最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉   作:カブトムシの相棒

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遅れてしまい申し訳御座いません。少し手間取いました。


次回予告にあった【女と女の闘い】ですが、それを次回に回します。



では、本編です。


星見雅の暴走。

 

 

 

 

 

 

 

▼治安局内…。

 

 

 

 

「────()()()と云う男が居た。当時の治安局員では随一の人当たりの良さを誇り、仲間や市民からの信頼が厚い熱血漢な大男であった。規格外の大剣で前線を張り、皆を護る姿勢は皆が憧れを抱くほど……あの男は、凡人の星でもあった」

「凡人の星…ですか?」

「犬太郎の父に充る人物ですよね?旧都陥落で殉職した……」

「懐かしい名ねぇ~……アタイが此処に来て、彼が殉職を果たした数刻の時を経て尚、彼の死を悼む者は多かったわ。聞くに、治安局でも光の様なムードメーカーだったらしいからねぇ」

 

 

 

治安局の特務捜査班。そのとある室内にて、4名が集って会話を行っていた。

 

メンバーは班長の朱鳶と『セス・ローウェル』、『ジェーン・ドゥ』、そしてこの会話を設けた人物である『青衣』だ。

 

犬太郎の捜索の期限を過ぎ、対六課と合同で捜索を行って数日……犬太郎の家宅捜査も虚しく、箇所にあるアジトを点々としている犬太郎。神出鬼没であるが故、特定の場所を見つけられないでいた。

 

加え、他の事件の解決もある。悔しいが現在は対六課に捜査を任せている。

 

そんな中、青衣が休憩時間に唐突に語り出した。

 

その内容は……犬太郎の父親である、猿乃介の事だ。

 

 

 

「朱鳶、セス坊、そしてジェーンよ。3人共犬太郎の実力はもう知っておるな?」

「………」

「……悔しいですが、アイツの力は本物だと理解してはいるつもりです」

「ジェーンは特に思う所があるであろう。潜入捜査で犬太郎を追跡し、幾度か犬太郎の戦闘を見聞したお主の本心からの言葉が欲しい────お主から見て、犬太郎はどう見えた?」

 

 

 

そう発語する青衣。朱鳶とセスはジェーンの方を見る。

 

それに対するジェーンは……とある日の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

『────綺麗な死に花散らしとけよッ』

『●▼◆◆●▼■■ッッ!!!!??!?』

 

 

 

其処は共生ホロウ、活性化が見受けられ、周囲には千を超えるエーテリアスが居た。

だが、1分、2分……10分が経てば、辺りのエーテリアスは漠然と消失していく。

 

それは……たった一人の男によるものだった。

 

助太刀の余地なし。その戦闘、その狂気、はぐれぬようホロウまで犬太郎を追ったジェーンが見た、彼の姿は────

 

 

 

 

 

 

 

「────【怪物】だったわ。誇張抜きで、同じヒトとは思えぬ戦闘力と狂気性……千を超えるエーテリアスを前に笑みを絶やさず、鏖殺を繰り返すあの子の姿………()()()()とはよく言ったモノね」

「ッ……」

「千って……」

「そうだ。あの子の通り名は【怪物】である……【鋼鉄の盾】と今はそう呼ばれてはいるが、犬太郎が旧都陥落を経た以降、9歳から護衛屋を経営するまでの、つまり17歳に至る日まではそう謳われておった────”凡人が残した災厄の怪物”とな」

 

 

 

青衣のその言葉で、部屋内に確かな緊張が走る。

 

犬太郎の過去は既に皆、理解している。

会議で明らかとなった、彼の壮絶を極めた過去を。

 

 

 

「皆、そんな犬太郎を見たら悠然と脳裏には過るであろう。あんな子供を産んだ両親、その父親であり治安局員であった猿乃介はどんな男だったのか、どれ程の男だったのかとな」

「それは……まぁ、否定は出来ませんね」

「俺等の世代でも上の方々が時折語ってくれますが、皆さん猿乃介捜査官の面白エピソードしか言ってくれませんので……」

 

 

 

朱鳶とセスがそう言う。興味津々を隠せないでいた。

分かっているのは【エーテル適応体質は弱かった】のみ。だが、あの規格外の大剣を所持していた男だ、加えて前線を張って皆を護っていたと謳われる武勇伝。

 

それなりの男だ。ジェーンを含め、そう思っていた。

 

