最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
いつもありがとうございます!投稿頻度上げたインんごねぇ。
福福先輩の二次創作ってイラストは凄くあるのに、二次小説はあまり見ないですよね。
頼む、もっと増えてくれ。
では、本編です。
▽────犬太郎宅:数時間後……。
「────ん~~~っっ!!おいひいですぅ~~!!おかわりお願いします!」
「おいよ。ほい、白米大盛りだ」
「ありがとう御座います!」
「ククッ、良い食いっぷりだな。見てて最高に気分が良くなる」
「犬太郎くんの御飯、ほんっとに美味しいですっ!!このサバの味噌煮やお刺身のお魚系は味付けや食感が気持ち良く食べれて!この角煮や肉じゃがはもう形容出来ない美味しさでっっ!!あたし!いま凄く幸せです~!!」
「ッ!そ、そうかそうか!ほら、もっと食え福福。まだ一杯あるからな」
「わーーーいっ!!」
福福の甘美な声が響き渡る。
パクパク、バクバク……頬を膨らませ、一口一口を大事に、そして大胆に食していくその様は真から幸せそうで。
実際に作った犬太郎は、こんなにも美味しそうに食べる福福に……底なしの愛おしさを覚える。
「でも、どうしてライトさんは途中で帰っちゃったんでしょう?用事って言ってましたけど……」
「……さぁ、なんでだろうな。まぁあの人も忙しい身だ、仕方ない」
「そうですかね?まだ私ちゃんと御礼も言えてないのに……」
「いずれまた会う機会が来る。そん時に、まぁ……色々と言おう」
そう、この場は既に犬太郎と福福のみと成っている。
ライトは食事の途中で席を外し、帰ってしまったのだ。無論、自分の分の夕飯は確りと食べて。
理由は特に言わず、ただ一言…『用があるんで、先にお暇させて貰う』とだけ言い、帰ってしまったのだ。犬太郎は悟った、後は二人で楽しめと。
福福は少し寂しそうにしていたが、犬太郎の発言によって切り替え食事を再開する。
しかし、犬太郎は心中穏やかではなかった。
その理由は……ノックノックにあった。
”儀玄”:〈今日ワンチャン周期が早まって福福に発情期が来るから、うん、まぁ色々と気を付けろ。節度は確りとすることだ〉
と、何故か儀玄からヤバすぎる言葉が来たのだ。
「(……発情期って、マジで?)」
聞こえは良いかもしれない。意中の相手が発情期を迎える。犬太郎の様な只の人間は所縁の無い話だが、福福の様なシリオンを保有する者は個性によって発情期は存在する。
虎のシリオンである福福にはソレがある。普通に考えてみれば当然の話だ。
だが、問題はある。
「(ゴムは買ってある……貯蔵は十分だ。ふぅ……待った、先ず第一として俺のブツが福福に入るのか?いや待て、なんで俺はもうヤル事を想定しているんだ!?落ち着け落ち着け、第一として俺と福福はまだ恋人でもねぇ……返事、貰ってねーし………それに福福の気持ちだ。幾ら発情期が来ようが、負担を抱えんのは彼女だろ。俺の下らん理性の欠如で、彼女を気付付ける訳には……いやでも────)」
”─────セ〇クスしてみて~~~っっ!!!”
