いずれ花咲くオルフェーブル   作:朝日橋立

16 / 20
十六話め 願望と因果応報

 佐久良に手を引かれた。

 どこに向かっていたのかは知らないが、大人しくついて行った。

 

 暫く歩くと、小さな建物の前に着く。

 三階建てのそれの周りには、高い建物ばかりで、その小ささが際立つ。

 

「随分と庶民的な感じだね」

 

 扉を開ける佐久良に声をかける。

 彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻いて言う。

 

「私達、お金があんまりないんですよ。これは生産じゃありませんから」

 

「世界を救ってるのに不思議」

 

「別に名誉とか、お金とかは重要な要素ではないですから」

 

 なるほど、どうやら高潔らしい。

 使命を成し遂げることがもっとも重要だと。

 胸の奥に多少チクチクとした感覚があった。

 

「それに、契約を履行するという側面もあります」

 

「契約?」

 

「一つ願いを叶えさせて貰えるんです。勿論、あんまり大きなことは無理ですが。その代わりとして世界を救う使命を負うと言いましょうか」

 

「何を願ったの?」

 

「世界を救える強い力、ですかね。世界の危機と言われて、私事を頼むというのが思いつかなくって」

 

 佐久良について部屋の中に入る。

 思ったよりも広かった部屋には、見知った顔がいた。

 その人は私の顔を見ると、一瞬目を丸くした。

 

「久しぶりだね、摩耶」

 

 何だか悪役チックに声をかける。

 彼女は一度溜息を吐いた。

 

「佐久良、どういう考え?」

 

「あそこに居たということは、ある程度できることがあると思うんですよ。それに、頭数は多ければ多いほど良いと思うから」

 

 佐久良は打算を隠さずに言う。

 もっともそれに邪な感情があるかというと、たぶん全く介在していないと思う。

 彼女は純粋に、そう思っているだけに違いない。

 

「さっさ、あの人のことは置いといて、こっちです」

 

 連れられるままに行くと、人形らしいタコが置かれている。

 それを佐久良は持ち上げると、何度か縦に振った。

 

「紹介します。これが妖精さんです」

 

 タコはやはり人形らしいが、その触手をゆっくりと動かしている。

 それから目が合ったように思われる。

 

「あっ、よろしくです」

 

 手を差し出すと、タコには取られなかった。

 まるで眼中にないという様子である。

 

「アズサさんです。彼女を仲間に引き入れたいんですがどうですかね」

 

 佐久良が声をかけると、ようやく私が眼中に入ったという様子である。

 彼か彼女か、全く知れない存在と目が合う。

 

 暫くしてから声が上がった。

 

「才能の欠片もない。無駄じゃないかな。……まあ、いいや。それで君、願いは?」

 

「願い?」

 

「うん、何かすごいことが叶う訳じゃないけど、身近な人の幸福とか」

 

「それじゃあ、家族が幸せになってほしいです」

 

 タコは呆れたように溜息を吐く。

 そして、こちらに触手を向けた。

 

「うん、全く才能がないし、そもそもやる気はあるのかな。それ本気じゃないだろう」

 

 事実、口にした言葉はひどい欺瞞だったように思う。

 

 

 

 

 ──────────

 ────────

 ──────

 

 

 

 

 モニカは室内で本を読んでいた。

 彼女が読んでいたのは、アズサから最初に貰った本である。

 

 端的にいえば、理不尽に不幸が人を襲う話である。

 それも分かりあうとか、分かり合わないとかじゃなくって、ただただ孤独になるのだ。

 

 孤独と不幸。

 モニカの眼前に迫ったこれらは、ひとえに自身の隠匿によるものが大きい。

 

 あるいは不幸というのも間違いだったのかもしれない。

 自身の行為から生まれ落ちたそれを、因果応報と言うのかもしれない。

 

 もしかしたら、モニカの最初の不幸とはアズサに出会ったことだと考えられた。

 一時の幸福を知ってしまって、不幸の正体を知った。

 

 さて、それからしばらく本を読み続けた。

 虫となった主人公が死んでしまった所である。

 

 その時、モニカは強い違和感を覚えた。

 いうなれば二度目の不幸に出会ったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。