最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
今回で20話にいきましたね。皆さんのお陰です。
では、本編です。
”────ガチャ、バタンッッ!!”
「はぁ、はぁ、はぁぁっ!あ、あぶねぇ……何人かとすれ違った気がする…ッ」
息を切らしながらも、何とか我が家に到着した俺と福福。
あの後、まさかのドラテクで犬太郎たちに追い付いた朱鳶ちゃんが鬼の形相で追跡して来たのだ。
久しぶりの鬼ごっこだったが、今回の件は街の公道にまで影響を及ぼしている破壊行為。朱鳶ちゃんがブチギレるのも納得の案件だった。
「ヘッドハンティングを受けるのが嫌で巧く治安局から逃げていたが、そのツキがいま回って来たな……ありゃ次合う時ぶっ殺されるぞ」
朱鳶ちゃんに怒られるのは対した事ではないが、長い時はマジで長い。
何と云うか、芯がある。人はこうやって怒れば効くのだと、妙に理解している様な怒り方なのだ。
不器用だが、情に熱い彼女らしい。
「(朱鳶ちゃんには御両親が居るからなのか、妙に叱咤が上手くてなんか苦手なんだよなァ……なんて言える訳がねぇが)」
ズルズルと、内側のドアに背凭れをついてゆっくりと座り込む。
食後だからか脇腹が痛い。100㎞優に超えるを凄まじい速度で走り、入り組んだ路地や公道、果てには住宅の屋根に乗り移って逃走していた。
にも拘らず、朱鳶ちゃんはしつこく迫って来た。絶対に捕まえてやらんばかりの形相で、だ。
「ふぅ……だが、此処は治安局にはバレてない筈。福福、大丈夫か?」
「………………」
「……福福?」
まだ抱きかかえていた福福の安否を問う。
先程から静かだ。己の腹に尻尾をキツく巻き付けているので、起きてはいると分かる。
だが余りにも静かだ。俺は不穏を覚えながらも続けて問う…と。
「なぁ、本当に大丈夫か…………うぁ!!?」
”ガジュッ!”
突如、俺の首筋に痛烈な感覚が走る。
一瞬で分かった。福福に噛みつかれたのだ。
だがお遊びや、じゃれ合いと云った感じは全くない。これは、相当な力で噛んでいる。
「ふぎゅ、ふぅぅ……ふぅぅぅぅぅ!!」
「な、なんッ……お、お…おい!福福、急にどうし…っ」
正直、痛みはない。だが、それ以上に、福福の様子がおかしい事に畏怖を覚える。
通常ではないのは理解出来た。
「犬太郎くんっ!犬太郎く……はぁ、はぁ、はっ…はっ、はっ…はっ!……ふぅぅぅ!!」
「ッ!ま、まさか……」
「けん…犬太郎…犬太郎くんっ!うぅぅぅ!ふぅぅぅ!!!……はぁぁ、はぁぁっぁあぁ…!」
察するに余りある様相。
顔を真っ赤に染め、首筋や腕をガジガジと噛み、尻尾を逃がさないと云わんばかりに強く締め付け、正気ではないと分かる言動を並べる。
そこで俺は数時間前のノックノックを思い出した。
”儀玄”:〈今日ワンチャン周期が早まって福福に
「(────まさかコレが、福福の…!?)」
シリオンの発情期なんて久しぶりに見た。しかも、虎のなんて………と、感心している場合ではない。
これは謂わば暴走に近い。
俺は即座に脳を研ぎ澄ませ、対応に充る。
「お…おい福福!気を確り持てッ!」
「ふぅぅぅ!!ふぅぅ……!」
「多分それ、アレだろ?なんつーか……ぐぅ………ほら、自分がよく分かんなくなっちまうアレだろ?福福、確りしろ!なっ!?お、おい…うあぁっ!!」
「あうぅぅぅ……い、いやですっ!もう、もうやだ…もうむりです…!けんたろうくん…っ!!」
「ッッ!く、ぅ……!!」
おいおいおい嘘だろ!?マジで理性崩壊しかけてんじゃねぇか!!
発情期ってこんなヤバかったか!?俺の殺したダチでもこんなんじゃなかったぞ!!?
男と女で個人差とかあんのか……?
いや待て、んな事は考えんな!どうでもいいだろ!
