最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉   作:カブトムシの相棒

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☆犬太郎と福福の身長、歳の差。


・狼谷犬太郎 身長:196㎝
・橘福福   身長:142㎝

☆54㎝差


・狼谷犬太郎 年齢:19~20歳(今年で20)
・橘福福   年齢:21~22歳(この二次創作内では)

☆2歳差で福福の方が歳上。




皆様の提示して下さった憶測での年齢で、福福は22歳にする事に致しました。
姉弟子本人も子供ではないと明言していますからね。

あと、福福の方が犬太郎よりも年上なのがキモなんすよね。


では、本編です。


盾の知られざる過去を、虎はどう知り得るか。

「────えっと、私は橘福福って言いますっ!雲嶽山の一番弟子で、えっと、その……きょ、今日は犬太郎く…さんとのお出掛けでこの格好ですが、いつもはもっとちゃんとした服で、えっと………け、犬太郎くんにはいつもお世話になってます!」

 

 

現在、その場は凄まじくカオスな空間を作っていた。

 

場所は喫茶店から打って変わり……犬太郎のアパートの一室。

其処には犬太郎と福福、そして────

 

 

 

「な、なので、以後お見知りおきをと……えっと、お義兄さん…?」

「待て待て待て。ライトだ、ライトと云ってくれ。まだお前さんの義父…じゃない。兄になる気はないぞ俺は」

「小娘、この期に及んで何を抜かしているのだ。いい加減にしろ」

「う、うるさいですっ!」

 

 

 

雅と、何故かライトのみ……一つのテーブルに仲良く(?)囲って座っていた。

肝心の犬太郎はと云うと。

 

 

 

「肉料理はこれで十分だが、もうちょっと必要か?雅にはメロン、ライトさんはお酒とそれなりの肉料理……福福は恐らく足りんか?もうちょっと作った方がいいか…………」

 

 

 

ブツブツと独り言を言いながら、台所で料理に励んでいた。

一体どうしてこうなったのか……それは、数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────此処に居る皆で、飯を食わないか?』

 

 

犬太郎は逃げ場を作った。

放って置けばこの二匹の猛獣はずっとレスバをし続けるだろう。

 

何をしでかすか分からない恐怖。

福福は己の傷や受けた暴行を目撃しているから最早今すぐにでも噛み付かん迫力。

雅も邪魔をされ、強い恋敵が現れたと云う強烈なストレスが生まれ、フラストレーションが溜まっていた。

 

そんな時、ふと浮かんだ一つの一手。皆で飯を食って円満!

 

犬太郎はそう思い、咄嗟にそう言った……だが。

 

 

 

『……私は構わんが、貴様の家はそんな大人数が入る程の部屋なのか?』

『そんなん……………定員4名だな』

 

 

普通に詰んでいた。

 

余りにも冷静過ぎる雅の問い。

一瞬でその提案は風と共に何処かへと流れてく……と思った。

 

 

『────少しいいか?』

『ッ!貴殿は……』

「え?えっと、あ…貴方は?」

 

 

瞬間、3名の下に一人の男が現れる。

若干のお洒落な服装と、サングラスを掛けた優男な雰囲気の男が。

 

その姿を見た犬太郎は驚愕を覚える。

 

 

『ライトさん……なんで、来て……』

『(お前等を止める為に誰が行くかの)じゃんけんで負けた。犬太郎、止血と痛みは?』

『ッ!も、もう済ませてあります。痛みも今はありませんっ』

『そうか、流石だな。犬太郎の彼女さんは?怪我はしてないか?』

『ん?あぁ、していない』

『は、はいっ!していません』

『『…………………』』

『分かった。すまん、これは俺が悪かった。ソッチの……あーっと』

 

 

ライトが言い淀むも、即座に犬太郎がフォローを入れる。

 

 

『ライトさん、彼女が以前お話した橘福福です』

『え?えっと……こ、こんにちは!』

『そうか……あーっと、福福は大丈夫か?』

『だ、大丈夫です!あの、もしかして貴方って……』

 

 

福福がライトを見つめる。

見たことのある顔だ……そんな表情で見る。

 