だが……青衣は衝撃の事実を告ぐ。

 

 

 

「────猿乃介はのう……ハッキリ言を並べるのであれば、相当に弱かったのだ」

「え?」

「よ……弱かった?」

「【最弱の盾】って言われてたのよね?戦う事が出来ない、ただ前線で大剣を盾に立ち回り、ほぼ最初にダウンしていたからって経緯で付いた、最高に不名誉な仇名…でしょ?」

「うむ、流石はジェーン。情報に於いて右に出る者は居らぬな」

 

 

 

ジェーンが発語した事が全て。

そう、猿乃介は部内でも弱いで有名だったのだ。

 

 

 

「身長187㎝、体重90㎏、恵まれた体に反して猿乃介は脆弱な体質でこの世に生を授けた。元来、彼が産まれた村はエーテル適応が著しく低い体質で産まれて来る、非常に稀有な集落。例え恵まれた体躯であろうとそれは例外ではなかったのだ。だが、それでも尚、夢を諦めなかったのが猿乃介だった」

 

 

 

青衣が珍しく熱を持って語り出す。

 

 

 

「脆弱であろうと、エーテル適応が低くとも、猿乃介は鍛錬を怠らなかった。日々年々と身体を作り、己の夢の背を噛みつくが如く追いかけた。結果は対比と成る【最弱の盾】と渾名されたが、結果的に【盾】に成り得たのだ……どうだ?コレを聞いて、我々よりも遥かに弱い男が掴んだ不名誉ながらも栄光である仇名のオリジンを傍聴して」

「カッコ良すぎますッ……偉大な御方だったのですねっ!!猿乃介捜査官は…ッ」

「加えて性格も良し、市民からの信頼も厚いともなれば、今を生きる私達にも必要なスキルを持っていたと言う事。先輩の口から語られた話を聞いて更に尊敬の念を抱きました」

「只々、前向きに。イイ男ね」

「そうであろう、そうであろう……まぁ、女性に弱かったのは、頂けんがな」

 

 

 

なぜか自分事に嬉しそうにする青衣。

だが、犬太郎の父親がどういう男だったのか……それを知るにはいい機会だった。

 

青衣は続ける。

 

 

 

「────そう言う所に我は惚れたのだがな」

「ぶっっっっ!??!!?!?」

「はぁぁぁぁ!!!!??!!」

「わーおっ!」

 

 

 

超級の急旋回話題。

青衣の唐突過ぎるカミングアウト。朱鳶とセスは絶叫、あのジェーンですら驚きを隠せない。

 

 

 

「否、惚れたとは言い当てが妙だったな。正しくは、惚れさせられたが的確か」

「いやいやいやいやいやっっ!!え、えぇぇ!?」

「な、何がどうしてそうなっっ……」

「ほっほっほ、よいリアクションだな二人共」

「だ、だってそんなッ、おっ……マジですか!?」

「うむ。経緯は些か特殊であるが、確りと恋仲の関係にも至った身であるぞ」

「恋仲ッ………あの先輩から聞くなんて…ッ!!」

「アタイも驚きを隠せないわ~。どんな経緯があってお付き合いしたの?青衣」

 

 

 

カミングアウトをすれば、当然話題はソレに成る。

 

一番そういうのに無縁そうな青衣がまさかまさかの惚れられた、加えて『犬太郎の父親』と恋仲の関係に至ってと告げたのだ。

 

ジェーンがそう問うと、青衣が答える。

 

 

 

「ふっふっふ、そこまで問い詰めるなら答える他あるまい」

「(自分で振っといて…?)」

「猿乃介はのう、雌雉子(めきじ)殿と云う名の妻を病気で亡くしていたのだ。重度の心臓病で、犬太郎と娘である桃子を産めたのが奇跡な程の……だが、遂に限界が来てしまった。猿乃介と子供二人を残し目雉子は逝ってしまった。愛妻家であった猿乃介はショックだったろう、子供達の存在と我を含む当時の局員で励まして何とか立ち直る事は出来たのだが、仕事に支障が多々出てしまう位には身に力が入っておらなんだった」

「病気で亡くしていたとは資料で確認していましたが……そうだったのですか」

 

 

 

中々に辛い。

だが、ここからが更に凄まじかった。

 

 

 