福福を落ち着かせる手立てを考えなければならん。
だって、まだ俺等は何も………うあッッ!!
「まっ……あ、うあぁ………」
「ごめんなさい、ごめんなさいっっ……あたし、未熟で、我慢知らずでぇ…っ!あ、くあぁ……しゅ……すき、すきぃ…っ」
「福福、頼む落ち着け!まだ俺等は、ぐぁぁ……まだ俺は…なにも…ッ!」
福福の力が増す。
正直、無理矢理剥がす事も出来る。
だがそれは出来ない。この噛み付きが病み付きになっているとか、そういう変態的な思考になった訳ではない。半分だけだ。
問題は、無理矢理引きはがして、その流れで福福の歯が折れてしまう事だ。
「(俺に血が流れるのはそれはそれでいい。だが、引き剝がした拍子に万が一でも福福の歯が欠け、怪我でも負ってしまったら……俺は………ッ)」
最悪の想定。恐らく立ち直れん。
大好きな人を傷付ける何て、俺はもうしたくない。
……考えろ。考えろ!!
「(……さっきの続き)」
もう、コレしかない。
”ガバッ!!”
「……きゃっ!」
「良い。それで良い。思う侭、俺を貪れ。福福の気が済むまで発散しろッ」
「っっっ……!!!!」
順序もクソもない。
もちろんムードも無い。
あるのは、欲に溺れた一匹の獣と……それを受け入れる一匹のヒト。
だが其処には……確かな好意がある。
「幻滅なんてしない。俺は……福福が────」
喉が詰まる。
一気に緊張して来た。俺はいつも、ここ等辺で邪魔が入る。
だがそれも、今日で終わる。
言え、もうこれ以上福福を待たせるな。
告げ、もうこれ以上福福を苦しませるな。
様々な感情が混沌に渦巻く。
「俺は、貴女が────」
覚悟を決めた。
その瞬間だった。
”ちゅっ”
「────んっ」
「ぁ……………」
唇に伝わる、柔らかい感触。
頭が真っ白に染まる。
これは何だと分析して、それが何なのか直ぐに理解しても、俺の脳はそれを何なのか分かっていない。
「んっ……は」
「ふ…福福……?」
3秒。たった3秒の一時。
唇から離れる唇。福福の顔がやっと目に入った。
俺は今……キスをしたのか?
嫌に冷静になる。動悸は凄まじく、脳もまだ回路を正しく回っていないのに。
「……ファーストキス、です」
「そうか、俺もだ」
「えへへ……本当ですか?」
「なぜ、疑う?」
「だって、何だか……妙に冷静?ですから」
「……理解が追い付いていないだけだよ。それにしても……」
俺は福福の脇を持ち、少し体制を整える。
座りながらだが、正面に置き、福福の目を見て告げる。
「────落ち着いたようで、何よりだ」
「あっ……そ、そのっ!すみません!あ、ああぁ、あたしっ……おかしくなっちゃって……今は氣を整えて、抑えています。それと犬太郎くんのお陰で……えっと、その…っ」
「発情期なんだろ?仕方ないさ、きちまったモンは」
「あぅぅ………お恥ずかしいです…っ」
「こういう事って、偶にあるのか?」
「うぅ……はい。虎のシリオンなので、発情期はありますっ……でも、こんな可笑しくなっちゃったのは、あたし、初めてで……自分が抑えきれなくて、よく分からなくなっちゃって……我慢できず嚙んじゃいました……本当にごめんなさい…っ」
「いや良いんだ。気にする必要はない。だから謝るな」
気取ってるが、余裕なんてコレッぽっちも無い。
俺はいま瀬戸際だ。決して悪い意味じゃない。コレは……一世一代のイベントだ。
まぁ簡単に云おう。心の中でも気取るのはキツイからな。
「(────いぃぃやああっべぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!ヤバいヤバいヤバイ!!マジ!?え、これキス!?きちゅ!?鱚!?木須!?マジで~~!?!?!?!?ふ、福福が、俺に!?Fooooooooooo!!!!!!!)」
アカーーーン!!!今に俺、人生の絶頂期やろこれぇぇい!!!
え、これもう付き合ったでいいべ!?だってキスだぜキス!俺いま間違いなく唇と唇が重なって一つになったにょ!?おいおいおいおいおいおいおいおいおい、おーーーい!!!
