本日2話目。
『
姿を隠す、透明化の異能。
吸血鬼は霧になる、という伝承がある。
あれは本当に粒子化している訳ではない。
霧になったように瞬時に消え去るという意味。
それこそが、僕が『血』の変身で獲得した異能だった。
視界に映らない。
だから、『
真正面から『骨』を突き刺しても、相手は痛みが走るまで気付けない。
「うひひっ、面白すぎでしょー‼︎」
正面から肉体を抉られた女は、それでも、笑いながら反撃を仕掛ける。
姿形は見えずとも、感触までを消せる訳ではない。攻撃から大体の位置を把握して、腕から突き出る剣のような『骨』を大きく振り払う。
「ごがっ!」
「独学って言うのは凄いですね〜。誰も考えなかった異能を選ぶ。……そーれーがー、使えるかは〜別の話ですけどー」
ざざっ、ざざざざ! と。
僕の姿に砂嵐が走る。
完全に透明化した先程とは違い、少し目が霞む程度まで異能の出力を落とす。
吸血鬼は鏡に映らない、という伝承がある。あれもまた霧化と同じく、透明化能力によるモノ。
肉眼では視認可能でも、鏡を介すると見えなくなる程度の光量しか反射しない……という特殊な光学的特性。
つまり、『
だが、そうせざるを得なかった。
「出力を落としましたね〜? 当然ですけどー、でも、
「ッ!」
「透明化……原理としてはー、皮膚に光を屈折する特殊な力場を展開する異能。強いですよ〜? 強いですけどー、それだけ弱点も大きいですよねー?
『
光を屈折させて不可視の怪物になったとしても、自分自身も不可視の状態を強制される。
吸血鬼は許可されないと家の中に入れない、なんて伝承がある。無数に語られる吸血鬼の弱点の一つ。
あれはそのままの意味ではなかった。単純な話、声をかけられないと入口の場所さえ分からない──
完全透明化状態では視界も完全に消える。
鏡に映らない程度の最低出力まで抑えても、視界はぼやけたモザイクに覆われる。
何となくの色やシルエット程度なら分からなくもないが、細部や遠近感は理解不能。眼鏡をかけたとしても晴れることのない
僕は、
「……けど、これで平等だろう? 僕もあなたも、相手の姿が見えない。互いに異能は出し切った。あとは骨肉喰らい合う肉弾戦だ」
「うひひっ。それも魅力的ですけど〜、
「────なに?」
警戒と共に完全に透明化する。
吹き飛ばされてリセットされた位置関係は把握した。後は音を頼りに動けば良い。
「実は
ピキ、ピキピキビキッ‼︎ と。
不可解な音が連続する。
目隠しをした女の体が、
「『
ゴルゴーン、バジリクス、コカトリス。
各地に伝わる邪視と蛇の伝承──数多の怪物の異能が凝縮された『魔眼』の血統。
「そして、ここで言う『石』ってーホンモノじゃないんですよねー。『石』のように見える、鋼鉄よりも硬くて重い何か。──
女の表層は石化した。
『
それはまるで
「じゃー、改めて自己紹介で〜す。
直後。
ドゴバッ‼︎ と、腹部に響く衝撃。
女の頭から伸びた赤い長髪──筋繊維や神経の塊が、
見えている訳ではない。
ただのマグレ当たり……いや、マグレ当たりが起こるまで長髪は周囲全てを打ち続ける。
アスファルトの地面を破壊してのたうち回り、空気を裂く音を響かせてしなる無数の髪。ゆらゆらと蠢くそれは、何処か蛇のような印象を与える。
(普段は髪のまま、
ドドドドドドドドバッ‼︎ と。
グロテスクな長髪が蹂躙する。
見えずとも音だけで分かる。近づく事ができない。
一度でも絡み取られれば、
(ならッ)
プシュッ、プシュッ、と噴出音が連続する。
手首から
透明な
停止する髪の蹂躙。
沈黙に背中を押されるように、僕は再度、
(どうせ僕の攻撃は通じない。僕の『骨』じゃヤツの石化装甲は貫けない。──けどね、
彼女は『姉』を殺しに来た。そのため、邪魔な僕だって殺したいのだろう。
だが、僕らは違う。最終目標は裏都からの脱出で、中期目標はエレベータへの到達。
(
退け。同族喰らいの吸血鬼。
あなたは敵ではなく障害物。
道から取り除けばそれで済む。
「──
しかし。
何も、起こらない。
抵抗された、とかですらなく。
「……は、」
「はあー、萎えるわー。石化の
つまり、人御末那子は石化によって地面と癒着していた。
