最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
今回、ほぼ戦闘シーンしかありません。
では、本編です。
────六分街・街道…。
”ドヒュンッ!”
「────纏めて死ねやァッ」
「はぁぁぁ…ッ!!」
”ガギィィィンッッ!!!!”
いきなり始まった。先行は犬太郎、セヴェリアンと雅に対し横薙ぎを見舞う。
重々しい金属音が鳴り響く。犬太郎の凶斬が苦しくも止められた。
制止させたのは、セヴェリアン。雅の前に出て受けに転じた。
彼の持つ剣で両腕に筋肉を可動させ、犬太郎の横薙ぎを両手で止めて見せた…までは良かった。
驚異的な事に、それは3秒も持たない。
「想定内だ。飛んどけよッ!」
「ッッ!!チッ」
なんと犬太郎は右腕の振りのみで、あのセヴェリアンを数十m飛ばせる。
剛力。パワーならば、この男は誰よりも強い。
セヴェリアンと一定の距離が空いた。だが…。
「隙ッ」
「まぁそう来るわな…ッ」
”ザシュッ!!”
そのコンマの隙すら雅は見逃さない。
雅が逆袈裟で犬太郎の胸元を右斜めに削る。
犬太郎から浅くはない血が舞う。
「ふんッ」
「なに…っ」
だが、痛ぶる様子もなく、犬太郎は次の標準を雅に映す。
逆袈裟の態勢。そこを突く。
「ここ通るよなァ」
「はぁぁぁ…ッッ」
犬太郎は雅に対し、なんと頭突きを繰り出す。
刀の間合いが近かった分、その距離ですら犬太郎の範囲。眼前に強烈な頭突きが迫る。
しかし、雅とて超一流。バックステップで頭突きを回避する。
「当たらんッ」
「腹立つくれぇ速ぇな。じゃあ、コレはどうすんだ」
「ッ!!」
瞬間。犬太郎の振り下ろし。
圧力が凄まじい。だが態勢は些か悪い。
「(ならばカウンターで制すッ)」
一瞬の判断。雅は両手でその振り下ろしを防ごうとする。
「星見雅ッ!!それを受けるなッ!」
「ッ!?」
「死んどけ」
だが突如、セヴェリアンがらしくなく咆哮を上げる。
雅は耐性が悪くても、持ち前の柔軟性でしなやかに体術を用い、緊急離脱。
その、次の瞬間だ。
”ドガァァァァァンッッッ!!!!”
けたたましい爆音が鳴り響く。
犬太郎の渾身の振り下ろしが、街道の地面に直撃する。
その斬撃は、何と……。
「何たる剛腕……まさか、既にその領域に到達し得ていたか。犬太郎」
「セヴェリアンに助けられたな。でなきゃテメェ、今頃地獄行きだ」
────まるで、
胸元の傷を無視するが如く破壊力。
そう、コレが彼の数ある真骨頂の一種。
剛力に技術を上乗せした破壊性。
誇張じゃない。コレを受けていたら……間違いなく絶命だ。それも、跡形もなく。
セヴェリアンが雅に近付く。
「傷は」
「今際で躱し切り、不快点は無い。貴殿の声援が無ければ危なかった。感謝する」
「構わん。さて」
情報を共有し合い、両名は……見据える。
「掛かって来い。今回の俺におふざけはねぇからなァ」
顔に狂気を張り付けた、眼の前の怪物を。
この局面で、この狂気。
これが、数多の組織が欲する最恐戦闘者……狼谷犬太郎。
「……雅課長、そして監察官である私を相手取り、この立ち回り。だが奴も人間である以上、いずれ限界は来る」
「セヴェリアン殿。一度私が斬り合う。時が来る迄貴殿は手を出さないで頂きたい。宜しいか?」
「雅課長と奴の因縁は理解している。だが隙があれば突く事は頭の片隅に入れて貰う」
「承知した………ふぅぅぅぅッッ」
この2人は単独でも最高峰。それが2人同時となれば、本来なら即座に終焉を迎える。
だが相手は本気の犬太郎。幾ら雅と云えど、致命は免れない案件。
故にセヴェリアンと云う最強戦力の一角が居る。
上層部基……【市長】の英断がここで光る。
瞬間────雅のギアが上がる。
「ッ!チッ、そう来るかよ」
雅が選んだのは、真っ向からの斬り合い。
剣技ならば雅の右に出る者は居ない。それは、雅に匹敵すると謳われる犬太郎とて同様。
”ギャキィィンッ!!!”