んだこれ、ヤバいって。エグイってばよ!
いや落ち着け俺(情緒不安定)
ふぅぅ……確認だ。事故では……なかったよな?
完全に福福から俺にチューしてきた。発情期って免罪符があるとはいえ、これは意中の相手じゃない限りやらん。え、やんないよね???
「福福、1つ確認だ」
「は…はいぃ」
「その……チューしたのって、事故じゃn」
「事故なんかじゃないですっっ!列記としたちゅうです!あたしの、はじめてなんです!」
「あ、そう?なら良かったわ」
ぃ良し!!
先ずは事故じゃないと言質とった!
つまり、福福も俺の事が……おっほ!あちぃ!
「……ごめんなさい」
「ふぁ?」
すると、何故か急に福福が俺に謝罪をして来た。
なんで、なんで謝ったんだ?
え、いや冗談抜きで本気でなんで!?理由が分らな……ちょ、ちょっと待て。
ま、まさか。まさか……。
「(つ…………付き合いません…て、事ぉ!?)」
何だかマジで申し訳なさそうな顔してるし……え、ガチで?
そういえば聞いた事がある。女性はあからさまな好意は……なんだっけ、蛙化?になるとか何とか。
ま、まさか福福もそんな感じぃ!?
い……嫌だ!!!
「あたしの勝手で犬太郎くんに大きな
「────待ってくれぇぇぇぇ!!!」
「ほわぁぁあ!?」
”ムギュウゥゥ!!!”
俺は鬼の形相に成りながら福福の腹部に抱き着く。
柔らかく、ふにゃっとした感触が気持ち良く俺の顔に伝わる。
だが、今の俺に邪な感情は無い。あるのは……泥臭い懇願だ!!!
「俺を捨てないでくれーーーッッ!!!」
「は…はい!?どど、どういう!?え!?」
「お、俺!福福の隣に立てるようイイ男になるから!!もっと稼いで、強く成って!福福を幸せに出来る伊達男になるからァァ!!」
「へぇ!?なな、何を言って!?ちょ、お、落ち着いて!落ち着いて下さいぃぃ!!」
「コレが落ち着いて居られるかァァァ!!!あ、そうだ福福ッ!!毎日肉料理を出す!!毎日美味い料理を食わせる!!福福のしたい事を、我儘を!沢山聞く!!だ、だから!だからァァァァァ!!!うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ひゃぁぁ!!?ちょ、分かりました!分かりましたからーー!先ずは落ち着いて、なんでそんな事を言うのか教えて下さいよーーーーっ!!!」
▽
数分後…。
「────つまり、犬太郎くんはあたしが…蛙化?といった、最近の若者で流行ってるモノに感化され、想いが覚めたと思ったと言う事ですか?」
「あ、あぁ……」
「…………はぁぁぁぁ~~~」
あの後。犬太郎は福福に事の顛末、その事情を伝えた。
1から100まで、全て伝えた。
それ等を聞いた福福は……。
「────まさか、ここまでのおバカさんだった何て……思いませんでしたよ」
「……でへへ」
「一片たりとも褒めてないですぅ!!」
「あうちッ!!?」
手刀が如くチョップを犬太郎の脳天にカチ割る。
中々に強い。コレは、普通にキレてる時の威力だ。
「貴方は全くあたしを分かってないんですねっ!ちょっと失望しました!」
「え?そ、それはどういう……?」
「あたしがその蛙化…っていう現象に陥るような下らない女だって思われてた事実にです!あたし、犬太郎くんの良い所もダメダメな所も含めて!それで良いんだって思ってるんですよ!?」
「えっ……そうなの?」
「そうですよっ!!んもう!犬太郎くん変なトコで卑下的なんですからっ!」
ぷんすか怒りながらも、的確に叱咤をする福福。
今この瞬間に於いて、福福は目の前に立つ怪物よりも威厳がある。彼女が目指すべく勇ましい虎そのものと云えよう。
まぁ、それ以上に……彼よりも2歳も年上の自覚があるのだが。
「……じゃあ、福福は俺に冷めて何か…」
「いませんよっ!誰が冷めてやるもんですか!」
「そうか………そうかぁ」
ドッと、安堵の意が零れ落ちる。
良かった。己の勘違いだった。終わったと思っていた。
この恋は重い。初恋だからだ。
橘福福という女性を、コレでもかと好きに成ってしまった男…狼谷犬太郎。
それは、逆もまた然り。
それを、理解したからこそ。
「福福」
「ん?もう、今度は何で────」
