物書きの魔法少女は見る   作:おおは

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七話:大祓祝詞

宮内省。

 

その組織の起源自体は魔法省よりもはるか前。

 

今では魔法という存在と古来よりの呪術が融合を果たした場所でもある。

 

主に封印の管理・そして死者の魂の弔いと循環を司る役割を担い、ほとんどが日本人、強いて言えば巫女で構成され、その本部は京都にある。

 

伏見稲荷を少し超えると見えてくる巨大な赤鳥居を、一人の巫女服を纏った少女が潜った。

 

「相変わらず広すぎて面倒ね。忙しい時には不便だわ」

 

鳥居から永遠に続くかと思われるような石畳を歩くこと暫し。

 

漸く見えてきた建物は、それはそれは巨大な神社だった。

 

恐らく日本で飛びぬけて大きいだろう。

 

そここそが宮内省本部。

 

入口にて靴を脱ぎ、ギシギシと鳴る鶯張りの廊下を進む。

 

辺りは静謐としており、遠くから時折聞こえる鹿威しの音が心地よい。

 

歩いていると、同じ巫女服を纏った少女や女性とすれ違う。

 

途中で少女に気づくと挨拶する者もいた。

 

「おはようございます、伽那さん。今日は呼び出しで?」

「おはよう。ええそうよ。家長のお婆さんもこんな時に呼び出すのはやめて欲しいわ」

「まぁ、確かにそれもそうですね」

 

日常的な会話を軽く終え、伽那と呼ばれた少女は巫女服をはためかせながら歩く。

 

やがて少女はある畳部屋の前に止まった。

 

ギシリと音を鳴らしながら障子の前に立つ。

 

「家長宮内省長。入っても宜しいですか?」

 

「……どうぞ。入りな」

 

障子越しの返事は、老熟したプレッシャーのある声だった。

 

「失礼します」

 

障子の取っ手に手を掛け、ス―と開ける。

 

「よくここまで来たね」

 

大きな畳部屋の中央。

 

そこには座布団に座り背をピンと伸ばす一人の老女がいた。

 

使い古した巫女服をその身に纏い、静かに座っている。

 

「伽那、最近の調子はどうだい?」

 

凛とした視線が、部屋の縁前に立つ少女を貫く。

 

だが少女は特に気にする様子はなかった。

 

「いつも通りですよ」

「そうかい。流石はいつも実力で頂点に立つだけはあるねぇ」

「皮肉ですか?」

 

少女が目を細め、老女を見る。

 

二人の視線が交差し暫く、老女が最初に視線を外し、鼻で笑った。

 

「フン……相変わらずだね。まぁ、いいさ。今回呼んだのはお前さんの予定を伝えるためが主さね」

「予定?祝詞のこと?」

「今年もお前だからそろそろ用意をしておくことだ。それともう一つ、最奥の封印の確認をしてほしいんだよ」

 

老女が言いながら懐から一つの重厚な鍵を取り出す。

 

それを前の畳にドンと置いた。

 

少女は不思議な顔をしつつも近づき、それを片手で掴み取る。

 

「珍しいですね。最奥なんて普段入らせないのに」

「最近物騒でな。点検も重要になってくるというものさね」

「……なるほど。分かりました」

 

少女がそれを懐に直したのを見届けた老女は「では任せたぞ」と立ち上がって巫女服の布が擦れる音と共に去っていった。

 

静かになった畳部屋で、少女は深い溜息を吐いた。

 

「相変わらず人を振り回したがるわねホント。」

 

「ま、いいわ」と少女は肩を竦めながら再び畳部屋を出て鶯張りの廊下を進む。

 

何十部屋もの畳部屋や、巫女とすれ違い、やがて着いたのは本部の最奥。

 

ご神体の鏡を通り抜け更に奥に入った少女の目の前には、古びた木製の巨大な扉。

 

中央には鍵穴と、大きな札が一枚貼ってあった。

 

「……埃臭いのはどうにかならないのかしら」

 

一人文句を垂れながら、少女は懐から取り出した鍵を鍵穴へと差し込む。

 

ガコン、という音と共に、扉に魔法陣が浮かび、魔方陣に従うように札が独りでに扉から浮かび上がる。

 

そして、ギギィと音を鳴らしながら、ゆっくりと開いていく。

 

最初に目に入ったのは、人サイズはあろうかというほどの大きなダイヤモンド状の宝石だった。

 

敷居を潜り中に入ると、左右にもそこまで大きくはないがものの同じ宝石が数多く並んでいる。

 

