【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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色々あって前話のサブタイトルが変わってます。
プロットが壊れる音がする……



#021 闇黒②

 

 

 

「う、うわあああああああああああ⁉︎」

 

 逃げる、逃げる、逃げる。

 迫り来る黒泥から逃げ続ける。

 相手は液体だ。交戦に意味はない。

 そして、一撃でも攻撃を喰らえば呑み込まれる。逃げるしかない。

 

 無論、脅威は泥だけではない。

 ゴウゴウ、と空気を切り裂く飛行機の音。

 日の出を今か今かと待ち続ける終末の宣告者。

 

 天には純粋水爆。

 地には無邪気な災厄。

 走りながら考える。どちらを優先するか、考えは一瞬でまとまった。

 

 

「姉さんの体を取り返す」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()

 

 走りながら、抱き抱えた姉さんに呼びかける。

 

「姉さん。『憑霊血統(テイクオーバー)』の力で体の主導権を取り返せないか?」

「……無理、だな。黒泥──我が肉片は端末みたいなものだ。一時的に動きを鈍らさせる事はできても、精神の根幹が宿っていない」

「精神の、根幹……?」

「私は自身の肉片を媒介として洗脳を行っていたが、肉片のみでは精神を乗っ取る事まではできない。逆に精神を乗っ取られる事もない、というワケだな」

 

 そうか。その様な穴があれば、姉さんは殲血禁忌(レッドリスト)に名を乗せる事もなく殺されていただろう。

 

「……だが、まだ希望はある。そもそもの話、肉片が一人で動くなど不可能だ。いくら病原菌と言っても、ここまでの自走能力はあるまい。異能で直接動かしているのだろうよ」

「まさか、『浮遊血統(アンチグラビティ)』……?」

「いいや、『憑霊血統(テイクオーバー)』、()()()()()()

 

 つまり。

 それは。

 

 

「人域血壊────『死は主、生は奴隷(ンザンビ・ドミネーション)』」

 

 

 ごくり、と無意識に喉が鳴った。

 

「死者の肉体を無理やりに動かす効果だが、それを肉片に適用している。無論、知性はないため、それが人域血壊だと考えてはいないのだろうが……そこに弱点がある」

「弱点?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが怪物の心臓(じゃくてん)

 黒泥を止める唯一の方法。

 

「もしも精神体が宿っているとするならば、そこだ。そこに我が異能をブチ当てれば、私は肉体を取り戻す事ができる」

「心臓の場所に心当たりは?」

「ない。……が、私なら奥深くに隠す。私に影響されたあの娘も、無意識に同じ事をしているのではないか?」

「奥、深く……」

 

 地下九十九階。

 最下層へ。

 

 だが、どうやって?

 地下からは黒泥が噴き出している。

 あの中を泳いで目指せとでも言うのか。

 

 考える。考える。考える。

 しかし、考えがまとまる前に────

 

 

 ()()()()()‼︎‼︎‼︎ ()

 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なっ、何が⁉︎」

「いひひっ、誰の仕業だと思います〜?」

「…………あな、たは」

 

 

 

 

 

 揺れる。

 揺れる。

 揺れる。

 

 その異変の影響を真っ先に受けたのは、他でもない裏都(うらと)の住人だった。

 

「なん、だ……⁉︎」

 

 足元から噴き出すドス黒い泥。

 裏都の地面は地下九十九階に存在するが、実はそこが最下層ではない。本当の最下層、地下百階には()()()()()()があった。

 つまり、それは紛れもない汚物。病の塊。

 

 吐き気と悪臭。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、第六感。ありとあらゆる感覚が拒絶反応を引き起こす。

 これはダメだ。何処かの誰かの醜い悪意(なかみ)を引き摺り出したかのような闇黒。人間では、吸血鬼でも、触れる事さえ耐えられない醜悪な何か。

 