どれだけ取り繕っても、コレが己の欲望だ。
19の年齢を鑑みてみれば、この欲は妥当に等しい。
多感な時期は既に過ぎたと思っていたが、そんな事は無かったらしい。そう自分で思うには、福福のあられもない姿を妄想してムラムラしちゃう位には、犬太郎は余りに若い青年だった。
加えてこの流れ、福福は己の家に泊まる雰囲気だ。
ベットは一つ、ゴムの貯蔵、夜更け、自慰行為の我慢(10日分)……役者(?)は揃っている。
「ぷふ~……お腹一杯です~……美味しかったです犬太郎くん!ご馳走様でした!」
「……ん?あ、あぁ!そいつは良かった!は、ははは!」
「む?何だかお顔が赤い様な……大丈夫ですか?もしかして雅さんにやられた脇腹がまだ痛んで……」
福福の合掌を聞き入れ、現実の世界に戻る。どうやら既に全ての料理を食べ尽くしていた様だ。
流石の一言。お腹が少し膨れ、幸福な顔付きでそう言う福福は、犬太郎の視線では余りに可憐に映って。
だが、顔が赤くなっている事を勘違いしている福福。
直ぐに犬太郎は否定し、弁明の意を身を使って告ぐ。
「い、いや!それはもう大丈夫だ!ホラ、ちゃんと塞がってるだろ?」
ぺらり、と……犬太郎が上着を捲り、傷口を見せる。
そこには傷はあるも、既に塞がった跡があった。彼は己の筋肉のみで傷口を塞いでいたのだ。
「わわっ……凄いですね、あの傷がもう塞がってる何て。やっぱり犬太郎くんって肉体強度がヒト並よりも強固に出来てますよね!いいな~、あたしもそれ位硬くなりたいです!」
「毎日卵を殻ごと喰えば俺みたいになるぜ」
「か、殻ごとですか!?お口血だらけになっちゃいませんか!?」
「クハハ!冗談だ冗談。まー卵はタンパク質の塊みてーなモンだから、筋肉が付くのはマジだ。毎日摂る事はオススメするよ」
「そうなんですか?初めて知りました!犬太郎くんってこういう知識は豊富ですよね~!」
「”は”って何だ”は”って。まぁいいが……」
「あっははは!ごめんなさい犬太郎くん!ついイジリたくなっちゃいました」
地味に失礼な福福にツッコミを入れる。
無論、彼女もワザトだ。犬太郎だからイジッた発言。それを、犬太郎も理解している。
心の底から楽しそうに笑う福福を見る。あぁ、この光景だけで……もう一杯だ。
「(発情期とか、何かどうでもいいかもな)」
こうして楽しく話せるだけで良い。そう思って。
己が惚れた女の子は、まるで太陽をのものに見えるほど輝いて見えて。
つい、目を細めてしまう。
「……なぁ、福福」
「ん?なんですか?」
ふと、犬太郎が声を掛ける。
思う。もう一度、もう一度だけ……己の想いをちゃんと伝えたい。
でもここじゃない。いやココでも良いのかもしれないが、もうちょっとこう……良い場所が良い。
噴水がある場所とか、お花が映えそうな所とか。
そして、それを悟られてはならない。男の意地が混ざったものだった。
「少し歩かないか?ほ、ほら、食後の運動って言うか……あぁいや、歩くだけなんだが……あっと……こ、此処ら一帯は安全だからさ?」
「?……っ!ふ、ふふっ!」
「え?」
何故か、口を抑えて笑う福福。
その言動に理解が出来ないが、福福は告げる。
「えぇ、そうですね!では少し夜歩きといきましょう!」
「ッ!あ、あぁ!」
よく分からないが、取り合えず話は進めた。
盤上は整理できた。後は、己が根性を見せるだけ。
何度も脳内でシュミレーションをする。
洒落た言い方か、それとも先程のように真正面からか。
これは試練だ。一世一代、己の全てを出す。
覚悟は……当に決めている。
そうして、少し経った後……俺と福福は夜歩きに出掛けた。
▽
☆犬太郎side。
────夜を歩くと、不意にあの日を思い出す。
何も出来なかった。
誰も救えなかった。
愛した者達を殺した。
沢山、沢山殺した。
掌を血に濡らしたあの日を、俺は忘れた事は無い。
忘れてはいけない。それは、己の罪であるから。
「────涼しいですね~、満月も煌びやかで、風も気持ち良くって。こういう日に歩くって何だか素敵ですね!」
「あぁ……夜の散歩は良い。どんな日でも気を静めてくれるからな」
