【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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毎日更新なんてできるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリだった!?)



#013 豪雨①

 

 

 

「さて」

 

 『大黒柱』の片隅。

 エレベーター内に設置された監視カメラの映像を女は覗く。

 

 映るのは少女の姿をした『耽溺公』のみ。

 『霧消血統(インビジブル)』の効果で特殊な光学的性質を得た日渡昇悟(ひわたりしょうご)は、最低出力でも目視しかできない。

 吸血鬼は鏡に映らない、という伝承の体現者。それどころか、彼の姿はカメラにも映らない。

 

 それでも、周囲の様子から分かる事もある。

 『耽溺公』は浮かび上がり、エレベーターの天井裏から自力で這い上がって地上を目指すようだった。

 

 それだけ分かれば十分だ。

 婦警の格好をした吸血鬼──水越涙涸(みずごしながれ)は告げる。

 

「勝負です。日渡昇悟くん」

 

 

 

 

 

 ぼと、ぼと。

 ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとっっっ‼︎‼︎‼︎ と。

 

 エレベーターの通り道。

 天地を貫く狭い道に、大量の腐乱死体(ゾンビ)が降り注ぐ。

 

「……っ、弟くん!」

「ダメだ! 処理しきれないっ‼︎」

 

 隠れるとか迎撃するとか。

 そんな次元(レベル)の話じゃない。

 攻撃以前に、その数だけで防御は飽和する。

 迎え撃つのは得策じゃない。

 

「逃げるよ」

「何処にだ! 上には腐乱死体(ゾンビ)共のせいで進めない! それとも下に逃げ帰るのかッ⁉︎」

「上でも下でもない。横だ!」

「なっ、」

 

 時間がない。『姉』の言葉は聞かなかった。

 巨大な杭のような『骨』を形成し、それを壁に突き刺してブン殴る!

 

 ゴッ! とエレベーターが揺れる。

 しかし、壁は破れない。一度ではダメだった。

 

 もう一度、『肉』の変身で腕に莫大な筋繊維を張り巡らせ、押し込むように杭を叩きつける。

 

 ゴッバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 衝撃(インパクト)が壁を突き抜ける。

 間違いない。貫通した。

 

「飛び出すぞっ、姉さん!」

「はあ⁉︎ ちょッ、ま──」

 

 穴の淵を蹴って飛ぶ。

 僕に抱えられた『姉』諸共、宙に投げ出される。

 

「ぬッ、オオおおおおおおおおおおおお⁉︎」

「口を閉じた方がいい。舌を噛むよ」

 

 プシュッ! と手首から噴き出す筋繊維(ワイヤー)

 『骨』のフックがエレベーターの壁面──()()に吸着する。

 

(いける! 要領は内側で登ってた時と同じ。内側を登るのも外側を昇るのも大差がない!)

 

 地上三百メートルのフリークライミング。

 馬鹿げた蛮行だが、勝算はあった。

 裏都の中では風は吹かない。

 内も外も、屋内である事に変わりはないのだから。

 

 ゴンゴンゴン! と掌に響く振動。

 内側から何者かが──間違いなく腐乱死体(ゾンビ)が壁を叩いている。

 だが、その程度の妨害はなんて事ない。腐乱死体(ゾンビ)の厄介だった点はその圧倒的物量。壁も貫けない時点で、個々の性能(スペック)は考えるまでもなく低い。

 

 先に人御末那子(ひとみまなこ)を倒しておいて本当に良かった、と改めて思う。

 この状態で彼女の『魔眼血統(イヴィルアイ)』を食らえば、抵抗もできずに死んでいた。

 

「こ、この距離から落ちたら吸血鬼でも死ぬのではないか……?」

「肉片がバラバラに飛び散って質量は減るかもしれないけど、正直まだ生きていそうだね。吸血鬼ってほら、バケモノだから」

 

 エレベーターは思ったよりも高くまで上がってくれていた。

 そのお陰で、天井はあと少しで手が届きそうな距離にある。

 

