いずれ花咲くオルフェーブル   作:朝日橋立

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十七話め 本当の願いについて

 電車に揺られていた。

 車内の色々な音。例えば話し声とか、ガタゴトとかいう音。

 その中で考えていたのは先程のことだった。

 

「才能もなければやる気もない子に構う時間はないよ」

 

 このようにあのタコの妖精は私に言った。

 それにどのように返答すべきかを、私は思いつくことが出来なかったのだ。

 

 家族が幸せでいてほしい。

 事実これはひどい嘘だった。

 

 親不孝者と怒られてしまうだろうか……。

 たぶんあの人たちは怒らないだろう。そもそも気にすらしない。

 

 しかしこれは私が愛されていることを否定しない。

 彼らは私を見ていないだけである。

 いうなれば虚構を見ているのだ。

 彼らが見た私の姿は、きっと理想的な娘の姿に違いない。私がそうあるべきだと思ったから!

 

 でも、その姿すら彼らはあまり見ていない。

 小さい頃からだった。彼らはずっと家に居なかった。

 時折家に帰ってきても、疲れているのかすぐに寝てまた仕事に行ってしまう。

 

 一体どうして私が親不孝だと誹られるだろう。

 こんなのはどうでもよいことだ。

 

「それに君みたいなタイプは自分しか見えてない。一度周りを見てみなよ」

 

 タコの妖精は独り言のように宣った。

 私にはどうにも理解することが出来なかった。

 

 私はまだ何者でもない。

 なのに、どうして他を見る余裕があるだろう。

 摩耶も佐久良も、きっとモニカですら何者かであるのだ。私が劣っているのは明らかだ。

 

「君みたいなタイプが仕事をしても、きっと大きな後悔をするよ。でも、一つ君に機会をあげよう。本当の願いが見つかったらもう一度来てみるといいよ」

 

 本当の願い……。

 何者かになりたかった。

 でも、この願いの汚さが分かってしまって、言葉にはしたくない。

 誰かに見てほしかった。

 でも、注目されたかったわけではない。

 

 最寄り駅の名前を、車内放送が告げる。

 暫くして電車は動きを止めた。

 

 駅を出ると、既に街灯に光が灯っている。

 蒸し暑い夜だった。

 

 何とはなしに歩く。

 その拍子に、私は一つの場所に辿り着いたのである。

 モニカと出会ったあの街灯の下に立つ。

 

 スポットライトというのだろうか。

 ……だとしたら空虚だった。

 

 モニカに貸した本だったと思う。

 それによると、夏の太陽のまぶしさの為に人を殺すこともあるそうだ。

 でも、そんなので許されるなら、この一人芝居のために自殺することは尤も妥当だ。

 

「アズサ」

 

 名前を呼ばれて、唐突に現実に引き戻される。

 そこにはモニカがいた。

 出会ったときとは全く正反対に思われて、少し可笑しく思われた。

 

「どうしたの? モニカ」

 

 少しふわふわとした心持で問いかける。

 彼女は一貫した焦った調子で続けるのだ。

 

「今まで迷惑をかけた。本当にすまなかった」

 

「何かあったの?」

 

 頭が少しずつ冷静になる。

 あるいは冷静な演技をし始める。

 

「襲われた」

 

 モニカは端的に答えるのだ。




お久しぶりです。
少し忙しいので次の投稿までちょっと空きます。
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