最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
名前:
年齢:19歳
性別:男性
身長:196㎝
属性:物理
特性:防護
武器:特徴のない大剣
所属:護衛バイト(自営業)
誕生日:12月30日
服装:茶色いボアジャケットを羽織り、藍色のズボンを着用した、古風な格好。彼なりのお洒落なのかティアドロップのサングラスを頭の上に常に掛けている。
特徴(1):黒髪で、青色の瞳をしている。眼付は悪い方だが、軽快な態度なのでそこまで怖がられる事は無い。武器は背丈をも超える2.7m程の巨大な無骨の大剣。その巨大な大剣を背負っている故か、治安局には目を付けられている。
特徴(2):無類の女好きだがただ好きなだけで女性と対応する時はほぼノリ。童貞である。彼女が欲しいらしい。男と馬鹿な遊びをするのも好き。そして童貞である。
ボツ設定:犬(スキッパーキ系統)のシリオンにしようとしたが、ライカンや真斗くんが既に居たからやめた。ケモはあの二人が最高にて最上ンナ。
では、本編です。
────昔を、思いだす。
輝かしかった、昔の記憶を……。
『────
親父の言葉を、意志を、継ぐ為に死ぬ気で強く成った。
お袋は病気で死んだ。俺が5才の時に。
どうしようもなかった。もう手遅れだった。
でも、最後まで俺等の前では元気な姿を見せてくれた。お袋の優しさを、俺は忘れない。
まだ3才だった妹と、仕事で忙しい親父の為に俺は家事を頑張った。
同時に、鍛錬も怠らなかった。
親父の見よう見真似、治安局員だった親父の背中を見て、戦闘を学んだ。
ぶっちゃけ親父は強くはなかった。ポンコツで、息子の俺でも分かる位には、ミスも多かった。
身体も少し華奢だったし、それに不釣り合いな大剣を振り回すだけで、使いこなせていなかった。役割は、どっちかというとタンクだった。
でも市民からは人気だった。人柄が良かったから、それも大きいが……一番はその在り方だった。
意志が強かったから。誰よりも前線に立って、人を護ったからだ。好かれるのは必然だった。そんな親父は、俺の憧れだった。
『俺はな犬太郎!弱きを護る【盾】に成りたいんだ!この歳に成っても、それは変わらねぇ!この大剣で、お前と
思い出す。親父は単純で、バカだった。だから大好きだった。
憧れ……そう言える。
『いいか犬太郎!男ってのはな!泣くときは隠れて泣くもんだ!痛くっても、苦しくっても、辛い時でも!我慢して我慢して、耐え抜いて、全てが終わった後に、隠れて泣くんだぜ!』
こんな事も、言っていたな。
自分は感動系のドラマで桃子と一緒に泣いてたくせに……そん時は俺、ちょっと呆れてたっけ。
年月を得て、親父との組手で俺は親父を倒した。
9歳になった俺よりも弱い親父は、それは凄まじく驚いていたが、同時に嬉しそうだった。
『はーっはっはっは!!こいつは驚いた!まさかコテンパンにされるのが俺だとは!やるなぁ犬太郎!ん?俺を見て学んだ?いつも…ありがと……………うおぉぉぉぉん!お前ってヤツはァァ!嬉しい事言いやがってもぉぉぉ!!うおぉぉぉぉん!!桃子ー!お前のお兄ちゃんが、親の俺に初めて俺に御礼を…!え?泣いてねぇよー!これは汗だ!目から汗が出るタイプの……うぉぉぉぉぉ~~~~ん!!!』
むさくるしくて、ちょっと泣き虫で、元気千万な………どれも俺が憧れた、大好きな親父。
『お兄ちゃんが素直にお父ちゃんを、っ……うおぉぉぉ~~ん!わたし、鼻が高いってヤツだよ~!』
桃子も、親父に似て元気一杯だった。俺よりも勉強熱心で、笑顔が最高に愛らしい……俺の可愛い、大好きな妹。
騒がしくて、でも……楽しかったなぁ。
贅沢とは言えない生活だったが、俺の大好きだった家庭だった。
『お前は強い!俺を超えたならば、弱きを助け、救いを求める者を護るんだ!お前なら出来る!!』
親父のその言葉が、俺の胸に刻まれる。
『お兄ちゃん!お父ちゃんみたいな強くてカッコいい人に成ったら、私の事も護ってね?なんてね!えへへへへ!』
妹の、桃子の言葉が、俺の背中を押してくれた。
それだけが、俺の在り方。
誰よりも強く、誰よりも硬く、誰よりも強固な精神を持つ。
絶対に倒れない、最強の盾になる。
家族が居れば、俺は折れない。
そう、思っていた。
────それは、突然だった。
【旧都陥落】……エリー都にいた俺達は、その【ホロウ災害】に襲われた。
辺りは炎に塗れ、悲鳴が聞こえ、断末魔が木霊する地獄絵図。
当時の俺は、一体何が起きたのか、イマイチ理解出来ていなかった。食材の買い物に行っていた……呑気にだ。