すると、ライトは軽く自己紹介をする。

 

 

『俺はライト、郊外のライトだ。そこの犬太郎の……まぁ、ソイツの兄貴分的な立ち位置に居る男だ』

『ッ!!あ、やっぱ貴方そうでしたのですね!?ここ、これは大変お見苦しい姿を…っ!え、えっと!あたしは……』

『あぁ、話は聞いてるさ。彼の有名な曇嶽山の最古参にして一番弟子だと……あぁ、犬太郎がそんな凄い娘とダチに成れたと意気揚々と俺に話しかけてきたもんでね。あんたの事はよく知っているとも』

『ちょっ、ライトさん…!』

『そっ……そう、だったのですかっ!え、えへへへ……!』

 

 

 

そのままの雰囲気で、ライトは雅にも声を掛ける。

 

 

 

『任務の邪魔をして悪いな。虚狩りの星見雅さん?こうして会って話すのは初めてか?先刻の『ブリンガー』何たらの件じゃ良いモンを見させて頂いた』

『【無敗のチャンピオン】の名は私の耳にも届いてるぞ、ライト。救援には、改めて礼を』

『いやなに、大将や店長、皆が命張ったんだ。当然さ』

 

 

 

ライトの登場により、場の静寂が粛々と進んでいく。

先日あった大事件。雅を中心としたあの件は、雅の妖刀【無尾】が大きく関わった一件だった。

 

事態は収束を向かえ、こうして時折交流を交わす仲となった。ライトと雅がこうして正面から話すのは初か。

 

 

 

『犬太郎、この際だ。この2人を連れて一度冷静に話し合った方が良い。お前の事だ、飯の用意はほぼ出来上がっているんだろう?』

『ま…まぁ、直ぐには用意できませんが、取り掛かる事は出来ます』

『よし。んじゃまぁ、アレだ。福福と雅の両名は犬太郎の案内の下コイツの家に寄り、お互いイガミ合わず冷静かつ平和に問題を終わらす……どうだ?これ以上この場で問題は起こせんだろう』

 

 

 

ライトの現実的な提案。

それは一番の安牌だ。これ以上、この場で激しめの問答が起きれば、更なる戦火が広がり兼ねない。女の戦いは恐ろしいのだ。

 

 

 

『異はない』

『け、犬太郎くんの家……っ!』

『ありがとう御座います、ライトさん』

『問題なさそうだな。よし犬太郎、俺はコレで失礼すr』

 

 

 

何とか自分のやるべき事を終えたライトは踵を返してその場を後にする……。

 

 

 

”ガシッ!!”

 

 

 

『あ、ライトさんも一緒ですよ?』

『ん?』

 

 

 

ガシッ!と強くライトの腕が握られる。

その強さは、何が有ろうと離さない強い意志を感じさせるほどの握力。

 

 

 

『おいおい、何の真似だ愚弟。この手を離すんだ』

『すんません、俺だけじゃ無理です。あと他の2人もライトさんとは話したい筈なんで。なぁ?』

『あぁ。犬太郎の恩人であり、憧れの一人であり、そして兄貴分の貴殿とはいつか語り合いたいと思っていた。故に、この場で返すのは惜しい』

『あのっ!あたし犬太郎くんがライトさんの事をいっぱいお話してくれたの知ってて!あたしも貴方と犬太郎くんの事で沢山お話したいので、良かったらライトさんも一緒に行きましょうっ!』

 

 

 

”ガシイィィッ!!!”

 

 

 

犬太郎だけでなく、雅、そして福福もライトの腕を掴んで離さない。

既に身動きが取れないライト。マズいと感じて、流し目で見守り隊に救援の意を向ける。

 

 

 

”シ~~~ン……”

 

 

 

『………』

 

 

 

其処は既に、誰の気配もなかった。

 

見捨てられたライトであったのだ!

