第三バッタ男は仮面ライダーになりたかった。   作:修司

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書いてて原作キャラが言うこと聞かなくて怖い

 

 

 

「「「「サイクロン号だーーーーーーッ!!!」」」」

 

 

 三葉さん、一葉さん、そして岡田ユリコさんの三人が、示し合わせた合唱団のような完璧なタイミングで絶叫した。その声量は、サイクロン号の爆音を軽く凌駕していた。

 

「……ひっ!?」

 

 僕はあまりの音圧に肩をビクつかせ、思わずハンドルを握る手を離しそうになった。

 

「……え、あ、の……はい。そうですけど……なんで、初見で……あ、そうか知名度か……。そんなに大声出さなくても、聞こえてますから……」

 

 僕の消え入りそうな声など、彼らの鼓膜には届かない。

遠くにいるユカリスさんが冷めた目で全員を見てる。やめて。僕は被害者だよ。

 ふと、冷静になって気づいた。このマシンはショッカーの極秘技術の結晶だ。本来なら見ただけで恐怖し、逃げ出すのが「普通の人」の反応のはずなのに、この人たちはまるでアイドルの出待ちのような熱量で詰め寄ってくる。

 「恐怖」より先に「解析」と「崇拝」が来る。 令和の一般人、怖すぎる。

 

「見て、このカウルの曲線美! 1号ライダーが風を切るためだけに設計された、究極の機能美だわ……ッ!」

 

 岡田ユリコさんが、いつもの凛々しさをどこかに置き忘れたようなトロンとした目でマシンを凝視している。

 

「風間さん! 今すぐ降りて、私にこのハンドルの感触を確かめさせて! あ、でもやっぱり汚すのが怖くて触れない……! どうしよう、私、今これと同じ空気を吸ってるのね……ッ!!」

 

「いや岡田さん、落ち着いてください。さっきから過呼吸気味ですよ。あと、そんなに目を輝かせて詰め寄られても……僕、どこに目をやればいいか分からないんですけど……」

 

 一葉さんに至っては、あまりの興奮に空中で一回転して着地し、マシンのマフラーに顔を近づけていた。

 

「美しい……! 立花藤兵衛の魂が形になったようなこのフォルム! 風間くん、君は……君は国宝を無免許で運転しているようなものだぞッ! 畏れ多くて排気ガスすら吸い込むのがもったいないッ!!」

 

 横では三葉さんが「これが……本物のプルトンロケットをも振り切る加速性能……」とブツブツ呟きながら動画を撮り始め、後ろに乗っていた東島さんに至っては、バイクを降りるなりタイヤの前で正座して拝み始めている。

 そこで僕は、もう一つ「意識していなかったこと」に気づき、胃がキリキリと鳴り始めた。

 この人たち、僕が「本物の改造人間」だって知ってるのに、一ミリも「自分たちが怪我をする」なんて思ってない。

 僕の右拳は厚さ数センチの鉄板を紙屑のように引き裂く。普通なら「化け物だ! 逃げろ!」となるはずなのに、彼らの目は「さあ! 最高のファンサービス(攻撃)を見せてくれ!」という、最前列のオタク特有のキラキラした期待で満ち溢れている。

 この「絶対に期待に応えなきゃいけない空気」、どんな拷問よりもきつい。

 ひとしきり、マシンを囲んで拝んだり匂いを嗅いだりという、僕にとっての「公開処刑」のような時間が過ぎた。

 やがて不自然なほどの静寂が訪れると、一葉さんがわざとらしいほど大きな咳払いを一つ。

 

「ゴホンッ……!」

 

 さっきまでタイヤを愛おしそうに撫で回していた男とは思えない、厳格な武道家のような険しい面構えに一変した。

 

「……さて。諸君、遊びはここまでだ。サイクロン号という『正義の化身』を前にして理性を失うのは、ライダーを志す者として必然。だが、今日の我々には、この神聖なマシンを拝むこと以上の『義務』があるはずだ」

 

 一葉さんは、キリッとした表情で僕を見据えた。

 その背後で、東島さんが鼻水を拭いながら「そうだ……そうだぞ!」と深く頷き、ユリコさんも頬を紅潮させたまま居住まいを正す。

 

