最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
遅くなり、申し訳御座いません。
今回、福福と犬太郎の会話はありません。次回はめっちゃあります。
青衣の言葉遣いむっずいっすわ!!
では、本編です。
────告白をした。
生まれて初めて、女の子に恋をしたんだ。
あの顔を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられる気持ちに成った。
笑顔が太陽みたいに眩しくて、誰よりも優しくって、可愛いくって。
本人に言えば怒るだろうが、可愛いモンは可愛い。だが同時にカッコ良さも兼ね備えている。本音は隠しながらも、ちゃんとカッコいいと云える。
……デート2回目で告白をした。
好きだって、俺の想いを乗せた言を伝えた。
結果は────OKだったよ。
嬉しくって仕方なかった。当の昔に枯れた筈の涙が、零れそうになった。
子供の作り方を知らなかったのは、予想外だったが。
だがそれもまた愛らしい。俺が手取り足取り教えてあげないとなーって、至極変態…真っ当な想いが込み上げてきた。
……大好きなんだ。本当に。
「────親父、お袋、桃子……驚くだろ?この俺が、恋をしたんだ。それも自分よりも小さい女の子に……あぁ、勿論その子の方が年上だぞ?俺はロリコンじゃねぇからな」
俺は今、家族が眠る墓場に居る。
地元じゃない。六分街の、それも少し林道に位置する田舎の方にある墓場。
俺が各所に頼み込んで、特別に作ってくれた墓場だ。
墓は1つだけ。家族葬だ。少し汚れているが、今日は掃除目的で来ては居ない。
また今度、綺麗にしてやる。今日は報告をしに来ただけだからな。
俺は、お袋の好きだった俺手作りの御萩を、親父が好きだったタバコのウィンスフォン1本を、桃子が好きだった掌サイズのクマ人形を添える。
そして、菊と線香を。
「その子はな、まぁー真面目でよ。俺が酒やタバコをしてたって知れば物凄い形相で叱ってくれてな。言葉の節々に感情を乗せた叱り方で、くはっ…あぁ、随分と効いちまった。あの日からどっちとも辞めたよ。もうちょいで20歳に成るが、やるかやらないかで言えば……やらんかもな。まぁ、まだ分からんが」
線香の匂いが鼻孔を擽る。
時刻は朝の10時。空は晴れてて、墓参りにはいい日だ。
俺の近況を聞いて、家族はどう想うだろうか。
お袋は確りしろと怒りそうだ。あの人、俺には結構厳しかったしな。
親父は泣いてそうだな。犬太郎にもやっと春が来たんだなァ~!とか馬鹿を抜かしそうだ。
桃子も何か泣きそうだ。お酒とタバコをやっとやめてくれたんだ~!とか、うん……コレに関しては俺が悪いか。だがまぁ、もう辞めたから許してくれ。
「……俺と、
俺は、最強の盾に成るのが夢だ。
昔、俺は親父が諦めた夢を告ぐと決意した。
『────俺が成ってやるよ!
『────むぉ!?な、成ってくれるのか?犬太郎が…か?』
『────親父じゃ役不足だろ?だから俺が成ってやるぜ!親父は親父らしい盾にでも成ればいい』
『────ぐぅぅ!!お、お前ぇぇ……』
『────痛いところ突かれた~、って思っても事実だから……ぶわぁあぁ!?』
『────うおぉぉぉぉん!!!お前った奴はぁぁ!ほんっとカッコよく育ちやがって、このぉぉ!!この親父泣かせめぇぇ~~!!うぉぉぉぉぉぉん!!』
『────ぎゃーー!!おいコラ!涙と鼻水が付くだろうが…って、話を聞け!離せぇ!おぉぉいい!!!』
………。
「……今の親父から見て、どうだ?俺は最強の盾か?」
ふと、昔を思い出した。親父と語り合った、あの日の夜を。
親父は身体が弱かったのを隠しながら戦ってきた。だが身体の限界を感じてか、それとも単に俺に自分の在り方と夢を話したかったのか、それは分からない。
「なぁ、親父、教えてくれ………俺は────」
最強の盾。それは言うなれば……【正義の味方】だ。
弱きを助け、救いを求める者を護る。
言葉にすれば正しくヒーロー。英雄だ。
親父が言った事は、そう言う事なのだろう?