「好きだ」
「……ぇ」
もう、良いのだろう。
この想いを、声に出しても。真剣に、一生懸命に好意を告げても。
「い…いま……なんてっ…?」
「俺は、貴女が……福福が好きだ。貴女と結婚を前提に交際したいと、心の底から思っている程に」
「あっ……うぁ…あわわ…!!」
「俺の心の中で何度も問うた。想いの旨を伝えるべきか。そして意を決して告げようとすれば、2回も邪魔された。俺はどこまで行っても呪われているんだと、悲観的にもなった。貴女には……俺なんかよりも、ずっとずっと良い人が居るんじゃないかって、そうも思った。でも……」
犬太郎が続ける。
赤面をして、涙目を浮かべて、それでも喜色の表情を浮かべながら身を震わせる、橘福福を双眸で捉えながら。
犬太郎は……一番の想いを告げる。
「────どうしようもなく、貴女に惚れてしまった」
「っっっ!!!!」
ふっと笑う。
理由は単純、でもそれが一番だった。
玄関で座りながら言うセリフではない。そんな事、犬太郎が一番よく分かっている。
でも、それでも尚……今この瞬間に伝えたかった。
「好きです。どうか────俺と付き合ってくれませんか?」
遂に、言えた。
ずっと言えなかった。そんな資格なんて無いと思っていたから。
まだ……己の過去も、罪過も、言えてないのに。
そんな胸中が、苦痛が、犬太郎を襲う。
心が締め付けられる。まるで蛇に心臓を絞られている感覚だ。
……。
もう、答えは分かっている。
福福が答える言いは、分かっている。
それでも尚、抜けない恐怖。
だから……己は只、福福の二択を待つだけだ。
待つ事数秒……福福は。
”ギュっ”
「んっ……福福」
「どれだけ…」
あぁ、良かった。
福福が犬太郎の胸元に抱き着く。
それが、答えだ。
「どれだけ、待ったと…っ………ばかぁ」
「……そうだな」
「────すきですっ……あたしも、あたしも好きですっ……大好きですっ!」
鼓膜に届き、頭に響き渡る好意の声音。
ロマンチックもクソも無いこんな玄関で、伝えて良かったのかと、一抹の不安を一食。
今、この瞬間に言えて、どれほど良かったか。
己の胸元に顔を埋め、ギュっと抱きしめてくれる女の子をみて、そう思う。
「やっと、やっとやっとっ!やっと言ってくれましたね…っ!おそいんですよっ……もうっ…」
「ごめん。本当はもっと早く言いたかった。もっとロマンチックな場所で、伝えたかった……邪魔も入ってしまったりと、中々タイミングが掴めなかったんだ」
「ぐずっ………最終的に玄関なんですから……ほんとに、もう…っ!」
福福はもう一杯一杯の様子。
普段よりも更に語彙が下がり、冷静さを保てていない。
先程まで発情期を迎えてしまっていた身だ、彼女にも様々な要因が重なった事もあり、これは仕方のない事。
「じゃあ、これからは恋人って事で……良いんだよな?」
「………当たり前じゃないですかっ……これで違うとか云ったら、ゆるさないんですからねっ!」
「あだだだっ。ちょ、勢いのままに胸筋を噛むなッ……地味に痛い」
確認をしただけのつもりが、どうやら福福の琴線に触れたようだ。
まぁ、整理すればそれは妥当だ。
キスもして、告白をして、それを承諾しといて、自分達は恋人なのかを尋ねる。
此処までの事をしておきながらのボケをかます犬太郎。寧ろ甘噛みで許されているのだ、幸運だ。
「ふぅ……んもうっ」
「ふふっ……なぁ、福福」
「ん…?」
犬太郎が福福の頬を撫でながら、問う。
「あの日、俺と福福が初めて会った日から今日まで……色々あったよな」
「そうですね……ホント、色々ありました」
「最初なんかまるで少女漫画みたいじゃなかったか?」
「ふふふっ、確かにそうですね。食パンじゃなくてチャーシューまんでしたけど」
「衛非地区版の少女漫画だったって事か、俺等の少女漫画は」
「ぷっ!なに言ってるんですか?もうっ」
「頓珍漢すぎたか。だがまぁ、それが俺の一目惚れだったんだから仕方ない」
そう、最初の出会いは曲がり角でぶつかったあの日。
治安官たちから追われ、行きついた先が衛非地区で、そこから観光を楽しんでいたらの出会い。