 一人、また一人と倒れる。

 地面の揺れ以上に、体内が直接揺れる感覚。

 あるいは精神が侵されるような悪寒。

 血中に存在する『耽溺公』の肉体が蠢いているのだとは誰も気付かない。

 

 夜も喧騒に包まれた街は、一瞬にして沈黙に支配された。裏都の住人は昏倒した。ただ一人の例外もなく。

 ──()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんで、なんで俺がこんな目に……っ! くそがァァアアあああああああああああ‼︎」

 

 

 何処にでもいる黒髪の優男だった。

 ただし、その男の体内には『耽溺公』の肉片──『()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()

 

 それはちょっとしたキッカケ。

 裏都に来たばかりのお上りさんにちょっかいをかけた、何処までも低俗な強盗犯(チンピラ)にかけられた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 体内で二種類の洗脳が拮抗した事で、裏都でただ一人、元強盗犯の優男だけが意識を失わずに済んでいた。

 

(どうする、どうする、どうするッ⁉︎)

 

 優男はまず、保身を考えた。

 どうすれば逃げられるのか。

 どうすれば生きられるのか。

 

 でも、答えは見つからない。

 地上に向かう方法なんて知らないし、至る所から汚泥が湧き出して隠れる場所もない。

 

(……俺あ馬鹿だからな。馬鹿が頭を回した所で無駄だってか)

 

 路上強盗を繰り返す三下(チンピラ)

 優男がそんな風に成り果てたのは、他の生き方を知らなかったからだ。

 

 男は孤児だった。

 配送便みたいに親から裏都に送られた。

 昔からよくある事だ。この街は余命幾許もない子供を助ける顔を持ちながら、同時に子供を捨て去る場所でもあった。

 

 だが、裏都の孤児院というのは機能していない。

 行政が手出しできない無法地帯なのだ。当然の話、孤児院を経営する者というのは()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 学校には行けなかった。ただ、犯罪を繰り返した。盗み方を学び、盗みやすいバカの見つけ方を学び、でも、漢字の書き方一つ分からない。

 

 認めよう。

 優男には知識がない。

 こんな絶体絶命を覆す方法なんて分からない。

 

 ()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 ()()()()()()()()

 

 裏都を救おうだなんて大層な事は考えちゃいない。

 救いたい友達も、守りたい家族もいない。善意なんて一欠片も持っていない。

 動機は全部自分のため。生きたい、楽したい、もっと便利な世界が欲しい。強盗をするのも、目の前の脅威に立ち向かうのも、優男にとってみれば同じ行為だ。

 

 自己保身に塗れた醜い心。

 何の打開策も浮かんでいない愚行。

 見た目は正義の味方でも、結局、本質は低俗な三下(チンピラ)から何も変わっていない。

 

 

 ()()

 ()()()()

 

 

 その振る舞いは英雄のようで。

 その在り方は人の目を引くほど綺麗で。

 だから、美しいハリボテは()()()()()()()()()

 

 

「待て、少年。世界を救うのは()()()()()()

 

 

 声が響く。

 ガチャガチャと喧しい足音が地面を叩く。

 

 裏都の住人は優男という例外を除いて昏倒した。それは嘘ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ざっと数えるだけで十人以上。

 ガスマスクと都市迷彩に身を包み、小銃(ライフル)を抱えた軍隊。

 警視庁公安部吸血鬼犯罪対策室特殊部隊──〇九(ゼロナイン)

 

 その中でも、一際背の高い警察官は優男へ敬礼した。

 

「誇り高い行動だった。我々は……小官は、貴君に敬意を示す。この状況で逃げ出そうとしていた小官が恥ずかしい」

「……え、逃げ道とかあんのッ? じゃあ──」

「ああ。だが、知るか。上官の命令も、自己保身もどうでもいい。……逃げ道は全て塞いでもらった。貴君が逃げ出さないのなら、我々だってもう立ち向かう事を諦めない!」

「えッ⁉︎」

 