 

ライトはリンに仕返しをすると心に決めた。

 

そうして、ライトを拘束したまま、3名は犬太郎の案内の下……家へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あの、すみません。凡ミスで白米炊くの忘れてたんでもうちょっと待てます?」

 

 

 

そして今、雅、福福、ライトは犬太郎の家の居間、そこでソファーやテーブルの椅子に座って身を置いていた。

 

非常に珍しい組み合わせだが、それには犬太郎が大きく絡んでいる面子でもある。

 

少し落ち着いていると、御飯を作っているであろう犬太郎が凡ミスを言ってくる。

 

 

 

「構わん。白米を断食する修業は既に取得済だ」

「私も大丈夫ですっ!お腹はちょっと空いて来ちゃいましたけど、いつでも待てますっ!」

「ふっ、なんだ?随分と珍しいな。部屋に女の子を入れるのに必死だったんだろ?」

「あはは、何言ってんすかライトさん。俺がそんなガキ臭い事する訳n」

「図星を突かれた時に右手で左肩を掻く癖、まだ抜けて無いんだな」

「…………」

「ふっ、まだまだ子供だな、犬太郎」

「ぐっ………め、飯作ってきます!」

 

 

 

顔を赤くして、ドカドカと台所へと足を運ぶ犬太郎。

二人の掛け合いは長らく共にした者にしか出来ないような、そんな要所を見せた会話だった。

 

福福のみならず、雅もその会話に非常に興味深そうに眼を配らせていた。

 

 

 

「お~……なんか、素敵ですねっ!」

「そうか?俺もそう思う」

「自分でも!?犬太郎くんのアニキなだけはありますね…っ!」

「ククッ、3年…いや6年も居たんだ。どういう男なのかはよく知っている」

 

 

 

そう、何だかんだでライトはこの面子の中では彼と一番長い関係値だ。

犬太郎が何を経て、どういう実力者か、性格諸共ライトはこの中で誰よりも知っている。

 

犬太郎にとって、ライトは……第二の親そのものだから。

そしてそれは、ライトにとっても…。

 

 

 

「福福。あんたの事は犬太郎からよく聞いていると云ったな?こうして面と向かって話せば改めてよく分かった……犬太郎が惚れる訳だ」

「へ!?あ、うぇ!?あ、な、何を言って!?」

「好きなんだろ?アイツの事。そして雅、あんたもだ」

「……あぁ」

「っ!」

 

 

 

ライトは早速ぶっこんだ。

そう、この2名は犬太郎と云う男を好いている。

歴史がどうあれ、家庭がどうあれ、それは関係ない。あの馬鹿に惚れてしまった。

 

それは、そう言う事に疎いライトでも分かる事だった。

 

 

 

「ライト殿。貴殿に尋ねたい事がある」

「ん?なんだ?」

 

 

 

すると、雅が雰囲気を変え……真剣な眼差しでライトに問う。

 

 

 

「────旧都陥落から数年を経て、犬太郎は貴殿の下に居たと聞く。その経緯と……貴殿が知り得る、犬太郎の過去を知りたい」

「あっ……」

 

 

 

雅の問いに、福福は眼を見開く。

 

旧都陥落。それは、11年前に起きた最悪のホロウ災害。

新エリー都に住まう者が経験した……悪夢其の物。

 

雅も、福福も、ライトも……そして犬太郎も経験している災厄だ。

 

 

 

「………確かに、あんた等には知る権利はある」

「ッ!」

「特に福福、あんたは余り知らないだろう。アイツの過去の件は」

「は……はい…憧れの御方が二人居る事でしか……」

「憧れ?誰だ」

「彼のお父様とライトさんです。以前、雲嶽山で犬太郎くんを招き入れた時があったのですが、その時に御自身の憧れを話して下さって……あ、そういえば犬太郎くんのお父様は今どこに?妹さんも居ると聞いていましたけど……」

 

 

 

福福の何気ない問い。

それは、雅とライトにとっても青天の霹靂。

 

 

 

「犬太郎の奴、それも話してないのか………」

「………」

「え…?…あっ、そ、その……もしかして……っ」

 

 

 

福福も悟った。

この世界、人の命は軽い。

きっと、もうこの世にはいないのだと。

そう悟らせるには、時間はいらなかった。

 

 

 