全てが偶然。だが、それ等が必然だったのではないかと思う程に……運命的だった。
ここから、全てが始まったのだから。
「一目惚れっ……今日、話して下さいましたもんね」
「あぁ。失礼だが、お前は俺のタイプじゃなかった。なかった筈だったんだ。なのに、お前を見たあの日からずっと頭の中にはお前が居た。俺に微笑んだあの笑顔が忘れられなかった。心がずっとずっと逢いたいと語り掛けていた」
「あうっ……は、恥ずかしいですよぉ」
「悪いな。だが、言わせてくれ。俺は────貴女の事が心の底から大好きだと、初めて会ったあの日から確信めいていたんだ」
「っ!!」
「まぁ、初対面で思った情事を直ぐに言ったから……分かり切った事ではあるんだがな」
語るのは、初めて会ったあの日の事。
福福の顔は既に茹蛸にように赤く染まっている。それは犬太郎も然り。
恥ずかしい気持ちでも、それ以上に嬉しくって。
少し前の事でも、何だか懐かしく感じる。
「そこから何とか連絡先を交換できたのはいいモノの、少し空いてしまい、互いに牽制し合ったよな」
「貴方から来るか、それとも私から話しかけるか……ふふっ!いま考えれば、少しだけ初々しいかもですね」
「本当にな。まぁ、本当は俺から話しかけたかったんだが……聊か、ブルっちまった」
「でも、結局お互いにノックノック画面を見つめ合ってて、犬太郎くんが連絡を下さったのですよね。最後はあたしがミスってお電話を掛けちゃいましたけど」
「アレは衝撃的だった。しかし、そのミスのお陰で直ぐに事も進んだんだ。感謝している」
「え、えへへ……」
犬太郎が愛でる様に、愛おしいモノを見る目で、福福の頬を優しく撫でる。
ぷにぷに、ぷにぷに……餅のように柔らかい肌だ。愛おしく感じて仕方ない。
2人で昔の思い出を語る。
それが、無性に楽しくって止まらない。
「そっからデートの約束をして、衛非地区の茶屋で待ち合わせをしたな」
「あたしも犬太郎くんも予定時間よりも早く来て、楽しみにしてたのがお互いバレて。ふふっ!考える事はお互いに一緒でしたね」
「そりゃそうだ。大好きな女の事のデートだったんだからな。楽しみ何て言葉じゃ収まらんさ」
「んっ……犬太郎くん、なんか大好きって言い慣れてませんか?あたしでもまだ恥ずかしいのに…っ」
「いや全然俺も恥ずかしいが……俺等もう恋人だろ?」
「うぐぅ!!」
「だから……沢山言って良いだろ。今迄、ずっと言えなかったんだから」
福福は犬太郎の真っ直ぐな眼差しを受けて、口を包む。
この男は、確かに重い。そして容赦がない。良い意味で、だ。
「福福」
「はい、なんです……きゃっ」
”ギュゥゥゥ…ッッ”
犬太郎の抱擁が更に強く成る。
「苦しいか?」
「んっ…えぇ、苦しいです。でもこれが良いです」
「そうか……良かった」
「………」
「………」
「……もう、思い出を語り合うのは良いんですか?」
「いや、まだまだし足りないが……全ては言い切れんだろう」
「そうですね。沢山、本当に沢山な出来事がありましたから」
思い出を話し合い、共有していく事で……目の前の女に対する愛情が爆発して。
それを抑制する様に、抱きしめて。
それは福福も理解していて。堪らなくなって。
「……ん」
「?……??」
「………んっ!」
「え?ふ、福福?どうした?」
すると、福福が突如として目を瞑り、唇を前面に出す。
唐突な行動に犬太郎は理解が出来ず聞き返してしまう。
数秒の間。福福は膨れっ面になり、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
「………おばか、もういいですっ」
「え!?な、なんで怒るんだ?すまん、何をしたかったのか言ってくれ……ないすか?」
「~~~っっ!!逆に何で分からないんですかっ!」
「いやだって急に顔を向けられて、目を瞑られても……」
「……はぁぁぁ~~………貴方に恋人が居なかった理由が、なんとなく分かった気がします」
「なんで刺した???」
この男がこの稼業で、どうして彼女が一人も出来なかったのか。
先程の一瞬の一時で理解した。これは出来ない。乙女心の理解とかそういう次元じゃない。
「あーもう!こうなったら………犬太郎くん!目を瞑って下さい!」