怪しい輝きを放つこの宝石こそが、封印の要、封印石だった。

 

少女は最奥の一番大きな宝石に近づき、真剣な表情でジロジロと見る。

 

冷たい感触の封印石に手を触れ目を瞑った少女は、やがて満足気に頷いた。

 

「うん、特に問題はないわね」

 

そっと封印石から手を離す。

 

封印石は封印という分野で非常に便利な一方で、脆いという欠点を持っている。

 

慎重に、厳重に管理しなければならないのだ。

 

特に、ここに安置されている封印石は絶対に割ってはいけない。

 

なぜなら、封印されているのは日本古来の……

 

「でも封印してないのもあるんだから、とんだ皮肉よね」

 

肩を竦めた少女は袖をサッと手で払い、立ち上がる。

 

封印石を一瞥すると、扉の開閉の軋む音を背に部屋を後にした。

 

 

 


 

 

 

再び鶯張りの廊下を歩いていると、少女の耳に小さな音が入ってきた。

 

それが神楽鈴の音だと気づいた少女は、廊下を曲がり、神社中央の最も広い部屋に入った。

 

「おはよう。今日はどれだけの魂を送ったの?」

 

隅で傍観している巫女服の女性に話しかける。

 

女性は片手に紙束を持っており、監察官だと思ったからだ。

 

「おはようございます伽那さん。今日はそこまでですよ」

 

女性は一礼した後、部屋の中央へ目線を戻す。

 

少女も連れて、視線を移した。

 

中央――そこでは少女達が着ているものよりも一層華やかな巫女服を纏った成人しているか否かくらいの女の子が、凛々しく神楽を舞っていた。

 

シャンシャンと鳴る神楽鈴。

 

芸術的に、そして美しい舞。

 

この世界でその舞は、”魂送りの神楽”と称された。

 

周りを青白く光る玉、魂が浮かび上がっては天井をすり抜けていく。

 

二つが合わさり、それは確実に芸術へと昇華していた。

 

「相変わらず何回見ても綺麗ね」

「何回もあそこで舞ったのに、ですか?」

「やるのと見るのとじゃ月とすっぽんなのよ」

 

少女が肩を竦める。

 

舞う少女と、視線が合う。澄んだ目だった。

 

舞に従って視線を外した舞う少女はシャン、シャンと神楽鈴を振る。

 

すると、それを拍子にしたように「そういえば」と女性が呟いた。

 

「今舞っているあの子、家長宮内省長の弟子なんですよ」

「はぁ?弟子なんて取るタイプだった?」

 

素っ頓狂な声を上げる少女に、女性はクスリと笑った。

 

「気が変わった、って言ってました」

 

それを聞いた少女は「呆れた……」と溜息を吐いた。

 

改めて舞う巫女を見る。

 

確かにその舞いは所々に家長のお婆さんの癖が見える、と少女は思った。

 

神楽鈴の音がひと際強く鳴る度に、周囲の魂がチカチカと光る。

 

思わず見惚れてしまう美しさがあった。

 

「……魂というのも不思議なものですね」

 

ふと、女性が神楽を見ながら呟くと少女は静かに頷いた。

 

「そうね。ひたすらにこの世とあの世―――葦原中国と黄泉の国を行き来して輪廻を繰り返し、転生する魂。思うと鼻がむずがゆい気がするわ」

「確かに、規模感に実感が湧かないですもんね」

女性がずっと同じ姿勢が辛かったのか、服を擦る音を静かに発しながら、立つ姿勢を変える。

 

「神楽を見てると、死んだ母もどこかを巡り巡っているんだなって思えるの」

 

神楽鈴の音を聞いている少女の脳裡をある記憶が過った。

 

 

 

 

『見えている魂達の構造がどうなっているか知ってる?』

 

今よりも幾分か小さな時の少女の隣で、人影が優しい口調で言った。

 

少女が知らないと言うと、人影は少女の頭を優しく撫でた。

 

包み込むような温かさに、少女がニコリと笑う。

 

『答えはね、カプセル状の形をしてるのよ。中はそれぞれの人の理想の世界があって、そこで魂は休息しながら世界を回るの。グルグルと、海と川のように。だから、この循環は絶対に乱してはいけないものなのよ。絶対によ』

 

乱したらどうなるの?と小さな少女が首を傾げる。

 

『そうね……やばたにえんって感じかしら』

 

 

 

 

記憶の中で、人影が真剣な表情で俗に言う死語を言っていたことを思い出し、しかしもう記憶でしかないことに、少女は複雑な気持ちになった。

 

果たして二人は静かに、神楽を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

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