「この天井を破れば、地上かな」

「……いや、そう簡単ではない。裏都(うらと)は吸血鬼とかいうバケモノを収容する都市だぞ? 地下と地上はちょっとやそっとで破れないほど分厚い鋼鉄で遮られている」

「そうか。でも、道はあるはずだよ。道というか……エレベーターの天井にあった点検口のようなモノが」

「根拠はあるのか?」

「ああ。裏都(うらと)には天井から雨を降らし、決められた地区を洗い流す『清掃』がある。そんな大掛かりな装置を作っておいて、整備用の点検口を作らないはずがない」

 

 暴動を止めるより、暴動が起こらないほど居心地の良いインフラを提供した方が安上がりだ……というのは『姉』の言葉。

 清掃、公衆衛生なんて居心地の良さに直結するインフラだ。『清掃』に莫大な予算を使っている癖に点検口一つをケチる訳がない。

 

「残念ながら僕には何も見えない。姉さん、あなたの目だけが頼りだ」

「分かった。『肉』の変身で視力を高める。少し待て。…………あった」

「よし。このまま天井をつたって行くよ」

「ま、待て。心のじゅんびッをォォオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお────あ、」

 

 裏都の空に少女の叫びが響く。

 高所恐怖症なら失神するほどの蛮行。

 『耽溺公』アインソフ=オールナイトはその日、黄金の小雨を裏都に降らせた。

 

 

 

 

 

「ひっく、ひぐ、うぇ……」

「すまない。本当にすまない。もっと姉さんの事を気遣って移動するべきだった。お昼に血をガバガバ飲んでからずっと休憩はなかったからね。姉さんが漏ら──」

「言うな。わた、わたしの前で……今、その言葉を出すんじゃない」

「……すまない。ほら、これオムツを持ってきた──」

「い・う・な! あー! もうゆるさん。ゆるさんゆるさんゆるさん‼︎ ぐぅぅ、ぬああああああああああああああああああ‼︎ 忘れろおおおおおおおおおおお‼︎ みーんなみーんな忘れろ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 気付けば、僕の足は大地に付いていた。

 先ほどまでは天井にぶら下がっていたはずだが、一体いつの間に……?

 

「姉さん、ここは一体────姉さん?」

「……………………、」

「え、いるよな姉さん。家族の繋がりによる視覚の共有がないと何も見えないんだけど……姉さん⁉︎」

「…………チッ」

 

 舌打ちの音と共に、視界が広がる。

 天井が低く、狭い路地に僕はいた。

 だが、それよりも『姉』の様子が気になる。

 

(えー、なんか怒ってる……?)

 

 彼女が情緒不安定なのはよくある事だが、毎度毎度その感情をあまり理解できていない。

 という表情(かお)が見えないのが辛い。『姉』が何を考えているのか分からない。

 

 何とか怒りを逸らそうと、関係のない話を振る。

 

「えーっと、ここは? もう地上に出れた?」

「…………まだだ。ここは地下。厳密に言うなら裏都の天井裏、()()()()だ」

 

 裏都はかつてあった地下鉄網を拡張する形で作られたと聞く。

 つまり、拡張された部分が地下九十九階まで続く莫大な空間であり、その上には拡張前からあった地下鉄網が残っていた。

 

「でも、聞いた話と違うね。確かに旧地下街は『血海事変(アウトブレイク)』直後の吸血鬼収容施設として活用されたらしいけど、裏都が出来上がると同時、完全に放棄されたんじゃなかったっけ?」

「何十年も放置されているにしては綺麗だと? ならば簡単だ。実は放棄されていなかった、それだけだ」

 

 『姉』は億劫そうに説明を述べる。

 いいぞ、この調子だ。このまま怒りを有耶無耶にしたい。

 

「考えられるのはスタッフルーム。あるいは裏都のバックヤード。吸血鬼の収容施設『裏都』を維持・管理する人間達の仕事部屋という所だろう」

「……それにしては人気(ひとけ)がないけど」

「吸血鬼が脱走したとして、『鬼門封鎖(ロックダウン)』が発令されているのだろう。防火シャッターが降り、人間は皆逃げた」

 

 しかし、足音が響く。

 逃げていない者もいた──訳ではなく。

 