「貴様とこうして斬り合うのも久方に感じる。良い、やはり、良いな」
「俺としては二度と御免だったんだがな、仕方ねぇ。付き合ってやるよ」
鉄筋のカナ切り音が鳴り響く。
縦横無尽に発出される斬撃の応酬。
努力、技術、才能、そして星見家に伝わる剣術。
星見雅の刃には、それ等と同時に強靭な信念が込められている。
雅には怒気以上に、戦闘者としての秩序があった。
また、此の男と斬り結べる。
また、此の男と戦える。
剣技に於いて、此の男は雅に匹敵し得る実力を持つ。
その唯一無二さが雅をこれでもかと刺激する。
星見雅。この女もまた────戦闘狂。
対する犬太郎。練り上げられた我流の剣術。
戦闘者としてあらゆる武器に通じている犬太郎が特に得手とする剣術。それは、確かに雅に匹敵する。
だが……早々に天秤が傾く。
「ふんッ、まぁそうなるわな」
「シィィィィ……」
星見雅。正に、傑物。
犬太郎に無数の血が舞う。腕、腹、胸、そして頬に傷が出来上がる。
瞬きの間に百の剣戟が犬太郎に襲う。技術が半端ない。
「そこッ!」
「ッ!!ゲフッ…」
”ザシュッッ!!”
又もや犬太郎の胸元に斬撃が通る。
今度は左斜めの袈裟斬り。犬太郎にバツ印の裂傷が与えられる。
だがそれは、先程の逆袈裟よりも……深い。
「(星見雅。実戦で共に戦うのは初めてだが、此処までの剣士とは。これが最年少で虚狩りに至った、星見家が誇る最高傑作……流石だな)」
戦況を見ていたセヴェリアンは雅の戦闘力に感慨を受けていた。
実力、戦果、技術。そのどれもセヴェリアンはデータを読んでは映像越しでよく理解していた。
だが、こうも近場で見聞してみれば、その規格外具合に驚愕を覚えざるを得ない。
セヴェリアンは確信した。
このまま押し切れば雅が制圧するだろう。
「おらッ」
「ふぅぅんッッ」
だが、犬太郎はその裂傷を負って尚、此の男の気迫は衰えない。
その傷の痛みを無視するが如く、犬太郎は無理矢理片腕で大剣を振り下ろす。
それは明確に雅に刃向かう。
「あぁ?」
「重い斬撃のみならば受け流す」
なんと雅はその振り下ろされた斬撃を巧みに受け流し、標準をズラす。
あの剛力に信念を乗せた犬太郎の斬撃をこうも容易く受け流す技量。
剣士として若くも、既に彼女は天井の領域に到達している。
「────腕は上がったが、それまでだ。斬る」
雅はカウンターの一撃を放つ動作に入る。
それは、もう犬太郎の胴に入っている。
決まった。雅とセヴェリアンは、そう思った。
しかし……それは傲りだった。
「ブゥゥゥゥッッ!!!!!」
「ッ!?」
直後。犬太郎がなんと大量の血飛沫を上げる。
それは犬太郎の口内に含んでいた己の血液。
血の煙と化し、雅の眼前に舞う。
こんなん予想できる筈がない。犬太郎にはこういった小賢しさも持ち合わせているとは、幾ら雅でも予想できなかった。
「クッ、小癪な……ッッ」
しかし、そこは雅。直ぐに対応しバックステップを踏む。
目に掛からない程度の距離を開ける。
だが、それでも確かな隙が生まれる。
「なッ!!」
「読んでるぞ、雅ィ」
犬太郎は自身が起こした血飛沫を無視し、そのまま弾丸の様に突っ込む。
巧い。片目だけ閉じ、視力の完全不能を防いでる。
バックステップを踏んだ雅は態勢が悪い。対応が間に合わない。
犬太郎が繰り出すは……容赦のない肘鉄。
「止む無し……ならばッ」
雅は頭蓋が割れる覚悟で、何と前進。