「日が経つに連れ猿乃介はやつれていった。犬太郎たちを養う気概と治安局と云う死が隣合わせの現場、そして何より最愛の死去……彼のメンタルは彫刻刀で削られるようにジリジリと抉られてしまっていた。弱いとはいえ彼は当時貴重だったタンクの役割を持つ者、そしてムードメーカーであった為、早急な対処が必要と成った……そこで、白羽の矢が立ったのが────我だったのだよ」

「先輩が、ですか?」

「白羽の矢って……また一体全体どうして何です?」

「……あぁ、そういうコト」

 

 

 

何故かジェーンは分かったらしい。

故に、二人は疑問符を浮かべて青衣を見る。

 

すると、青衣が少し照れてそうな仕草で……また、とんでもない事を言う。

 

 

 

「忌憚なく告げるのであれば────慰め性行為を施したのだ」

「────は?」

「────ふぇ?」

「そーいう事だろうと思った」

 

 

 

時が止まるとは、こういう事なのだろう……二人の脳が思考停止。

 

 

 

(まこと)に濃密な時間であった。猿乃介は正にサルが如く我に溜まった全てのモノをぶつけてのう……高知能構造体の我を前にして、彼の猛攻を前には抗う事を放棄した程だ。そこから、まぁ、猿乃介も責任を取ると言って聞かんでなぁ……致し方なく、隠れて恋仲の関係に至ったと云う訳である」

「愛人だなんて、一部には噂されてたけど……更に深かったってオチね」

「うむ。と云うのも、我が推薦されたのにも列記とした理由があるぞ」

「あら?そうなの?」

「先ほど雌雉子殿と口にしたが……実は我と絶妙に似ておってな。猿乃介も当時は我を見る度に彼女を想起しては泣いてたぞ」

「なるほどねぇ」

「その顔がまた愛らしくてな……我にその様な機能は搭載されておらぬ筈だったが、ついイジメてしまった。だが、彼とて一人のケダモノ。最後は結局我が圧し潰されて達せさせられてるのが、真のオチであるがな」

「あら、御上手ね。でも青衣?もうその辺で止してあげて頂戴ね」

 

 

 

ジェーンがやかましい惚気を曝け語る青衣に、視線を配らせてそう告ぐ。

彼女の視線の先には……。

 

 

 

「────」

「…………」

「初心な子達には、ちょ~~っと刺激が強すぎたかもしれないわね」

「む……」

 

 

 

朱鳶とセスはキャパオーバー。衝撃の事実が多すぎて脳がショートしてしまったのだ。

宇宙猫のような……なんともアホ面を晒している。

ジェーンがセスの頬を愛おしい者を見る眼で見ながら尻尾と指でツンツンして遊んでいる。

 

 

 

「ふむ、些か反省であるな」

「でも良い御勉強には成ったんじゃない?アタイも楽しかったしね」

「うむ、我も猿乃介の話が出来て満足であるぞ」

「楽しそうにお話してたものね~」

 

 

 

青衣とジェーンがそう話し合う。

そんな中、青衣がこう発語した。

 

 

 

「ただ……我と猿乃介の話は前座であったのだが、これでは本題にも入れぬな」

「あら?惚気が本題じゃなかったの?」

 

 

 

青衣が言うには、どうやらこれまでの話は前座に過ぎないらしい(???)

朱鳶とセスを宇宙猫にしておいて何をほざくか…とツッコみたいが、青衣が流れる様にジェーンの問いに答える・

 

 

 

「うむ、当然であろう。してジェーンよ、お主に今一度問いたい意向がある」

「なに?」

「先ほど来、お主は犬太郎の規格外の戦闘を目の当たりにした時【怪物】と称したが、それはあの子のどんな戦闘を見てそう判断したのだ?」

「それは……ケンちゃんの並外れたフィジカル……それによって繰り出される卓越した剣技。ケンちゃんと言えばの脳筋戦術で、それが余りに常識外れだからこその評価よ?」

「そうであるな。故に浸透し、犬太郎は【怪物】と恐れられた……だがジェーンよ、それは採点を付けるのであれば半分正解が正しい」

「え?」

 

 

 

瞬間……妙な雰囲気が辺りを包み込む。

 

青衣が放つ特殊な圧と滅裂な言動。

ジェーンは青衣が何を言いたいのかイマイチと理解出来ない……青衣が告ぐ。

 

 

 

