【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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#015 豪雨②

 

 

 

『分かりました。説得は諦めましょう』

 

 無線機から女の声が響く。

 交渉は決裂した。

 僕は『姉』を見捨てない。『姉』のためならば、国家権力だって敵に回そう。

 その心意気が伝わったのか、女は僕に救いの手を差し出すのを諦めた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その上で、強引にでも手を掴むと宣言する。

 どうしようもない善人。

 それが、僕達の敵に回る。

 

「善い人だね。もっと別の出会い方をしていたら、僕の『姉』はあなただったかもしれない」

『残念ながら、どう頑張っても日渡くんの「姉」には成りませんよ。自分の名前は水越(みずごし)涙涸(ながれ)。女性に変身していますが、自分は男ですから』

「────、え」

 

 ブツン、と無線機が最後に音を立て、二度と音声を発さなくなった。

 もはや問答の余地はない。言葉に意味はなく、後は拳で語り合うしかない。

 

「弟くん。来るぞ」

 

 『姉』の視界が頭に繋がる。

 『憑霊血統(テイクオーバー)』。体内に埋め込まれた肉片を通じ、『姉』の脳にある映像が僕の頭にも流れ込む。

 

 同時、僕もまた異能を発動する。

 『霧消血統(インビジブル)』。視覚と引き換えに、僕の姿は透明化して完全に消失する。

 

 薄暗い地下街。

 チカチカと点滅する蛍光灯。

 『姉』から伝わる景色が異常を知らせる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……姉さん。相手の異能は『憑霊血統(テイクオーバー)』ではなかったと言うけど、じゃあその正体は?」

「簡単だ。あの腐乱死体(ゾンビ)は内側から動いている訳ではなく、外側から動かされていた。そんな事ができる異能と言えば──『浮遊血統(アンチグラビティ)』だ!」

 

 

 ()()

 ()()()()‼︎‼︎‼︎  ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 血の滴る白い大剣。少なくとも形はそう。

 『骨』の変身で出力された鋭利な刃物。

 それが、誰に振るわれるでもなく一人でに僕を襲う。

 

「ッ、物体を宙に浮かせる念力か!」

 

 念動力(サイコキネシス)。ポルターガイスト。あるいは自動で敵を殺す武具。

 物体が浮くという各地に伝わる伝承の数々。それを実現する異能の因子、『浮遊血統(アンチグラビティ)』。

 

 大剣が近づくほどにその大きさに圧倒される。

 地下街は狭い。いくら透明化していようと、あんな大きな刃を避ける事は難しい。

 

 回避は不可能。しかし、いつもの筋繊維(ワイヤー)では対応が間に合わない。

 掌に爪のように『骨』を纏い、至近距離で剣を弾く。滴る血と火花が散る。

 

 衝撃で右腕の骨がイカれた。

 関節にはヒビ。『肉』の変身で修復できるとしても、そこには一瞬の隙が生まれる。

 

 大剣は即座に方向転換した。

 再生の暇すら与えず、再度僕を殺そうと襲いかかる。

 再び、僕は右手を構え──

 

 ()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぁ、がっ⁉︎」

 

 血だ。大剣から滴る血。それが付着した右手に莫大な()が発生している。

 大剣が本体なのではなく、付着した血が本体。血を付着させた物体を操る異能!

 

 失敗した。血に触れるのは悪手だった。

 即座に、血が付着した右手を自切する。

 一瞬の判断。それでも遅い。眼前には迫る白き大剣。

 

(ま、ず────)

 

 

「──弟くん!」

 

 

 ゴッッッバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 衝撃が炸裂する。

 白い刃が肉に食い込み、体の半ばまで切断する。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「姉さんッ、どうして庇った⁉︎」

「ご、ぼ。……っ、何を、言っている。勝算が高い方を、温存するのが……生存戦略だろう」

 

 『姉』の小さな体から噴水のように血が溢れる。

 莫大な量の血液を吸って、白の大剣はようやくその動きを止めた。

 