俺は走った。家に、大好きな家族に会うために。
走って、走って、我武者羅に走った。
周りから聞こえる人々の悲鳴が、俺の心臓を抉った。
左を見た、赤子を抱えた母親が泣いて助けを乞うていた。
右を見た、妹と同じ位の子供がエーテリアス化した者に殺されていた。
何度も謝った。助けられなくてごめんって、最低な謝罪で。
走って、走り切って、家に着いた。
『……夢だと、いってくれ…っっっ!!』
現実を直視するには、俺は余りにも……心が弱すぎた。
『お…に……ちゃ…』
『はぁ、はぁっ…うぉぁぁッッ……犬太郎……っ!』
俺は、間に合わなかった。
桃子も、親父も……もう浸蝕が始まってしまっていた。
『親父!桃子!そんな、クソっ…!!』
『ご……ごめ…なさ……』
『謝るな!大丈夫だ、俺が助けてやる!親父!!親父も気を確かに……ッ!!あぁ、クソ!!なんなんだ、これは!!』
当時の俺は、青過ぎた。本物の修羅場ってのを知らなかった。
この時は絶対に助けるって思ってた。
いや、助けなければって、そう思っていたんだ。
青く、甘すぎる思考で……何とも愚かで、見てられないモノだった。
俺は……二人のその様子を見て、肌身で感じて理解した。
親父も、桃子も、もう助からないんだって。
侵蝕が進み過ぎていた。恐らく、段階で云えば後期だった。
『なんで、親父までっ……ッッ!まさか、親父…!』
『は…ははっ……ごめんな、犬太郎』
『っっ!!……ちくしょう…ばかやろぅ…っ!』
気付いた時には、もう遅かった。
親父は、お袋と一緒で、元々身体が弱かったんだ。強心剤を服用していたんだ、当時は何の薬かさっぱりだったが、今になってよく分かる。
エーテル適応体質ではあるものの、親父はそこまで強くなかった。
抗体薬を飲んで踏ん張っていただけ。ほぼ意地だ。
胸ポケットにチラッと映る、空の薬袋が、それを現実だと俺の脳に叩く。
『犬、太郎……お前は、生きてくれ……』
『ふざけんな!!親父も!桃子もっ…生きるんだよ!!!認められるか、こんなっ……だ、大丈夫だ、じきに……っ…き、きっと…助けが…!!』
『おにい、ちゃんっ……おねがい……』
『っ!あぁ、分かってる!兄ちゃんが、お前、お前をっ!桃子…ぜ、絶対に……助け────』
『────ころ…して……』
『……は?』
思考が停止した。
『────殺してっ……私が、かいぶつに、なっちゃうまえに…』
『……な…に、いって…?』
一瞬、何を言われたのか、理解出来なかった。
だが、その意味を、俺は理解する他なかった。
もう助からない。助けられない。
親父も、桃子も、直感でソレを理解していた。
だが、理解したくなかった。だって、まだ……6歳じゃねぇか…ッ。
『桃子………ごめんなぁ…』
『おねがいっ……おにいちゃん…っ』
『ばっ…なっ、いや……おばか!!何を言っているんだ!そんな、こと俺が、でっ……!!』
『────犬太郎……』
その時、親父が一瞬で決断した。
もう動かない右手を指さして、その先に落ちてある、とあるモノ。
────親父が愛用していた、大剣だ。
『お前なら、もう、持てる。そして、使いこなせるだろう……』
『……お、おい、親父……おれは…!』
『────お前に託す。俺と桃子を……母さんの所へ、送ってくれ』
『ッッ…!!』
どういう訳か、その言葉を聞いた俺は……酷く、冷静だった。
頭では分かっていた。こうするしかないと。
その時の親父の顔は、酷く辛そうだったのを覚えている。
悔しさ、怒り、そういう感情が入り混じっていた。
桃子も、同じ顔だった。まだ6才だったのに……こんな顔を、させてしまって……っ。
だが、猶予はもうない。侵食が始まって理性が燃え尽きようとしている。
……やるしか、ない。俺は腹を決めた。
『────分かった…っ』
指示に従った。俺は大剣を握った。
不思議と重さは余り感じなかった。手に馴染み、片手で持ち上げられた。
『おにい、ちゃん…ごめんねぇ………ありがとう…っ』
『こんな重荷を背負わせる何て、親失格だ……恨んでくれて、構わない』
『恨まねぇよ。あと、こんな時にそんな事を言うな。もう心がぐちゃぐちゃ何だよ……』
『はっはっ…はっ………最後に、すこし…だけっ…』
『おに…ちゃん……』
俺は大剣を限界まで振り上げる。
親父が決断した。桃子が覚悟を決めた。
────俺も、決意を固めた。
確実に、苦しませない為に、二人ごと即死させる為に、構える。両腕を隆起させて。
『────弱きを助ける、盾に成りなさい……お前は、自慢の息子だ……愛してるぞッ!』
『────だいすき…!』
『……俺もだ、親父、桃子』
”────ドチュュッッッッ!!!”