「脆弱な両親の元に産まれ、その遺伝子と習わしを真正面から否定するが如く【絶対強者】として生を授かった犬太郎……身体能力、戦闘の才能、戦闘IQ、そのどれもが常識外れ。お主の言う通り、犬太郎の身体能力は正しく天の悪戯。あの『星見雅』とも正面から斬り合えるのは現時点では犬太郎だけであろう」

「聞いただけでパニックになりそうな内容よね……………ねぇ?結局のところ青衣は何が言いたいの?」

「────上層部が『狼谷犬太郎』をこうまでして治安局、又は【H.A.N.D】に加入させたい理由……ソレだけではないのだ、ジェーンよ」

「……別の、相応の訳があるって事?」

「その通りである。妙だとは思わぬか?上層部がこれ程まで犬太郎に熱視線を送り、長きに渡りヘッドハンティングを繰り返すのは」

 

 

 

そう、青衣の言う通り、妙なのだ。

ヘッドハンティングはこの世界では珍しくない。犯罪者が改心して、正義側に立つなんてザラにある世界。

 

だが、犬太郎……上層部のこの男に対する想いは非常に異常だった。

 

これまで幾度となく失敗を繰り返しても、その勢いを緩めない。

寧ろどう対応すれば良いかなんて考える始末。

 

 

 

「(確かに、あの子に対する上の連中の接しには違和感があった………単に強力な戦力の確保、だけでは無かったとすれば………他にも彼の秘密が?)」

「理解を得られただけで、我は嬉しいぞ。さてジェーンよ……狼谷犬太郎はどうして【怪物】と謳われるに至ったのか、その本領とは何なのか。今一度整理しよう」

「青衣は知っているの?」

「猿乃介の遺言書を読んでな、我も実際に観た事はない故、これは不確定要素に過ぎぬ………だが」

 

 

 

青衣が続ける。

 

 

 

「仮に、それが(まこと)に犬太郎の【特異能力】であるのならば────上層部が犬太郎に固執するのも理解(わか)る」

「特異能力…?」

「あぁ……猿乃介が見聞し、上層部が喉から手が出るほど欲する、犬太郎の本領とは────」

 

 

 

 

 

 

 

青衣がそう言うと……ジェーンの顔色は次第に蒼白染みたモノ付きへと変わっていく。

有り得ない。そんなモノ、だが、彼なら……あり得る。

そんな、信じられない”彼の本領”を聞いたジェーンは…。

 

 

 

「────冗談、とは考えにくいわねぇ」

「信じてくれるのか?」

「……半分ね。確信を得た訳では無いわ。でもね………あの子なら、あり得る【話】って思ったのよ」

 

 

 

一先ずは信じる形として、落ち着いた。

 

青衣が何を話し、ジェーンは何を聞いたのか、犬太郎の秘密とは何なのか……。

それが分かる者は、彼女等を除いてこの場には居ない。宇宙猫に成った二人は知らん。

 

 

 

「だけど、それは確かに欲しい訳よね……仮にその事が事実であるのなら、ハッキリ言って規格外だもの」

「犬太郎にとって怪物とは、そういう意味が込められているのだ」

「……これで()()()じゃないのね?」

「実績は芳しくはないからのう。ホロウ内でも誰の眼にも届かぬ場所で活動する事が多い事に加え、メイフラワー市長の勧誘をフル無視しとるからだな。女好きと云う点を除けば、性格だけは猿乃介とは乖離しておる」

「納得。しかし妙ね、そんな能力を保持しているのならあの子は更に烏合の的となりそうだけど」

「本人はその特異能力を戦闘では使いたがらんのだ。故に、ここまで知られていない。考え得るのはやはりまだ未完成であるから、使い方を失敗すれば大事に至る可能性があるからであろう」

「成程ねぇ……確かに、あの坊やはまだ19歳、扱いきれるには相応の時間が必要な能力ではあるか」

「ただ、将来性を見込んでもそれ程の男であるのは変わらぬ。猿乃介のバカと雌雉子殿が残した【怪物】の行方……我は見届けたい」

「ふ~~ん……」

 

 

 

そう発語する青衣の表情は、かなり和らいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、犬太郎たちは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

”ガンッ!!ガガガガガガッッ!!!”

