物書きの魔法少女は見る   作:おおは

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三話:邂逅相遇

私が暫く現場をボーっと眺めていると、やがて応援の魔法少女がやってきた。

 

「どうも。呼ばれてやってきてジャジャジャジャーン」

 

不気味に光沢を放つ刀を片手でブンブンと振り回しながら平坦な声と共に私の前に降り立ったのは、馴染みの存在だった。

 

深緑のショートヘアーが目立つ、中性的な見た目をした魔法少女としては珍しい和服を纏う男装麗人な魔法少女、その名をスレイス。

 

私の先輩であり、ちょっとした憧れであり、トップ層の魔法少女の一人だった。

 

「ラプスどこ?我が子が早く切りたいってうずうずしてる」

 

そう言って手に持つ刀を恍惚の表情で触れ、キラリと光らせる。

 

先輩の言う“我が子”というのはまさしくその刀のことだ。

 

勿論憧れるくらいだから強いのは強いのだが、何故か強さに比例して変人度もレベルアップするのである。

 

だがラプスは私が気絶している間に細かいことは分からないものの討伐されている。

 

私は未だ気絶しているルーを抱えながら「それについてなんですけど……」と先輩に事情を話した。

 

「……へぇ」

 

聞き終えた先輩が刀を腰の柄に納めながらやはり平坦な声で呟いたが、そこにはどこか面白いものを見つけたような表情をしていた。

 

「そんな切りがいのありそうなものがいたのなら我ま……仕方ない……帰ろっか。後は任せたらいいから、彼女たちに」

 

「は、はい」

「おーい! 転移させてー!」

 

先輩が背後に向かって大声で叫ぶと、空から黒髪ロングヘアーの少女が地面へと降り立った。

 

しかしその装いはドレスではなく、和風溢れる巫女服だった。

 

そしてその巫女服は、先ほどの札を顔に張った不気味な女の巫女服と同じデザインであり、余計に不気味さを感じぜずにはいられない。

 

巫女服の少女は降りてきた途端、のほほんとした表情の先輩を恐ろしいほどに睨みつける。

 

「あんた、転移が魔力消費多いこと分かって言ってるでしょ?舐めてんの?」

「いいじゃん別に。それに、これ以上時間かかったら思わず何か切ってしまいそうで」

 

柄に手をかけながら、先輩は無表情で巫女服の少女を見つめる。

 

「……私を切るとか言わないわよね?」

「伽那とは言ってない」

「全く信用に値しないわ、柊に言われても」

 

巫女服の少女は一度大きな溜息を吐いてから、渋々という感じに右手を掲げた。

 

「まぁ今回は上から言われているから転移させてあげるけど、普段は無理だから」

 

巫女服の少女がそう吐き捨ててから、ボソボソと何かを呟く。

 

すると、彼女の隣の空間に亀裂が入り、小さな穴が現れた。

 

転移魔法――――習得自体はそこまで難しくないが、消費魔力が桁違いなことで有名で、私も使うことができない。

 

久しぶりに見たその穴に何だか心動くものがあった。

 

「ほら、早く行くわよ。死んでしまった子たちは後でこっちが正規方法で弔っておくから」

 

巫女服をはためかせながら少女が急かすので、亡くなってしまった魔法少女達に感謝の意を思いながら先輩と共に飛び込むと、あっという間に三重県にある魔法省本部へと辿り着いた。

 

最初に私たちを迎え入れたのは、いつも見ているはずなのに中々慣れないほどの広い広い建物だ。

 

国――――何なら世界が金をわんさか使って作ったのがここ本部であり、世界中の魔法少女が日々訪れ、利用している。

 

「はぁ疲れたわ。私でも一日そう何回も使えないのが残念ね……」

 

不満顔の巫女服の少女も共に長い長い絨毯廊下を進むと、やがて一つの大きな扉が私達を待ち受けていた。

 

前まで来ると、巫女服の少女が「じゃ」と踵を返した。

 

「私はここで失礼するわ」

「もう行くの?」

 

「これでも私は任務が詰まってるの。あんた達魔法少女の尻拭いと封印の管理がどれだけ大変か、いつかは思い知るべきだわ」

 

プイ、とそっぽを向いて巫女服の少女は足早に廊下を歩いて去っていった。

 

残された先輩が私の方を見る。

 

「やっぱり、切ってみたい」

 

平坦な声が故に、それが本気なのか冗談なのか判別できず、私は思わず慌ててしまう。

 

「だ、駄目ですっ流石に」

「そう……」

 

肩を落とした先輩は拗ねるようにバンと目の前のドアを蹴り開けた。

 

「たのもー」

「……スレイス。ノックをしろ、そして手で丁寧に開けろ」

 

中で疲れつつも威厳のある声でそう答えたのは、魔法省の副長――――木下副長。

 

まだ30代手前というあり得ない若さでその地位に上り詰めた一種の天才だった。

 

だけど、女性だったことも加え、魔法省長から「これ、やっといて。あと、これも」などのイビリをよく受けると先輩から聞いたことがあった。

 

それでも、非常によくしてくれる人で、私の今の一番の憧れだった。

 

「えー」

「えーじゃない。……はぁ、まぁいい。それで、ラプスの報告を聞こうか。ランクⅥと聞いたが」

 

木下副長が椅子に座りながら大量の紙束が積み重なっているデスク越しに鋭い視線を向ける。

 

その視線は、まるで老齢の人間から発せられるような、全てを見透かさんとばかりのものだった。

 

だけど本来は優しい人なのだ。私は怖がる自分を心の奥に封じ込めて前に出た。

 

「そ、それについては、私から説明します!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふうむ、成程……魔法少女っぽい女の子と巫女服を着た巨女ね……」

 