額で受け止め、逆にカウンターを取ろうとする。この一瞬でこの判断。
覚悟を決めた雅が前に出る…と同時。
「一旦頭砕けと……グォッ!?」
「ッ!」
「悪いが早々に介入させて貰う」
犬太郎の肘鉄、それは不発に終わる。
セヴェリアンが強烈な飛び蹴りで犬太郎を吹き飛ばす。それは英断だ。
あの肘鉄。幾ら雅と云えど、致命傷は避けられない。
吹き飛ばされた犬太郎。左肋骨にヒビが入る程の威力。
だが、転がる行為はせず、踏み止まる。
「ふん……ペッ!なんつー蹴りしてやがる。肋骨が2本逝きやがったじゃねぇか」
「セヴェリアン殿、すまない、助かった」
「構わん。相応の傷を与えてくれた、礼は私がするべきだろう……だが」
セヴェリアンの顔に曇りが見え始める。
犬太郎に与えた蹴り。正直に言えばクリーンヒットだった。
手応えは抜群。肋骨にヒビを入れたと確信する入り具合。雅が犬太郎の視線に集中させなければ、有り得ない一撃。
だが、尚も犬太郎は。
「だがッ、それがどうしたってんだ……あ?」
「この傷で、この気迫……怪物、いや────」
「────鋼鉄の盾。そうだ、奴はタフネス面に於いても右に出る者は存在せん」
血を吐きながらも、闘気を増し続けている。
そう、この男のもう一つの異名は……鋼鉄の盾。
雅が言う様に、彼はタフネス面も随一と云う事。
ここに来て、犬太郎の鋼鉄が真価を発揮する。
「さぁ、そろそろ反撃といこうか」
犬太郎がそう告げると同時、両名の第六感が警鐘を鳴らす。
「すぅぅぅぅぅぅ…………」
犬太郎の胸筋に異常な膨張。
それは肺に多量の空気を取り組んだが故の膨張だ。
胸筋に筋肉を集中させるも、それは犬太郎に与えられた傷に出血を増させる行為。
「(酸素を大量に吸った?それは血液を更に回す…何故そんな自傷行為………うッ!)」
「(ナニかマズいッ!これはまさか────)」
雅とセヴェリアンが同時に気付き、即座に耳を塞ぐ。
瞬間。犬太郎がしたのは。
「────ウァァァァぁぁぁぁぁあぁアァアアァァあぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!」
”ブチッッ……キ────────────ン………”
「グゥ…ッッ」
「かはッ…ッッ…」
何と犬太郎が起こしたアクションは、まさかの絶叫。
それは周囲の家宅にある窓ガラスを割らせる程の怪音。
この男の肉体は生物離れした能力を誇る。正しく怪物。
────雅とセヴェリアンが力なく片膝を着く。
互いにモロに喰らった。
程なくして、耳から血が垂れ流れる。
三半規管へのダメージ、それは聴力のみならず、平衡感覚機能を著しく低下させる。
ギリギリ両耳を塞いだ両者。鼓膜破壊まではいかずとも、そのダメージは甚大だ。
シリオンである両名ならば、尚更…。
「想定外だろ。ふんッ……お前等が組むのは勝手だがな、単独じゃないってのはこういう事も有り得る……慢心、油断。俺の前でした時点で間違いなんだわァ」
あの爆発的な怪音を喉で鳴らして尚、犬太郎に変化はない。
身体の内部強度すら、犬太郎は規格外。
この怪物はその行為で、あの雅とセヴェリアンにダメージを与えた。
「これでイーブンだ。まだやるか?あァ?」
双眼を血走せながら、殺意を込めて睨む。
狼谷犬太郎。ここに来て更にギアが上がる。
その問いは謂わば猶予を与える選択。
本来ならば鼓膜が破れ、その問いすら聞こえない。
