部室で私は大人しく漫画を読んでいた。
最近流行りの、バトルものの漫画である。
読んでいて特に面白いわけではなかった。
少し下品だし、私はそんなに好きではない。
ただ、何にしても暇だったのである。
これだったら今日は休んで家に帰ればよかったかも知れない。
モニカのことも心配だ。寂しい思いをさせているかも知れない。
ついには漫画を読むのすらやめて、机に突っ伏す。
ひんやりとした机が気持ちよかったが、すぐにぬるくなってしまった。
目を瞑る。
遠くでぽーんとかいう吹奏楽の音が聞こえてくる。
間抜けな音だなと思う。
片目でスマホを見始めたところだったと思う。ガラガラと扉が開く音に目を向ける。
扉の近くには、綺麗な長い髪を持った先輩がいた。
「遅かったですね。東先輩」
先輩を非難するように声を挙げる。
彼女は少し笑って口を開いた。
「ごめんなさいね。色々と忙しかったから。委員会の仕事とかが」
「それにしてもですよ。森本先輩も、摩耶も何故か来ませんし……」
暇だった旨を声にする。
東先輩は再び目を細めて笑った。
「みんなも色々と忙しいだと思うよ」
東先輩は擁護の言葉を口にしてから、そういえばと話を変える。
どこか浮かれたような声だった。
「大翔が自慢してたけど、告白したのって本当?」
「森本先輩に告白ですか? まあ、しましたけど……」
ここまで口にしたところで、彼女は興奮したように詰め寄ってきて問いかけてくる。
「それで、どんなところが好きに?」
「いや、冗談! 冗談ですよ」
「ええー、本当に?」
少しこの詰問に困ってしまう。
実際告白したのも事実であるからだ。
それに恋愛的な感情が伴っていたのも、たぶん事実のはずだ。
「私と森本先輩がどちらを信用できるか、これを考えてみてください」
両手の人差し指を立てて東先輩に言う
まず右手の人差し指を振った。
「片方は赤点ぎりぎりを推移して、時々アウトしかける人。もう片方は結構な上の方の私ですよ」
左手の人差し指を、先輩に見せびらかすように言う。
だいぶ性格の悪いことを言っていると思う。
他者の信用を、その人の成績とかで示そうというのだから。
「うーん。でも、大翔は私の幼馴染だよ。嘘をつく意味はあるかな」
「よく考えてください。相手は森本先輩ですよ。東先輩の気を惹くための嘘の可能性もあります」
どうにかして冗談の領域に持ち込み、ついには追求から逃れることが叶かった。
これを他の人たちともやっていると疲れてしまう。どうにかして森本先輩の口を塞がないといけないだろう。
そう考えると、だいぶ面倒な仕事が増えてしまった。
言えば解決する気もするが、それでも面倒なものは面倒だ。
「それにしても、他の皆は遅すぎませんか?」
いまだ悩ましそうにしている東先輩を無視して、また話を変える。
その言葉に東先輩も、確かにと思ったようである。
「うん、流石に遅すぎるかな」
「連絡します?」
「うーん、どうしよっか。でも、今日も何かある訳じゃないし、良いんじゃないかな」
「まあ、確かにそうですね」
こんなことなら来なくてもよかったな、と思いながらもそれからも東先輩と駄弁ったり、少し本を読んだりした。