「────俺は、誰を護ればいい?」
だが……俺はそんな資格など無い人間だ。
あんた等を、友を、村の皆を殺した俺に、そんなヒーローに成る資格なんかない。
護衛屋で誤魔化して生きている様な俺には、治安局も、ましてや対六課なんて入る資格なんざねぇ。
「朱鳶ちゃんやジェーンちゃんからは、よく治安局に来ないかと誘われている。セスくんは俺を不良だが芯のある行いをする正義漢だと云ってくるし、青衣のクソババァは……俺を息子扱いして、だが近況を偶に聞いてくる。分かってる、全員良い奴だって」
治安局の皆は、きっと俺の犯した罪過を知っている。
それでも尚、勧誘をしてくるのは……俺を見込んでの事なのだろう。
だからこそ、キツイ。
「六課も全員が俺を勧誘してくる。特に幼馴染みの雅なんざ武力行使で来たからな……俺にはそんな資格なんざないって言っても、周りは絶対に否定してくる……」
別に悪に落ちたとか、そういう気は更々ない。
只単に資格がないだけなんだ。
そう、資格がない。本当にただそれだけ。
「仮に俺が正義の志を宿していい、そんな人生を歩んでいたら……」
想像する。俺が、親父に沿ったレールを走っていたら。
「────きっと俺は、朱鳶ちゃんたち治安局、若しくは雅たち六課の方々と治安維持に励んでいたのかもな」
悪い気はしない。
親父が見ていた景色。親父が居た空間。
それらを想像した。大変だらけだろうが、きっと、楽しいのだろう。
「……分かってるよ。そんなん、この俺自身が許さん」
そう、自分に言い聞かす。
許される筈が無いんだ。血に濡れ過ぎた。こんな俺には無理だ。
俺は最強の盾だ。
それが到達点。
俺の在り方。
「縛られて生きるんじゃない。俺が成りたいから、成るんだ……俺が…」
そう……俺が護るのは、俺が────
「────それが、答えであろう」
「ッ!……ババァ」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
そこには花束を携えた、治安局の『青衣』ってババァがいやがった。
ババァとは昔からの仲だ。あまり、まぁ……関わりたくないヒトだ。
「なんで居るんだよ」
「お主と同じ墓参りである。猿乃介とその奥方、そして桃子殿のな」
「………」
「無論、我のみこの地に馳せ参じた。お主の大事な拠り所までヘッドハンティングは来んよ」
「そうかよ。別にどうでもいいがな」
ババァは俺の隣に来て、そっと花束を置く。
「────久しいな、猿乃介。雌雉子殿と桃子殿と、彼方でも壮健にしておるか?」
そして、合掌して俺の家族に挨拶をする。その手方は手慣れている。
どれだけの命の散り様を見て来たら、ここまで……。
ババァはマジモンのババァだ。長い歴史を歩んできた知能構造体。
俺には計り知れない経験を、青衣は歩んでいる。
「どう考えても元気にしてんだろ、あの家族だぞ?親父と桃子が馬鹿やって、お袋がキレてんのが眼に浮かぶ」
「ふふっ、そうかのぅ……………お主とこうして逢い、会話を設けるのも久方振りに感じる」
「歳だろ、歳」
「む、失礼な。
「なーにがオナゴだよ。長生きし過ぎだババァ」
「ふっふっふっ。未だ我は嫌いか?」
「るっせぇ……苦手なだけだよ」
「ほう?では、嫌悪はないと捉えて良いのだな?誠に感激であるぞ、犬太郎よ」
「るっせぇってんだよ!苦手っつってんだろ!クソババァ!!」
あーだめだ。こんのババァ、マジで変わらねぇ。
眉間に皺が寄る。昔っから苦手だ。なーんで親父はこんなババァに……ダメだ、なんか気持ち悪くなる。考えんのは辞めだ。
「はぁ……」