「……ふん、戯言を吐く性質ではないだろう」
「同感、だ……この程度で、この私が降参すると思うなッ」
だが、犬太郎が相手しているのは……。
「────捕縛が最優先だったが、これ以上手を抜く戦況では無い。私も本気でいかせて貰おう」
「────犬太郎ッ……此処からだ。もう何もさせんッ。死んでもそれはそれだ……遺言を考えておけッッ」
新エリー都が誇る最強戦闘者────星見雅、セヴェリアン・ローウェル。
平衡感覚が崩れて尚、その脚で立ち上がる。
鼓膜は破れていない。犬太郎の問いに怒気を含ませてそう言い放つ。
この2名もまた怪物の領域。
犬太郎の音響爆弾越えの怪音を至近距離で受けて尚、その覇気は全く衰えない。
それどころか……その覇気は増し続ける。
雰囲気が一気に変わる。そう、この2名もまたここからだ。
その場に佇む3者のボルテージが上がる。
「────だったら掛かって来いッ。2人仲良く微塵斬りにした後グチャグチャな野菜炒めみてぇにしてやる……俺の剣の錆に成れやッッ」
瞬間────呼応するように、3者が同時に飛び出す。
最早待ったなし。此処からこの地は更に戦火が飛び散る。
これは、誰かが倒れない限り……止まらない殺し合いと化していた。
▽
「────ライト。その崩壊しえる力とは一体なんだ」
「……狼谷犬太郎。あの子が何故、怪物と謳われているのか。その【本質】とは何か。あんたは分かってるのか?」
ライトと儀玄が会合をしている一室。
そこでは、緊張の糸が張りつめていた。
内容は狼谷犬太郎の事。未だ謎多き犬太郎の秘密を知り得たく、儀玄はライトに問いただす。
「質問を質問で返す形ですまん。だが、先に俺のを答えてくれ」
「……圧力に加え、底なしの狂気性。何よりその戦闘力だろう。巫山戯たキャラではあるが、怒らせたら私含む殆どの者は止められぬ強さ……もしかしたら、あの星見雅でも制止は困難を極めるだろう」
「つまり、あの子が怪物と云われてんのはそれ等の性質故であるって?」
「この短期間で得た私の見解だがな」
ライトはサングラスを掛け直し、ふぅ…と息を吐く。
「……概ね当て嵌まっている。流石は雲嶽山の宗主、と云った所か。あの子の【狂気】をこうも容易く見破るたぁな」
「一度、奴を刺激した事があってな。私を睨むあの眼……思わず戦慄したモノだ」
それは、犬太郎が初めて雲嶽山の拠点に来たあの日の事。
福福にタバコを吸っていた事がバレ、説教を受けていた時の一件。
儀玄は気配を消し犬太郎の背後に立った。
気配、殺気、敵意を消して尚、犬太郎は第六感から儀玄の存在を察知して、福福を庇う形で抱き、そのまま儀玄を迎撃する態勢に成った。
『────……一体誰だゴラァッッ』
その眼は、まるで生来の獣。
後天的に得たモノではない。先天的に持ち合わせていた、犬太郎独自の狂気。
正に────怪物の眼光を放っていた。
「……そう、アイツの本質は底なしの狂気。そこまで知ってんのなら、あんたになら話しても良いな」
「犬太郎の持つ異能を語る上で、鍵と成るのがその狂気であると?」
「その解釈で良い」
そして、遂に明かされる犬太郎の異能。
何故、治安局が犬太郎を欲するのか。
何故、H.A.N.D.に過剰なまでヘッドハンティングを受けるのか。
何故、狼谷犬太郎は怪物と恐れられているのか。
ライトは儀玄の眼を見据え、告げる。
「────儀玄。