 

 

 

 

 

「────ハッ!!」

「チィィ……ッ」

 

 

 

────周囲の建造物を半壊させる程の戦闘をおっ始めていた。

 

喫茶店を抜け、広間にて鮮烈な攻撃を開始する両名。

互いの重圧が入り混じり、常人ではその場に佇む事さえ不可能な領域を持って、二匹の猛獣が熾烈な暴撃を繰り出す。

 

 

 

「二か月前と比べ、暴力性が薄れたな。加えて無駄のない動き……腕はなまっていない様で安心したぞ」

「ペッ……バカスカ打剣しといて良く言うッ。血肉が舞ってんのは俺だぞ」

 

 

 

だが、優勢劣勢はハッキリ別れていた。

 

無論、優勢は星見雅。鞘付きの妖刀【無尾】を用いた驚異的な剣技で繰り出される連撃は、素体である犬太郎の肉体に確かな傷を与えていた。

 

 

 

「この俺が血を流すとはな。幾つに成ってもお前の剣技は嫌いだ」

「私は好きだ」

「あ?自画自賛か?」

「否、貴様の()()だ」

 

 

 

瞬間、雅から鋭い視線が犬太郎に突き刺さる。

 

同時、雅が問う。

 

 

 

「貴様────私との手合いで【大剣】を()()()とはどういう了見だ?」

「ふんッ、六分街を更地にしていいんなら呼んでやってもいい」

「一丁前に挑発とは、随分と生意気だ…………ふゥゥッ!!」

「ッ!シッ!!」

 

 

 

口論、そして戦闘。

 

雅が逆袈裟の斬打を放つも、それを左腕一本で受け止めカウンターの膝蹴りを放つ犬太郎。

だが、そんな攻撃があの雅に当たる筈もなく、雅は地を蹴り空中へ華麗に躱し、そのまま犬太郎の顔面目掛け空中での横蹴りをお見舞い。

 

だがッ。

 

 

 

”ガスッ!!!”

 

 

 

「ほう」

「首が凝ってた、なんてのは映画のセリフ過ぎるか?」

「いいや、身体の柔軟になれたのなら結構だ」

 

 

 

なんと犬太郎はあろう事か、その破壊的な横蹴りを己のフィジカルで受け止めた。

血管が浮き出て、筋肉が盛り上がる。だが微動だにしない。

 

空中という最大のハンデ。この隙、犬太郎が見逃す筈もなく。

 

 

 

「顔面破壊じゃボケがッ!一旦死んどけェッ!!」

「はぁぁぁ…ッ!」

「うおッ…マジか、ヤベッ」

 

 

 

だが、そのハンデすらも雅にはスロー。

犬太郎の反則級の肘鉄が雅に襲うも、なんと雅はその肘鉄の攻撃を右手一本の合気で受け流し空中で回転。

 

その回転力は謂わば犬太郎のエネルギー。即ち、雅の回転は凄まじい……故に。

 

 

 

「詳しい話は署で交わさせて貰う」

「ぐおッ…!!」

 

 

 

雅の攻撃に繋がる。

犬太郎の首筋、うなじ部分を強力な剣打で打ち込む。

 

余りに予想外。その攻撃の衝撃波で周囲の建造物は更に破壊。

 

 

 

「勝負アリ……むッ」

「ぐ……ふぅぅぅ………ッッッ」

 

 

 

本来なら死に至るレベルの攻撃。

だが相手は犬太郎。雅ですら手加減が出来ぬ相手、それは本人が重々承知の上。

 

それ故の、8割の力での攻撃。それも首筋……犬太郎とて気絶は免れない……筈だった。

 

 

 

「流石、私の婚約者だな」

「テメェの、婚約者じゃねぇって…言ってんだろッ」

 

 

 

まさか、犬太郎は意識を手放さない。

本来ならばあり得ぬ。人間の弱点への攻撃、それも相手はあの雅。

 

しかし、ダメージは深い。実質的に、雅の圧勝だ。

 

犬太郎は膝を着き、雅は彼の前に立つ。その絵面が全てだった。

 

 

 

「相当なダメージだ。意識があるだけでも脅威。勝負アリだ、犬太郎」

「ぐ、おッ……ふぅぅぅ………」

「最初から貴様が私を殺す気で相手取れば、大剣を使えば、話は違っていた。なぜそうしなかった?」

 

 

 

そんな雅の問いに、犬太郎は一呼吸置き答える。

 

 

 

「……今日は特別な日、だったんだッ……本来なら、こんな事、したくなかった………」

「…………」

「大剣を使えばもう俺とお前は止まらんッッ……この地を更地には、したかねぇからな…」

「それが答えか?」

「あぁ……それと、な」

「?」

 

 

 

瞬間────

 

 

 

「ペッ…!」

「ッ!」

 

 

 

”べちゃ…”

 

 

 

なんと犬太郎が、口内に溜まった血と唾液を雅にの頬に吐く。

予想外。雅すら予測出来ぬ速度で、ソレはべちょりと付いた。

 

 

 

「……………………」

「はっ!汚ぇなッ……テメェみたいな女には、意外と似あ…っ」

「ふんッ」

「ぐおぉぉ…ッッ!」

 

 

 

”ドサッ!”

