【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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ラストバトル。



#022 闇黒③

 

 

 

「いひひっ、来ますよ〜!」

 

 東京都上空。

 飛行機が爆弾を落とす。

 

 日の出というタイムリミットは無視された。

 地下から黒泥が噴き出す今、悠長に待機している余裕など失われている。

 

 対吸血鬼殲滅兵器、『可愛い坊や(リトルサン)』。

 東京都を一瞬で消滅させる純粋水爆。

 

 迫るそれを、人御末那子(ひとみまなこ)の瞳が捉える。

 ──そう。人御末那子の()()が。

 

 

「『魔眼血統(イヴィルアイ)』っ、ロックオ〜ン!」

 

 

 爆弾は上空で停止した。

 金縛りや石化の応用、相対的な位置の固定。

 爆弾はこれ以上動けない。

 少女の瞳が、落下エネルギーをゼロにする。

 

 しかし、まだ気は抜けない。

 爆弾の落下は止められても、爆弾自体を排除できた訳ではない。

 こんなのはただの延命。瞬き一つで、東京都は焦土に変わる。

 

 あるいは、瞬きすら必要ない。

 爆弾の不発を確認した飛行機は、翼を翻して爆弾へ突っ込んで来た。

 

『──舐めんなよ、ガキ。俺だってあの爺さんに最期まで付き合う覚悟で飛んでんだ』

 

 何処からか声が響く。

 中年と思われる男性は告げた。

 『磔刑』のクロイツが全てを任した実行役、東京都を滅ぼすボタンを渡された哀れな男に迷いはない。

 

 世界を救う。

 『耽溺公』を滅ぼす。

 そして、老人の復讐を手伝う。

 

 爆弾が起動しないのならば、自らが引き金の代わりとなればいい。

 その思いで、飛行機ごと停止した爆弾へと突っ込む。

 

 

「『浮遊血統(アンチグラビティ)』」

 

 

 その、寸前。

 ぐいんっ⁉︎ と、飛行機の軌道が逸れた。

 まるで巨人の手で引っ張られたように。

 

 『血』だ。

 飛行機の翼に『血』が付着していた。

 そこから発生した莫大な『力』が飛行機を強引に引っ張ったのだ。

 

「『耽溺公』を殺すのは構いません。ですが、そのために東京都民を巻き込むと言うのなら──止めますよ。自分達は警察ですから」

『こ、の……っ!』

 

 水越涙涸(みなごしながれ)

 〇九(ゼロナイン)を率いる吸血鬼が飛行機に並走する形で飛んでいた。

 

 自爆するように消えた彼女(彼?)だったが、実は飛ばした肉片を念力で操って体を再構築していた。

 自爆したように見えたのは、一時的な緊急待避に過ぎなかったのだ。

 

 警察官は諦めない。

 子供の命を、国民の命を、絶対に。

 

『っ、無駄な努力だぜ!』

 

 制御の効かない飛行機の中で、男は笑う。

 この奇跡があと数秒しか続かない事を知っていたからだ。

 

『もうすぐ日の出だ。太陽光でアンタは消えて、爆弾もすぐに落ちる! もって数秒の命、せいぜい噛み締めな‼︎』

「残念ですが、そうはなりません。……本当に、残念な話ですけど」

 

 しかし、水越涙涸は言い切った。

 かつての敵対した少年をよく知っているが故に。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 瞬間。

 日の出と同時にそれは起こった。

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 全長三百メートルの縦穴。

 『大黒柱』の空洞。

 

 弾け飛んだ黒泥を補うように。

 地下の奥底から黒泥が噴き出す。

 

「どうする、弟くん⁉︎」

「どうもこうもない。一掃する」

 

 実の所、日渡昇悟(ひわたりしょうご)には切り札があった。

 吸血鬼相手ならば最強のカード。

 たった一枚で全てを覆せるジョーカー。

 使わなかったのではない。これまで使えなかった切り札が。

 

 だが、条件は整った。

 僕の手は世界に届く。

 僕の力は『姉』を守れる。

 

 バクバクと心臓が音を立てて跳ねる。

 今か今かと血潮が湧き立つ。

 即ち、それこそ『霧消血統(インビジブル)』の最大出力。

 

 

「人域血壊────『神を隠す夜の帳(アマテラス・ブラインド)』」

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 僕の視界は勿論の事、『姉』から伝わる視覚情報も。あるいは、縦穴で繋がった地上さえも。

 

 『霧消血統(インビジブル)』の人域血壊。

 その効果は単純。光を吸収して真っ暗闇の極夜を生み出す事。

 自分だけが見えなくなるのではない。何も見えない、誰もに不可視を強制する空間。

 

 しかし、光は消えた訳ではない。

 吸収。いわば、食べられただけ。

 落ちた夕陽が、朝日となって昇るように──

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「────()()()()