事情を聴き終えた木下副長は、目を細めながら頷くと突如引き出しから分厚い紙を取り出し、それを捲り始めた。

 

だけど私がそう感じているのかは分からないけど、凄まじい速度で捲っていた。

 

「うーん……そんな奴は魔法省にいないな」

「ということは野良?」

 

「その可能性が高いな。巫女服の方は魔法省の管轄じゃない。だが宮内省の方に情報は送っておこう」

 

紙束越しにカタカタとキーボードが凄まじい勢いで叩かれる音がしてから「よし」という呟きが聞こえた。

 

「さて、取り敢えずご苦労様。今度何かご馳走しよう」

「ありがたい」

 

しみじみとした様子でそう言った先輩が「でも……」と続ける。

 

「野良だから切っていいよね?」

「いい訳ないだろう。今日はロビーで大人しくしてろ」

 

溜息を付く木下副長に、先輩は子供のように口を尖らせた。

 

「ちぇ……」

「ぐだぐだするなら去れ。私は忙しいんだ」

 

バッサリと先輩に言い捨てる木下副長は何故か先輩に対しては結構厳しいことで有名だった。

 

「マスコットは後でロビーにいる治癒魔法の魔法少女に預けておくといい。じゃあな」

 

不満そうな表情をする先輩を連れて、私は副長室を後にする。

 

廊下を歩いていると、様々な魔法少女とすれ違う。

 

空色やピンク色にお菓子のような柄から、私のような花柄まで。

 

偶に挨拶してくれる魔法少女もいるのだが、私の隣を歩く先輩を見ると「げっ」と何か見てはいけないものを見たかのようにスッと道を空けるのである。

 

その度に先輩は不満そうに口を尖らせる。

 

「私……そんなに人望なかった……? 昔一度ちょっと切っちゃっただけなのに」

 

私はそのちょっとというのが気になった。

 

 

 


 

 

 

ロビーというのは魔法少女が待機する場所のことで、食堂にうたた寝スペースなど様々な施設が内接されている非常に過ごし心地の良い所である。

 

私はそこで未だ気絶しているマスコットを預けた。

 

心配だったけど、治癒魔法できっと元気になるだろう。

 

そう思いながら先輩が先に行った食堂へと向かうと、先輩は椅子に座りながら刀の手入れをしていた。

 

「フフフ……すぐに使ってあげるからね」

 

恍惚な表情を浮かべながら綺麗な布でずっと丁寧に拭く行為を繰り返している。

 

近寄りがたい雰囲気があったが、私は意を決して近づく。

 

「先輩、マスコット預けてきました」

「あ、お疲れ。いいな、マスコットがいつも傍にいてくれて」

「先輩はいつもはいないんですか?」

 

私が聞くと、先輩は刀をそっと柄に直しながら虚空を見上げた。

 

「うん。前に切っていい?って聞いたらあんまり会ってくれなくなった」

「そ、そうですか……」

「それにしても、いいの?もう学校終わる時間だけど」

 

言われてハッと気づいた私がロビーの壁時計を見上げると、既に放課後に差し掛かろうという時間だった。

 

「まっ不味い!」

 

最近学校をすっ飛ばしがちになってきた。

 

先生にも分かっては貰えてるものの、少しづつ学力が危機に瀕し始めているのである。

 

それに、もしかしたら長見ちゃんがが肩を揉むために待っているかもしれない。

 

「先輩!先に失礼します!」

「うん、お疲れ」

 

魔法省を飛び出し、魔法で浮いて全力で飛んで向かう。

 

幸い私が通う学校は魔法省本部のある三重県からそこまで遠くはない。

 

魔力が尽きる前にはたどり着くことができるだろうし、今日はもう戦いがないはずなので、魔力を底尽くまで使うことができる。

 

私は全力で目的地へ向けて魔力を使った。

 

 

学校に着いた時には既に午後5時へ差し掛かろうとしていた。

 

変身を解き、へとへとになりながらも何とか自教室の扉を開くと、中には一人だけ机に顔を突っ伏しているが残っていた。

 

それは、薄青色の髪が特徴的な友達こと長見ちゃんだった。

 

夕焼けの日光に当りながらもぐっすり眠っているらしく、私の足音にまったく反応しない。

 

「起きて、私だよ」

 

肩を揺らすと、長見ちゃんは「んー」といいながら顔を上げ、大きな背伸びをした。

 

「んぅー……あ、お帰り奏~」

 

オレンジ色に映える可愛い寝惚け顔に、寝ぐせを所々立てながら私に言う。

 

「肩揉みするために待っててくれたの?ありがとう」

 

私が笑みを浮かべると、長見ちゃんはキョトンとした表情を浮かべた。

 

「んー?肩もみ~?そんな約束したっけ?」

「え?」

「いや~最後の授業が眠くてさぁ~、放課後寝てたんだ~」

 

のほほんと欠伸している長見ちゃんを見て、私は彼女が忘れっぽいことを今更ながら思い出した。

 

思わず苦笑する。

 

変わらないなぁと思いながらふと周りを見ると、床にブックカバーのかかった一冊の本が落ちていた。

 

「あれ、長見ちゃんの?」

「知らな~い。私小説とか読まないから~」

 

本の傍まで行ってしゃがみ込み、それを拾う。

 

「誰のなんだろう?」

 

ブックカバーのせいでぱっと見全く分からないので、知らない持ち主の誰かに謝りながら本を開いた。

 

「どれどれ~……」

 

長見ちゃんも興味に駆られて覗き込む。

 

そこには、勿論だが持ち物の主ではなく、小説とその作者の名前が淡々と印刷されていた。

 

夕焼けでオレンジ色に染まった印字を見る。

 

「誰だろう……五劫ミルって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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