ただ引っ張るだけでは足りなかった。今求められているのは、地面ごと粉砕するような高火力だった。
「……ッ、がばあ⁉︎」
「そんだけ噴出音をさせてたらー、バカでも居場所は分かりまーす。もー、消化ふりょーって言うかー。自滅で敗北とかつまんな過ぎですよ〜?」
無数の髪が肉体に突き刺さる。
髪──筋繊維や神経を介して、僕の血肉が奪われていく。
ほんの数秒。それだけで、足りない質量を補うように僕の体は縮んでいった。
「ふ、はは」
「……何を笑っているんです。気でも狂いましたー?」
失われていく質量。致命の寸前。
なのに、僕の顔に浮かぶのは笑みだった。
人御末那子は地面と癒着している。
彼女はどれだけ力をかけても動かない。
────
「
「ぎッ、ああアア⁉︎」
「僕一人じゃ、あなたには勝てない。……でも、僕達は最初から二人だった」
「アインソフッ、オールナイト! ずっと隠れていた臆病者の異能ッ⁉︎ いや、違います! これは──」
「────
最初の邂逅の時。
実はちゃっかりと僕は落ちた光線銃を拾っていた。
あれは奪われた所で人間に害はない。だが、相手も吸血鬼であるのなら話は別だ。
どれだけ硬い石の装甲に身を包んでいたのだとしても無駄だ。人類の叡智が吸血鬼を滅ぼす。
「逃げッ」
「逃げられない。あなたはその場から動けない。……少なくとも、瞬時にはね」
僕が不可視の異能と肉弾戦で動きを止め、『姉』が見えないほど遠距離から狙撃する。初めから作戦はそれ一択。
僕の方は失敗したけれど──自分で自分の動きを封じているのだから、僕の成否は関係なかった。
(ま、だ! まだです! うひひ、
「無駄だ。自分で言った事を忘れたのか?」
「な、にを」
「僕の異能は『
「──────、あ」
ぐわん、と光の軌道が捻じ曲がる。
人御末那子が掴んだ瓦礫を避けるように、何度も捻じ曲がって彼女の肉体を射抜く。
(っっっ、張り巡らされた
第四区で水溜りに映る自分を見た時、僕は人御末那子の弱点を突く方法を思いついた。
それは鏡──
「でもっ、どうやって⁉︎ 目の見えない弱点を負った
「僕には姉さんがいる。僕が見えずとも姉さんの目がある」
「…………は、」
「
「────
『姉』が見て、僕が当てる。変則的だが
僕らは繋がっている。『姉』との繋がりが、
(……これはー、負けですねー)
心の中で、人御末那子は呟く。
手も足も出ない。焼かれる体は諦念を生み出す。
だから。
人御末那子は覚悟を決めた。
最後の最後。
「せめて、任務にない関係ないオマケ────
人御は目隠しを剥ぎ取る。
宝石と呼ぶには濁っていて、血と呼ぶには生々しさが感じられない赤黒い瞳。
その視線が、彼方に存在するアインソフ=オールナイトを射抜く。
「人域血壊────『
『
もやは暴走とさえ言える異能の昂ぶり。
魔眼、あるいは邪視とも呼ばれる神秘の極限。
固定と停止。その先にある、あらゆる生命活動を停止させる異能。
即ち──
ただし、人御末那子はまだ最奥には至っていない。
その目に射抜かれたモノはあらゆる道理を無視して死ぬ……とまではいかない、視たモノを心停止させる程度の異能。
それでも、十分だった。
吸血鬼にとって『血』は重要な
一時的な心臓な破壊ならば『肉』の変身で補えるが、永続的に心臓を停止し続ければ『耽溺公』とて永眠に近しい状態になる。
(ぐちゃぐちゃになるのを見れないのは残念ですけど────)
ギラギラと輝く瞳で彼方を睨む。
視力は複製した眼球の比ではない。
どれだけ離れたとしても、裏都の中ならば届く!
そして────
「──────、」
ドグンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
人御末那子の心臓が停止する。
止まる。静まる。終わる。
共喰いの吸血鬼はここで死ぬ。
(…………そっ、か。光を屈折させる異能。なら──
最後の最後で、弱点を突かれた。
吸血鬼は鏡を嫌う。
ゴルゴーンは鏡に敗れる。
「うひっ、ひひひ。コーフンしちゃう。
「──いらないよ、そんな称号。勝手に生えてくるのは『姉』だけで十分だ」
……人域血壊って何ですか???(プロット崩壊)