「え?なんd」
「いいからっ!」
「はいっ!こ、こう────んぅ!?」
”チュッ、カツっ…………”
二度目のキスを、大バカ者に。
分からないのなら、分からせるしかない。
自分も恋愛経験など一片も無い身だが、そういう流れとかは犬太郎よりも理解しているつもりだから。
2つ年上の自分がリードしなくては……と、この会話で何となく思ってしまった。
だから、先ずはキスを。羞恥を抑えて、積極的に。
「んっ……はっ、はっ……」
「うぁ………え…?」
「歯、当たっちゃいましたね……えへへっ」
耳元まで赤く染まる、犬と猫。
拙くって、互いの前歯が当たる初々しいが過ぎる接吻。
だがそれでも……幸福感は、天井に昇るほど満たされる。
犬太郎はその行為でやっと、福福の行動の意味を理解した。
余りに遅いが……それが、この光景を産んだと思えば、良かったと思えた。
「えへ、えへへっ……分かりましたか?あ、あたしの……したかった事」
「……うん、分かったわ」
「ほ、本当に分かってます?放心って感じですけど」
「そら……だって、キス……ッッ………あーー、すまん。何も分かってなかった」
「もうっ……おばか何ですからっ」
抱擁を強め、謝罪する犬太郎。
恥を掻かされたのだ。コレくらいの悪態は許されるだろう。
福福はカッコイイを求めている女の子だが、それはそれとして乙女心はある。
強く抱きしめられたいし、キスだってしたい。
恋人として、犬太郎の彼女として、こうされたいって願望は強くある。
「……大好きです、犬太郎くん」
「んっ……俺も、大好きだ」
「んふふふっ!好き、好き好き!大好きですっ!」
「かわいい…あっ、間違えた。カッコいい福福が大好きだ」
「………いまかわいいっていt」
「カッコいい福福が大好きなんだよォ!!」
「うわ声でか!」
あぶなーい。本音と建前が逆になる所だった(ほぼ手遅れ)
だが、福福自身も犬太郎に【可愛い】と言われるのは……正直、嫌いじゃなかった。
複雑ではある。だって己が目指すのはカッコいい虎だから。
可愛いとは真逆の位置の理想。だから儀玄や『瞬光』といった雲嶽山のメンバーや他の知人たちから偶に可愛いと云われるのは嬉しくなかった。
だが、褒めてくれているのは分かった。だからこそ複雑だった。
……だけど。
「……別に」
「おん?」
「別にっ……犬太郎くんになら、あたしは………かわいいっていわれても……」
────大好きな貴方になら、寧ろもっと……言ってほしいって。
そう想ってしまう。
「ッ!!え、いいの?」
「~~~~っ!!!で、ででで、でもっ!あたしはカッコいいって思われる方が何倍も、うっ!嬉しいんですからねっ!?」
「あぁ、分かってるよ。だから……」
犬太郎は優しい顔付で、告ぐ。
「これからも、福福はカッコ良くて可愛い────勇ましい最強の虎で居てくれな」
「っっ!!」
つくづく思う。
この男は……あまりにズルい。
鈍くておばかで、クソボケな癖に……こういう時には、欲しい言葉をくれるのだから。
彼の胸筋に顔を埋める。
今の己は非常にはしたない顔になっている。鏡を見なくても分かるほどには、想像に容易い。
心が落ち着かなくなる。
恋人に成って、キスもして、好きって何回も言っているのに……まだ、この男のズルさに慣れそうにない。
「……一つ確認してもいいか?」
「っ……はい」
犬太郎は続ける。
「お前は……今日、泊まるって事でいいのか?」
「え?あ、は………い、良いん、ですか?」
「勿論俺は大歓迎だ」
心の中でガッツポーズ犬太郎。
来た。きたきたきた!と、一気に三大欲求の欲の部分が盛り上がる。
だが股間を一気に沈める。まだだ、まだ早い。
こう言う時でこそ落ち着きのある男を演じる。眼をガンギマらないよう優しい男にならなければ。
「ふぅぅ……よし、じゃあベットに────」
行こうか。
そう言おうとした瞬間だった。福福が照れながら問いかける。
「んへへへ、泊まりですか……えへ、えへへっ!あ!そうだ犬太郎くん」
「ん?どうした?福福」
「その────男の子と女の子、どっちだと思いますか?」
「……………」
────???????????????