「あぁ、居ない。狼谷猿乃介巡査は11年前に殉職を果たしている。同刻、狼谷桃子も亡くなっている」

「そう……だったん、ですね………すみません、あたしっ……」

「いや気に病む必要はない。コレに関しては犬太郎が何も言わないのが問題だ」

「同感だ。福福、私は貴様が気に食わんがこの一件に関しては貴様には如何なる責もない」

「あ……はい」

 

 

 

薄々、感じてはいた。彼には家族が居ないというのは。

この世界、家内が全員存命な家族は寧ろレアと云える……過酷なのだ。

 

雅も母を亡くしている。ライトは仲間を。そして福福は里を…。

 

彼もまた、同じ。福福はそう思った。

 

 

 

「……話を戻そう。アイツの過去についてだが、俺からは……言えん」

「………理由を、お聞きしても良いですか?」

「俺でも受け止めるのに数刻は掛かったからだ」

 

 

 

ライトは今まで以上に低いトーンで、そう告ぐ。

 

 

 

「比べるのは違うが、規模が他とは違い過ぎる。最早、神に呪われているんだよ……齢9歳であの厄災を受け、14まで一人で生きてきたガキ。その空白の5年間は……………」

 

 

 

瞬間、ライトの脳裏に浮かぶのは……郊外に来たばかりの犬太郎。

 

 

 

 

『────俺が死ねばよかったんだ……おれが…っっ…………』

 

 

 

 

涙を流し、壊れかけてしまった、若すぎる男の子の姿を……脳裏に浮かべる。

 

 

 

 

 

「……余りに、濃いんだ」

 

 

 

雅も福福も、呼吸を忘れる。

正しく息を飲んで、ライトの言葉を耳に入れる。

 

 

 

「俺の口からは言えん。だが、アイツが自ら自分の事を言うのも想像が出来ん」

「ならッ…」

「だからッ」

 

 

 

ライトは福福を見つめる。

そして、告ぐ。

 

 

 

「────犬太郎が好きに成った、あんたに…アイツを頼みたい」

「っ…!!」

「………………」

 

 

 

ドッシリと構えたまま、ライトは頭を下げた。

これを告げる事、それは重いと言う事は誰よりも分かっている。

 

だからこそ、隣を歩ける、支えてくれる子が必要なんだ。

 

犬太郎の恩人として、兄貴分として、そして……親として。

 

 

犬太郎の幸せを願う。

 

 

福福は両手をギュっと握る。

その発言を噛み締め、砕く。意味を、想いを、深く理解する為に。

 

 

彼の発言に、雅は何も言わない。

ただただ、静かに。その様子を見ている。

 

 

 

「悪い、本当は当事者の若い3人で話すべき事だ。俺がいけしゃあしゃあと出張るなんざふざけている」

「そ…そんな事はっ!」

「……福福、聞いてくれ」

 

 

 

ライトは福福の双眸を捉え、告ぐ。

 

 

 

「きっとアイツはまだ怖がっている。己の過去を、今を。あんたに告ぐべきか否かを」

「……あたしは、受け止める覚悟は出来ていますっ」

 

 

 

福福はそう言うも、少し怖くなる。

 

彼が背に乗せた業は何なのか、何を経たのか、自分で受け止めきれる内容なのか。

普段おちゃらけて、おばかで、でも時々カッコ良くって、可愛くって。そんな彼の背負うモノ……怖くないはずがないのだ。

 

 

 

「受け止める覚悟、か……アイツ相手にそう言ってくれる女の子が現れるとはな」

「んっ……え、えへへっ」

「……福福、少し良いだろうか」

「ッ!は、はいっ!」

 

 

 

すると、雅が福福の方へ向き、問う。

その眼差しは、その表情は……何処か愁いを帯びていた。

 

 

 

「これでも私は犬太郎とは長い付き合いだ。幼少から現在まで、旧都陥落を経てからは疎遠となったが私が見つけ、時に死合をした。それ程の間柄である事を理解して頂きたい上で、貴様に問いたい事がある」

「な……なんですか?」

「────犬太郎の何処に惚れた?」

「え?あ……あぇ!?」

 

