【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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Act.2 Road_to_Snake
#004 観光①


 

 

 

 テレレッテレー!

 裏都(うらと)ってな〜に〜?

 

 良い子のみんなー!

 裏都(うらと)って知ってるかなあ〜?

 東京都直下、地下三百メートルに作られた常夜の街。東京都で起こる犯罪の九割以上は裏都で発生していると言われているよ!

 

 でもでも! どうしてそんな街が作られたのか、不思議だなあ〜。不思議だねえ〜。

 なんとびっくり。その理由を知るには西暦二〇二〇年まで遡る必要があるのです。

 

 西暦二〇二〇年。

 教科書で読んだ事があるかな?

 いわゆる、ニート(二〇)に銃(二〇)弾の語呂合わせでお馴染み『血海事変(アウトブレイク)』の年でーす!

 

 諸説あるけど、一番有力な説としてはすべての発端は一匹のコウモリ。

 コウモリが持つ特殊なウィルスが人間に感染(うつ)り、東京で感染爆発を引き起こした結果、当時の東京都の人口の三分の二──約一千万人がウィルスに感染したのです!

 

 そして、このウィルスが持つ最大の特徴は、感染者は日に当たると燃えるようになったコト。

 この特徴から、ウィルスの感染者は『吸血鬼』と呼ばれるようになりました。怖いね〜?

 当時の混乱具合が分かる代表格が、語呂合わせにも謳われる事件! ただの引きこもりニートが吸血鬼だって勘違いされて、警察官が発砲しちゃったんだぜー!

 

 吸血鬼と人間、感染者と健常者。差別と暴動で断絶は深くなるばかり!

 そ・こ・で、政府が地下鉄網を拡張する形で作ったのが吸血鬼の収容施設、裏面東京都(リメン・トーキョー)──通称、裏都(うらと)

 世界でも一二を争う綺麗で美しい機能美の街・東京都でも、実は地下にはこんな恐ろしい街があるんだよ〜? 怖いねー!

 

 でもでもっ、大丈夫!

 吸血鬼が出た時はいつでも駆けつけます!

 見つけた時は迷わず連絡!

 ケータイで九五六を押すだけ!

 すぐに戦闘部隊が駆けつけて、目障りな吸血鬼をブチ殺します!

 

 電話番号は九五六。九五六。

 吸血鬼殺す(九五六)で覚えてねー!

 

 

 

 

 

「……姉さん、何コレ?」

「知らん。教育テレビかなんかだろう」

 

 朽ち果てた廃墟。

 壊れたテレビの電源をつけると、画面は何度も同じ映像を繰り返し流していた。

 

 古い記憶だがわずかに見覚えがある。

 僕が五歳くらいの時──十年ほど前にお茶の間に流れ、たった一週間で放送禁止になった伝説のコマーシャルとかじゃなかったか。

 

「この廃墟、十年は放置されているのか。……それにしては、まだ電気が通っているのが不思議だけど」

「言い訳だろうな」

「言い訳?」

「ここは通行証発行センター。地上と地下の行き来を統制する行政施設だ。無論、何の意味もない。地下に押し込められた吸血鬼が地上に出る事は許されていない。……だが、憲法や法律の関係上、許さないと明確に示す事ができないのだろう。故に、カタチだけでも体裁を整えておく必要がある」

 

 だから、使われる事なく朽ち果てた施設にも電気が通っているのか。

 裏都の事情なんて誰も知らない。書類上だけでも通行が許されていると示す事ができれば、それで問題はないのだろう。

 

「……なら、この施設には何の用もないのかな」

「そうでもない。見るといい、弟くん」

 

 『姉』が指差したのは大きな地図だった。

 裏都の地理が描かれた詳細な地図。のみならず、見所や美味しいご飯屋さん、観光スポットまでまとめてある。

 右下には担当者らしき名前と日付……作成した年月日だろうか。コマーシャルと同様、これまた十年前のものである事が読み取れる。

 

「……裏都にも、娯楽なんてあったんだね。もっと刑務所みたいな寂れた収容施設だと思ってたけど」

「それでは暴動が起きかねない。一千万人の吸血鬼の暴動を抑えるよりは、裏都から出る必要がないと思うほど快適な都市にする方が安上がりなんだろうぜ……だろうね」

「ん? 言い換える必要あった?」

「な、何でもない。気にするな……」

 

