【完結】姉はTS吸血鬼(姉じゃない)   作:大根ハツカ

9 / 23

本日2話目。



#009 毒蛇③

 

 

 

 『霧消血統(インビジブル)』。

 姿を隠す、透明化の異能。

 

 吸血鬼は霧になる、という伝承がある。

 あれは本当に粒子化している訳ではない。

 霧になったように瞬時に消え去るという意味。

 それこそが、僕が『血』の変身で獲得した異能だった。

 

 視界に映らない。

 だから、『魔眼血統(イヴィルアイ)』も通用しない。

 真正面から『骨』を突き刺しても、相手は痛みが走るまで気付けない。

 

「うひひっ、面白すぎでしょー‼︎」

 

 正面から肉体を抉られた女は、それでも、笑いながら反撃を仕掛ける。

 姿形は見えずとも、感触までを消せる訳ではない。攻撃から大体の位置を把握して、腕から突き出る剣のような『骨』を大きく振り払う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ごがっ!」

「独学って言うのは凄いですね〜。誰も考えなかった異能を選ぶ。……そーれーがー、使えるかは〜別の話ですけどー」

 

 ざざっ、ざざざざ! と。

 僕の姿に砂嵐が走る。

 完全に透明化した先程とは違い、少し目が霞む程度まで異能の出力を落とす。

 

 吸血鬼は鏡に映らない、という伝承がある。あれもまた霧化と同じく、透明化能力によるモノ。

 肉眼では視認可能でも、鏡を介すると見えなくなる程度の光量しか反射しない……という特殊な光学的特性。

 

 つまり、『魔眼血統(イヴィルアイ)』対策としては何の意味もない出力。

 だが、そうせざるを得なかった。

 

「出力を落としましたね〜? 当然ですけどー、でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ー?」

「ッ!」

「透明化……原理としてはー、皮膚に光を屈折する特殊な力場を展開する異能。強いですよ〜? 強いですけどー、それだけ弱点も大きいですよねー? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ー、()()()()()()()()()()()()()()

 

 『霧消血統(インビジブル)』の異能を得た者は光に嫌われる。

 光を屈折させて不可視の怪物になったとしても、自分自身も不可視の状態を強制される。

 

 吸血鬼は許可されないと家の中に入れない、なんて伝承がある。無数に語られる吸血鬼の弱点の一つ。

 あれはそのままの意味ではなかった。単純な話、声をかけられないと入口の場所さえ分からない──()()()()()()()()()()()

 

 完全透明化状態では視界も完全に消える。

 鏡に映らない程度の最低出力まで抑えても、視界はぼやけたモザイクに覆われる。

 何となくの色やシルエット程度なら分からなくもないが、細部や遠近感は理解不能。眼鏡をかけたとしても晴れることのない(もや)

 

 僕は、日渡昇悟(ひわたりしょうご)は、異能の代償に視覚を捨てたのだ。

 

「……けど、これで平等だろう? 僕もあなたも、相手の姿が見えない。互いに異能は出し切った。あとは骨肉喰らい合う肉弾戦だ」

「うひひっ。それも魅力的ですけど〜、人御(ひとみ)ちゃんの異能(ちから)がこれで出涸らしだと思われるのは心外ですよー?」

「────なに?」

 

 警戒と共に完全に透明化する。

 吹き飛ばされてリセットされた位置関係は把握した。後は音を頼りに動けば良い。

 

「実は人御(ひとみ)ちゃんもー、異能の出力を落としていたんですよねー。ほらほらっ、鏡で反射された時のコトを考えたらっ、ローリスローリターンでいこうかなって」

 

 ピキ、ピキピキビキッ‼︎ と。

 不可解な音が連続する。

 目隠しをした女の体が、()()()()()()()()に覆われていく。

 

「『魔眼血統(イヴィルアイ)』の本質は固定と停止。最低出力では単なる金縛りですけど──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ゴルゴーン、バジリクス、コカトリス。

 各地に伝わる邪視と蛇の伝承──数多の怪物の異能が凝縮された『魔眼』の血統。

 

「そして、ここで言う『石』ってーホンモノじゃないんですよねー。『石』のように見える、鋼鉄よりも硬くて重い何か。──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 女の表層は石化した。

 『魔眼血統(イヴィルアイ)』の異能で自分自身を硬化した。

 それはまるで全身鎧(フルプレート)を身を包んだ騎士。見ただけで強度は分からないが──少なくとも、僕の『骨』じゃあ打ち負ける!