「もしも、この地下街に残っている者がいるとしたら──」

 

 べちゃり、と。

 聞くだけで寒気が走る不快な足音。

 蝿が集っていても不思議ではない死臭。

 それは、人間ではなかった。

 

 

「──腐乱死体(ゾンビ)。敵の尖兵だよ」

 

 

 瞬間、弾けた。

 生物とは思えない不自然な動き。

 関節の向きも重心の位置も無視して、腐乱死体(ゾンビ)は頭から飛び込んでくる。

 

 速さはそこまでではない。

 人間の速度を超えていても、吸血鬼には及ばない。

 だが、厄介な点は予備動作が読みにくい事。動いている、と言うより()()()()()()()ような不気味な駆動。

 慣れ親しんだ人間の動きを否定する、予測不能の攻撃。

 

「それでも、遅い」

 

 予測不能な動き。

 それでも、吸血鬼の反射神経が反応する。

 

 プシュッ‼︎ と噴き出す無数の筋繊維(ワイヤー)

 腐乱死体(ゾンビ)の肉体を締め上げ、可動域を封じ込める。

 

 一度は逃亡したが、それは圧倒的な物量を恐れてのこと。

 一対一(タイマン)の状況で、腐乱死体(ゾンビ)は恐れるに足らない。

 

「なあ、姉さん。吸血鬼以外の怪物は絶滅したんじゃないのか……?」

 

 ギ、ギギギギギ。

 鳴き声か、それとも単なる駆動音なのか。

 腐乱死体(ゾンビ)の口から奇妙な音が漏れる。

 

 明らかに人間ではない。

 だが……これは吸血鬼でも、ない?

 

「……いや、これは吸血鬼だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「死体に……?」

生ける屍(リビングデッド)。死体が吸血鬼になるなんて有名な伝承だろう? 『血』の源流としては狐憑きか悪魔憑きか……何にせよ、人間に憑依する怪物というのは有名(メジャー)な伝承だ」

 

 吸血鬼も狼男もそうだった。

 人間がそのまま怪物に成るのではなく、()()()()()()()()()()()()

 

「厄介だな。この異能──『憑霊血統(テイクオーバー)』は吸血鬼本体を倒すという点において最も難しい異能だ」

「……どうして?」

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────は?」

 

 理解が追いつかない。

 『不滅血統(イモータル)』、『魔眼血統(イヴィルアイ)』、『霧消血統(インビジブル)』……様々な異能を見聞きしたけれど、何よりも意味が分からない。

 

「厳密には、本体自体は何処かで眠っていて、本体を殺せば死ぬ。だが、幽体離脱の射程は途方もない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……っ、弱点がッ、あるんだろう……? どんな怪物だって必ず弱点があるはずだ!」

「『憑霊血統(テイクオーバー)』の弱点は、精神体である事そのもの。精神体は精神の動きによってダメージを受ける。乗っ取った肉体の人格が目を覚ませば、精神体に傷が入る。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………あ、」

 

 眼前には死体。

 動かない。死んでいるのだから。

 この体の元の持ち主の人格も、とうに亡くなっている。

 

「……いや。いや、まだだ。そもそもの話、完全な死体は動かない。体を動かす事ができたのなら、脳は必ずまだ生きているはずだ……!」

「望みは薄いがな。弟くんの言った通り、完全な死体は吸血鬼でも動かせない。……だが、死の境界線とは曖昧だ。かつては心臓が動かなくなっただけで死んだと看做されたように、人間が思う死と実際の死には差がある。完全な死体ではなくとも、コイツは既に人間では救えない屍だ」

「…………っ!」

「ふん。だが、幸運だったな。精神体という弱点を突く方法は一つだけではない。この死体の精神が活用できないのなら、別の精神をぶつければいい」

「…………は? でも、どうやって? 精神に干渉する異能なんて、」

 

 ない、はずだ。

 それなのに、僕の中の何かが叫ぶ。

 幻肢痛のように、失った記憶が疼く。

 僕の予感を裏付けるように、『姉』はこう告げた。

 

 

「私が手を貸してやると言っているんだ」

 

 





豪雨(ド下ネタ)
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