 

 

 

 ()()

 ()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()

 

 暗闇の真逆。

 光によって視界はホワイトアウトする。

 

 黒泥は一瞬にして消失する。

 灼けて、燃えて、灰も残らず消え失せる。

 

 日渡昇悟の切り札。

 地上かつ日中しか使用できない応用。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 筋繊維を通して地上の光を汲み上げ、鞘のような形状の『骨』に日光を閉じ込め、それを一気に放出する。

 『血』、『肉』、『骨』。僕の全部を出し切った全力全開の切り札。

 

 そもそもの話、『霧消血統(インビジブル)』の異能で光を屈折する僕に太陽光は通じない。

 太陽光に灼かれる事も、日の下で炎上する事もない。僕という存在は、吸血鬼の中でも唯一無二のデイウォーカーなのだ。

 

 僕だけは日の下で歩く事を許される。

 僕だけは日の光に干渉する事を許される。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 光の奔流が黒泥を一掃する。

 跡形もなく、何もかもを消し飛ばす。

 

 

「────ッ」

 

 

 無論、僕も無傷ではない。

 ただ日の下を歩くだけなら可能だろう。

 だが、光を吸収して相手に放つとなれば、何処かのタイミングで必ず光は僕の肉体に触れる。

 

 熱。光。白。

 内側から太陽光が僕を灼き焦がす。チカチカと視界が点滅し、一秒で気が触れそうになる。

 文字通り、神経を焼く激痛。全身をみじん切りにして、細胞一つ一つを火で炙って、神経に直接痛みの信号を走らせて、それでもまだ足りない苦痛。

 言語化できる上限を容易く超えた感覚が脳味噌を揺さぶる。ストレスで物理的に脳味噌が破壊される。

 

 吸血鬼が本能的に光を恐れるのも当然だ。

 こんな苦痛、耐えられる訳がない。

 根性がどうとか言う以前に、これは生命が耐えられる構造をしていない。

 

 イカれる。

 気が狂う。

 精神が消失する。

 

 

 ──()()()()()()()()

 

 

 イカれる? 残念。もう僕はイカれている。

 気が狂う? 残念。もう僕は狂っている。

 精神が消失する? 残念。僕の精神はもう僕だけのものじゃない!

 

 『姉』がいる。

 どれだけ頭がイカれても、『姉』が精神に直接叩き込む情報が僕の目を覚まさせる。

 太陽が何だ。『姉』の方が眩しい。『姉』のギラついている。僕はとっくに『姉』にイカれている。光を耐える正気なんてそもそも残っちゃいない!

 

「聖剣ッ、抜刀ォォオオおおおおおおおおお‼︎」

 

 ゴッッッバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 裏都全てを揺るがす衝撃。

 

 九十九階分を貫く一閃。

 黒泥を消し飛ばす光の一撃。

 着地と同時に床もブチ抜き、本当の最下層──地下百階にある下水処理施設まで到達する。

 

 弱い。

 今まで戦ったどの敵よりも弱い。

 

 単純な性能(スペック)だけなら黒泥の方が上。

 しかし、目の前の存在には対応力がない。

 これまでの戦いでは、たった一つの切り札だけで相手を倒せた事はない。初見殺しは、一度見られたら対策されてしまう。

 

 目の前の存在は違う。

 ただ無邪気に暴れるだけの赤子。

 太陽光という僕の切り札に対し、何の対策も立てない。対応するという概念を知らない。

 

 人御末那子(ひとみまなこ)より、水越涙涸(みなごしながれ)より、『磔刑』のクロイツより。あるいは強盗犯のチンピラよりも。

 誰よりも弱い吸血鬼。そもそも戦闘という言葉も知らない、泣き喚くように暴れる災害。

 

(一緒だ、僕とあなたは。中身がない。何の意味も理由もなく産み落とされた生命。()()()()()()()()()()()()()()()()。僕に(カタチ)を与えてくれたのは姉さんだった。けど、あなたが姉さんから得たのは──どうしようもない黒泥(カタチ)だった)

 

 日渡昇悟のイフ。

 僕が弟になったのは偶然だ。

 たまたま、その役割(ロール)を与えられただけに過ぎない。

 

 もしも出会ったのが『姉』でなければ、正義の味方にも、悪の親玉にも、ただの一般人にもなっていた。

 宿ったのが黒泥の肉体だったのなら、同じように世界を蹂躙していた。

 

 最下層。

 闇に包まれた下水処理場を光で切り裂く。

 

 ドクン、と。

 光に呼応するように、地面が脈打つ。

 見える。『姉』の視界越しに対象を捉える。

 

 『姉』の予想通り。

 吸血鬼の弱点──()()()()()は奥深くにあった。

 

「姉さん、道は僕が切り開く。だから──」

「──ああ。私に任せておけ、弟くん」

 

 『姉』が心臓に触れる。

 それだけでこの馬鹿騒ぎは終わる。

 ……ああ。終わってしまう。

 『姉』と過ごす時間はこれで最後。

 それでもッ!