 

 

「じゃー、改めて自己紹介で〜す。人御(ひとみ)末那子(まなこ)、十六歳。趣味は殺人、拷問、殺し合い。対等に命を奪い合える宿敵(カレシ)ぼしゅーちゅー! ──いっぱい抵抗してね。その方が楽しみが長く続くから☆」

 

 

 直後。

 ドゴバッ‼︎ と、腹部に響く衝撃。

 

 女の頭から伸びた赤い長髪──筋繊維や神経の塊が、()()()()()()()()()()()()

 

 見えている訳ではない。

 ただのマグレ当たり……いや、マグレ当たりが起こるまで長髪は周囲全てを打ち続ける。

 アスファルトの地面を破壊してのたうち回り、空気を裂く音を響かせてしなる無数の髪。ゆらゆらと蠢くそれは、何処か蛇のような印象を与える。

 

(普段は髪のまま、接触(インパクト)の瞬間だけ石化して重い一撃となる。……クソッ、洗練されている!)

 

 ドドドドドドドドバッ‼︎ と。

 グロテスクな長髪が蹂躙する。

 見えずとも音だけで分かる。近づく事ができない。

 一度でも絡み取られれば、挽肉(ミンチ)のように原型を留めないまでにすり潰され、必要最低限の質量(いのち)さえも地面の染みとなる事だろう。

 

(ならッ)

 

 プシュッ、プシュッ、と噴出音が連続する。

 手首から筋繊維(ワイヤー)を射出。

 透明な筋繊維(ワイヤー)を周囲一帯に張り巡らせる事で、人御(ひとみ)の髪を封じ込める!

 

 停止する髪の蹂躙。

 沈黙に背中を押されるように、僕は再度、筋繊維(ワイヤー)を射出した。

 

(どうせ僕の攻撃は通じない。僕の『骨』じゃヤツの石化装甲は貫けない。──けどね、人御(ひとみ)末那子(まなこ)。あなたは忘れている。僕の勝利条件とあなたの勝利条件は違う)

 

 彼女は『姉』を殺しに来た。そのため、邪魔な僕だって殺したいのだろう。

 だが、僕らは違う。最終目標は裏都からの脱出で、中期目標はエレベータへの到達。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 筋繊維(ワイヤー)が女に絡み付く。それはただ動きを封じるのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 退け。同族喰らいの吸血鬼。

 あなたは敵ではなく障害物。

 道から取り除けばそれで済む。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 しかし。

 何も、起こらない。

 

 抵抗された、とかですらなく。

 人御末那子(ひとみまなこ)は微動だにしない。

 

「……は、」

「はあー、萎えるわー。石化の対象(ターゲット)はですねー、ある程度融通が効くんですよー? 肉体の一部分だけを石化するとかー、相手が来ている服までまとめて石化するとかー。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、人御末那子は石化によって地面と癒着していた。

 ただ引っ張るだけでは足りなかった。今求められているのは、地面ごと粉砕するような高火力だった。

 

「……ッ、がばあ⁉︎」

「そんだけ噴出音をさせてたらー、バカでも居場所は分かりまーす。もー、消化ふりょーって言うかー。自滅で敗北とかつまんな過ぎですよ〜?」

 

 無数の髪が肉体に突き刺さる。

 髪──筋繊維や神経を介して、僕の血肉が奪われていく。

 ほんの数秒。それだけで、足りない質量を補うように僕の体は縮んでいった。

 

「ふ、はは」

「……何を笑っているんです。気でも狂いましたー?」

 

 失われていく質量。致命の寸前。

 なのに、僕の顔に浮かぶのは笑みだった。

 

 人御末那子は地面と癒着している。

 彼女はどれだけ力をかけても動かない。

 ────()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぎッ、ああアア⁉︎」

「僕一人じゃ、あなたには勝てない。……でも、僕達は最初から二人だった」

「アインソフッ、オールナイト! ずっと隠れていた臆病者の異能ッ⁉︎ いや、違います! これは──」

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 最初の邂逅の時。

 実はちゃっかりと僕は落ちた光線銃を拾っていた。

 あれは奪われた所で人間に害はない。だが、相手も吸血鬼であるのなら話は別だ。

 

