物書きの魔法少女は見る   作:おおは

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九話:開戦寸前

私は魔法省のロビーのソファに蹲る。

 

学校から直接来たので、制服のスカートに皺が寄る。

 

だけどそれが気にならないくらいソファが心地良く、勉強の疲労がグングンと消えていく。

 

……そもそもであまり制服のデザインが好きじゃないからね。

 

「ふぁ~気持ちいなぁ~」

 

流石はロビー。設備が充実している。

 

中央の噴水から様々な施設やアミューズメントが広がっているけど、実際かなり広くて複雑で私も全部は把握できていない。

 

基本私は少し恥ずかしいからお風呂などは自宅なので、全てを知っておく必要はないのだ。

 

この時間帯はロビーにいる魔法少女の数も少ない。

 

枕に顔を沈めて心地よさに身を委ねていると、声が掛かった。

 

「もしもし」

 

顔を上げると、そこには先輩の姿と……

 

「あ!ルー!」

 

私のマスコットであるルーの姿があった。

 

元気そうな表情をしていて、ちゃんと治療して貰えたことが伺える。

 

「迷惑をかけたっきゅ。もう大丈夫っぴ」

「良かったぁ、無事に元気になって」

 

私は枕をソファに置き、ルーをぎゅっと抱きしめる。

 

私が喜ぶ隣で、先輩は微笑みを浮かべながら頷いていた。

 

「うんうん、いいねそういうの。私もマスコットと寄りを戻したくなってくる」

「したい、じゃなくて、なってくる、なんですね……」

「え、まぁもう手遅れかなって思ってるし。切りたい方が勝っちゃうから」

 

先輩は柄から刀身を少しだけ出し、キラリと煌めかせた。

 

それのせいだと思うんです、と口には出さないように脳内で言っていると、ルーが食堂の方を小さくて丸い指で差して言った。

 

「スレイスのマスコットならあそこでゆっくり茶を啜っているっぴ」

 

差す方をじっと見ると、テーブルの端でゆっくりとお茶を啜っている小さなうさぎのぬいぐるみの姿があった。

 

「……え、ほんとだ。よし。折角だし話をしてくる」

 

先輩がフンスとやる気をだして、ズンズンと食堂の方へ向かって行く。

 

だけど先輩のマスコットのうさぎは気づいていないようで、のほほんとお茶を飲み続けている。

 

普段先輩はロビーに来ないから、油断しているのだろう。

 

先輩が背後に回り、一気に飛び上がる。

 

「わ!」

「ブフッ!――――ま、マスター?!何故ここにいるんだっきゅ?!」

「いちゃダメなの?」

 

首を傾げる先輩に、マスコットは言葉を詰まらせた。

 

どこか遠慮しているようで、申し訳なさを可愛い顔を使って表情に出している。

 

「だ、だめじゃないっきゅけど……」

「だめじゃないんだ」

 

先輩の視線を受け、マスコットはしどろもどろになりながら「い、一応は相棒だからっきゅ……」と言うと、先輩は嬉しそうにサムズアップマークを作り……

 

「なら私と見回り行こう。今から。すぐに。ナウ。」

「えっ―――――」

 

マスコットが何かを言う前に先輩は首根っこを掴み、持ち上げる。

 

満足気。今度は私の方を向いた。楽しそうな顔をしている。

 

「ミストも一緒に見回り行こう?」

「え、私もですか?」

「うん」

 

私は悩む。嬉しいのは嬉しい。誘ってくれる存在がいるのは、それだけで幸せなことだと思っている。

 

だけど、先輩は強いから私に出番が回ってこない。

 

強くなりたい私にとって、普段の活動は大事にしたいし、先輩は強さの方向が極端だから、戦いの参考にもならない。

 

頭をグルグルと回して考える。

 

「……分かりました。行きます」

 

今回は、楽しさを優先させることにした。

 

……ちょっとくらい、楽しんだっていいよね。

 

そんな緩い決意のもと、私が後を付いて行こうとすると、先輩がこっちを見た。

 

「そういえば、髪切ったの?」

「え、今更……」

 

 

 


 

 

 

魔法省を出て、空を飛び向かったのは京都の下の方、物音一つしない京都駅周辺。

 

日本ではラプスの出現は全国規模だけど、頻度には偏りがある。

 

最も頻度が多いのが、京都と伊勢。

 

京都は宮内省本部含め、全体が一般人立ち入り禁止になっていて、特に北の方は現在国指定の禁足地で魔法少女でも許可がないと入れない。

 

何故かというと、そこにはランクⅦのラプスがいるから。

 

私もよく木下副長から、「いいか?絶対にランクⅦとは戦おうとか思うなよ。あれは世界そのものだ。世界と戦いたくはないだろ?」と釘を刺されるほど。

 

あの人がそこまでいうほどだから、私は大人しく従っている。

 

曇り空の下二人で飛んでいると、ふと遠くの淡い虹色に光る結界が見えた。

 

……あれが宮内省本部を覆う特殊な大結界。久しぶりに見たなぁ。

 

「あ、あそこに弱そうなのがいる」

 

ふと気づくと、先輩が浮いたまま地上のある地点を指差している。

 

並んで見ると、小さくだが地上で変な生き物がアスファルトの道を闊歩していた。

 

「あれは、ランクⅡくらいですかね……」

 

目を細めてみると、それは狼を一回り大きくしたようなラプスだった。

 

ランクが低いラプスは前に戦ったやつみたいに誰かまでは特定できないほどに自己が薄くて、単純な生き物が多い。

 

だけど油断ができるわけじゃない。一般人が勝てるような相手ではないのは確かだ。

 

最も、魔法少女、特に実力トップ層にはただの雑魚らしい。

 