「なに?」
それは、余りに突拍子もない問い。
儀玄は一瞬言葉に詰まるが、頭に過った単語を用い、告ぐ。
「
「それが答えだ」
ゾクッ…と、背筋に冷や汗が流れる。
勤勉で察知能力が高い儀玄は、ライトの短い発言から、即座に答えに辿り着く。
そう、それは……まさか。
「────まさか、犬太郎は……」
「────あの子は【宇宙に干渉】出来る能力を持つ。言うなれば……【重力】を操れると、そう言えば分かり易いな」
儀玄の眼が見開かれる。
有り得ない。そんな事、有り得ない。
俄かには信じ難い話だ。そんな話を、誰が信じるというのか。
必然的に儀玄は否定的な思考回路に陥る。
それは当たり前だ。宇宙に干渉など、理解不能が過ぎるから。
「………それを、決定付ける根拠は何だ?」
「聞いた事が無いか?6年前、郊外で【巨大な隕石】が無数に飛来した事件」
「……ッッ!!」
そう、今から6年前。郊外で大事件が発生していた。
内容は、突如として郊外で無数の隕石が飛来したと云う前例のな大災害。
ホロウは全くの無関係。洪水や火山の噴火の比ではないレベルの災害が、郊外で起こった事件。
この流れで、その話を盛り返す意味。
即ち……それは。
「まさかそれは、犬太郎が……」
「そうだ。俺が初めて犬太郎と出会い、拾った数日の間にな……精神的に不安定だった犬太郎は力の制御が今よりもずっと出来ていなかった。間が悪い事に、犬太郎を追って複数の治安局員が郊外まで追って来た事があった。膨大な能力に加え、心身共に限界を超えていた犬太郎は理性を焦がし、その力を解放してしまった。郊外の大地4割に無数の隕石を降らし、そして本人も滅茶苦茶に暴れ狂ったから、郊外は一時大混乱に陥ったんだ」
「………」
「その日は俺が何とか犬太郎を抑え込んだが……治安局員のほぼ全員が重傷を負い、そして当時のカリュドーンの面々にもその被害は及んだ。当時13のガキだったから、戦闘力は対して高くなかったのが不幸中の幸いだったな」
ライトは懐かしむように、ふっと笑う。
対して儀玄は驚愕、又は畏怖の顔付きに変わる。
想像以上。いや、理解の範疇を超える話。
あの儀玄が言葉に詰まる。ライトが発する言葉を咀嚼しようも、限界がある。
「結論を言うと、犬太郎の力は宇宙への干渉。とはいえ、俺が知る限り【隕石を降らす】事しか知らん。もしかしたら
「……そうか、取り合えず、分かった」
儀玄は一度その話を飲み込む。
そうでもしなければ、話が進まないから。
しかし、ライトが告げた話が真実であるのなら。
「貴殿が告げた全てが真であるのなら……治安局や雅を筆頭にH.A.N.Dの上層部が犬太郎を過剰に取り込もうとする、その理由がよく分かった」
そう、辻褄が合うのだ。
例え戦闘力が高くても、例え星見雅に並ぶ実力者であろうとも。
ここまでするのは、明らかに異常だ。
だが、犬太郎の異能を知ったとなれば話は変わる。
犬太郎本人が数年に渡りNOと突き放しても、ここまで過剰にヘッドハンティングをする意味は通るのだ。
その力は、余りに────強大過ぎる。
「そりゃそうだ。そんな意味分からん力を持つ奴が居て、それが一般人として振舞おうとしてんだ。治安維持に努める奴等からすれば、怖いに決まってる」
「……そこまで理解して、なぜ犬太郎は組織に入らない?正直デメリットが見当たらないのだが」
儀玄は思った事を口走る。
犬太郎が警察組織に入らない理由が見当たらない。