俺は倒れ伏した二人の首を、大剣がコンクリートに埋まる位、斬った。
即死だった。二人共、笑顔で……死んだ。
赤い鮮血が流れて、家族を殺した感触が一瞬で心を支配する。
『────耐えろっ……耐えろ、たえろっ、たえっ……ん、うぉ。おえっっ…………ふ、ふぅぅぅぅ……!!!!!』
吐き出すのを必死に抑え、心が崩れるのを必死に止めた。
俺は、寸でで耐え抜いた。泣く何て、許さなかった。
エーテリアスに成らずに、二人はヒトとして天寿を全うした。
イヤな、嫌な感触だった。手が震えて仕方なかった。
……嗚咽する暇なんか無かった。そうとも云える。
旧都陥落、それ即ち、辺りはエーテリアスまみれという事。
俺の大剣の振り下ろし、その響きに釣られたエーテリアスがゾロゾロと集まって来る。
皆、元は人間だった。目の前で死に至ってる家族を見て、俺は哀しい気持ちに成った。
だが……悠長に構えてる暇はなかった。
『……かかってこい。全員優しくブチ殺してやる………親父、この剣は俺が継ぐ。粗削りに成るが、許してくれ』
口が悪かったなと、今でも時稀にそう感じる。
だが、それで良かった。桃子にはよく注意されたが、優しさの口調だけでこの世界は生きていけない。多少の気の強さは大事なんだ。
俺はその場に居るエーテリアスを皆殺しにした。
殺して、殺して、殺して……ただ乱雑に、我武者羅に戦った。
その度に、俺の頬には……ナニかが、流れ落ちた。
『………安心しろ、親父、桃子………約束っ…だもんなぁ……泣かねぇって……っっ……ふぅぅぅ………あぁそうだ、絶対に折れねぇ。死んでも諦めねぇ……俺は────』
そうだ、これは汗だ。
ちょっと瞳から出るタイプの、汗だったんだ。
この場で数秒、汗を流しただけなんだ。
なぁ、親父……桃子、お袋。
俺も直に、そっちへ行く。
真っ当とは言えない、人生を送るかもしれない。
だが、この大剣を継いだ。
お袋の愛情を、親父の意志を、桃子の純粋を……この大剣に込めた。
『────鋼鉄にも勝る【盾】になるって決めたんだッ!!』
後悔の無い人生を送ってやる。
そして、誰かを助ける、護る盾に成る。
それが、俺の生きる意味だから。
▼
「────わ~い!えっへへへー!たか~い!」
「こーら!乗せて貰っといて暴れないの!すみません狼谷さん、この子ったら活発で……」
「はっはっはっ!いえいえ、気にせんで下さいや奥さん。喜んでいくれてんなら俺も嬉しいっすよォ。にしても、一回マヌケ共が喧嘩を売ってきましたが、どこか怪我とかしてないっすよね?」
「えぇ、大丈夫です。貴方が直ぐに対応して下さったお陰で、私もこの子も無事でしたから」
「それなら良かったっす。見落としがあったら、護衛として情けなかったんで」
新エリー都、六分街。
その小さな下町で少しばかり異様な光景があった。
古風な格好をした男が、人間の子供を肩車してもてなしている。隣に立つのはその子供の母親らしき女性が娘を宥めている。
その男は、狼谷 犬太郎……新エリー都全体を活動拠点とし、護衛を生業としている、若い男性。
犬太郎は女の子を肩車しながら、母親の女性と真っすぐ歩いていた。
少し説明すると、犬太郎はこの親子二人に護衛として一日雇われていたのだ。
新エリー都を案内として観光させるのが目標。近頃、少し荒れている治安を鑑みて、母親が『格安で護衛』を行っている犬太郎を雇った。
一見、非常に怪しいが、蓋を開けてみたら正解だった。
格安の護衛戦士はここ最近少し知られている。