「……うん、ちょっと子供のご飯にしてくる」

 

言うが否や、先輩がグンと凄まじい速度で落下していく。

 

「ちょっとマスター!一般人がいないからってやり過ぎはやめてっきゅ!」

 

漸く首根っこを解放された先輩のマスコットが必死に叫ぶ。

 

だけど先輩には届いていないようで、全く落下の速度が変わらない。

 

「せいや」

 

先輩の気の抜けた声が微かに聞こえてきた瞬間だった。

 

ザンッ。全てが遅れるような一線が辺りに走る。

 

次の瞬間には、ラプスは身構える間もなく半径20メートルほどの建物と共に真っ二つに分かれた。

 

「あぁ!また僕に監督責任が来てしまうっきゅ!」

 

住宅などの建物がズズゥンという重低音と共に瓦礫の山へと変わっていく様子を見ながら、先輩のマスコットがモンクの叫びを思わせるような悲痛な表情を浮かべる。

 

ピンと伸ばしたうさ耳が可愛い。

 

一方で下の方を見ると、先輩は一先ず満足したように刀を鞘に納めている。

 

その周囲は大きな斬撃による切断跡が広がっている。

 

凄い。本気じゃなくてもこの威力が普通に出せるなんて。

 

これが世界でもトップ3に並ぶ魔法少女―――”斬撃”のスレイスなんだ。

 

そう思わずにはいられない。

 

そしてそれが私の身近な先輩であることに、ほのかな喜びと誇りを感じた。

 

 

 


 

 

 

浮かび上がってきた先輩と共にまた見回りを始める。

 

瓦礫の山と化していた下の風景に、先輩のマスコットは未だ死にそうな表情をしていた。

 

だけど大人しくまだ付いてくる辺り、何だかんだ相棒しているんだなと思った。

 

「あ、またいた」

 

先輩が私よりも早く見つけ、急降下し、辺りを巻き込みながら真っ二つにする。

 

それの繰り返しが続く。

 

「人がいないからって、相変わらず自由っきゅね……」

 

騒音を聞くだけの私の隣で、先輩のマスコットが可愛らしさとは真逆の溜息を吐いた。

 

確かに、いくら人がいないからと言っても市街地であんなに破壊活動をしていたら後が大変だろう。

 

「先輩って、いつもそうなんですか?えーと……」

「僕の名前はピータっきゅ。マスターは魔法少女になった時からあんな感じっきゅ」

「なった時から、ですか?」

 

問いかける。すると、ピータは苦笑した。

 

だけど目つきはどこか昔を見るような、遠くを見ている雰囲気だった。

 

「そうだっきゅ。僕がマスターに会う前からそうだったみたいだっきゅ」

「そんな前からあんなのだったっぴか?」

 

ルーが驚きの表情を浮かべながら問いかける。

 

ちょっと失礼な気もするけど、魔法少女になる前からああだったんだ……

 

思っていると、ピータは微かに笑ったので、意外に思っていると、ピータは言った。

 

「僕も詳しくは知らないっきゅが、家庭で色々あったみたいっきゅ」

 

……出た。

 

やっぱり先輩もそうだったんだ。

 

普通な家庭の子の方が珍しい。私は複雑な気持ちになった。

 

「そうっぴか……でも良くあることだっぴね……」

「そうっきゅね。確かに魔法少女になる子たちはマスターみたいに色んな問題を抱えていて、強い望みがあるから魔法少女になりやすいんだっきゅ。だからこそ僕達はしっかり傍で見守らないといけないっきゅ」

「そうっぴね」

 

ルーとピータが頷き合う。

 

ぬいぐるみ同士が頷き合うので、何とも言えない可愛らしさが残っていた。

 

「帰って来てジャジャジャジャーン」

 

先輩が私達の傍にふわりと浮いてくる。

 

既にラプスは切ったようで、周囲の瓦礫の山と一緒に半分になって横たわっていた。

 

「どうしたの?何か話をしていたみたいだけど?」

 

特に表情を変えなくとも、不思議そうにしていることが伝わってくる。

 

「いや、何でもないっきゅ。後始末が面倒だなと思っただけっきゅ」

 

それを聞いた先輩は、「そうなの?じゃいいや」と一瞬にして興味を失った。

 

「良くはないっきゅ!僕のことも少しは考えて欲しいっきゅ!」

 

ピータが必死の表情で叫ぶ。

 

見回りだけど、平和だなぁと思う。やっぱりこういうのは楽しい。

 

だが、突如先輩が「ねぇ」と低い声を発する。

 

思わずびくりと肩を震わせてしまったけど、先輩の視線は違うところを向いていた。

 

「あそこ、コソコソ付いてきてる」

「えっ」

「あそこ、何かいる気がする。勘だけど」

 

先輩が指差すのはここから少し離れた、周りより少しだけ高いタワー。

 

静かな京都のシンボル、京都タワー。

 

だけど目を凝らしても、何も見えない。

 

……そう思っていた時、先端部分から黒い点が浮き上がり、こちらへと向かってきた。

 

段々と大きくなるそれは、黒パーカーを着ていて目元まで隠れているあの死神少女だった。

 

ゆっくりと、私達の前までやってくる。

 

「……まさか見つかるとは」

 

顔を隠したまま平坦な声で言う。

 

その右手には前回は見なかった、白柄の変わった本。

 

だけど私が何かを言う前に、先輩が刀の柄に手を掛けながら前へ出た。

 

一瞬だけ見えた横顔は、まるで待ちきれない子犬のようだった。

 

「不審者だ。不審者は即ち切っていい……!」

 

カシャン。鞘から刀が抜かれる音。

 

瞬間、世界が割れたと錯覚するような横薙ぎの一線が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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