【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

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ようやく異能バトルの「異能」部分の話。
今までは呪術廻戦で術式抜きの呪力操作のみで戦っていたようなもの。
スケルトンダブルでUB抜きで戦っていたようなものです。



#007 毒蛇①/基礎①

 

 

 

 石化したように硬直した肉体。

 眼前には余裕そうに嗤う吸血鬼。

 まずは体が動かない理屈を把握しなければ、何も始まらない。

 

(体は全身が動かない。……いや、違うな。口は開いたままでも、歯は動く。『肉』の変身で体内の筋繊維も動かせる。皮膚だけが止まっている? ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 試しに尻の筋肉をピクピクと動かす。

 ……動いたな。やはり、ヤツの視界に入らなければ体は動かせる。

 

 頭から伸びたグロテスクな髪もどきと、その先端に取り付けられた無数の眼球もきっと、その特異な能力を活かすための殺戮機構(カタチ)

 

 視認した物体を停止させる魔眼。

 なんだ、簡単じゃないか。

 

 ビキ、ビシ、と。

 亀裂のような地響きが鳴る。

 しかし、女はふーと息を吐くと、

 

「それ、さっきと同じでしょ〜? 天丼とかつまんなーい」

 

 足の裏から地中を掘り進めていた『骨』が、地上に出ようとして停止する。

 女の眼球の一つが地面を見ていた。動かない地面は鋼鉄のよりも固く『骨』を阻む。

 見えない地中を経由しても、視界に収まった地表にまでは干渉できない。

 

「なら、これは?」

 

 ブシュッ‼︎ と。

 僕の背中から大量の血液が噴射する。

 上下左右。視界を赤で満たすように。

 僕の頭上に舞い上がり、僕と女の間を隔てるように血の雨が降る。

 

 それは最も簡易的な目潰し。

 血液自体の動きを止めても意味がない。

 だって、それは慣性に従っているだけの物体。それ自体は動いていない。

 

 しかし。

 

「いやいや。それってさー、人御(ひとみ)ちゃんが後手に回ってる想定で動いていないです? まったくもー、舐めすぎでしょ」

 

 ドン! と女は跳躍した。

 噴射された血よりも高く、左右前後、何処へ逃げても視認できるように。

 

(見所があるのは初戦だけー? 日渡(ひわたり)ちゃんには期待してたんだけどなー。所詮は温室育ちの………………は?)

 

 瞬間。

 

 

 ()()()()()()‼︎‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あり得ない空中の交通事故は女を轢き、上空から地面に叩きつける。

 空飛ぶ機能なんてまるでない自動車──路上を走っていた自動洗浄車。衝撃と共に自動車後部のタンクにヒビが入り、大量の泡と洗剤が溢れ出す。

 

()()()()()()()()! ()()()ッ、()()()()()()()()()()()()()()……っ、()()‼︎ ()()()⁉︎)

 

 指に触れる。かすかな違和感。

 非常な細く、砂粒よりも小さなそれ。

 

 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 プシュ! と何かの噴出音が聞こえる。

 日渡昇悟(ひわたりしょうご)の常套手段。

 筋繊維(ワイヤー)の射出。音は連続して響き、徐々に遠くなっていく。

 

「……なるほどで〜す。血の噴出、アレは目潰しってワケじゃない。射出音を誤魔化してただけなんですねー」

 

 洗剤を振り払って彼方を睨む。

 すでに日渡昇悟とアインソフ=オールナイトの姿は、視界の中で小さくなっていた。

 

 ()()を発動する。

 視界の隅で、少年少女が硬直する。

 だが、止まらない。二人の動き自体は止められても、目に見えないほど細い筋繊維(ワイヤー)の収縮は止まらない。

 

 二人が向かう先は第四区。清掃のために雨が降り注ぐ無人の地域。

 上手い、と純粋に人御(ひとみ)は感心した。豪雨は二人の姿を覆い隠す上、水が光線(レーザー)を屈折して攻撃を外させる。

 二種類の遠距離攻撃が封じられた。()()()()()も知らない身で、環境を利用して上手く立ち回っている。

 

「でもでもっ、無駄ですよーん。ある程度距離を詰めれば人御(ひとみ)ちゃんの目で止められる。うひひっ、抵抗は嬉しいですけどー。お仕事しないと班長ちゃんに殺されちゃいますから────」

 

 ぴちゃん、と女の足が水溜りを踏む。

 ()()()()()()()()()()

 瞬き一つせず、表情すらも変えず、まるで体が第四区へ立ち入るのを拒むように。

 

「──前言撤回! ほれほれー、起きてくださーい役立たずちゃん!」

 

 女は情けなくも気絶した特殊部隊の男達を蹴って起こす。

 のろのろ、と男達は緩慢な動きで目を覚ました。

 

「ちゅうもーく! 日渡ちゃんとアインソフちゃんは第四区に逃げました。って事で、みんなバラバラになって捜索にレッツゴー! あっ、人御(ひとみ)ちゃんは一人寂しくお留守番してまーす」

「……我々は情けない敗北者です。バラバラに再戦して勝ち目があるとは思いませんが、」

「だいじょぶだいじょぶ! 探されてるよーって(ストレス)をかけるだけでも意味はあるってことです。……目指す場所なんて一つしかないんだし、きっとすぐに来ますよ〜」

 

 女は、蛇のように舌舐めずりする。

 

「その時はきっと、()()()()()を経てもっと強くなってますよね〜。楽しみだな〜愉しみだな〜。うひひっ、やっぱり人と殺し合うのが一番の娯楽ですよねっ☆」

 

 

 

 

 

「追いかけて来ない? ……いや、好都合か」

 