 

 

それは、余りにも直球で。

でもこれ以上なく、分かり易かった。

 

 

 

「私とライトも知っている。もう隠す必要は無いだろう、そしてそれは私も然り」

「え、っと……っっ………あたしっ……」

「それとも、ただ奴の容姿に惚れただけの単調な理由か?」

 

 

 

雅の煽りとも取れる発言。それは、福福にとって否定しなければならない言であった。

 

 

 

「────違いますっ!あ、いえ!勿論彼の御顔も素敵で可愛らしいとは思いますが、あたしはっ────彼の【信念】と【夢】に惚れたんですっ!弱い人の盾と成り、救いを求める人を護り抜く為にその身を削るその在り方にっ!まだ彼の全力を、先ほどの貴女との手を抜いた争いではない、真なる戦いを見ていない浅薄な私ですがっ……彼が尋常ならざる努力と研鑽は彼と過ごし、見聞して理解しているつもりですっ!時折おふざけが過ぎておばかな一面もあって、タバコやお酒を未成年ながら嗜むイケナイ部分もあった彼ですが!あたしと向き合って話し合ってくれて、20歳になるまで我慢してくれると誓ってくれましたっ!同時に、彼は秘匿主義な一面が強くって、偶に、何処かへ行ってしまいそうな危うい人だと言う事も、あたしは………だからっ!!」

 

 

 

呼吸も絶え絶えで。頭が真っ白に成りかける。

だが力強く、ライトと雅に己が抱える犬太郎への感情を吐露して。

 

感情に身を任せて、叫ぶ。

 

 

 

「────あたしはっ!彼の傍に立ち!全てを受け入れる覚悟を持ってっっ!向き合うと!隣に立って、彼の……”狼谷犬太郎”の愛し人と成るって決めたんですっ!!」

「────ッ!!」

「…………」

 

 

 

真剣で、馬鹿真面目で。

そこに誇張なんて無い。福福がいま吐いた全ては、彼女が抱え、決心した志。

 

彼と共に歩み、成長し、助け合い、そして……愛し合う。

 

いや、愛し合いたい……その返事をして、やっと成立する事々を想起させる。

 

 

 

「(犬太郎の奴……こんな熱い女を捕まえたのか)」

 

 

 

ライトは驚愕を禁じ得なかった。

 

この世界は強い女性が多々だ。男顔負けとはよく言ったモノで、隣に座る星見雅も武人としては超一流。恐らく、新エリー都で一番の強者足り得る戦闘力を有している。

 

だがライトは、その雅にも劣らぬ【心の強さ】を。この少女から視た。

 

 

 

────犬太郎が、惚れるのも頷ける。

 

 

 

そう、思える程の強さを視たのだ。

 

 

 

「は、はぁ、はぁ………」

「………そうか」

 

 

 

一言、雅はそう言った。

眼を瞑り、何かを思案する仕草で。

 

ふと、台所に目を向ける。

背中越しで包丁を用いて野菜、肉を切っている。ジュージューと何かを焼いている音が、遠くから香ばしい匂いと共に居間へと運ばれる。

 

この声音だ。普通に台所にも轟いている。

 

それを福福は未だ理解していないだろう。自分の感情で一杯一杯だから。

 

その事を理解しているから、雅は、犬太郎を視認する。

 

 

 

「ッッッ…………」

 

 

 

耳が赤くなっている。

その身が少し揺れている。

彼の心臓の鼓動が高鳴っている。

 

 

 

それが、トドメだった。

 

 

 

「────そうか」

 

 

 

心にぽっかり穴が空いた。

 

そんな言葉があるが、こう言う事なのだろう。

 

雅は母を喪った時とは違う、別枠の、初めての感覚に……ただ息を吐く。

 

 

 

「福福、お前の叫び、しかと聞き入れ胸に刻んだ。教えてくれて感謝する」

「え?あ……はい」

「ライト殿、喫茶店では仲介人と成ってくれた事、感謝すると同時に謝罪する。申し訳ない」

「ん?あぁ、いや俺はそこまでの事はしていないさ。あのままじゃ俺等も巻き込まれ兼ねなかったからな」

 

