コーヒーというのは存外に美味しいものだと思う。
これを今まで飲んでこなかったのは、確かに一つの後悔として生まれている。
さて、私の目前には少し寒そうにしている少女がいる。
つい先刻雨に打たれていた彼女を、放っておくことが出来ずカフェに連れてきたのである。
流石にずぶ濡れだと、お店に迷惑が掛かるから途中コンビニで傘とタオルを買った。
何か羽織るものでも持ってこればよかった。
そう思いながら声をかける。
「何か軽食も欲しかったですか?」
「えっと、大丈夫です。その、ごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。……えっとお名前は?」
「あっ。植野佐久良です」
「私は前山アズサ、よろしく」
やはり初対面の人との会話は難しいなと思う。
あまり会話が得意な人ではないのだ。
「紅茶は好きじゃない?」
「あっ、頂きます」
このように何か責めているように思われるのも難しさだろう。
「佐久良ちゃんは学生さん?」
「はい。今は中学三年生です」
「来年から高校生か。頑張って」
「アズサさんは?」
「私は高二だね。栄藤だよ。良かったら来て」
それを聞くと、驚いたような顔を彼女は見せる。
「頭いいんですね」
「いや、あんまりだよ。もうちょっと上を受けて落ちちゃったし」
過去の悲しい出来事を思い出した。
確か友達と一緒に受けて私だけが落ちた記憶だ。
何とも恥ずかしいものだ。
「私、栄藤目指してるんです」
「へえ、楽しみにしてるよ。来年の後輩ちゃん」
「あの、もし時間があったらでよいのですが、勉強を教えて頂けませんか?」
「うん、いいよ」
こう会話をしながらも、一体なぜ彼女が雨に打たれていたのかを聞けず仕舞いにいた。
話を切り出すタイミングを見失ってしまったというべきだろうか。
佐久良の鞄から取り出された数学のドリルは、雨に濡れてふやけている。
それに気づいたのか困った様子を見せた。
「うーん、今日は中々難しそうだね。連絡先教えて。また教えてあげるから」
「ありがとうございます」
少し落ち込んだ様子で佐久良はスマホを差し出してきた。
可哀そうなものだと思いながらも、メッセージアプリに追加した。
この為だろうか。話を聞くのはまたあとでもよいかと思って、適当な話をすることにした。
「どうして栄藤を目指そうと?」
「えっと、知り合いが栄藤に行ってて、おいでと言われたので」
中学の頃の先輩だろうか。
もしかしたら知り合いかも知れない。
「アズサさんは部活とかやってますか?」
「うん。オカルト研究会だよ」
「オカルトですか?」
佐久良はよく分からないと言った様子だった。
私も実際よく分かっていない。
オカルトが好きではないし、そもそもとしてあまり興味がある訳ではない。
すると、どうして入ったのかという話が、これは摩耶に誘われたからにすぎない。
「私も友達に誘われただけだから、あんまり分かんないんだけどね」
それからも幾分か話した後、明日勉強を教える約束をし、私たちは解散した。
話してみたところ結構高校受験を頑張っているそうだ。
私自身は適当に偏差値の高いところを選んだだけだから、あんまり偉いことを言うことは出来ない。
けれど、頑張ってほしいとは思うのが先輩としての心だろう。
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事務所でオカルトの本を読んでいた。
友達の返信を待つ間というのはとても短いもので、一文を読んだらスマホを見ることの繰り返しとなっている。
以前私の都合でばらしになったことを思い、大変申し訳ない気持ちが湧いてくる。
どうやって償ったものか、と思いながらもスマホにメッセージを打ち込んだ。
さて、それが続いている中で、私に声をかける人がいた。
「ルチル、ルチル」
私の名前を呼んだのはルビーだった。
一体なぜ楽しそうにしているのかは不思議である。
「どうしたの?」
「いやあ、格好いい人にあったの」
その言葉に少し嫌な想像をする。
中学生を騙すような人も世の中にはいるものだから。
「どんな人なの?」
「えっとね。お仕事の後、少し疲れちゃったんだよ。そしたらね傘をさして、大丈夫って」
何とも漫画的な場面だ。
妄想ではなかろうか?
「それでね、その人に勉強も教えて貰ったんだ」
「へえ。その人は大丈夫な人なの?」
「うん。だってルチルと同じ高校の人だよ」
「名前は?」
さて、彼女が口にした名前に驚いたのは言うまでもない。
世の中というのは、面白い偶然があるものらしい。
流石に一週間に一話は酷いなと思ったので、ストック吐き切るまで毎日投稿します。