今、俺の隣には……夜を照らす程の太陽が居る。
なんて、些か詩的な表現をしてしまったが……正直、俺には太陽そのものだと思ってしまう。
とびっきりの笑顔で、可愛く美しく、アツく、眩しく……人道が輝いている女の子。
橘福福。俺が惚れた女。
尻尾を震わせて歩くその姿は、本当に綺麗で……可愛くって。
心が堪らなくなる。
「(……ダメだな、こういう時は何でか冷静に為り過ぎる……)」
血に塗られた足跡。血に染まった掌。
紅い鮮血を纏った俺の軌跡は……どれもこれも、下らない結末ばかりだ。
………。
俺は、喫茶店で福福に告白をしようとした。
分かっている。愚かだと、烏滸がましいと。こんなクズに、こんな優しい子を巻き込むなと。
頭では分かっている。分かっているんだ。
……でも、幾ら諦めようと思っても、一瞬でその思いは事を切らす。
「(頭から離れられない程、好きに成っちまったんだなァ……)」
しみじみとそう思う。
可愛い、優しい、明るい、ポンコツで…まぁ、カッコいい。
でも、それ以上に……嬉しくって、心を震わせた事。
『────最強の盾、ですか!犬太郎くん!あたしっ、その夢を応援したいですっ!』
己が掲げた夢を、純粋に応援してくれた。
それが、どうしようもなく……嬉しかったんだ。
「ん?犬太郎くん、どうかしましたか?あたしの方をずっと見て…」
「……んいや、なんでもない。夜の満月は福福の様な虎が似合うなと思っただけだ」
「えっ!?い、いやぁ~そんなぁ!て、照れますね~!」
「ふっ、あぁ……本当に………」
心が温まる。あぁ、だめだ。本当に可愛い。
「え…?」
可愛いな、マジで。
なんでこんなに可愛いんだ。カッコいいと可愛いを両立させる天才だ。
やっぱ、イイ女だな。
「ちょっ……きゅ、急にどうしたんですか!?ホント、も、もう!」
……つくづく実感する。己には、余りに不釣り合いだなと。
この子にはもっと良い人が居るんじゃないか。
俺なんかとは関わらないで、もっともっと出会いを見つけて、人生を謳歌して。
「────は…?」
そう思ったらなんか、辛いな。
よもや俺は、ここまで福福を……クズが一丁前に舞い上がって、なにしてんだろう。
「…………」
いやでも、好きなんだよなァ。
俺はどうすりゃいいんだ。
俺は何がしたいんだ。
外に出て、ちゃんと告白をする気でいたのに……もう既に現実逃避をしている。
怖いんだろうか。やっぱ友達で居ようって言われるのが。
いや……それもそれで良いのかもしれないな。
クズの恋の幕切れとしては、悪くないのかもしれない。
ライトさん達には悪いが……
「────せぇぇいっ!!」
「おわぁぁお!?」
”ドンッ!”
マジでビビった。急に福福が突進してきて、両手を使い俺を壁に押し倒して来た。
え、なんで!?何が起こった!?
福福を見下ろす。その顔は……
「こんの……おばかぁぁぁぁ!!!」
「え、え、なんで!?」
スゲェ怒ってる。うん、なんでっ!?
「さっきからずっとずっと!!心の声が駄々洩れなんですよっ!」
「……え?どゆこと?」
「かわいいとか、俺はクズだとか!んもっ……~~~っっ!!なに急にしおらしく成ってるんですかっ!」
「ッ!??!?マジで!?」
「大マジですよ!!なんてベタな!漫画やアニメだけだと思ってましたよ心の声が漏れるって!!ちょっとした感動ですよ!」
「……泣ける?」
「おバカ過ぎて泣けてきますよ!」
アカン、めっちゃハズイ。
うわーマジか。全部聞こえてしまったのか。何て事だ。
……冷静だと思ってたが、内心はそうじゃなかったらしい。
ってか……福福、顔赤いな。
「……なぁ、福福」
「っ……はい」
あれ、コレってもうそう言う雰囲気か。
分かる。幾ら何でも分かる。
自分から言っといて……ふぅぅ、ヤバ、緊張して来た。
「今日は……良い日だな?」
「あ、そう、ですね……良い日でもあって、ちょっと怖かった日でもありましたが」
「あ、そうだな。まぁ…何とかなって良かったよな」
「あはは……」
下手か。いや下手だ。
あー何やってんだ俺は。男ならドンと胸張って告れよ!