 光線(レーザー)は硬度を無視して吸血鬼の肉体を焼く。

 どれだけ硬い石の装甲に身を包んでいたのだとしても無駄だ。人類の叡智が吸血鬼を滅ぼす。

 

「逃げッ」

「逃げられない。あなたはその場から動けない。……少なくとも、瞬時にはね」

 

 僕が不可視の異能と肉弾戦で動きを止め、『姉』が見えないほど遠距離から狙撃する。初めから作戦はそれ一択。

 僕の方は失敗したけれど──自分で自分の動きを封じているのだから、僕の成否は関係なかった。

 

(ま、だ! まだです! うひひ、光線(レーザー)は吸血鬼にとっては致命傷ですけど、直撃さえしなければ良い! 光線(レーザー)はまっすぐに進むからこそ、射撃位置が分かれば防御は簡単! ちょうど此処には瓦礫が転がってますし、人御(ひとみ)ちゃんの髪で掴んで盾にすれば──)

「無駄だ。自分で言った事を忘れたのか?」

「な、にを」

「僕の異能は『霧消血統(インビジブル)』。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「──────、あ」

 

 ぐわん、と光の軌道が捻じ曲がる。

 人御末那子が掴んだ瓦礫を避けるように、何度も捻じ曲がって彼女の肉体を射抜く。

 

(っっっ、張り巡らされた筋繊維(ワイヤー)光線(レーザー)の軌道を捻じ曲げた⁉︎)

 

 第四区で水溜りに映る自分を見た時、僕は人御末那子の弱点を突く方法を思いついた。

 それは鏡──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「でもっ、どうやって⁉︎ 目の見えない弱点を負った日渡(ひわたり)ちゃんがッ、そんは微細な調整をできるワケ──ッ」

「僕には姉さんがいる。僕が見えずとも姉さんの目がある」

「…………は、」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────()()っ」

 

 『姉』が見て、僕が当てる。変則的だが観測手(スポッター)狙撃手(スナイパー)に近しい連携。

 僕らは繋がっている。『姉』との繋がりが、(ぼく)を強くしてくれる。

 

(……これはー、負けですねー)

 

 心の中で、人御末那子は呟く。

 手も足も出ない。焼かれる体は諦念を生み出す。

 

 だから。

 人御末那子は覚悟を決めた。

 最後の最後。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「せめて、任務にない関係ないオマケ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 人御は目隠しを剥ぎ取る。

 宝石と呼ぶには濁っていて、血と呼ぶには生々しさが感じられない赤黒い瞳。

 その視線が、彼方に存在するアインソフ=オールナイトを射抜く。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

 

 

「人域血壊────『赫かしい死線(バロール・サイト)』」

 

 

 『魔眼血統(イヴィルアイ)』、その最大出力。

 もやは暴走とさえ言える異能の昂ぶり。

 魔眼、あるいは邪視とも呼ばれる神秘の極限。

 固定と停止。その先にある、あらゆる生命活動を停止させる異能。

 

 即ち──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただし、人御末那子はまだ最奥には至っていない。

 その目に射抜かれたモノはあらゆる道理を無視して死ぬ……とまではいかない、視たモノを心停止させる程度の異能。

 

 それでも、十分だった。

 吸血鬼にとって『血』は重要な要素(ファクター)。『血』を動かす心臓が止まれば、吸血鬼は何もできなくなる。

 一時的な心臓な破壊ならば『肉』の変身で補えるが、永続的に心臓を停止し続ければ『耽溺公』とて永眠に近しい状態になる。

 

(ぐちゃぐちゃになるのを見れないのは残念ですけど────)

 

 ギラギラと輝く瞳で彼方を睨む。

 視力は複製した眼球の比ではない。

 どれだけ離れたとしても、裏都の中ならば届く!

 

 そして────

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「──────、」

 

 ドグンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 人御末那子の心臓が停止する。

 

 止まる。静まる。終わる。

 共喰いの吸血鬼はここで死ぬ。

 

(…………そっ、か。光を屈折させる異能。なら──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最後の最後で、弱点を突かれた。

 吸血鬼は鏡を嫌う。

 ゴルゴーンは鏡に敗れる。

 

 

「うひっ、ひひひ。コーフンしちゃう。人御(ひとみ)ちゃんの宿敵(カレシ)に認定しちゃいま────」

「──いらないよ、そんな称号。勝手に生えてくるのは『姉』だけで十分だ」

 

 

 





……人域血壊って何ですか???(プロット崩壊)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。