 

 

 

雅の重い蹴りが犬太郎の右肩に突き刺さる。

その衝撃は余りに絶大。あの犬太郎が簡単に地べたに倒される。

 

そして、雅が次に起こした行動は……

 

 

 

「なっ……お前、なにし……うあッ!!」

「その生意気、その変わらぬ狂犬の眼……貴様は変わらん。昔から、何一つ」

 

 

 

なんと、マウントの体制を取ったのだ。

仰向けに倒れる犬太郎は何も出来ない。身体のダメージではない。雅の起き上がらせない合気の技術と増大する圧力で、犬太郎を制していた。

 

そして、単純な親指の力で犬太郎の左脇腹を刺し、抉る。

 

 

 

「ぐぅぅぅ、がは…ッ」

「貴様が此処まで追い詰められるのは初めてだな。楽であり、非常に残念だ………私と貴様は渡来より戦闘の腕を上げ、互いに高め合った仲だったが……まぁ、いい」

「くぅ…ッッ!!」

「多少の火遊びは許してやる。貴様の女好きは今に始まった訳ではないからな────だがッ」

 

 

 

”ズズズズズッッ!!!”

 

 

 

「うぁぁ…ッ!!!」

「貴様、あの小娘に『好き』と云ったなッ……私はそこまで許した覚えはないぞ、浮気者がッッ」

「ッッッ、あぁぁ!!」

 

 

 

エグイ、親指が脇腹を更に抉る。

この雅にいつもの天然はない。有るのは、狂気とも云える憤怒。

 

ヘッドハンティングと云う最大目標など頭になく、私情しかない激情。

 

あの雅が冷静に成れぬ程の怒気。犬太郎は灼熱が如く痛みで、思わず声が漏れ出る。

 

 

 

「いつ出会った?場所は?名は?どこまでいった?なぜ、何故ッッ……私の約束を、破ったッ」

「グッ……云った筈だッ、俺は!お前とはもうそんなんじゃねぇ、って……ッ」

「云った筈だ、私はそれを受理していないと」

「知るかよッ…ガハッ……俺には、もう好きな人がっ」

「シュッ!!」

「んなッ!?」

 

 

 

”パァン!パァン!!”

 

 

 

雅が何故か犬太郎の着込む上着のボタンを指で弾く。

大した力は入っていなかった。だが、下から上まで流暢に弾かれるボタンは……犬太郎の上半身を露にさせるには容易いほどギチギチだった。

 

 

 

”ガジュッ…!”

 

 

 

「ぐ、おぉぉぁぁあ……っ」

「ふっ……ふぅぅ…ッ」

 

 

 

そして、首元に集中的に噛みつき、犬歯を立てて歯形を作る。

経験のない特殊な傷み。犬太郎も予想外だったか、苦悶の表情を作る。

 

雅の咬合力は雅の実力に比例して、非常に凶悪。

流れ出る赤い血。雅の口内に広がる鉄の味。

 

 

 

「っは……その顔、初めてみせたな」

「なにが、目的なんだよッ」

「私にもよく分からん。なぜ、貴様を噛んだのか……敢えて考察するのなら、きっと、もう何処にも行ってほしくないからだろう」

「…………」

「犬太郎、私はな……ヘッドハンティングなど心底どうでもいい。貴様がしたい事を邪魔などしたくない。だが、女遊びに併走し己の力を制限する貴様は狼谷犬太郎ではない。私はそんな貴様を認めん」

「俺には好きな人が居るッ。お前と俺が婚約者ってのは10年以上も前の話だッ……それも、ただのガキの安い会話内での……雅、何故その話を盛り返して、お前は俺に纏う…っ」

「────同じだからだ」

 

 

 

すると、雅から感情が発語する。

 

 

 