屈強な肉体に、背丈を優に超える大剣を担ぐ、古風な格好をし偉丈夫。
確かな実力も相まって、噂程度には新エリー都にはその名声はあった。
第一印象は少し怖く感じるが、楽観的な言動に、話しやすい雰囲気を放つ、気持ちのいい人物。
一気に人と仲良くなれる人物だったのだ。
そこにあった恐怖心などとっくに無くなっていた。
「…っと、このマンションっすね。無事に着いたっすよ奥さん」
「あら!もう着いてしまったのですね。狼谷さん、本日は各エリアの護衛を務めて下さりありがとう御座いました。ほら○○、お家に着いたからそこから降りて狼谷さんに御礼を……」
「ヤっ!まだ一緒に居たい!」
「おっと!ははは、コイツは困った」
「こーら!狼谷さん困ってるでしょ!早く降りなさい!」
「いーやー!」
犬太郎は少し困った様にするが、何とか母親が催促し、渋々だが女の子は降りる。
先程までルンルンな気分だったが、ここでお別れとなると直ぐに不機嫌になる。子供らしくて、犬太郎は微笑む。
膝を地面に着き、女の子と視線を合わした犬太郎はそのまま手を女の子の頭に乗せ、優しく撫でる。
「大丈夫だ嬢ちゃん、機会が有ったらまた遊んでやっからよォ。な?」
「……ほんと?」
「あぁ勿論だ。俺は嘘はつかねぇ主義だからな。指切りげんまんでもするか?」
「っ!うぅん、大丈夫!ケン兄と遊ぶ約束、もうしたから!」
「そうか!偉いな~このー!」
「わー!にへへへ!」
微笑ましい光景だ。
母親も、何も云わずにその光景を優しく見守っている。全幅の信頼を置いているからこその対応だった。
「奥さん、また何かあったら俺に連絡を頼みますわ。今日の様に全力で対応するんで」
「ふふっ、ありがとう御座います。ですが宜しいのですか?本当にこんな格安で済ませてしまって……若い子なのに、何だか申し訳ないのだけれど……」
「大丈夫っす!何なら、無償で護衛したいんすけどこのご時世ですし、懐が、ね……俺が提示できる出来るだけ安いお金での依頼を受け付けているんで、まぁ気にせんで下さいな」
「そうですか?では、口座の方にまた送らせて頂きますね。本日は本当にありがとう御座いました」
「此方こそありがとう御座います。またのご利用をお待ちしてるっすわ」
「ありがとうケン兄!また肩車してねー!あ!あとあと!まもってくれて、ありがとー!」
「おう!嬢ちゃんこそ元気でな!ママは大事にしろよー!」
手を振ってお別れをする。
マンションに入るまで、犬太郎は見送った。見えなくなった数秒、そこから立ち去った。
▼
”シュボッ!”
「────すぅぅ……ふぅぅぅ~………」
夕刻、六分街のとある場所。
飲食屋台の近くにある裏路地、そこで俺はタバコを吹かしていた。
今は少しばかりの休憩時間。今日は立て続けの仕事だ、忙しいがやり切って見せる。
真上の夜に成りかけの空を見ていた。ただ冷厳に……睨みつける様に。
”────まもってくれて、ありがとー!”
「……護ってくれて、か」
先ほどの、幼き子の言葉を思い出す。
純粋で、可愛らしい、素直な一言。
その言葉だけで、俺は生きていける。
護衛と云う、格安(2000ディニー程度)にするには命を無碍にし過ぎな活動をして、早8年が過ぎようとしている。旧都陥落の時は当時9歳。そこから各拠点を転々としながら研鑽を重ね、一人で強く……いや、親父の戦い方にオリジナリティを混ぜて、強く成った。
当時、9歳の俺は童顔だったが、有難い事にタッパはデカかった。少し経てば170は越えてたから、よく大人と間違えられていたな。今じゃ190は越えたか?