「風間くん。改めて、今日ここに我らが集結した目的を再確認させてもらおう。……我々は今日、君という『本物』を相手に、死を予感するほどの特訓を行い……『仮面ライダーという概念』に、肉体ごと一歩近づくために集まったのだッ!!」

 

「……あの、ええと……『死を予感』とか、そういう物騒なワード、あんまり使わないでもらえますか……。僕は、できれば隅っこの方で、石ころみたいに静かに……」

 

 僕の精一杯の拒絶を、一葉さんの咆哮が完全に塗りつぶした。

 

「具体的には、風間くん。君に『怪人役』をやってもらうッ! 全力で、我々を殺すつもりで立ち向かってきてほしいッ!!」

 

「……は、はい」

 

 僕は思わず、サイクロン号のシートに深く沈み込んだ。

 昭和の怪人は、ヒーローに倒されるために戦っていた。

 でも、令和の「なりたがり」たちは、ヒーローとしての見せ場を作るために、自ら怪人の爪牙を「おねだり」しに来ている。

 ……狂ってる。この時代、絶対に何かがおかしい。

 

「……あ、あの、皆さん。一つ、お願いがあるんですけど……。今日の特訓、僕は、その……『仮面ライダーのマスク』は、着けないで戦わせてもらえませんか……?」

 

 広場に、凍り付いたような沈黙が流れました。

 

「……なんですって?」

 

 ユリコさんの声が、微かに震えています。

 

「風間さん、冗談でしょ? 私たちはあなたの、あの『赤い目と緑のマスク』を拝みながら死ぬ気で修行するために集まったのよ。……マスクも被らずにやるなんて、そんなの、ただの不審者との取っ組み合いじゃない!」

 

「風間さん……。僕は、ライダーマンが仮面を被ることで『人』から『復讐鬼』へと変貌する、あの覚悟の瞬間を間近で学びたかったんです。そのスイッチを見られないなんて……」

 

 三葉くんまで、知的な眼鏡の奥の目を悲しげに伏せて肩を落としました。

 

「い、いや、そうじゃなくて……!」

 

 僕は身振り手振りを交えて必死に説明しました。

 

「あの『マスク』を被ってしまうと、僕の意識が……その、何ていうか、『戦うためのシステム』と完全に同期しちゃうんです。戦いに対する『禁忌感』がなくなって、相手が誰であっても……たとえ皆さんであっても、容赦なく、完膚なきまでに破壊するだけの存在になってしまう。だから防護服も着てきませんでしたし、マスクだけは……マスクだけは特に絶対にダメなんです!」

 

 僕としては、これ以上ない「命を守るための誠実な説明」でした。

 がっかりしてお通夜のような空気になった一同の中で、一人だけ、口角を不気味に釣り上げて「ニヤニヤ」と笑い始めた男がいました。

 

「ふふふ……。案ずるな諸君。風間さんは、あくまで『仮面ライダー』にはならないと言っているだけだ」

 

「……え? どういうこと?」

 

 ユリコさんが不審げに眉をひそめます。

 

「いいか……風間さんは、変身『しない』とは言っていない。……仮面を被る前の、剥き出しの『改造人間の本質』。それを見せてくれると言っているのだよッ! さあ、風間さん……! 我らに見せてやってくれッ! 昭和の闇に蠢く、真の姿をッ!!」

 

「え、あ、はい。それなら、まだ『僕』という意識がしっかり残ってますし……加減もできますから。じゃあ、いきます・・・」

 

 僕はホッとして、意識を深く沈めました。

 ライダーという「完成された記号」をあえて取らず、その内側にある肉体だけを解放する。これなら制御も効くし、皆さんを「敵」として処理することもない。

 ギチ……ギチギチッ……!!

