静か過ぎるのはあまり好きじゃない。
そして、虫もあまり好きではない。
前者は些細な音が大きく聞こえてしまうからだ。
例えば、布が擦れる音、心臓の音。
後者は感情が全くと言っていいほど分からないからだ。
それに毒を持っていそうなのもいけない。
現実にほら、何やら私の目前で汁を垂らしている。
一度深呼吸をする。
夏の空気が肺を満たす。
一つずつが大きい複眼を見る。
そこにはやはり私が映っている。思ったよりもしけた顔だ。
食べられてしまうのかな、とちょっとばかし考える。
目前の虫は肉食だろうか?
虫とはいえない虫けらだから断言が出来ない。
カリカリというのは外骨格の擦れる音だ。
そういえば、以前にモニカが人が虫けらになってしまうという本を読んでいた。
私はどうやら夏の暑さにやられて虫の一部になってしまうようだ。
これはどうにも滑稽かもしれない。
さて、虫けらが口を開くと、私の腕を嚙んでしまった。
これは中々痛くなかった。
ただただ不愉快なものである。
幾度か力が強くなったと思うと、その口を再び開いて私の口を離してしまう。
すると、今度は足に嚙みついて再び離してしまう。
それを何度か繰り返すと、諦めたのかその小さな羽を振り回した。
しかし、それでは飛べないようで、幾つあるか分からない足で私の上から退く。
遅々とした後退を見守る。
虫は触角のない頭を尚もこちらに向けている。
その目に感情というものは見られなかった。
「伏せて!」
大声が聞こえる。
身体に全く力が入らないのだから問題ない。
声の主を探そうと、眼球を動かす。
その私の視界に映ったものと言えば、虫の頭が一刀両断される景色ばかりであった。
虫の頭にはどうやら私の知らない臓器ばかりが入っていたようだ。
落下したそれに服を汚されてしまう。
「大丈夫でしたか?」
そう声をかけてくる少女は、見知った人のように思われた。
茶色っぽい、小さい子向けのアニメに出ていそうな服を着ている。
「摩耶?」
「はっ? えっ?」
目が合うと、一層そのように思われる。
「何を言ってるのかな、お嬢さん」
その声の隅に滲んでいたのは焦燥だ。
「ありがとう」
お礼の言葉に遠くからの声が被る。
その声にも聞き覚えがあった。
「何か落とし物でもした? ルチル」
声の主は紅い髪を振り回しながら走ってくる。
そして、私に気付いたようで、その顔に驚きを映した。
「ルビー、あっち行ってて」
ルチルと呼ばれた方が手を追い払うよう振る。
しかし、もう片方がこう口にした。
「わお、アズサさん?」
知り合いの面影を感じさせる少女たちは、対照的な反応をしている。
ルチルは呆れたように、ルビーは嬉しそうである。
さて、この頃よく感じたことであるが、一体世間は狭いものである。
流れとして章で区切るとすると、ここで別れていると思いたい人です。
ちなみに各話のタイトルもつけました。