 豪雨の中、僕と『姉』は高架下で雨宿りをする。

 地面は雨で流された蛍光塗料によって、色とりどりにドロドロに輝いていた。

 吸血鬼の肉体のお陰か、体が冷える事はない。恐らく、無意識のうちに『肉』の変身で体温を維持しているのだろう。

 

「好都合? はっ、まさか私の無防備な姿に興奮して……⁉︎」

「意外と余裕だね、姉さん」

 

 『姉』の服についた血の汚れは雨で洗い落とされたが、代わりに白いシャツが皮膚に張り付いて体のラインを丸わかりにする。その上、うっすらと下着も透けて見えた。

 

「……どうでもいい事は置いておいて、」

「どうでもいい⁉︎ この私の美貌がっ⁉︎」

「置いておいて……姉さん、いくつか質問がある」

「……そう、だろうな。ああ、訊きたい事は分かっている。西暦二〇二〇年に起こった『血海事変(アウトブレイク)』は──」

「──それについても、今は良い。後でゆっくりと話そう」

 

 こんな切羽詰まった状況で話す事ではない。

 安全が確保されて、それから問い詰める。

 この『姉』は、本当に『姉』なのか。

 

 それよりも、今は考えるべきはもっと目先の事。

 

「姉さん、これからどうする」

「……決まっているだろう。逃げる。私の楽園をまた探すよ」

「逃げるアテはあるのか?」

「ある。というより、日本警察の牛耳る裏都(うらと)から脱出すればそれで終わりだ。地上にさえ出れば、(オレ)の身は国際条約に守られる」

「それ、さっきも言ってたな。レッドリスト……だったっけ?」

 

 僕の知る知識では、絶滅危惧種などの野生動物をまとめたリストだが……『姉』の口ぶりでは、もっと特殊なモノに聞こえる。

 

殲血禁忌(レッドリスト)。純血の吸血鬼を指す言葉だ。一九九九年、御伽話で謳われる『怪物』のほとんどは絶滅した。現存するのは(オレ)を含めた七体の吸血鬼──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ドラゴン。魔女。人魚。

 世界に溢れていたファンタジーの怪物。

 古今東西の人外は全て絶滅した。

 ──怪物の中の怪物、七体の吸血鬼を除いて。

 

「例えば、無限に増殖・分裂を繰り返しており、いくら殺してもキリがない『悪食公』ミラレリム=カレイディラック。例えば、合衆国の経済を支配しており、殺すと世界恐慌が引き起こされる『貪欲公』ミスター・アマイ。例えば、解凍までにあと三千年かかるとされる、南極の氷山に眠る『堕落公』アイスマン=コールドケース。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………っ!」

(オレ)もそうだ。殺したくても殺せない怪物。戦闘に意味はない。ただただ私が暴れ、世界が無駄に浪費されるだけだ。放っておく方が犠牲は遥かに少ない。……故に、この『耽溺公』を殺す事は世界が許さない。地上にさえ出れば、大使館が日本を非難してくれるだろうよ」

 

 理解が追いつかない。

 思考が上手く形にならない。

 それでも、重要な部分だけでも何とか飲み込んで話を進める。

 

「……了解した。目標(ゴール)裏都(うらと)からの脱出。……九十九階分の上昇、か」

「まさか、階段など用意されてはいない。裏都(うらと)は収容施設だぞ? 地上に上がる手段などない。……と、ここに住む連中は言うかもしれない」

「……?」

「忘れたか? 憲法や法律の関係上、地上に出る事を許さないとは明記できない。故に、必ずある。実際に使われてはいなくても、カタチとしては地上に出る手段が用意されている。君も知っているはずだ、弟くん」

「僕達が乗ってきたエレベーターか」

「『大黒柱』。そう呼ばれているあの巨大昇降機(エレベーター)を使えば、地上まで一直線だ。ふん、整理してしまえば簡単だな」

「そうかな? 相手もきっと僕らの狙いは分かっている。……待ち構えているはずだよ、()()()が」

「…………くそッ」

 

 最終目標は『裏都からの脱出』、中期目標は『エレベーターへの到達』。

 そのためには、待ち構えているであろう女を撃破する必要がある。

 

「……仕方がない、か。ああ、もう、嫌だなあ、嫌だが、仕方がない。吸血鬼講座基礎編だ。弟くん、君に()()()()()を教える時が来たようだ」

 

 外見風貌を変更する『皮』の変身。

 身体性能を増強する『肉』の変身。

 硬化物質を生成する『骨』の変身。

 それらに続く、第四の変身。

 

 僕の頭に浮かんだのは目隠しをした女の()

 見たモノを停止させる魔眼。あれが第四の変身と関係する異能なのだろう。

 

「世界に現存する怪物は七体だと私は言った。だが、不思議には思わなかったか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……まあ、大した理由はない。強いて言うなら、吸血鬼こそが最も適応能力に長けた怪物だったからだ」

「……変身能力か」

「そうだ。吸血鬼はあらゆる環境に適応できるよう変身できる。皮を、肉を、骨を────そして、()を」

 

 血。

 吸()鬼という存在において、最も重要な要素(ファクター)

 

「吸血鬼というのは古今東西に蔓延り、何千年も前から存在する怪物。吸血鬼はあらゆる地域、あらゆる時代で吸血を行った。故に、その血には無限の因子が宿っている。()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!」

「吸血鬼という存在には複数の伝承が入り混じっている? 当然だ。数多の怪物を喰らい、数多の神秘を取り込み、数多の伝承を成し遂げるのが吸血鬼。つまり、第四の変身──『血』の変身の真髄とはそれだ」

 

 どろり、と。

 粘つくような声で『姉』は告げた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()

 

 

 





明日は2話投稿します(書き溜めゼロだが宣言する縛りで呪力を高める)
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