 

 

突如として、雅は両名にそう告ぐ。

 

その意味。その意図。ライトは察する。

 

 

 

「では、私はコレで失礼する」

「え……えっ!?」

 

 

 

そして、立て掛けていた無尾を持ち、そのまま玄関へと向かおうとする。

何故、どうして。福福の脳裏にそんな思考が過る。

 

すると、ライトが言する。

 

 

 

「諦め、託すのか?」

「……あぁ」

「あ、あの、雅さん…!」

「福福。完敗だ。私は今日を持って、犬太郎からは手を引く。ヘッドハンティングに関しても上層部には伝達をしておこう……上手くいく保証は出来兼ねるが」

「ッ!!」

 

 

 

手を引く。星見雅から、直々にそう告げられた。

余りにも唐突だ。福福は意味が分からなかった。どうして自分が惚れた理由を言っただけで、彼女は手を引いたのだ。

 

あんな、街が破壊されかける程の戦闘をしてまで彼に執着して、この家まで来る程に【本気】だったのに。

 

 

 

「私が呆気なく手を引く理由を知りたい……そんな顔をしているな」

「そ……そりゃそうですよっ!ど、どうして急に…?」

「勝てない想いを、お前と犬太郎から感じた。私の幕は当の昔に下りていたのだ……」

「………」

 

 

 

福福の熱さ、犬太郎の沈黙。

それが答えだ。既に二人は、己の知らぬ領域に入っていた。

 

諦める……人聞きが少しばかり悪い。

 

過去に縛られず、前へと進む。

既に自分は、それを経験している。

だからこそ、己は……彼から手を引くのだ。

 

 

 

「すまない、もう帰らせて頂く。犬太郎には────」

「雅」

「ッ!」

 

 

 

玄関へと歩みを進める。

これ以上此処に居る意味も、理由もない。己は負けたのだから。

 

そう思い、敗者は立ち去ろうとした……瞬間だ。

 

腕を掴まれた。

力強く、単純な腕力なら己よりも遥かに強い、馴染みのある掴み方。

 

エプロンを巻いた犬太郎が、其処に居た。

まさか引き留めるのか?雅を中心に各々がそう思った……だが違った。

 

 

 

「コレ持ってけ」

「え……これ?」

 

 

 

なんと犬太郎は、弁当箱を渡した。

その大きさは中々のモノで……重かった。

 

その動作は自然体。まるで、雅が食卓を交わさず、帰る事を分かっていたかのように。

 

 

 

「今日の詰め合わせの弁当だ。あとお前の好きなメロン。弁当は100均のヤツだから捨てても構わん。あぁ、それとメロンは俺が畑で育てたヤツだ、弁当共々ちゃんと残さず食えよ」

「なっ……何の、つもりだ?」

「……ありがとう。俺を想い、今日に至るまで六課に誘ってくれたのは……迷惑だったが、嬉しくもあった」

「ッ!!」

 

 

 

すると、犬太郎は雅の双眸を捉えて、語る。

 

 

 

「雅、俺はもう一人じゃない。福福が居る、ライトさんが居る、店長も……そして、お前も。もう一人で生きて行こうと馬鹿を言う俺は、此処には居ない……」

「犬太郎……」

「────ごめんな、雅。最後まで迷惑かけて」

 

 

 

なんで。

なんでお前は……。

 

ずるいぞ、犬太郎。

 

 

 

「────本当だ、たわけ者が…っ」

 

 

 

雅は乱雑に弁当箱を受け取り、ドアノブに手を掛ける。

開けて、外の景色を見える。そのまま外へ出て……背中越しから、告ぐ。

 

 

 

「今後、私は自分からお前に会う事は無い」

「………」

「だが………墓参りは、行く」

「そうか……じゃあ、運が悪ければ会うかもな」

「せめて良ければと言え。貴様の貞操を破壊するぞ」

「怖すぎる脅しやめてくれ」

 

 

 

少し声が上擦っているも、いつもの雅の言動。

だがそれでも……傷心に変わりはない。

 