 どうにも『姉』の態度がおかしい。

 いつもの横暴な雰囲気は何処へやら。

 どうしてか、ビクビクと僕の機嫌を伺っている。

 

「ごっ、ごほん。……十年前には裏都を観光資源として活用する計画があったのだろう。見ての通り、上手くはいかなかったようだが」

「これだけ荒れ果てていればそうだろうね」

「だが、この情報は使える。十年前と少し古いモノであるが、私の目的の役に立つ」

「……目的?」

 

 『姉』は極悪な笑みを浮かべる。

 なんとなく、シリアスな雰囲気。

 だけど分かってきた。こういう時、『姉』は別に大層な事を考えていない。

 

 

「────()()()()

 

 

 ……やっぱり。

 しょうもない事だと思った。

 

「何を惚けている? こうしちゃおれん。時間は有限だ。ここにある観光スポットをすべてを巡らなければ!」

「緊張して損した。そんな事か」

「そんな事とは何だ⁉︎ 観光だぞ観光⁉︎ 未知を開拓して自らの経験とする娯楽! 娯楽は人生で最も大切なモノだろう! 娯楽、悦楽、快楽! 私の知らない楽しみがあるなど許されない! 私はこの世全てを楽しみ尽くしたい‼︎」

 

 すごい偉そうに普通のことを言っている。

 欲望に忠実というか何というか、こういう人間的で素直な所は意外と尊敬できる。

 ……欲とか、願望とか、僕とは無縁のモノだから。

 

「待って、姉さん。宿泊先とかは決まってる? 観光も大事だけど、先にそちらを決めない事には……」

「後で構わん。まず、観光。その後、気に入った場所に拠点を構える。なに、気にするな。いざとなれば、住居などいくらでも用意できる」

「そっか。姉さんがそう言うのなら」

「そうだな……裏都らしい観光スポットから行くか。この先、坂を真っ直ぐ登った先に『棺桶専門店』があるらしい。どうだ、面白そうじゃないか?」

「ああ。姉さんの思うがままに行こう」

 

 『姉』は僕の要望を聞かず、自分勝手に行き先を決めた。安心する。何処に行きたいか、なんて聞かれても分からない。

 欲がない。願望がない。行きたい場所なんて何もない。空っぽの日渡昇悟(ひわたりしょうご)には何かを望むことなんて許されていないのだから。

 

 

 

 

 

「対象、動きました。いかがなさいますか」

「う〜む、一旦待機でー。此処らへんは行政区画なんで巻き込むと怒られそうですし。人御(ひとみ)ちゃんは配慮できる女なのですよー」

 

 

 

 

 

 じろじろ、と日渡昇悟の様子を伺いながらアインソフは入店する。

 

 店はそう遠くなかった。大通りに沿って建てられた大型のデパート。居住区から遠くて行政区画に近い店の割には金がかかってそうなデパートだった。十年前の観光事業計画や際に補助金でも出ていたのか。

 その一区画に『棺桶専門店』はあった。『棺桶専門店』もまた、いわゆるご当地のお土産コーナー的な需要で参入しているのかもしれない。

 

「吸血鬼の店と聞いて身構えたけど、地上とそう変わりはないね」

「吸血鬼とは言っても元は人間だ。当然だろう」

 

 それこそ、違いは筋骨隆々の警備員が彷徨いてるくらいか。

 間違いなく強盗対策。この街の治安の悪さが窺える。

 

 平日というのもあるが、人通りは少ない。

 店員と警備員以外に、特に客は見られなかった。

 

 話しつつ、アインソフは楽しむに楽しめない心境にあった。

 だって、いつ殺されるか分からない。隣の弟が、いつ暴力を振い出すか分からないのだから。

 もはや口調は迷子だった。何処までが許容範囲なのか試す勇気もない。

 

 横目に日渡昇悟の表情を覗く。

 少年は呑気に棺桶を眺めていた。

 こちらこんなにも内心をぐちゃぐちゃにされているのに、腹立たしいにも程がある。

 

「実際、吸血鬼になったからと言って棺桶で寝たくなるものかな。硬そうだけど」

「吸血鬼には本能的に光を恐れる性質がある。日光を避けるためだ。故に、遮光性のあるモノに包まれて寝ると安心するのだろう。ここにある棺桶は中にマットレスが敷設されているみたいだし」