「して、犬太郎よ」
「んだよ」
「恋をしたらしいな」
最悪だ。なんでこのババァに知られたんだ。
「ふっふっふ、なんで知っている?といった顔付きであるな」
「………何かしらの部品を破壊されたくなかったら黙る事を薦める」
「ヨヨヨ……息子同然の子に苛められてしまう~」
「どういうキャラだ!そんなんじゃなかっただろババァ!あークソッ……どうせパエトーン兄妹のどっちかだろ」
「どちらもであるぞ」
「口軽いな意外と……まぁ、隠してた訳じゃねぇが」
俺はちゃんとパエトーン兄妹、ライトさん、ヴィクトリア家政の方々に付き合えた事を報告をした。
皆、喜んでくれた。俺なんかの恋の手伝いをしてくれた良い人達だ。あの笑顔が見れたから、本当に成功して良かったと思う。
……今こうして青衣にバラしてるのを鑑みれば、プラマイだが。
「……めちゃくちゃ、好きに成った女が居る。そして現に今お付き合いしている」
「そうか……名は何と言うのだ?」
「橘福福。衛非地区を拠点とする、雲嶽山の弟子だ」
「そうであったか。どれ、写真はないのかえ?」
「ちょい待て。あーっと……コレだ」
「ふむ。おぉぉ。何と、誠に可憐ではないか」
「あぁ、可愛いだろ。これで本人はカッコいいと思ってる所がまた愛らしい」
俺は福福の写真を見せる。
沢山の飯を食いながら、キリッ!と、ドヤ顔をする福福の可愛い写真。
俺のお気に入りの一つだ。
「目を見れば理解る。そうか、素敵な淑女を捕まえたのだな」
「まぁな。嬉しい限りだよ」
「その娘の為に生きる。それで良いのではないか?」
そう言う青衣。
さっき俺に話しかける時に言った言葉の意味。きっと、俺の在り方を告げたかったのだろう。
「……多分俺は、護衛屋の辞め時を伺っていたのかもしれん」
「ふむ……詳しく聞かせてくれぬか?」
俺は頷いて、語る。
「護衛屋を設立した時の資金は全てビックダディによるモンだった。それも全て集めきって、もう返すだけ。営業スキルも人との関係値能力もかなり板に成って来た。お金のやり取りもな」
「お主の評判はよく聞いておる。市民からの評価は非常に好評。しかし女癖が悪く、ナンパしたりとだらしのない一面があるとも聞いておるぞ?」
「ウルセェな、今となっちゃ反省してるよ……今の俺がナンパとかしたら福福に噛み殺される」
「ふっふっふ。それもまた学びであろう」
「死んだら学べねぇよ。はぁ……話が逸れたが、やる事はやった。そう思っている」
この2年間、様々な経験をした。
楽しい事もあった。沢山の出会いや、上手くいかず挫折しかけた事もあった。
貴重な時間を得る事が出来た。ビックダディやライトさん、ニコちゃんやパエトーン兄妹など、俺を支えてくれた方々のお陰で。
人間として、少しは成長出来た。本当に感謝している。
「福福に出会う前だったら、きっとこんな悩みもなかったんだがなァ」
「────失うのが怖いか」
「……当たり前だろ」
そんなモン、怖いに、恐ろしいに決まっている。
護衛屋を続けながら、福福と共に歩む。
それはメリットかデメリットかを問えば、きっと後者だ。
俺の稼業は護衛屋であり、ホロウにも入る。
……いつ死んでも可笑しくないのだ。
加えて非常に少ない収入だ。バイトを用いながら収入を得てはいるが、きっと限界も来る。
現実的な生活は、コレッぽっちもしていない。
「福福との未来を考えれば考えるほど、割に合わない生活。それに護衛屋の収入を上げるのは俺の秩序が許せない。だが、福福に不自由ない生活を送らせるには……」
「……引退か」
「あぁ…………そうだな」