「私の怪我は、良い。『肉』の変身ですぐに修復できる」

「……嘘だ。失った質量は戻らない。姉さんの出血量じゃ、」

「今は良い。それよりも、敵の弱点を教えるぞ。上手く活かせ」

 

 どこか焦ったように、早口で『姉』は続ける。

 

「『浮遊血統(アンチグラビティ)』は自己の血が付着した物体を操る異能だが、液体や気体は操れない。付着した物体を、水などで洗い流せば異能を無効化できる」

「そうか、それで姉さんは出血して……」

「この弱点は吸血鬼本体にも通用する。『浮遊血統(アンチグラビティ)』の血は水に溶けやすい。ただの放水であっても、吸血鬼本体が受ければ莫大な出血を強制する攻撃となる」

 

 吸血鬼は流水に弱い、という伝承の基。

 『浮遊血統(アンチグラビティ)』を発現した吸血鬼はただの流水で出血死する。

 

 だけど、問題点は二つ。

 一つは水を何処から用意するのか、という点。探せば水道の蛇口くらいあるのかもしれないが、探している余裕はない。

 そして、もう一つは。

 

「吸血鬼本体──水越涙涸(みずごしながれ)の居場所が分からない」

「そう、だな。『憑霊血統(テイクオーバー)』よりは射程が短いはずだが……」

「いや、あるいは無視して進むか。僕達の目的は裏都の脱出。敵の撃破では──()()()()()()()()()()()

「なッ、くそがァ!」

 

 自分のアイデアを自分で否定する。

 どうやら敵は、僕達の逃走を認めてくれそうにない。

 

 視界を覆い尽くすのは白い大剣の()()

 鋼鉄だろうと貫く一振り、それが百本以上。

 一本や二本ならば、自分の出血で対処できたかもしれない。だが、あの量ではジリ貧だ。迎撃の前に自分が出血死する。

 

「……いや、そうか。姉さん、光線銃だ」

「無駄だ。『骨』に光線(レーザー)は効くだろうが、アレら全てを撃ち落とすのは現実的じゃ──」

「そうじゃない。撃つのは()()だ」

「────なるほどな」

 

 以心伝心。

 『姉』は聞き返すまでもなく天井に光線(レーザー)を放つ。

 

 それと同時、無数の大剣が撃ち出された。

 (まさ)しく、五月雨(さみだれ)。刃の機関銃(マシンガン)。吸血鬼を穴だらけにする大剣の豪雨。

 

 だが、僕達が串刺しにされる事はなかった。

 それよりも前に、警報が鳴り響いた。

 ジリリリリリリリリ‼︎‼︎‼︎ と。

 けたたましい高音と共に()()()()()()()()

 

 

「残念ながら、天井から降る人工雨は記憶に新しいんだ」

 

 

 人工雨。裏都の地下九十九階で見た『清掃』よりは小規模な消化散水機(スプリンクラー)

 スプリンクラーのセンサーに光線(レーザー)を当て、その熱で火事と誤認させて降水を誘発したのだ。

 

 水を浴び、大剣の勢いが殺される。

 血を洗い流され、宙に浮くモノは地へと落ちる。

 

「このまま天井をブチ抜くよ。雨が僕らを守っている間に、地上まで逃げ延びる」

「それが良い。水越涙涸とやらが何処にいるかは知らないが、真正面から強敵と戦うなど馬鹿のすること。地上にさえ出れば国際条約が私を守って──」

 

 その言葉が最後まで続く事はなかった。

 直後。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 べき、べきべぎべきべきっっっ‼︎‼︎‼︎ と。

 殻が割れ、雛が誕生するような破裂音。

 水越涙涸は隠れていた。僕が先ほど弾いたモノ。狭い道を埋めるような()()()()()()()()()()()()()

 

「き、さま──」

「──遅い」

 

 瞬きの一瞬よりも速く。

 水越涙涸の拳が『姉』の顎を撃ち抜いた。

 ()()。綺麗な顔面の下半分がぐちゃぐちゃな肉片に変貌する。

 

