【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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#006 強襲

 

 

 突き付けられる十を超える銃口。

 相手を刺激しないよう、僕はゆっくりと両手をあげた。

 

〇九(ゼロナイン)……聞いた事がある。裏都(うらと)から逃げ出した吸血鬼を秘密裏に処理する警察組織があるって)

 

 地上では都市伝説に過ぎなかったそれが、地下においては実在の軍隊として存在していた。

 だが、いくら都市伝説の軍隊だからといって、相手は公的な機関に属する者。問答無用で射殺なんて事はないはずだ。……ないはずだよね?

 

「貴様らには住居不法侵入及び傷害罪の容疑がかけられている。証拠もある。行政機関が集約した第零区で白昼堂々、暴行を働いてくれたモノだ。監視カメラの映像に一部始終が映っていた」

 

 男の言っている事は正論だ。

 強盗犯との戦いは僕から仕掛けた。

 相手が先に犯罪を働いた事を加味しても、逃げた犯人を追跡して強襲だなんて過剰防衛に決まっている。

 

 だが、納得がいかない事があった。

 僕は両手をあげたまま尋ねる。

 

「質問、いいかな」

「……許可する。何だ」

「吸血鬼には変身能力がある。監視カメラに僕の姿が映っていたとしても、それは証拠に当たるのか?」

 

 『姉』は言っていた。

 吸血鬼は現行犯以外では捕まえられない。

 だから、裏都(うらと)の警察は役に立たないのだと。

 

 治安崩壊の前提となる事実。

 しかし、目の前の男はあっさりと答えた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 つまり。つまり、だ。

 吸血鬼が現行法では対処できないのではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ、そんなふざけた話がっ」

「──許可なく口を開くな! 吸血鬼‼︎」

 

 カチリ、と容易く引き金(トリガー)は引かれた。

 

 発砲音はなかった。そもそも、その小銃(ライフル)に弾丸は詰められていなかった。

 飛び出したのは光線(レーザー)。眩い光が『姉』の肌を焼き焦がす。

 

「がっ、ぁ⁉︎」

「九九式光線銃。吸血鬼が苦手とする日光を再現するモノだ。痛い目を見たくなければ黙ってついて来い」

 

 ──────。

 ──思考が、沸騰する。

 

 僕が、撃たれるのは良い。

 だって、それは正しい事だ。

 たとえ証拠がないのだとしても、僕が他者に暴行を働いた犯罪者である事に変わりはないのだから。

 

 だが、『姉』は違う。

 『姉』はまだ罪を犯していない。

 正しくない。正しくない。正しくない。目の前のコイツは正しく(『姉』じゃ)ない

 

 守れなかった。

 『姉』も、約束も、守れなかった。

 僕は何をしている、何を突っ立っている。

 

 『()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「オイ。『姉』じゃない癖に調子に乗るなよ」

「……貴様。それは我々に向かって言っているのか? 許可なく口を開き、〇九(ゼロナイン)に楯突く意味を分かっているのか?」

「我々じゃねえよ、お前だよ。お前に言ってんだよチキン野郎。責任を分散するな。群れないと何もできねえのか。〇九(ゼロナイン)が何だ。お前こそ、僕を誰だと思ってやがる」

 

 ピシッ、ピキッ、と。

 不気味な音が響き渡る。

 その異様な雰囲気に、光線銃を構えた特殊部隊は一歩後ずさった。

 

 

()()()()()()

 

 

 耐えきれず、一人が引き金を引く。

 まさかにその瞬間。

 

 ドゴアッ‼︎ と。

 地面(アスファルト)そのものが捲り上がる。

 太陽光を再現した光線(レーザー)は瓦礫によって弾かれた。

 

「なっ、()()()()()』⁉︎」

 

 光線銃を突き付けられ、僕はただ黙って立っていた訳ではない。

 足の裏から『骨』を生成。その刃でアスファルトをくり抜き、『肉』の変身で生み出した筋繊維によって『骨』を動かす事で、気付かれないように相手の足元まで『骨』を忍ばせていた。

 アスファルトが捲り上がったのは『骨』を地中から抜き出したため。光線(レーザー)を弾いたのは副次効果に過ぎない。僕の主目的は防御ではなく()()にある。

 

「狼狽えるな! 吸血鬼の『骨』にも九九式は通用する! 落ち着いて狙えば────ごばっ!」

 

 声をあげ、率先して足元の『骨』に光線(レーザー)を放っていた男は、()()()()()()()()に直撃して吹き飛んだ。

 『肉』の変身により筋繊維を増幅し、吸血鬼の怪力によってアスファルトを投げ飛ばしたのだ。

 

 瓦礫を盾として使い、足元から『骨』が出現した事で、彼らの意識は瓦礫から逸れる。

 僕はその隙を突いた。巨大な質量という何よりも強い凶器で男達を圧倒する。

 

(前列の五人はやった。残り七人。応援を呼ぶ暇すら与えずにここで一掃する!)