福福は一体、なにを言っている?
犬太郎は一瞬で脳の思考回路を早める。彼女の言葉の意味を理解する為に。
脳の回路が焼き切れんばかりの勢いで状況理解をしようと試みるも、全く以て意味が分からない。
呆然とする犬太郎に、福福は慌てて告ぐ。
「あっ、す、すみませんっ!あ、あたし!気が早過ぎましたね!」
「……あっ!そ、そう言う事か!は、ははは!全く福福は……だが、いずれな」
「えへへへ……でも、
「────????????????」
おかしい。やはり、おかしい。
話が嚙み合っていない気がする。いや噛み合ってない。
頭痛がしてくる。いやまて、福福は今、なんと言った?
”────キスしちゃいましたからね”
”────お腹も大きく成ってきたら性別も分かる”
”ゾッ…”
「……ま、まさか…いや、ありえん……いやありえる?いやでも、まさか……まさかッッ」
「え?け…犬太郎くん?どうしたんですか?だ、大丈夫ですか?」
……犬太郎に過る、嫌な予感。
聞きたくない。しかし、聞かなければならない。
犬太郎は嫌な汗を出しながら、福福に告ぐ。
「なっ…なぁ、福福」
「は、はいっ!」
「つかぬ事を聞く様で大変申し訳御座いませんって話なんだが、いいか?」
「凄い言葉遣い……それで、なんでしょう?」
犬太郎は問う。
「────子供の作り方って、なんだか分かる?」
「……ふぇ!?」
福福は顔を赤くする。
犬太郎は内心その様子が可愛いなと思うも、その実、嫌な予感で一杯だった。
福福はあわあわとするも、次第にモジモジしだす。
「そ、そんなのっ……だ、だってさっき………えっと…っっ」
「福福、真面目に答えてくれ」
「至極真面目ですけど!?え、えっとぉ………それはぁ…っ」
数秒の間が生まれる。
福福は髪と尻尾を弄りながら、意を決した顔付に成る。
そして、遂に……福福が告ぐ。
「────キスしたら、ですよね…? さっき、2回もしちゃったから、もう、確定で……~~~っっ!!」
「…………………」
恥ずかしそうに、そして冗談抜きで……本気でそう言っている福福。
その様相に、嘘なんかない。っていうか福福は嘘を吐かない子だ。
だからこそ、質が悪すぎる。最悪と云っても良いだろう。
何と、己より年上で、雲嶽山の一番弟子である橘福福は────子供の作り方を、間違った方向で覚えていたのだ。
「で、でも、なんで急にこんな事………あれ?犬太郎くん?」
「………………」
「え、ちょ、犬太郎くん!?白目剝いちゃってますよ!?あれ、い、意識が………犬太郎くん!?犬太郎くーん!?おーーーい!!な、なにがあったんですか!?ちょっと~~!?」
この現実を受け入れられなかったのだろう。
犬太郎は無様にも、気を失ってしまった。
あまりの衝撃、あまりの無情。
だがコレは現実。受け入れ、飲み込むしかない感情。
そして、気を失いながらも心に誓った。
────あの
そうして、犬太郎は福福の介抱の下、ベットで眠った……。
福福は突然のことで泣きべそを掻くも、犬太郎の介抱をして、そのまま犬太郎のベットの傍で一晩を共に過ごしたのであった。
次回
チャンピオンと宗主。そして、護衛屋引退。
はい、告白しました。付き合えました。でも(まだ)エッチはできません!
福福先輩が性行為を知ってるか否かだったら、何か知らなそうですしね。
でも恋仲の関係に落ち着きましたね。これで話の節目は迎えたかなって思っています。
次回から展開が変わって来て、話も大分原作本編に関わってきます。多分。
では今後ともどうか、お願い致します。
いつも誤字報告、感想ここすき評価、お気に入り、感謝しています。