「っっっ、ぁごォ⁉︎」

「自分の弱点である流水で覆い尽くす。最適解ですが……ツメが甘い。雨というフィールドは自分の異能を封じますが、同時に透明化した日渡くんの居場所も知らせます。水が光線(レーザー)を屈折させるため光線銃も使えない。つまり、異能を封じられたのはお互い様です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 水越涙涸は不気味な姿をしていた。

 異質な全身鎧。『骨』で出来たヒーロースーツ。

 体を『骨』で密閉して、水の一滴も触れないように全身を覆っていた。

 

「そして、日渡くんの弱点──吸血鬼としての弱点ではなく、異能の弱点でもなく、日渡昇悟くんが持つ人間としての弱さもそれです」

「な、────がばあっ⁉︎」

「奇襲、初見殺し、異能の応用。アイデアを生み出すのは得意。ですが、地力が足りない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 拳の連打が僕を撃ち抜く。

 ただの拳。異能でも何でもない、普通の攻撃。

 だが、抗えない。『肉』の変身によって身体性能は高められても、体の動かし方が圧倒的に下手くそなのだ。

 

「異能はあくまでも切り札。一発逆転にはなりますが、そもそもの基礎能力で圧倒すれば奇策に頼る必要もありません。『肉』の変身と『骨』の変身、それだけで十分なんです」

「…………っ!」

「そして、異能の使い方も……特殊な攻撃法はあえて使わない。肉弾戦の延長線上、その補助として使うと良いでしょう。例えば、」

 

 パキ、パキパキパキパキ、と。

 水越涙涸を包む『骨』の全身鎧が変形する。

 顎を潰されても必死に目を働かせてくれる『姉』のお陰でその全貌が分かる。

 触手……だろうか。あるいは、ロボットアームのような無数の腕が背中から生えている。

 

「二本の腕を、もっと増やすとか」

 

 瞬間、感覚が消失した。

 無数の拳による打撃。衝撃の豪雨。その一つ一つを感じるまでもなく、まとめて一つの圧として神経が痛みを受容する。

 

 飛来する大剣を受け止めた時と同じ衝撃。

 『骨』の鎧の中にある血が、『浮遊血統(アンチグラビティ)』で拳を加速させている。

 

 勝てない。

 近接戦闘では戦いにもならない。

 

 異能は使えない。使っても意味がない。透明化も光の屈折も、何の役にも立たない。

 『肉』の変身では歯が立たない。筋繊維などの性能(スペック)は同等でも、体の動かし方が比べものにもならない。

 『骨』の変身だってそうだ。そもそもの『骨』の形成速度、形成された『骨』の密度で負けている。こちらが『骨』の盾を作っても、速度も硬度も負けているのだから簡単に粉砕される。

 

 基礎性能が違い過ぎる。

 吸血鬼として以前に、戦士としての差が大きい。

 

「何度でも言いますよ。投降してください。日渡くんでは自分には勝てません」

「……ハッ。それはどうだろうね」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「強い。強いけど……いつまで続く? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………、」

「最後まで息は続かない。血中の酸素を絞り出しても限界はある。僕があなたに殴り勝つ必要はない。あなたが限界を迎えるまで耐え続ければ僕の勝ちだ!」

 

 見た目のダメージに惑わされるな。

 相手の打撃によって肉体を破壊されても、実際に失われた質量はそう大きくない。

 あと何十分かは知らないが、耐えられる。このままなら──

 

「そうですね。自分にも限界はあります。──ですが、日渡くんの限界の方がずっと早い」

 

 とん、と。

 水越涙涸の掌が、優しく僕に触れる。

 その直後。

 

 

「人域血壊────『天蓋支える万力(アトラス・フォース)』」

 

 

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 ()()()()()()()()()()

 

 





各異能の人域血壊を考えるのが大変すぎる……。
プロットを壊してこんなの考えたヤツ誰だ。
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