 

 

「聖剣、抜刀ッ‼︎」

 

 

 せめて、最後には綺麗な思い出が残るように。

 こんな汚泥の底ではなく、キラキラとした景色が目に映るように光を全開で放出する。

 

 ──()()()()()()

 

(く、そ……っ! なんだコレっ、重い⁉︎)

 

 黒泥と閃光の激突。

 その瞬間、違和感に気付いた。

 

 灰も残らず消え失せた今までとは違う。

 黒泥は確かに抵抗している!

 消滅する速度よりも黒泥が噴き出す速度の方が速い⁉︎

 

(くそッ、姉さんが千年間溜め込んだ質量(いのち)莫大(デカ)すぎる! 地上から汲み上げた太陽光だけじゃ足りないッ‼︎)

 

 ピシ、ピシシッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 僕の肉体に亀裂が走る。

 日光に蹂躙された体内が限界を迎える。

 

 足りない。足りない。足りない。

 肉体の強度が、攻撃の威力が。

 一発逆転の奇跡が足りていない!

 

 道が閉ざされていく。

 走る『姉』は黒泥に飲み込まれ──

 

 

 

「────()()()()ッ」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 しわがれた老人の声だった。

 今にも消えそうなか細い声だった。

 

 あり得ない。

 あり得る訳がない。

 でも、そうだ、でも確かに!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「──なんて、我輩の『致命血統(クリティカル)』にそんなものはないが。だが、我輩の血肉を十分に喰らっただろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『磔刑』のクロイツ。

 黒泥の濁流に呑み込まれ、いつ死んでも不思議ではないほどに傷付いた老人。

 傷ついていない所などない。手足はあり得ない方向へ曲がり、血の気が失せた顔面は蒼白で、指一本動かすのだって苦痛だろう。吸血鬼ならざる人間の身ではあまりにも致命的な損傷(ダメージ)

 しかし、それでも、彼の目は死んでいない。ギラついた復讐鬼の瞳ではなく、()()()()()()()として瞳を輝かせる。

 

 老人は手首が血が噴き出す。

 『致命血統(クリティカル)』。怪物を殺すために千年積み上げられた人工の異能。

 

「娘は我輩の血を半分継いでいた。『致命血統(クリティカル)』こそ受け継がれなかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 黒泥の動きが鈍る。

 千年積み上げた執念が怪物に届く。

 『姉』が宿った肉体、そして質量(からだ)の一部を分け与えられた僕の体は止まる事なく、『耽溺公』の黒泥(からだ)だけが停止する。

 

 おかしな話だ。

 肉体を交換したからこその異常。

 本当なら逆だっただろうに。

 『姉』の肉体に宿った娘は止まり、娘の肉体に宿った『姉』は止まらない。

 

「──感謝するぞ、クソったれの怪物共。貴様らがいなければ、我輩はもう一度娘に会う事もなかった」

 

 いける。

 光を凝縮する。

 

 ひび割れた肉体など知るか。

 僕の限界なんて知ったことか。

 

 たとえこの身が灰になろうとも。

 全て解決した先に『姉』の姿がなくても。

 僕は役割を全うする。『姉』が与えてくれた人生の意味(カタチ)を最期まで果たす!

 

 

「弟を────執行するッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 全身全霊を絞り出した光の斬撃。

 黒泥を切り開き、道を生み出す。

 

 さあ、走れ。

 あなたの道は僕が作った。

 こんな狭い地下じゃなくて、もっと広い世界に飛び出していけ!

 

「行けッ、姉さん!」

 

 走る。奔る。疾る。

 視界が目まぐるしく動き回る。

 永遠のような一瞬。

 しかし、それは一秒もない瞬きの永劫。

 

 吸血鬼の脚力が道を駆け抜ける。

 少女の掌が心臓に触れる。

 

「悪かったな。……返すよ。肉体も、人生も、父親から注がれる愛情も。君が受け取るはずだった全てを返す。だから──」

 

 『耽溺公』に宿った赤子の精神。

 赤子に宿った『耽溺公』の精神。

 入り混じったそれらが、正しい場所へ還る。

 

 

「──(オレ)(からだ)を、返してもらうぞ」

 

 

 瞬間。

 僕の視界は真っ暗になった。

 『姉』から共有された視覚がなくなったのだ。

 

 何が、どうなったのか。

 結末は何も見えない。

 でも、こんな暗闇の景色でも分かる事は一つあった。

 

 

「ぱぱ?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 





次回、エピローグ。
本日中に投稿します(間に合えば)
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