────護衛屋を引退する。そして、新しい就職先を見つける。
今の俺的には、こうしか考えられない。
「ライトさんにも、将来の事を問われれている。信念か、未来かを」
「ライト殿はそう思うであろう。現に今は、お主の保護者的立ち位置の者であるからな」
「……ババァ、1つ聞いて良いか?」
「…………裏切りかな、これって」
ふと、そう思ってしまう。
今迄支えてくれた方々に対する、不義理。
一人の少女の為に、皆の想いを無碍にする行為。
そう、捉えられても仕方ない事案。
「戯け」
拳を頭に小突かれる。
「って……なにすん……なっ」
「それは裏切りではない。列記としたお主の成長であろうが。お主を支えた者達を、お主自身が信じ切れんくてどうする。もっと胸を張らぬか」
「ッ……」
抱きしめられた。ババァに。
知能構造体の身体だが、人肌の様に柔らかく、温かい。
「……お袋」
まるで、母さんに抱きしめられている様な感覚だ。
似てるから、そう錯覚してしまうのか。それは分からない。
嫌な感じがしないのしか、分からない。
……でも、その通りだ。
「悪い、ババァ。俺の悪い癖が出てしまった」
「よいよい。そう素直に反省できるのがお主の長所である……あぁ」
「な……なんだよ」
「────立派に成った。本当に大きく成ったのぅ……お主の成長が、我は嬉しいぞ」
やめろよ。
振り解けなくなるだろうが。
「………うるせっ」
「反抗期には聊か遅いのが残念極まりないが」
「だ、黙れッ!もう良いだろ!離せよッ」
「っと。ふっふっ……仕方のない子であるな」
だが、強引に振り解いた。
そうでもしなきゃ、本当に……泣いちまいそうだった。
なんで、泣くのを恐れているのか。
いや、今はんな事どうでもいい。
俺は徐に立ち上がる。
「行くのか?」
「あぁ、仕事が残っている……もう行くわ」
「うむ。して、結論は出たのか?」
あぁ、出たよ。
俺は振り向かず、背を向けて告げる。
「────俺は一人の女の為に生きる」
その日、ネット掲示板に一つの情報が載られた。
〈今月末を持ちまして、護衛屋は営業を終了する事を報告いたします。突然のご報告に成り、大変申し訳御座いません。着きまして、残り1週間の期間にご予約された方々には、誠心誠意を持ちましてサポートさせて頂く所存ですので、今月末までどうか、宜しくお願い致します。長らくのご愛願、誠にありがとう御座いました。〉
そして、各陣営のリーダー格にはノックノックで。
〈やれるだけの事はやれたと思うので、後は良い職場に着いて頑張ろうと思います。〉
とだけ……送られていた。
「────お袋、か。ふっふっふ、かわいいモノであるな……子を想う愛情など、我には搭載されておらぬ筈であったのに……何故か、懐かしい気持ちになるのぉ」
☆対ホロウ六課。
「────は?」
「ちょ、月城さんっ……ヤバいです。犬太郎くんが護衛屋引退声明を出した所為で、課長の背に鬼が宿っていますよ…ッ」
「えぇ、これは……マズいですね」
「ひぃ……お、オーラがヤバイよぉ…っ」
「………皆、準備しろ。犬太郎の戯けを探す……誰にも奴を渡さんッッ」
☆ヴィクトリア家政
「────で、行くのボス?犬太郎の勧誘」
「えぇ。彼の身に何が起きたかは不明ですが……メールの内容を見るに、恐らく福福さまだけの盾に成るおつもりでしょう。彼も悩んだ末の決断なのは字面を見れば理解出来ます。加え、職場を探しているのであれば、彼の能力を最大限に発揮できるこのヴィクトリア家政しか有り得ません。異を唱える者は居ないと考えて良いでしょう」
「か、カリンはっ!カリンは賛成ですっ……!」