 ふざけた勘違いが優男を追い詰める。

 完全に逃げ場を失って青褪めた優男の感情に気付くこともなく、背の高い警察官は仲間へと呼びかけた。

 

「我々は警察官として、正義の味方として、この街を救う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「当然です」「当たり前ッスよ」「今日の仕事は吸血鬼を人扱いしないこわーい警察官だったけどな」「ありゃ嫌な仕事だった」「ガキを『耽溺公』と引き離すためだ、仕方がない」「サツなんざ嫌われてなんぼだろ」「だが、今日は寝覚めの悪い仕事だと思っていたが……良かった良かった。こりゃ娘にも自慢できる仕事じゃあねえか」

 

 男達は口々に好き勝手な事を言い、小銃(ライフル)を構える。

 このちっぽけな光線銃が黒泥に何処まで通用するかは分からない。でも、もう諦めるなんて事はしない。

 ちっぽけな少年が拳を握って立ち向かったのだ。大人が此処で踏ん張らなくてはどうする。

 

「誰一人として犠牲者は出さない! 国民にも、我々にも。勿論、この誰よりも勇敢な少年も!」

(えー! 逃げられねえじゃん! どうするッ⁉︎ いや、むしろ、このムサ苦しい男共の中の方が安全だったりするのかー⁉︎)

「いくぞッ! 〇九(ゼロナイン)、出撃!」

「「「「「うおおおおおおおおおおお‼︎」」」」」

「くッ、そおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」

 

 ヤケクソ気味に優男は叫んだ。

 

 

 

 

 

「うひひっ。人御(ひとみ)ちゃんの命令を無視するとか、ほんっとアイツら後で罰ゲームですよ〜」

 

 無線機を片手に幼気な少女は笑う。

 質量を奪われ、小さくなった肉体で少女は駆け付けた。

 警察官だけが知る秘密の出入り口を利用して、月に照らさらた地上へと。

 

「……人御(ひとみ)末那子(まなこ)

日渡(ひわたり)ちゃんおっひさー! 『大黒柱』を覆う泥は()()()()()()()()が吹き飛ばしましたのでー、ちゃっちゃと行っちゃってー!」

「良いのか? 僕はあなた達の敵だぞ」

「いやー、人御ちゃんも宿敵(カレピ)と殺し合いたい気持ちはありますけどね〜?」

「誰がカレピだ」

 

 でも、と。

 幼い顔立ちで少女は微笑んだ。

 

「人御ちゃんが殺して良いのは班長ちゃんに許されたヤツだけだって、ずっと前に決めたんですよ。だから、行っちゃって! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 少女は空を睨む。

 純粋水爆。東京都を消滅させる爆弾。

 彼女はそれを止めるために動いていた。

 

 〇九(ゼロナイン)は初めからそうだった。

 誰かを殺すためではない。

 誰かを救うためだけに動いていたのだ。

 

 ならば、信じる。

 たとえ一度は敵対した相手であっても。

 彼女達ならきっと、上空の脅威を排除してくれる。

 

 爆弾で死ぬ恐怖に怯える必要はない。

 僕は存分に、『姉』のためだけに戦える!

 

 

「爆弾は任せた、正義の味方」

「汚泥は何とかしてね〜、弟ちゃん」

 

 

 言葉を交わし、すれ違う。

 僕達は同じ方向を向く事はできないけれど、きっと、背中合わせならば共に戦う事だってできる。

 

「地面までは十秒くらいか。舌を噛むから口を閉じていた方がいいよ、姉さん」

「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおお⁉︎」

 

 『姉』を抱え、跳ぶ。

 地上と地下九十九階までを繋ぐエレベータ『大黒柱』。

 黒泥にこじ開けられた縦穴に突っ込み、三百メートルの自由落下を開始する。

 

 

()()()()()()‼︎」

 

 

 





マジで全然関係ないあとがき
みんな! 「超かぐや姫!」を見てくれ!
愛と希望と百合とハッピーエンドのアニメです!
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