だが己は星見雅だ。その秩序たらん有様が、雅を支える。

 

 

 

「ライト殿」

「おう」

「……貴殿には感謝している。犬太郎を救った恩人として、偶にそちらへ赴き茶を交わしたいと思っている」

「願ってもないな。是非とも時間ある時には郊外に。ウチの大将もあんたとは拳を交えたいと言っていたからな」

「そうか。ならば、今後ともよろしく頼む」

 

 

 

ライトには感謝の念を。

犬太郎を救った恩人として、心から……。

 

 

 

「そして……橘福福」

「は……はいっ」

「喫茶店では諠譁(けんか)の限りを尽くしたが、後悔はない。私以外で犬太郎の事を想う者が現れた事に、怒り以上の喜色が私に産まれた。その事を自覚するのには時間が掛かったが……お前なら、託せる」

「雅さん……」

「あぁ、だがな……」

 

 

 

バッ!と振り返る雅。

その眼には少し、潤いが出ているが……彼女は堂々と、告げた。

 

 

 

「────犬太郎は隙あらば女性にナンパする節操なしだ。加え、意外とそこの男はモテる。監視はした方が良いとだけ伝えておこう」

「────はい?」

「ぶふっっ!!!?」

「ではな。さらばだ……御免」

 

 

 

バタン……と、犬太郎のアパートの一室から出る雅。

 

その場から静寂が生まれる。部屋の温度が一気に凍る感覚。

犬太郎は7秒の間を置き、くるっと振り返り告ぐ。

 

 

 

「さ、さてさて、料理も出来た事だし3人で飯でも食うか!」

「………」

「……福福、あの女の言う事を信じるのか?確かに俺は女好きではあるが何も無暗矢鱈にナンパするような最低な男じゃないz」

「本当は?」

「……………ナンパして、上手くいけば一緒に御飯を食べてました。お酒も呑んだ事もありますが、皆ちゃんと家まで送り届けてました。経験無しのチェリーボーイ犬太郎です」

「っ……(憐れ過ぎて笑いが込み上げるライト)」

 

 

 

バレたくない人に過去のダメすぎる歴史がバレた犬太郎。

だが最後に童貞である事を言った。果たして意味が有るのか、あとソレがどういう意味なのか福福は知っているのか、色んな考えが巡るも最早そう言うしかなかった。

 

 

 

「ふ~~~~~ん………まぁ、良いですよ?別に、犬太郎くんがそう言う人だってのは知ってますし」

「ゆ……許して、くれる流れ?」

「はい。想い人のおばかを許すのも、私の役目ではありますから」

「ふっ!福福!ありがt」

「でもこれからそんな事したら噛み潰しますからね?」

「うす……」

 

 

 

早速、尻に敷かれる犬太郎。

だが望んでいた事だ。これが、犬太郎にとっての……もう一つの夢。

 

福福、橘福福……犬太郎にとって、掛け替えのない存在。

 

【最強の盾】……その夢に偽りはない。

弱き者を救い、救いを求める者の盾と成る。全てを弾く最強になる。

 

その夢は、己の理想だ。

 

でも、同時に……犬太郎は想う。

 

 

 

────福福だけの【盾】にも成りたい。

 

 

 

そんな矛盾を、抱えてしまう。

 

 

 

「痴話喧嘩も良いが、俺は腹が減ったぞ御二人さん?それは福福も同様な気もするがな」

「ッッ!は、はいッ!直ぐに準備します」

「あたしも手伝います!」

「マジ?じゃあ盛付けた料理の品々をテーブルに運んでくれないか?」

「はいっ!…ふわぁ~~~!すっごく美味しそうです!コレが犬太郎くんの……っ!!」

 

 

 

修羅場から一転し、夕飯の準備へと取り掛かる。

犬太郎と福福が颯爽と台所へと行き、テーブルに料理を運んでいく。

 

サバの味噌煮、肉じゃが、味噌汁、白米、鯵と黒鯛の刺身、豆腐、サラダの盛り付け等々……その料理は和食が殆どで、その量は福福のだけ凄まじいものになっている。

 

 