「まぁ、あの馬鹿が増えれば仕事もやり易くなるし、私も別に良いけど」
「うふふ。これで蟠りもなく彼に正式にスカウトが出来ますわ。さっ、行きましょう」
☆邪兎屋。
「────ちょっとビリー!?金づr……犬太郎が護衛屋を辞めたってどういう事!?」
「おおお、落ち着け親分!!俺も何が何だか分かんねーんだよっ!なんか恋したからって聞いてっけどよ!!」
「恋ぃぃぃ!?あの変態に!?冗談言ってる場合じゃないでしょ!!このままじゃ犬太郎がどっかの組織に取り込まれちゃうじゃない!!」
「なんか困るのか?」
「猫又、今まで犬太郎が私たちに無料で奢ってくれた御飯や、無償で手伝ってくれた依頼。それが無くなるって考えて」
「や、ヤバいじゃん!?だめだぞソレは!!」
「そうよヤバいのよ!!こうなったら……ッ!!」
「な、何すんだ親分??」
「見つけ次第強引に邪兎屋に入れるわよっ!!!あんな優良物件、益々渡したやるモノですか!!」
☆治安局
「────護衛屋を引退って、マジですか!?」
「うむ」
「うむって……先輩会って話したんですよね!?な、なんで…ッ」
「情を捨てきれんかったのみ。例え要注意人物であり、ヘッドハンティングの対象者であろうと、我はあの子の人生を縛る決断が出来なかった。ただ、それだけの話である」
「情、ねぇ。あんたらしくないわね?青衣」
「誠であるな。我も……随分とあの家族に絆されてしまった。我は……もうあの子の勧誘は出来得る限りしたくはないぞ」
「……多大な私情である事は、この際目を瞑ります。先輩は彼のスカウトには参加しなくても良いように上手く手を回しましょう」
「感謝するぞ、朱鳶」
「俺達は引き続き犬太郎の捜索兼、スカウトを続けるって事で良いんですね?」
「えぇ。対六課でも厳しかったと報告が上がり、一時期は不可能と断定されたけど、もう護衛屋じゃないのなら話は別よ。上層部も総力を上げてきてるのを見るに本気ね………我々も本腰入れて厳正な対応を。各自、彼への捜索に取り掛かって下さい!」
☆Random Play。
「────きっと、福福さんだけの盾に成るって決めた。それ故の引退だろう。分かり易い彼らしい行動だね」
「でもいきなり過ぎない!?もっと私達に相談とかさ……もうっ!!」
「彼は意外と相談が苦手だからね。とはいえ、困ったな」
「なにが困るの?お兄ちゃん」
「リン、以前彼が此処にバイトに来たのは覚えているね?」
「もっちろん!驚異的な家事スキルだったよね~!掃除に洗濯、お店の仕事力。極め付きは二度と忘れられない料理スキル!私もう胃袋を掴まれちゃってるもん!」
「そうだね、それは僕も同じだ。だけどそれは彼が護衛屋だから出来た事。そして……彼は護衛屋を引退した今、実質的に彼はフリーだ」
「………あっ!!」
「リン、直ぐに彼を探すよ。そして……Random Playの新たな従業員として働いてもらうとしよう」
「お兄ちゃん、天才」
☆カリュドーンの子
「────護衛屋辞めちまったのか~、犬太郎のヤツ」
「そのようですわね。ライト曰く、一人の女の子の為って言ってましたけど……未だに疑問ですわ。あの犬太郎に恋人ですって?」
「女の子の為に、仕事を辞めて稼ぎの良い職場に行く覚悟って……な、なんか、良いな!」
「貴女、意外と乙女チックですのね……」
「今度紹介して貰おうじゃないか。私、あのガキンちょが恋した女ってのがどういうヤツか気になるし。同じ猫系のシリオンなのも悪くないね。ビックダディはなんだって?」
「電話で話し合ったらしいよ!犬太郎の覚悟?を聞いたとか言ってて、ちょっと泣いてた!あ、良い意味でね!」