緊張するな。自意識過剰じゃなけりゃ、福福は俺の事が好きだ。
男とサシでここまでいくか?いや行かない。童貞の俺はそう思う。
「……まどろっこしいのは苦手だ。よし、言う、言うぞ!言うぞ福福!」
「っ!は、はいっ!い…言って下さい!」
「ふぅぅぅ……」
あの後の続きだ。言えなかった、あの言葉を。
やはり真正面からが好い。福福もタイプ的にそういう娘だろう。
満月の夜、六分街にある広大な公園前。
舞台は整った。
────覚悟を決めた。
「────福福、俺と付き合って下さ…」
「────居たぞ!!あそこだぁぁ!!」
「ふぇぇ!?な、なんですか!?」
「………あ?」
”ピキッ”
あぁ、まただ。
俺はどうしてこうも、間が悪い。
俺とした事が、福福に夢中で気配を怠ったか。
背後から複数の足音。数的に……40人弱か。
「やっと見つけたぞ狼谷ァァ!!」
「俺らん仲間が随分と世話になったみてぇだなァ!!」
「………」
「テメェの所為で俺達の団は過半数が豚箱行きだッ!!!だがそれは俺達だけじゃねぇ、テメェに滅茶苦茶にされた他ん奴等と連合を組んで来たんだッ!」
「卑怯とは言うめぇな!!この数を相手だ、テメェも只じゃ済まねぇ!!」
「ブチ殺してやるよッ!!!」
ナイフに拳銃、多種多様な武器をほぼ全員が持っている。
なるほど、マジで殺しに来たって訳だ。
…………随分と舐められたものだ。
だがこの場には福福が居る。抑えろ。
俺は顔だけ振り返り、告ぐ。
「……警告だ。全員、今直ぐ俺の目の前から消え失せろ」
「あぁ!?ざけんなボケが!!!」
「それが遺言で良いのかァ!?」
しかし、この馬鹿共は警告を無視して圧を掛けて来る。
やはりだめか。仕方ない、隙を突いて福福を抱えて逃走を図る……。
「なっっ!なんなんですか貴方たちはっ!」
「ッ!!」
だが、それよりも前に福福が俺の目の前に立ち、40人の屈強なクズ共と対面する。
「あ?なんだこのガキ」
「ガキじゃありません!列記とした大人ですっ!それよりも、こんな場所でよってたかって何のつもりなんですかっ!他の市民の方々の迷惑になるでしょうっ!?今直ぐ武器を仕舞って帰って下さい!」
……福福は敢えて会話で解決しようとしている。
こんな見るからにクズ丸出しの奴等にでもだ……良心の擬人化とも云える善性を彼女から感じる。
だがしかし、その返答は腐っていた。
「あぁ?何だとこのチビ!」
「ち、チビ!?」
「ってかよぉ、コイツ随分と目の保養になる格好してやがるな!!」
「衛非地区で見かける服装だな。ぷはっ!!だがガキが着ると似合う以前の問題だな!」
「かわいこちゃーん!そんなバケモンじゃなく俺等と遊ぼうぜ~!なんてな!」
「はっ!誰もガキ相手じゃ興奮しねーだろ!」
「いやいや、俺はするぜ~!」
”「ぎゃはははははははははは!!!」”
「なっ……っ……」
福福の耳と尻尾が垂れる。
背中越しから伝わる気落ち具合。
コイツ等の暴言に、傷付いてしまったのだと…分かった。
”ブチッ────”
俺は……目の前が真っ赤に染まった。
▽
「────福福」
「っ…はい……え?あ…」
犬太郎が前を歩く。
その背中は、余りに大きくて。
正に底なしの強大な力の氣が、福福には見えた。
「10秒だけ待っていろ、直ぐに終わらせる」
「け……犬太郎くん?」
か細い声で犬太郎の名を呼ぶ。それは心配ではなく、動揺の現われ。
分かる。彼は目の前の輩達を制圧するのだと。
周りにはギャラリーが集まっている。ここで暴れさせれば、他の市民にも危険が及ぶ可能性がある。それも兼ねての制圧だろう。
だが……彼が動く理由は、9割が。
「福福に生言いやがって………ブチ殺す」
己が惚れた女の子に対し、悪辣な言い分を述べた事。
それだけで、彼には十分な動機だった。
「テメエ等、豚箱のクソにしてやる」
「え?」
瞬間────犬太郎が音も無く前線に立つボス級の男の前に立つ。
一瞬。余りに一瞬の瞬足。理解が追い付かない輩達だが、一瞬でその異様具合に思考が追い付き、身が凍る程の重圧を覚える。
196㎝の強面筋肉達磨から発せられる威光。死の臭いが彼から香る。
犬太郎は……殺意を極限まで上げ、眼で殺しかねない眼光を周囲に放つ。
「────100年くらい入院しとけよッッ!!!」
”「へ……」”
”ボガァァァァァァァァンッッッ!!!!”