「なるほど。『棺桶専門店』って吸血鬼用寝具専門店という意味なんだね」

 

 アインソフはこのまま一生、日渡昇悟の『姉』として生きていくしかないのか。いつ敵になるかも分からないヤツを側に置き続けなければならないのか。

 たかが人間ごときを一人洗脳しただけなのに、なぜアインソフがこんな酷い目に合わなくてはならないのか。

 

(……いや、まだ手はある)

 

 ふかふかのマットレスをなぞりながら、アインソフは思考を巡らせる。

 

(洗脳の上書きができないのは、コイツの精神に『姉』という存在が強固に焼き付いたため。ヤツの価値観の中で、『姉』という存在が最上位に位置しているためだ。……何がそんなに気に入ったのかは分からないが。姉フェチだったのか?)

 

 だとすれば、とんだ変態だ。

 涼しい顔をしながら存在しない『姉』に欲情するムッツリ野郎め。

 

(だが、逆に言えば、コイツの価値観の最上位が塗り変われば強固な精神も揺らぐ。想像上の『姉』を現実の(オレ)が上回れば良い!)

 

 都合よく、おあつらえ向きの場所もあった。

 棺桶の試し寝ルーム。

 ちょいちょい、と日渡昇悟を手招きで呼び寄せる。

 

「実際に使ってみない事に判断はつかない。どうだい、弟くん。一度寝てみないか?」

「いや、別に興味はないなあ」

「まあまあ、そうは言わず。さあさあさあ!」

「……まあ、確かに。郷に入っては郷に従えとも言うか。僕も吸血鬼になったんだ。経験してみよう」

 

 なかば強引に少年を棺桶の中に押し込む。

 日渡昇悟はマットレスに寝そべる。

 ……機は熟した。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「姉さん? 何をやっているのかな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 洗脳も使って無理に体を押し込む。

 これでどうだ。押し付けられる豊満な女体。年上(千歳以上)の女性の色香。それも飛び切りの美女。思春期男子なら反応せざるを得まい。

 

(色仕掛けだ。家族としての『姉』ではない。この美貌(カタチ)を活かした『女』としての魅力で価値観を塗り替える!)

 

 触れ合う肌と肌。

 じんわりと伝わる体温(ねつ)

 すぐ近くに感じる息遣いに、耳元で囁く声。

 

 恥も外聞も投げ捨てた全力の色仕掛け。

 似たような状況はアインソフとて経験した事はあるが、女の側をやる事があるとは思わなかった。

 

 そろーり、とアインソフはさりげなく日渡昇悟の下半身をまさぐる。

 そこで、衝撃の事実が発覚する。

 

「……そうか、そうだった。姉さんとは一緒に寝ていたか。でも、この棺桶では少し窮屈だね。買うとしたら一回り大きめのサイズが良いと思うよ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()⁉︎

 

 

(ぐっ、意外と経験豊富か⁉︎ こうなったら最後の手段だ!)

 

 ヤケクソ混じりにアインソフは行動する。

 暗い棺桶の中に衣擦れの音が響く。

 

「…………姉さん?」

「実際に眠る時の感覚を知りたくてな。()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 もうシンプルに裸で襲う。

 何なら一発ヤっちまっても構わない。

 

 狭い棺桶の中で器用にボタンを外していく。

 その時、大きな手がアインソフの手を掴んだ。

 

「姉さん」

(来たか⁉︎ オレは今ここでヤるのか⁉︎ ……いっ、いや、仕方がない。ヤるしかない!)

 

 どっどっどっ! と心臓の音が激しい。

 これは日渡昇悟のものか。それともまさかとは思うがアインソフのものか。

 

 やがて、少年は脱ぎかけの服に手を添える。

 それはまるで、自分の手で脱がせようとするかのように──

 

 

「サンプル品でも裸で寝るのは良くない」

「〜〜〜〜〜〜〜っ、この不能(イ○ポ)野郎が‼︎」

 

 

 ──いや、普通にボタンを止め直した。

 

 心臓の高鳴りは聞こえない。

 もうドン引きするほどの平熱(フラット)

 少年は去勢したのかと思うほど性欲が感じられない。

 

 色仕掛けは失敗した。

 

 

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