「何はともあれ、これからどうするんかね~。こっち戻ってきてくれたら色々と楽なんだけど~」
「パイパー!貴女、犬太郎に仕事を押し付ける気でして!?」
「労働はイヤだぜルーシー……」
「……そういや、ライトは何処行ったんだ?」
「あー、何か用事とか何とかで────【衛非地区】に向かったぞ?」
☆雲嶽山。
「────あたしの為に……ですか。もう、あたしだって戦えるのに、あたしだけを護るって………ずるい。ずるいずるい。弱きを救う盾に、最強の盾に成るのが夢って言った癖にっ………あたしだけをって……………おばかっ」
「なぁ、あれって……」
「藩、あれは…『自分だって少しは戦える力はあって、護られるよりも共に戦うのが望みなのに、勝手に護衛屋を引退したかと思えばあたしだけを護るとか言って……己の夢を高々と語って於いて、結局は自分の事を第一に考えて、もう将来の事を考えてて……ホントずるい。だけど、それがどうしようもなく嬉しくって、ホントにもうどうしようもない位、彼が大好きで仕方ない自分に、何かムカついて……でもやっぱ幸せで、彼が大好きで。色んな感情がゴチャゴチャに成って、こんな自分にした彼には責任を取って貰い、序におばかって言ってやるっ』…と謂った様に、姉弟子の心は既にグチャグチャに成っているんです。今はそっとしておきましょう」
「成程な……若いってのは難しいなぁ」
「二人共~!?き、聴こえてるんですからね!??!?あ、あたしは!そ、そんっ……んも~!!!」
■
その頃、犬太郎は…。
☆六分街。弁当屋…。
「────優香さん!コッチ出来上がったっす!おなシャス!」
「は~い!」
「ん!あぁ、いらっしゃいッ!今日は何にしましょう?はーい鮭弁当ね!少々お待ち下さいッ!」
六分街の弁当屋にて、狼谷犬太郎は各種類の弁当を作っていた。
護衛屋を引退して数週間。発表表明してから少しの日が経った。
あの後犬太郎は就活を始めた。仕事歴はあったが、学歴なんてモノは皆無なので最初はやはり苦労したが、何とか新たな就職先を見つけたのだ。
それは、何と弁当屋だ。
店名は【お弁当屋ニャン助】……10年前にオープンした、まだ新しさが残る店。
給料はそこそこ、現場の忙しさもそこそこ。至って普通のお弁当屋さんだ。
犬太郎の強みである料理を扱うこの職場は、犬太郎にとっても非常に良さが出る職場だった。
人が並んで、弁当を受け取っていく事数十分……午後2時が過ぎた頃。30分の休憩が入る。
「ふぅ……やーっと休憩か。意外と繁盛すんだな~弁当屋って」
「うふふ、お疲れさま犬太郎ちゃん。どう?もうお仕事には慣れてきた?」
「お陰様で。優香さんの教えが上手いお陰っすよ、料理も美味いし、接客のイロハも大体分かって来た。マジ助かってます」
「いいえ、そんな事ないわっ!犬太郎ちゃんも覚えが良くてお料理も本当にお上手で、何より何事も熱心に取り組んでくれてるもの。助かっているのは私の方よ!ありがとね」
「んはは!じゃあお互いさまってヤツっすね」
お店の裏で会話を設ける二人。
この弁当屋には一人の、ラグドールのシリオンの女性が居た。
身長は福福と同じくらい小さく、口調は常に穏やか。
シリオンらしく全身が猫系の特徴を持ち合わせる、可愛い系の女性店長だ。
名を『橋本優香』。
結婚歴13年。
年齢は35歳。
「思ってたんすけど、俺が来る前って弁当屋は優香さん一人で経営してたんすか?」
「いいえ、前までは夫と一緒にお弁当を作っていたのだけど、今は遠い場所へ単身赴任に赴いちゃってね。犬太郎ちゃんが来る迄は私1人だったのよ」