それは、瞬きすら遅い瞬撃の拳。
犬太郎はただ拳を握りしめ、ただ振るう。
福福は目が点となる。瞬きすら忘れ、周囲の状況を整理する。
気付けばだ。福福の目の前には、先程までオラオラしていた総数42名の輩達が、息も絶え絶えで気絶しているのだから。
そう……彼は放たれた拳の風速のみで、その数を一撃で殲滅したのだ。
断末魔もなく、だ。
”ビリッ”
「チッ、やっぱ耐えられねぇわな。戦闘服じゃねーから仕方ねぇが」
すると、上着を着ていた犬太郎の服がビリっと破れた。
それによりムズ痒かったか、犬太郎は「めんどうだ」といい、そのまま服をビリビリと破り、上半身裸に成った。
「チッ、ゴミクズ共が……クソみてぇな邪魔した報いだ。一世紀は病院で過ごしてやがれボケがッ」
「わ、わぁ……」
余りの惨状にポカン…となる福福。
街の公道が滅茶苦茶だ。只の風速で、こうまで抉れるか。
それでもって輩達は敢えて生かす技術力。
福福は雲嶽山の大姉弟子であるが故、相応の実力は保有している。
だが、こうまで破壊力に特化した拳を放つ存在は初めて見た。
「(凄い……単純な腕力なら新エリー都でも随一なんじゃ…っ)」
正に怪物。
福福は驚愕を超えた感情を心に込めた。
雅との戦闘では見れなかった、犬太郎の戦闘者としての一部。
マトモじゃない。だがそれでも。
「……ッ!あ、す、すまん福福!頭に血が上り過ぎてたみてぇだ。男の上裸なんざ見たかねーわな」
「────カッコいい……っ」
「え???」
それでも、福福にとっては……惚れた男の肉体の方が興味津々の的だった。
福福は少しだけ見た事があったが、彼の上半身には数多の傷跡が残っている。
火傷痕に裂傷痕、銃痕等々、正に戦場で生きてきた男の傷跡。
その傷跡こそ、犬太郎の辿った人生を顕わしていた。
「あ……す、すみませんっ!何でも…ないですぅ」
「そうか?ふぅ、とはいえダセェとこ見せちまったな。だが悔いはない。福福に舐めた事言った奴は全員漏れなくブチ殺す」
「そ、そんな事しなくっても……あっ、ちょ、ふ、服を着なきゃです…っ!」
「服?いやーそうなんだが、俺ミスって服破いちまったんだよなぁ。どうしたもんかねぇ」
公衆の面前で思いっ切り上裸の男が居る事実。
それは、中々に強烈な光景だ。しかも傍には小柄な少女もいる。
それ即ち…。
”ウーーッッ!!ウーーッッ!!!”