 沈黙の広場に、生々しい「肉と骨が軋む音」が響き渡りました。

 僕の皮膚の下で人工筋繊維が激しく蠢き、顔面を緑色の外骨格が覆い尽くしていく。人間としての輪郭が崩れ、巨大な赤い複眼が「カチッ」と音を立てて焦点を結んだとき、そこには広場すら圧迫するほどの質量を持った異形――バッタ男が立っていました。 

 

「………………ッッ!!!」 

 

 一葉さん、三葉くん、ユリコさんの三人が、一瞬にして石像のように硬直しました。

 しかし、その直後。

 

「ハ、ハハ……! すごいわ、この空気の重さ……! マスクがない分、殺気がダイレクトに刺さるわ……ッ! 素晴らしい、これこそが本物なのね……!!」

 

 ユリコさんは頬を紅潮させ、震えながらも恍惚とした表情を浮かべています。

 

「見てください兄さん、この機能美の塊……! 結城丈二が立ち向かった絶望、今僕も同じものを共有している……ッ!」

 

 三葉くんもスマホを落としたまま、うっとりと僕を見上げています。

 ……ただ一人。

 隅っこで静観していたユカリスさんだけが、ガタガタと全身を震わせ、今にも泣きそうな顔で後退りしていました。ショッカーの技術の結晶を間近で見た彼女の口から、掠れた声が漏れます。

 

「バッタ男……様……ッ!!」

 

 それは敬意というより、抗いようのない絶対的な捕食者を前にした、魂からの屈服に近い一言でした。

 そんなユカリスさんのガチビビりなどお構いなしに、一葉さんがこの狂気的な熱気を強引にまとめ上げました。

 

「最高だ……最高だぞ風間くん! 諸君、見たまえ! この神聖にして冒涜的な姿を! ……さあ、準備はいいか! この『本物』を相手に、誰が一番長く生きていられるか……地獄のトーナメント、第一試合を開始するッ!!」

 

「(……あの、ユカリスさんだけ顔色が土気色なんですけど……。一葉さん、やっぱりこれ、やめませんか……っ!?)」

 

 僕は、異形の口から「シュゥ……」という重苦しい排熱音を漏らしながら、さらに絶望を深めるのだった。

 

 

 

 

 

だがそんなものははじまりに過ぎない事を、僕はすぐに思い知るのだ。

 

「ライダーーーッ! パンチィィッ!!」

 

 東島さんの絶叫と共に、その拳がユカリスさんの顔面のど真ん中に突き刺さりました。

 女子高生の、それも整った顔立ちのど真ん中に、大のおじさんが、ライダーのお面を被って放つ全力のストレート。

 

「(……えっ……!?)」

 

 縁側で体育座りをしていた僕は、あまりの衝撃に膝を抱えたまま固まりました。

トーナメントの最初の戦いは東島さん対ユカリスさん。

 ユカリスさんの身体は、まるで糸の切れた人形のように後方へ吹き飛び、地面の上をごろごろと無残に転がって動かなくなりました。

 

「(……いや、東島さん!? いくら相手が戦闘員に変身したからって、中身は女子高生ですよ!? 顔面に全力パンチは……。令和のコンプライアンスとか、そういうのはどこに行ったんですか。ショッカーの怪人だって、もうちょっと『正義の味方』の目を気にして手加減しますよ……っ!?)」

 

「ユカリスゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

 三葉さんの喉が裂けんばかりの絶筆に近い絶叫が広場に響き渡りました。彼は落としたスマホもそのままに、脱兎のごとく駆け寄り、ピクリとも動かないユカリスのそばに膝をつきました。

 

「ユカリス! 起きてくれ、目を開けてくれユカリス! 死ぬな、死んじゃダメだ! まだ僕のライダーマン解説を半分も話してないんだぞ!!」

 

 三葉さんは半泣きでユカリスの肩をガクガクと激しく揺さぶっていますが、その揺さぶり自体がトドメになりそうな勢いです。

 

「いいかユカリス、しっかりしろ! 目を開けて返事をしてくれ! ユカリスゥゥッ!!」

 

 ……必死です。ものすごく必死に心配している。

ずっと思ってるけど、なんでこの人たちこんな怖いんだろう……。

本物の怪人が縁側で震え、普通の人間が広場で凄惨な「ごっこ遊び」の延長で殺し合っている。

 僕が背負っている「昭和の闇」よりも、目の前で展開される「令和のなりたがり」たちのパニックの方が、よっぽど不条理で、底知れない恐怖を感じて仕方がなかった。

 




なんでご都合主義の二次小説で原作キャラが言うこと聞いてくれないんですか・・・・?震
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