護衛屋は2年前くらいから始めた。無論、学歴はない。
学校…中学や高校とかには行けなかった。無論、行ってみたかったが……俺は強く成る為に必死だったからな、それに金銭的な余裕も全く無かったし、仕方ないって割り切ったな。
金もない、頼れる人間も居なければ、友は全員死んだ。
そんな事だから、師と呼べる者も当然いなかった。だがまぁ、血の滲む様な、それはもう死ぬ気で修業したがな。
とはいえ……憧れは居る。目指すべき在り方ではなくとも、俺は……あの人みたいな格好いい男に成りたいって人は、居る。
その人は、恩人だ。戦い方は全く違くっても、男として惚れた。
そんな人が居る。まぁ、一種の恩人だな。
弱きを助ける盾に成る。そんな目標がある。だから、俺はまだ生きている。
「今の俺を見たら、親父と桃子は何て言うかね……」
強く成ったなと褒めるか、それとも不健康だからタバコはやめなさいって叱るか。
どれも言いそうだ。特にタバコは、桃子が五月蠅そうだ。
俺は親父の意志を継ぐ。
絶対に折れねぇ、死んでも諦めねぇ、弱きを助ける盾に成る。
それが……俺だ。
「すぅぅ………ふぅぅ…っぱ旨すぎる……結局はコイツに戻ってきちまうんだよなァ」
俺が吸っている銘柄は……親父が大好きだった、タバコ入門によく挙げられる『ウィンスフォン』だ。コイツは良い、優しい匂いで、寿命が延びる感覚だ(麻痺)
少し前、お金持ちの護衛をした時は社長さんに気に入られて葉巻を一本頂いたが、ありゃヤベェ。
俺にはまだ早いって思い知らされた。社長さんは咽る俺を見てゲラゲラ笑ってたが、まぁ、贔屓にして貰ったから良いか。
「ふぅぅ……にしても、金がねぇなぁ……」
現実に戻るが、財布の中身を見て俺は落胆する。
まぁ当然だ。うん、凄く当然。こんなに安く護衛してんだから、食費家賃、諸々で生活が出来る筈がねぇ。今月もアパートの家賃がギリギリだ。
偶に日払いバイトで稼いだりするが、どれも毎日ではない。
少し前は通ってた飲食店で料理や皿洗いに掃除もしてたが……店主が定年で潰れちまったしなぁ。
「なんつうか、こういう商業系の才能はないんかねぇ、俺って奴は」
タバコをギリギリまで吹かしながら、迫りくる破産の未来に憂いていると……背後に気配を感じとる。振り返ると……。
「────まーた吸ってるんだ、未成年のくせに」
「────……ふぅぅぅぅぅぅ~」
「ひゃあっ!くさぁ!けほっ!けほっ!煙いしっ…!んもう!何すんのさ!」
「ふははっ!俺の背後に立った報いだ『リン』さん。俺特性、副流煙攻撃」
「最っ低ー!」
近くのレンタルビデオ屋の【Random Play】という店舗を経営している、二人の兄妹の一人。
『リン』さんが、俺の背後をコッソリつけていた。まぁバレバレではあったんだが。
ってか、マジで久しぶりに会ったな。此処に来るのは……どんくらい前だ?『アキラ』さんは見当たらないが……あぁ、そういう事か。
リンさんの右手にはビニール袋があった。恐らく、ビデオの買い出しに行っていたのだろう。
「あんたねぇ……はぁ、久しぶりに巨大な大剣を担ぐ人が見えたから近付いてみたら、思いっ切りタバコ吸ってるし。前にもあたし言ったよ?未成年がタバコを吸うんじゃありませんって」
「俺の楽しみの一つなんだ、許してくれよリンさん。ってか久しぶりだな!元気だったか?アキラさんは家か?」
「元気だよ、お兄ちゃんもね。今日はお兄ちゃんが店番で、あたしが買い出しにって感じで………って!直ぐ話を逸らすじゃん!」
「はっははは!悪ぃな、不思議とお前ら兄妹には…………いや、何でもねぇ」
「えー!?そこまで言ったら言ってよー!」
「はいはい、ほら、ソレ持つから貸しな。店前まで送る」
俺は喚くリンさんの袋を半ば強引に取り、そのままリンさんの歩幅に合わせて一緒に歩く。
「もう……まぁいいや!持ってくれてありがとう!」
「盾として当然だ。それと……最近店に行けなくて悪いな。護衛や【邪兎屋】からの依頼とかでちょいと忙しかったんだ」
「ふーん?そうなんだ……ん?邪兎屋??」