「そうなのかァ……ん?お弁当屋なのに単身赴任?変じゃないすか?何か別の事してたとか?」
「ふふっ。実は彼ね、治安官をしているのよ」
「……マジ?」
そう聞いて、少し驚く。
まさか己の仕事場の店長の夫が治安官だったとは……もしかしたら、会っていたかもしれない。
そう思うと、この状況は少しマズいのではないか。
「……あの、優香さん」
「うふふ!大丈夫、分かってるわよ」
「え?」
そう思うのも束の間、優香が告ぐ。
「護衛屋・狼谷犬太郎……有名人だもの。貴方が治安局からどういう扱いを受けているかぐらい、ちゃぁんと知っているわ」
「………やっぱ俺の事、知ってたんすね」
「えぇ、夫からそういう話はされたから。でも今はもう護衛屋を辞めて、この【お弁当屋ニャン助】に来てくれた」
「……じゃあ、俺は」
「でも安心して?私から密告する気も無いし、夫も治安局に勧誘するつもりはないから」
「それは一体、なんでっすか?告げ口さえすりゃあんたからは200万の謝礼金が払われる仕組みの筈。それに夫さんの昇級に関わる事案っすよ」
「うふふふ!んもう犬太郎ちゃんったら、変な事を聞くのね?」
優香は続ける。
「────貴方はもう私の大事な店員なのよ?なのに大切な従業員を売るようなイヤらしい事、絶対にしたくないものっ!それに、貴方はまだ19歳。余りに若すぎるのに、ずっと追われる人生なんて酷すぎるわ……」
「ッ…優香さん」
「だから、もう難しい事は考えなくて良いのよ。貴方がとっても強くて、それが治安局に勧誘される程の事でも、大事なのは犬太郎ちゃんが自分で選択する事。それを悔やまず進み続ける事。ねぇ、犬太郎ちゃん」
「は、はい」
「貴方はもう、護衛屋を辞めた事に悔いはない?」
優香の問いに、犬太郎は迷わず答える。
「────ありません。俺は、皆を護るのではなく、一人の為に死力を尽くし、護り続けると決めました。だから……辞めて良かったとは思いませんが、悔いは残っていません」
「……そっか。それが一番ねっ!今を精一杯生きる……人生、コレに尽きるものっ!」
今を生きる。
それは、犬太郎にとって、非常に重い言葉だ。
過去を恨む犬太郎にとって、それはキツイ言葉なんだ。
でも……同時に、心がふっ…と軽くなった。
……もう少し、話しても良いだろうか。
「……ありがとう御座います、優香さん。でも、俺…」
「それでも、例え貴方がそう思っても」
「っ」
「貴方の本質は〈弱気を救う盾〉なのよね?」
「……ッ」
優香はそう言って、雰囲気を柔らかくする。
朗らかな女性だが、核心を突くのが上手い女性だ。でもそれで尚、優しいオーラを出し続ける。
治安局の夫が居るとはいえ、会ってまだ一週間も経っていないのにどうして此処まで分かるのか。
「どうしてそこまで理解があるのか、不思議に思ってる?」
「……正直に言えば、はい」
「うふふ!コレでも私、人を見る目があるのよ?どんな人か、どんな子か、どういう性格か……よく見てよく話せば、人は意外と分るもの」
「凄いっすね……」
「でもね、初めて貴方が面接に来てくれた時、話さずとも直ぐに分かったわ。貴方が……熱い志と、誠心誠意在り続ける精神を持つ若い子だって。採用する時、結構早かったでしょ?」
「自己紹介して、少し世間話して終わったっすもんね。ぶっちゃけ驚いたっす」
優香の表情はずっと優しく、綺麗だ。
犬太郎の目を見続け、大切にしている人の目で、そう語ってくる。
それが、何だかこそばゆい。こういう人が居るんだと思ってしまう程だ。
