物書きの魔法少女は見る   作:おおは

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五話:合縁奇縁

青年が「はぁ~」と安堵の表情を浮かべる。

 

「良かった良かった。帰る前に問題を起こしたら妹に会わせる顔がないから」

 

そう言って私の前で青年がにかりと笑う。

 

思わず私が呆けていると、木下副長が近づいてきて青年に謝る。

 

「すみません。連れが失礼しました。」

「あ、いえいえ謝らないでください。僕も見てなかったので」

 

青年が慌てたようにそう言うと、木下副長はありがたそうに一礼した。

 

「そう言って貰えて助かります」

「いえいえ、きっと大変でしょうから。魔法省の木下副長さんでしょう?」

「あ、知ってるんですか?」

 

青年が頬をかきながら「そうですね……」と苦笑する。

 

「まぁ妹が魔法少女好きでして。僕も多少は知っているかなっていう感じで」

「なるほど。妹さんが、ですか」

 

「はい。推し活をしているわけではないらしいんですが、好きだと言ってました。なので今回のお土産は魔法少女関連のものにしてるんですよ」

 

青年が微笑みながらスーツケースをポンポンと叩く。

 

それど同時に、彼のコートが夜風にユラユラと揺れた。

 

どうやら旅行の帰りらしい。

 

私達は邪魔かな? 妹さんもきっとお兄さんの帰りを待っているだろうし。

 

だが先輩がやって来たことで全て壊れた。

 

「ねぇまだ行かないの?早くラーメン行かない?」

「五月蠅い。――――がそれもそうだな……そうだ、一緒にラーメンでもどうです?」

 

突然の誘いに、青年が「え?」と豆鉄砲を食らったような表情をする。

 

だが木下副長がそのままの勢いで続ける。

 

「お礼という形みたいなもので結構ですので」

 

木下副長がズイズイと寄る。

 

昔から木下副長は一度決めたことは頑固に貫き通す人だったな……

 

やがて青年は観念したように「わ、分かりました」と言った。

 

結果私達に一人加わった。

 

 

 

 


 

 

 

「なるほど、修学旅行に行ってたのか」

 

屋台のニンニクマシマシラーメンに加えビールを煽った木下副長が饒舌に青年と話をする。

 

赤褐色の裸電球が私達を温かく包む。

 

青年は優しく、木下副長の問いかけにちゃんと返事をしていた。

 

「はい。ただまだ妹には修学旅行をしていると伝えてるんです」

「それは何故?」

 

ビールの入ったコップをグイッと飲んだ木下副長が頬を赤らめながら聞く。

 

対して桜数(さくらかず)と名乗った青年はシンプルな塩ラーメンを啜ってから答えた。

 

「ちょっとしたサプライズです」

「へぇ、粋なサプライズだな」

 

木下副長がコップを傾けながら微笑む。

 

その隣では先輩が「旨い旨い」と会話に目もくれず醤油ラーメンを啜っていた。

 

私は右端に座っているので青年とは一番離れている。

 

目の前には卵をトッピングした豚骨ラーメン。

 

濃厚な香りが鼻腔を擽る。

 

割りばしで麺を挟み口に運び啜ると、もちもちとした食感とガツンと来る出汁。

 

美味しさに思わず頬っぺたを押さえてしまう。

 

その間にも木下副長と青年の会話は続くので、私は麺を啜りながら耳を傾けた。

 

「それで、妹は君からみたらどんな何だ?」

「可愛い妹です」

 

青年の即答に、木下副長が「お、おう」と一瞬固まる。

 

続くように青年は懐からスマホを取り出し、「あ、これです」と私達に画面を見せてきた。

 

そこにはどこかボーイッシュな雰囲気を醸し出す同年代くらいの黒短髪の女の子が明石海峡大橋を背景に写っていた。

 

写真の彼女は白のラフなシャツを纏い若干の笑顔だけど、目付きが鋭い気がする。

 

「へー可愛いじゃん」

 

木下副長がそう言うと、青年は照れ臭そうにスマホをしまった。

 

「そうなんですよ。妹のためなら何でもできそうな気がして」

 

言い終えた青年は水を飲み、再びラーメンを啜る。

 

木下副長は苦笑いをした。

 

「随分妹のことが好きなんだな」

「そうですね……」

 

青年が上を見上げる。

 

暖簾越しの夜空は澄んでいて、赤褐色の光に負けまいと星々が輝いている。

 