「あぁ、邪兎屋の『ニコ』ちゃんに護衛としてちょくちょく依頼されてな、依頼金は安いし、俺はフットワークも軽いから、有難い事に頼りにされるんだ。偶に無償でやらされる事もあるがな」
「ニコ……あの子っぽいけど、まさかたったの2000ディニーすら滞納するなんてねぇ……流石って感じ。それにしても、ちょっと意外。邪兎屋の皆と関係を持ってたんだ」
「あん?言ってなかったか?邪兎屋……ニコちゃんは俺が護衛として活動して、最初のお客なんだよ」
「えぇ!?そうだったの!?」
このリアクション、どうやら話してなかったらしい。
まぁ別に話す必要も無かったしな。
「邪兎屋のお陰で今もこうして護衛屋を続けられている。依頼の8割が未納だが、まぁ、感謝の念も込めて忘れさせて貰ってんだ………あぁ、因みに仲は良いぞ。『ニコ』ちゃんも『アンビー』ちゃんも、『猫又』ちゃんも、『ビリー』の兄貴も、全員おもしろくて気持ちのいい奴等だからな」
「そうだったの。あはは!何だかんだ仲が良いなら、それで良いじゃん」
「そうだな。まぁ偶に『おねがい!御飯を奢って♡御礼にこの10万以上のディニー価値がある写真をあ・げ・る♡』…って、俺に〈ドスケベなニコちゃんの写真〉を俺にくれるんだ。願わくばもっと欲しいものd……ずっと仲良くしてほしいモノだ、邪兎屋には」
そう言って俺は懐に仕舞っていた〈ニコちゃんの際どいドスケベ写真集〉をリンさんに自慢する様に見せる。マジでパネェぞニコちゃんのこのスタイル。上がる俺の心拍数。
いつもの服装に、水着、パジャマ、露出する私服。それらの魅力を前面に押し出す、際どい角度。
俺の家宝だ。モデル顔負けだァ……。
「……ごめんね、言葉を選んで言うけど、馬鹿だよね?あんた」
「……聞き捨てならんぞリンさん。この写真集には確かに10万ディニー以上の価値があr」
「ないよ(冷酷無慈悲)…少なくとも10万ディニーは。はぁ……それで貧乏生活を送ってるんだから、世話ないよ」
「おぶふはぁっっ!!」
リンさんの容赦のない正論が飛んで来る。俺の心にエグイワンパンチが来やがった。
……何故だかリンさんは俺にだけやたら当たりが強い気がするぞ。絶対に気の所為じゃねェ!
「くっそー……何も言い返せない結論を言いやがってー……!」
「女の子が好きなのは勝手だけど、それに騙されて破産じゃ馬鹿って言うしかないよ。ニコだけじゃ無いんでしょ?護衛でパクられたのって」
「……ははは……ふふっ、はっはっ…」
「最早笑うしかなくなってるじゃん……」
リンさんは心底呆れた表情を見せる。
いやマジで何も言えねぇなぁ……まさかリンさんにこんなド正論を言われて追い込まれるとは、夢でしか見なかったな。
「さて、話が盛り上がった所で……着いたぞ」
「わっ!あっという間に着いた。会話が弾むと直ぐだね」
「そうだな。じゃ、俺は帰るわ」
俺は背を向けまた歩き出す。
するとリンさんは待ったをかける。
「ちょっとちょっと!お兄ちゃんにも挨拶してってよ!」
「そうしたいのは山々だが、悪い、次の仕事までもう時間がねぇんだわ。また機会があったら寄るからよ、そん時は、アキラさんにはまた宜しくって言っといてくれ」
リンさん、そしてアキラさんには挨拶も出来ず申し訳ない気持ちだが、遅れる訳にはいかない。
これも仕事だ。正確にパパっと終わらせなければな。
「……分かった。お兄ちゃんにはそう言っておくね。大変だろうけど無理は禁物だよ」
「助かる。じゃあな」
俺はそう言い残し、そそくさと立ち去る。
今度はとある企業の会合護衛だ。日を跨いじまうが頑張るとしよう。
此処からヤヌス区の南方面。意外と近い、俺は大剣を担いで走った。
「相変わらずだなぁ……────あ、しまった!お酒もダメだよって言うの忘れてたー!」
そのリンさんの声は、俺には届かなかった。
▼
────○○○との出会いまで、残り僅か。
次回
無敗のチャンピオンと護衛。
次回はライトさんが出ます。
見落とし、感想、誤字報告お待ちしております。