃないか!?」

 

「どうしてそんな奴がFクラスに!?」

 

 驚愕しながらも攻撃を仕掛けてくる三人。それに対し、俺が取る行動はほんの一度だった。

 

 斬ッ!

 

 たったの一振り。それだけで、三体の召喚獣は胴を寸断された。

 

「くっ! まさか神崎がFクラスにいたとは……! 近衛部隊は全員、神崎の足止めに当たれ! 奴を近付けるな!」

 

 平賀が指示を出し、その指示に従って彼の周囲に控えていた近衛部隊が俺の前に立ち塞がった。その数は七人。

 

「おっと平賀、お前を守る盾を全員俺に回してもいいのか?」

 

「ああ、構わないよ。とにかく今は君を止めるのが第一だ。君の動きさえ止められれば、後は仲間たちが坂本を討ち取って戦いは終わる」

 

 なるほど、俺を足止めしている間に短期決戦で決着をつける気か。肩越しに本陣を見てみれば、数人のDクラス生徒が雄二の近衛部隊と戦闘を繰り広げていた。あのままでは敗北も時間の問題だろう。

 しかし、それでも雄二の顔に焦りは浮かんでいなかった。彼の目に映っているのは敗北ではなく、勝利の光景。

 そしてそれは、俺も同じだった。

 

 クククッ、と喉で笑う。

 

「見事な采配だ、平賀。確かにこのままでは、俺がお前を討ち取るより先に雄二が討たれ、Fクラスは負ける」

 

「そうだ。君がいると分かった時はさすがに驚いたが、それでも所詮Fクラスが俺たちDクラスに敵うはずがないのさ」

 

 平賀は勝ち誇ったように笑う。しかし俺は、チッチッチ、と舌を鳴らして人差し指を立てた。

 

「分かってないな。この作戦のメインは俺じゃない。俺はただの陽動だ」

 

「なに……?」

 

 眉根を寄せる平賀。彼も、彼の近衛部隊も、すっかり俺に意識を向けていて、その小さな影に気付くことはなかった。

 “彼女”が位置についたのを確認して、俺は小さく笑い、

 

「後は頼んだ──姫路」

 

「は?」

 

「あ、あの……」

 

 『何を言っているんだ、こいつは?』とでも言いたげな顔をしている平賀の後ろから、姫路が申し訳なさそうに肩を叩いた。

 

「……え? あ、姫路さん。どうしたの? Aクラスはこの廊下を通らなかったと思うけど」

 

 姫路の出現に理解が追いつかない平賀。無理もない。彼女がFクラスに所属しているとは、誰も予想できないだろう。俺だって予測できなかったのだから。

 

「いえ、そうじゃなくて……え、Fクラスの姫路瑞希です。よろしくお願いします」

 

「あ、こちらこそ」

 

「その……Dクラス平賀君に現代国語勝負を申し込みます」

 

「……はぁ。どうも」

 

「あの、えっと……さ、試獣召喚(サモン)です」

 

 

 現代国語

 

 Fクラス

 姫路瑞希 339点

  VS

 Dクラス

 平賀源二 129点

 

 

「え? あ、あれ?」

 

 召喚された召喚獣。西洋鎧に身の丈以上はある大剣を持った姫路の召喚獣に、平賀は戸惑いながらも相対した。

 しかし、相手にならない。

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

 その得物に似合わず素早い動きで肉薄した姫路の分身は、一撃で平賀の召喚獣を粉砕し。

 

 その瞬間、長かった戦いの決着がついたのだった。

 

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