「ふふふ。だから犬太郎ちゃん、貴方の本質はそれで良いの。それが貴方なんだから」
「ッ……優香さん………」
「いっぱい間違えて良いの。特に貴方は若いんだから!困った事があれば遠慮せず言ってね、出来る限り力に成るって約束するわ」
そう言いながら、座る犬太郎の頭を撫でる優香。
その手付きは猫のシリオン特有の温かさがあり、そして、歳相応の重さと優しさがあった。
彼女からすれば、犬太郎なんか子供に見えるのだろう。
犬太郎がそう思ってしまう程、優香の撫で付きは安心感があった。
「……あざす」
「いいのよ。ふふ、コレでもう後ろめたい話はなくなったわね」
「えぇ。優香さんの懐の深さに感謝します。ぶっちゃけ優香さんがフリーで、俺が恋をしてなかったら危なかったっす」
「あらいやだわもう~!お上手なんだからっ!」
ぶっちゃけコレはマジだ。
正直、犬太郎のストライクゾーンな女性ではある。女性は年齢じゃない。バカな男でも愛せるか愛せないか。
これは犬太郎の父、猿乃介が言っていた事。
彼も馬鹿だったが、それでも愛してくれた母、雌雉子に強い感謝をしていた。
それを色濃く受け継いでいる。まぁ、福福には死んでも言えんが。
「……っと!もう休憩が終わっちゃうわね。ごめんなさいお話が長くなっちゃって……ちゃんと休めてないわよね?もう20分延長していいから、犬太郎ちゃんはまだ休んでて…」
「いえ、もう十分に休めました。心遣い感謝っす!午後もバリバリ働くっすよー!」
「あらっ!流石ね~!じゃあ、一緒に頑張りましょ!」
そうして、2人はまた持ち場に着く為、エプロンと三角巾を着用。
犬太郎は店の休憩中と書かれたプレートを営業中に変え、今日オススメの料理を映したのれんを掛ける。
手際よく行うその姿、中々に様に成っていた。
────彼を探し、手中に収めようとする者が数多居る事を、この時の彼はまだ知らないのであった。
▽
────雲嶽山。
「────遠路はるばるお越し頂き、誠に感謝する。ライト殿」
「────いやなに、犬太郎が世話に成った人のお誘いだ。礼は不要だぞ」
その日、ライトは雲嶽山に訪れていた。
呼び出しは、なんと儀玄。
適当館の応接間に二人は向き合い座っていた。
雲嶽山の宗主と郊外無敗のチャンピオンが対面する構図。中々見れない光景なのは確かだろう。
「粗茶だが、良ければどうぞ」
「ありがとう、頂こう」
礼儀作法もさながら、儀玄はお茶を出す。
ライトは一礼する。ここまでは至って普通のコミュニケーション。
だが、儀玄が呼んだ理由……ライトが問う。
「大体察しは付くが、こういうんは聞いた方が話も進みやすい。あんた程の女が俺を呼んだ理由は────犬太郎の事で良いな?」
「あぁ。お察しの通り、貴殿には狼谷犬太郎の事について問いたい事があってな」
そう、それは渦中の存在である犬太郎の事。
ライト。彼は恋仲の関係に至った福福よりも更に犬太郎の事を知っている存在と云える。
彼の事は福福からよく聞いていたので、何とかこうして呼び寄せたのだ。
「回りくどいのは無しで良い、そういうのは好かん」
「分かった。では……単刀直入に聞こう」
儀玄は一呼吸を置き、ライトに問う。
「狼谷犬太郎。彼はホロウを、いや────
「………」
「その【力】が何か、貴殿は知っているな?」
ライトの双眼が、サングラス越しでも分かり易く揺れた。
次回
世界を崩壊させる力。
次回から少し犬太郎の解剖に入りたいなーと思ってます。
いつも呼んで頂き、ありがとう御座います。
誤字報告、感想、誤字報告、ここすき評価お気に入り、誤字報告、本当にありがとう御座います。
マジで助かってます。