「私とお前は同じだ。家族を、大切な人をこの手で殺めた……同じ境遇者だ」

「違う、全く以て違う」

「違わない。例え人の命の数が違おうが、私とお前は同じだ……一緒だ。お前は言った、私に罪はないと、だが背負って生きろと。その言葉は今も私の中で渦巻いている」

「………」

「お前が稼いだ金を、今も残された親族達に謝礼金を支払っているのは知っている。背負い過ぎだ、あれはどうしようもなかった。お前が全てを背負う必要など無いだろう。まだ9歳だった幼子だったんだ」

「あれはッ……俺の責任だ。俺が故意的に、行った事だ」

「村の民からの進言だ。お前は言う事を聞いただけ。責任はお前にもあれどお前の身では決してないっ……」

「雅……」

 

 

 

雅の力は徐々に弱まる。

マウントを手掃うなら今の内だ、隙だらけ、動くなら今。

 

だが……犬太郎は動かない。動けなかった。

 

 

 

「────だが、その話は後回しだ」

「ッッッ!ぐぁぁ……!」

「この浮気者がッ……この私を前に堂々と『好きな人が居る』と云ったなッ…………私と云う者がありながらッッッ」

「うぁぁぁ……クソッ……離せッ…」

「いいや離さん。浮気性の愚か者には、これから徹底的に躾の必要がある……その五体に私を刻み、調教を施す」

「ペッ……は、お前が俺に?随分と随分だ………ッ!?な、おまえっ、何してんだ!!」

「心拍が上がったな。どうだ?私の胸は。昔と比べ成長している……」

 

 

 

何と雅は犬太郎の右手を持ち、そのまま己の胸部に押し付ける。

その弾力は確かにあった。女性特有の、確りした弾みが。

 

唐突な展開に犬太郎ですら衝撃を隠せない。

 

そして……雅の言葉を、真に理解する。

 

 

 

「ッ!ま、まさか、調教って……ソウイウ事か!?」

「他に何がある?貴様の貞操をグチャグチャにして、私でしか生きてけぬ身の体(みのからだ)に施す……今、この場でだ」

「はぁ!?ま、待て!此処は公共の場が過ぎるぞ!?冷静に成れ!!!」

「周囲15㎞の民間人は『柳』達に避難誘導済みだ」

「ッ!!どうりで気配が……い、いや待て!おい!!いいか!?これはお前の為にならん!!お前の身体が大事で、先ず負担は女のお前に降り掛かんだぞッ!!」

「……私の心配をしてくれるのか?」

「あ!?当たり前だ!!アホだが、幼馴染が身体を使おうとしてんだぞ!?止めるに、決まってんだろッ……けほっ………落ち着いてくれ、頼むから…ッ」

「────そうか」

「…は?」

 

 

 

瞬間────雅の口が…。

 

 

 

「犬太郎……お前を、私のモノにする。決めた、その言葉でもう決定だ」

「ま、まて……なにしようと……」

「私の……初めてを奪うんだ、責任は取って貰うぞ、犬太郎……」

 

 

 

次第に、犬太郎の……口へ近づく。

 

 

 

「────私と」

「────ちょっと待ったぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 

 

 

”ガシィ!!!”

 

 

 

「………なに?」

「おっ……あっ」

 

 

 

数センチ、犬太郎と雅の接吻が成功する際……乱入者が現れる。

 

犬太郎の上半身に抱き着き、犬太郎の口を小さな手で覆う。

まるで、阻止するかのように。

 

甘い、檸檬の様な香り。

ふさふさの、尻尾を振る。

その瞳には敵意と恐怖が入り混じるも、決してその圧には負けぬ雄姿。

 

それは、その者は……。

 

 

 

「────何しているんですか!貴女はっ!」

「────貴様ッ……」

 

 

 

そう────『橘福福』だ。

 

 

二匹の猛獣へ突入した一匹の可憐な虎。

彼女の介入により、事態は更に混沌へと変貌していく。

 

 

 

 

 

 

次回

 

 

女と女の闘い




雅ちょっとヤンデレみたいに成ってしまった……許して下さい!何でもしますから!



犬太郎、弱くね?と思う方もいると思いますが、犬太郎は大剣あってこそのキャラです。
加えて、福福とデート中で雅と戦うのは彼にとっても制限が掛かっていました。余り、福福には雅との関係を言いたくないから。まぁやる気の問題とはいえ、思った以上にボコボコにされてしまった感じです。



かなり俺の趣味全開で書いてしまいました。そして次回、やっとドロドロのギスギスを執筆できる。嬉しいです。



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