「母親が、前に死んだんです」

 

ゆっくりと吹く風が収まるとポツリ、と呟いた。

 

「父親も僕達のお金を作るために海外に行きっぱなしで、家には僕と妹しかいないんですよ。だからかもしれません」

 

思わぬ重い話に、木下副長が言葉に詰まる。

 

私も、麺を啜りながら思わず青年の方を見てしまった。

 

先輩は耳がないのかと思うほどにラーメンに夢中で、二杯目に突入していた。

 

だが木下副長はコップのビールを一気に飲むと、「そうか」とだけ呟いた。

 

「ま、私も似たようなもんだから気持ちは分からんでもないな」

「そうなんですか?」

「あぁ、だが私のは語る価値のあるほどのもんじゃないさ」

 

木下副長がそう言ったのを最後に、静かな空間が流れる。

 

夜の静かな空間に、屋台の店主の食器を洗う音と、ラーメンを啜る音だけが響く。

 

やがて耐えきれなくなったのか、木下副長が再び口を開いた。

 

「因みにお土産って何を買ったんだ?」

「お土産ですか?ジスティンのサインです」

 

青年が傍のスーツケースから一枚のサイン色紙を取り出す。

 

そこにはかなり小さく細々とした文字で”Jistexin"と書かれていた。

 

……あれ、それ文字合ってるのかな。

 

「サインだと?それはまた凄いな。あのジスティンから貰えたのか」

 

「はい。苦労しましたが、世界最強の魔法少女である彼女のサインならきっと妹も喜んでくれます」

 

青年が誇らしげに胸を張る。

 

手袋を先ほどまで付けていたその手は、流石に日本では暑かったからか少し赤色に染まっていた。

 

「いい兄を持ったもんだ。ま、そのサインも見にくいし誤字っているところが陰キャなジスティンらしい」

 

木下副長がビールのお代わりを頼みながら残り僅かなラーメンを食べきる。

 

ふと気づくと先輩が二杯ともすっからかんにして、満足そうな表情で「ねぇ」と木下副長に声を掛けていた。

 

「副長、お腹痛いからトイレ行ってきていい?」

「うん?まあいいぞ」

「わーいありがとう」

 

先輩がサッと暖簾を潜り去っていく。

 

私は何だか嫌な予感がしたが、木下副長はビールを飲んで満足そうで気にしている様子はなかった。

 

やがて青年もラーメンをスープまで空にし、一息付いてから立ち上がった。

 

「それじゃあそろそろ僕はお暇しますね」

「ああ、付き合ってくれてありがとうな」

 

青年は一礼した後、スーツケースをガラガラと引いて去っていった。

 

四人が今は二人になり、一気に静かになる。

 

店主はずっと無言で淡々と何かの作業をしている。

 

「……あいつ、全然戻ってこないな」

 

木下副長がビールを飲み切ってから漸く気づいたように呟く。

 

「多分、逃げられたんじゃないでしょうか……」

「え、マジ?」

 

木下副長が頬を赤くしながら素っ頓狂な声を上げた。

 

―――――だが結局先輩は帰ってくることはなく、木下副長が二杯分を払うことになった。

 

「クソ。給料日前って言ったのが聞こえてないのかあいつは……」

 

店主には細かい銭を必死に数えて払っていた。

 

……先輩、凄いなぁ。

 

 

 


 

 

 

僕はスーツケースを引き、ガラガラと音を立てながら歩き進む。

 

修学旅行で1か月ほどいなかったが、妹――伊織はどうしているだろうか。

 

サプライズで帰って来たと驚かせようと決心し、妹には前に撮り溜めした外国の画像を送ってある。

 

どんな反応をしてくれるだろう。

 

……まぁいつも大人みたいな対応をしてくるので予想は付くんだけど。

 

取って置きのお土産も持参したからきっと喜んでくれる。

 

「やっと着いた……久しぶりの我が家」

 

目の前には大きな一軒家。

 

大きいと言っても豪邸とかではなく一般的な大きさの家だ。

 

一階の窓からは光が漏れ、生活感を、そこに人、即ち伊織がいつも通りに住んでいることを教えてくれる。

 

隣家が現在空き家で真っ暗なので更にそう思う。

 

「さて、じゃあサプライズといこうかな」

 

僕は内心ワクワクしながら家の鍵をドアノブに刺し込む。

 

ガチャリという音がして、僕は一気に家の中に入った。

 

「ただいまー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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