 

 プシュッ! と掌から噴き出す音。

 凝縮した血液の勢いで射出する筋繊維(ワイヤー)

 仕掛けられた『骨』のフックが男の一人に絡みつき、『肉』の変身で筋繊維の長さを短くする事で男を引っ張る。

 

「っ、おお⁉︎」

 

 光線(レーザー)は吸血鬼の身を焼け焦がす。『骨』で防御しようと、『骨』自体すらも溶けてしまう。

 一方で、人間相手には何の効果もない。せいぜいが目眩し程度。恐らく、吸血鬼に奪われた時の事も考えた設計(デザイン)になっているのだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 筋繊維(ワイヤー)でぐるぐる巻きにした男を前に構え、放たれる光線(レーザー)を受け止める。

 

「っ、貴様ッ! 人質を──」

「──遅い」

 

 男を盾にしたまま突進する。

 特殊部隊は吸血鬼には近づこうとせず、遠距離からの光線(レーザー)で対処していた。それは何故か。

 単純な話、近接格闘で人間は吸血鬼に勝てない。鋼鉄をも砕く膂力と目にも止まらぬ速度を前に、ちっぽけな人間が築き上げた格闘術は押し潰される。

 

 ドガッ、ベキ、ゴギャア‼︎ と。

 非常に鈍い音が何度かして、やがて立っている者は僕だけになった。

 瞬殺。自慢できるような事ではない。ただ人間では吸血鬼に勝てないというだけの事。

 

「姉さん。無事か?」

「あ、ああ……随分と派手にやったな」

「相手がその気だったから仕方がない。それより、援軍が来るかもしれない。急いでここを──」

 

 

 

「わあお、地獄絵図。特殊部隊が情けなーい。洗脳されても問題ない面子を集めたのが失敗ですかねー」

 

 

 

 瞬間。

 体が、硬直した。

 

 比喩でも、精神的なものでもない。

 ()()()()()()()()()()

 

 指先一つ動かない。

 瞬きさえもできない。

 開いたままの口が、カラカラと乾いていく。

 

(な、んだ……⁉︎)

 

 ごくり、と唾を飲む。

 どうやら喉は動くようだった。

 だが、皮膚が引き攣ったような不思議な感覚。

 喉の中は動いても、(そと)はそれに伴わない。

 

 カツ、コツ、と。

 足音はゆっくり響く。

 その余裕を覆す手段は、今の僕にはない。

 

 目玉を動かして焦点を合わせる事もできず、ぼやけた視界。そこに人影が浮かび上がる。

 長身の女だった。目隠しをした、赤い長髪の──長、髪? いや、待て。アレは……()()()()()

 頭から伸びた繊維の束。筋繊維、血管、神経、そういったグロテスクな何かの先端に、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんっ、人間じゃ……ない⁉︎」

「当たり前じゃーないですか? 蛇の道は蛇。吸血鬼を殺せるのは吸血鬼だけでしょー」

 

 目の前にいるのは吸血鬼。

 〇九(ゼロナイン)に与する、吸血鬼殺しの吸血鬼。

 

「あっ、もちろん人間ちゃんだって良い所はいっぱいありますよー? 流石の吸血鬼だって水爆落とされたら死ぬでしょーし。でもでも、市街地に入り込まれたらそーゆー荒技もできませーん。ってなワケで、〇九(ゼロナイン)には共喰いの吸血鬼がいるんですよねー」

「……知っているとも。恥知らずの親殺し(ダンピール)。吸血鬼に背き人間に与する裏切り(コウモリ)野郎が!」

「ありゃりゃー。アインソフちゃんってばダ・イ・タ・ン。うひひっ。やばやばヨダレ出ちゃう。殺意が脳にビンビン来てキマッちゃーう!」

「アイン、ソフ……?」

「…………ん?」

「あっ…………」

 

 時間が止まったと錯覚するような沈黙。

 首を傾げる女と、小声で「やばっ」と呟く『姉』。

 

 アインソフというのが『姉』の名前か。

 日渡(ひわたり)アインソフ……しっくりこない。横文字だからか? いや、だが──

 

「え? ……マジで? そんな事も教えてあげてないの⁉︎ かっわいそー!」

「……なんの、話だ?」

「うひひっ。いーよー、教えたげる。その女の名前はアインソフ=オールナイト。『耽溺公』と謳われる純潔の吸血鬼。あとはー、……西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……………………は、」

「温室育ちの日渡ちゃんも流石に知ってるっしょ? 一千万人が吸血鬼となった『血海事変(アウトブレイク)』。発端はコウモリのウイルスになんて言われてるけど〜、コウモリはコウモリでも吸血鬼でした〜ってワケでーす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 首が動かないから振り返る事もできない。

 『姉』はどんな表情をしているのか。

 嘘だと言って欲しかった。馬鹿なと笑い飛ばして欲しかった。

 

 だが、答えは沈黙。

 明言する事なく、しかし、それが肯定を意味する事は明白だった。

 教科書で読んだ大混乱。アレを生み出したのが『姉』だったのなら──彼女は正しく(『姉』じゃ)ない?

 

「……そこまで知っているならば、分かっているはずだ。(オレ)は世界に七体しか現存しない純血の吸血鬼──即ち、殲血禁忌(レッドリスト)の一角。私の身の安全は国際条約で保障されているはずだが」

「うひひっ、そんなの守られるワケないじゃーん! 『独善公』は良いよ。『貪欲公』も仕方ない。でも、東京を穢した『耽溺公』だけは認めない……だってさ」

「チッ、日本警察の暴走か。いつになったら私は楽園の地に辿り着けるのか」

「はいはい。かわいそかわいそ。ま、人御(ひとみ)ちゃんとしては好都合だけどね〜。こんなに良くできた造形の女の子を潰す機会ってなかなかないし。うーん、たまらん」

 

 ぞくぞくっ、と身を震わせる女。

 『姉』を甚振って殺す想像でもしているのか。

 そう思った時、反射的に、許せるかと奥歯を噛み締めた。

 

 過去の事は分からない。

 もしかしたら『姉』は『姉』じゃないのかもしれない。

 

 でも、だけど。

 かもしれない、で『姉』を見捨てたくはない。

 この目で『姉』が『姉』じゃないと分かるまで、この暫定『姉』を守り抜く必要がある。

 

 

(ッ、この状態から……⁉︎)

 

 

 絶体絶命の硬直状態。

 指一本動かない体、不自由な選択肢。

 『姉』を救うため、ここから全部ひっくり返せ!

 

 

 

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