「んっ!?お、おいおいまさか…」
次第に近付くサイレン音。
速い。100㎞は超える速度でこの公園前に来ようとしている。
それだけで判断。この感じは、彼女しか居ない。
「ヤベェ!この感じ朱鳶ちゃんだッ!あと20秒で来るぞ!」
「へ?朱え……誰ですか?」
「あーっと!簡単に云えばモデル顔負けの美貌とスタイルを持つ……儀玄ちゃんみてーなボンキュッボンだッ!あの人に追い駆けられると面倒なんだよ」
「ふ~~ん……」
儀玄を一番よく知っている福福だからこそ分かる。
これから来るであろう女性は……自分にとっては不利に充る人物なのだと。
それに朱鳶”ちゃん”と、ちゃん付けで呼んでいる辺り仲が良いと思える。
……おもしろくない。単純だが、嫉妬を感じてしまう。
「クソ……しゃあねぇ!福福ッ!」
「むっ、なんですか…………ふぇ?」
”ひょいっ”
ムスッとする間もなく、福福に訪れる浮遊感。
一瞬頭が真っ白に染まるが、それは己のお腹に伝わる力強い腕の筋肉で理解した。
己はいま……持ち上げられている。
「は…はぃぃ!?ななななな、なにしてるんですか!?」
「最高速度で逃げるぞ!今日のは割とマジで怒られるヤツだからなッ!舌だけ噛まんようにしておけ!」
「えぇぇ!?ちょ、まっ……ふわぁぁぁぁぁ!?」
瞬間、犬太郎が地面を踏み抜き、韋駄天が如く神速の健脚を魅せる。
ソニックブームが起きるほどの速度。
「あばばばばばばばばっ!!!」
「ちょっと我慢してろよッ!あ、そうだ!俺の胸に顔埋めとけッ!風圧を俺で吸収できる!!家までだからな!行くぞーッ!」
だが、それを考慮してか途中で犬太郎が巧い具合に福福を抱え直し、福福を赤ちゃん抱きのような体勢で抱えて逃走。
つまり、福福に少しの余裕が生まれる。
「(あわわわわわっ!!な、なにが起きてぇ……!うぅ……っっ…あ、このニオイ……犬太郎くんの濃いニオイが、直接……っ)」
犬太郎の胸筋、肉肌からくる体温と【体臭】が福福の機敏な嗅覚能力で深く伝わる。
僅かだが、彼の汗も少し混ざったニオイ。
男の臭いが、福福に喰らう。
息を吸って、吐いて、また吸う。
次第に口呼吸から鼻呼吸のみへと変わる。
何故か。それは単純な回答だ。
”ゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクッッッ♡♡♡”
「すぅー、ふっ…ふぅぅ…ふー…ふー、ふーーー、すぅぅ…ふぅぅ…!!」
形容出来ない快感に、身を溺れさせていた。
尻尾を犬太郎の腹筋に絡めて、更に密着して犬太郎の胸筋に顔を埋める。
顔を紅潮させ、眼をトロォン…と惚けさせながら激しくニオイを嗅ぐ。
現在、福福はマトモになれていない。己でも理解出来ないナニかに、欲を掻いている。
「(ん?福福、息が荒いな……尻尾も巻き付けてギュってして来てる。可愛い…が、コレもしかして怖がってるのか!?ヤベェ、流石に速過ぎたか?だが捕まる訳には行かねーし…後で謝ろう)」
しかし、犬太郎はそんな事は全く知らず、後で謝ろうと決心を決めて福福の負担に成らない様に走る。
福福が己に抱き着いている。役得だな、と。男らしい考えも持ちながら。
「すぅ、んっ♡ふぅぅぅぅ!ふぅぅぅぅ……すんすんすん……ふぅぅ…っ♡♡」
「(く、擽ったい……大丈夫かな?心配だ…)」
一方は欲に溺れ、一方は後ろの追跡者から逃れるよう複雑なルートを辿り家まで目指す。
珍しく犬太郎が真面目(?)だ。
なんとか朱鳶の追跡を振り抜き、犬太郎は家まで辿り着いた。
そこで……犬太郎は思い知る事に成る。
────橘福福の、抗えぬ痴情を。
■
「────ん?なぁ藩。福福のやつ薬は持って行ったか?」
「薬?なんのだ?」
「いやほら、アレだ。欲を抑える」
「……いや、俺が知る訳ないだろお師さん。まぁ、そういうのは意外と確りしてると思うぞ?姉弟子は」
「ふむ……なら良いのだが」
「なんでそんな事を聞くんだ?今日って別に泊りじゃないだろ?多分いま頃犬太郎が覚悟決めて告った頃合いだとは思うが、幾ら何でも初日でなんて、なぁ?」
「それは私も思うんだが……発情期は一定周期で来るが薬や氣の使いようで収める事が出来る。福福もそれは履修している故、問題ないと思ってはいるんだが……うぅむ」
「もう言っちまってるが……そんなに心配か?」
「いや……まぁ、そうだな。仮に発情期を早期に向かえてしまったとなれば、犬太郎には非常に申し訳が立たんのでな」
「……あ」
「────虎の発情期はヤバイ(断言)」
次回
虎の真骨頂。そして────
感想誤字報告、お気に入り評価ここすき、いつもありがとう御座います!
そろそろ、犬太郎の本格的な戦闘を書いてみたいですね。