 

「俺の地元の飯だ。ライトさんに振舞うのも久方振りか」

「和食か、良いな。俺の好きな刺身もある。となると酒が飲みたいな」

「そう言うと思ってちゃんと残してあります。刺身なんで純米酒が本来は良いんですが、今回はウォッカでどうでしょう?」

 

 

 

そう言いながら、犬太郎は棚からウォッカを取り出す。

開封していない、新品のウォッカだ。度数は40度と相当な一品。

 

 

 

「なるほど、最高だ。だが犬太郎、なんか忘れちゃいないか?」

「はい?忘れちゃって、一体何を言って………あ」

 

 

 

犬太郎は気付いた。

そう、背後の存在。痛々しく突き刺す、怒りのオーラを。

 

 

 

「………」

「福福、説明をさせてくれ」

「……どうぞ」

「あ、ぁ…ありがとう。えっと、先ず俺はあの日から酒は断っている。証拠は提示できないがどうか信じてくれ。そ、それでだ、えっと、このウォッカはずっと前からライトさんと飲もうとしてた一品だったんだが、福福と誓った手前、20になるまで待とうと唯一取って置いたヤツだな?そ、そんでな、今日は良い日だから是非ともライトさんに飲んでもらいたく出したと云う訳でな?だからえっと…………俺を信じてくれぇ!!」

 

 

 

全力で土下座をする犬太郎。

それを見ながらウォッカの栓を開け、グラスに注いでジンジャーとレモンで割るライト。恐らく愉悦を感じている。

 

 

 

「……ぷっ!ふふっ!もう、犬太郎くん?土下座は良いですから、顔を上げて下さい」

「え……?」

 

 

 

すると、福福から怒りのオーラが消える。

そ~~っと、犬太郎が顔を上げる。

 

 

 

「分かってますよ。犬太郎くんはちゃんと禁煙禁酒している事くらい。だって、犬太郎くん嘘つくの下手ですもん!今回それが垣間見えなかったですし、それに……こんな事で嘘を突く御人じゃないって分かってますから、あたし」

「ふ、福福~~~!」

「でーも!未成年がお酒を所持するモンじゃありませんよっ!法律的にグレーですのでっ!」

「あびびびっ……にひひ!わひゃった!きをつける!」

「んっ……んもう」

 

 

 

最後にキッチリそう言って、犬太郎の両頬を摘まんで伸ばしながら指摘する福福。

彼よりも年上として、こういうのはキチンと言わなくてはいけない。そんな責任力が、いつの日か……福福に産まれていた。

 

 

 

「イチャイチャしてる所悪いが、そろそろ食べないか?コップと箸は運んだぞ」

「え?あ、すっ……すみませんっ!」

「マジすか?ありがとう御座います、ライトさん。お手数を掛けてしまい申し訳御座いません。次は俺が注がせて下さい」

「嬉しいね、ありがとよ。色ボケの盾」

「グッ……!」

「ぷふふっ!色ボケの盾ですって!」

「……頭ピンクなトラ猫が何言ってんだか」

「聞こえてますよ~!?誰が猫ですか誰が!あたしは虎です~っ!頭ピンクなんかじゃないんですぅ~!!」

「はいはい、最強の虎だな福福は。マジそんけー」

「フシャァァァァァ!!!」

「全く……騒がしい奴等だ」

 

 

 

これじゃ、ゆっくり御飯も食べられないな。

 

それが幸せだと、ライトは思った。

 

 

 

そうして、三人は楽しく犬太郎の料理を食した。

 

 

 

福福は5回おかわりをした。

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

────童貞卒業?




雅はこれで暫く出ないかもです。

彼女にとって、これは悔いは残る前進。
でも、犬太郎と云う男を好いた事。それには悔いはない。
それだけ理解して頂ければと。雅はコレでストーリー5章を終えた時と同じ精神性になりました。

本編はまだ1年経っていない。つまり、これから2章に入る形です。


因みに犬太郎と雅はこの時点では【付き合っていません】ので、ご理解を。


次々回あたりから、犬太郎の解剖が始まります。やっとですわ。


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