犬太郎は【護衛屋】として活動していた。それは謂わば、警察と何ら変わりない行為。
だったら治安局と云った組織にでも入れば良い。だが彼はそれをせず、抗い続けている。
「……そうか、あんたにも話して居ないのか」
「………やはり、相応の過去を持っていたか」
「まぁ、そうだな。犬太郎も旧都陥落の被害者の1人だ。簡単に人には話せないモンは持っている」
そう、儀玄は犬太郎の過去を知らない。
だが薄々感じてはいた。犬太郎は奈落の底に等しい闇を抱えていた事を。
犬太郎と交流を重ね、氣を感じ取った儀玄だからこそ分かった事。
「ここまで来たら話すべきなんだろうが、その先は犬太郎のプライバシーの問題だ。俺が話せんのは、此処までだ」
「いや、十分だ。目的は犬太郎の異能の解明。そこまで知り得る事が出来ただけでも収穫と言えよう……貴殿には感謝するぞ。何か報酬を授けたいが、望みはあるか?」
「なら今まで通り犬太郎と仲良くしてやってくれ。さっきまで犬太郎のヤバイ力しか話してなかったが、アイツは成長した。元々は良い子だったんだ。まだまだガキだがイイ奴ってのに変わりはない。それに…」
ライトは続ける。
「あんたんトコの福福には、俺からも感謝したい。俺以外にもアイツが……犬太郎が信頼を寄せれる女が出来たってのは、やっぱ嬉しいからよ。報酬はこれからも贔屓にするで良い」
「フッ、そうか。ならばお言葉に甘えよう」
儀玄はライトの微笑みを見て、そっと笑う。
犬太郎と福福からライトの事は聞いていた。こうして会って話せば、中々の伊達男ではないか。
犬太郎を想う気持ちは、福福と同等だろう。
そうだ。儀玄はふと思い出した事を、ライトに告ぐ。
「そういえばライト。実は以前から貴殿の事は耳に入っていてな。犬太郎と福福からは、それはそれは大層な事を聞かされてたぞ」
「……例えば、なんだ?」
「犬太郎は貴殿の事を【尊敬】してると言って居たり、何なら【第二の父】とまで言っていたな。福福に関しては在り方がカッコいいやら、”犬太郎の【親父】さんみたいにイケてる方は初めて。あたしもああなりたい”…なんて、飯を食しながら良く語っていた。ふふっ、あの子等が其処まで云う程の男、ライト……こうして会い話せば、あの阿呆共が尊敬する理由がしかと理解し得た」
「…………」
ライトは儀玄の口から発せられる発言に、すっ…とサングラスを掛け直す。
耳が少し赤くなっている。これは照れ隠しだろう。
儀玄は目の前の男が少し可愛く見えた。
「ふぅ……勘弁してくれ。あんた、そういうキャラだったか?」
「まぁ、タダで帰す訳にはいかんからな。件の2人がめっちゃ肯定的に貴殿を語っていた事くらい話してもバチは当たらんと思った迄だ。許せ」
「……悪い気はしないが、ちょいと恥ずいな。コレは」
照れるその仕草、犬太郎にそっくりだ。
その言動を見聞すれば、ライトと犬太郎が歩んだ情景が眼に浮かぶ。
狼谷犬太郎は、此の男に……ライトに、育てて貰ったのだなと。
痛いほど、よく分かった。
「まぁいい、じゃあ俺はコレで……」
「────お師さんッ!大変だーーー!!!!」
”バンッ!!”
ライトが立ち上がろうとした瞬間、突如襖が開かれる。
開けた正体、それは藩だ。
「なんだ騒々しい。藩、お客さんの面前である事を…」
「すまん説教は後だッ!本気で不味い事が起きちまったんだよぉ!」
あの藩が儀玄の言葉を遮り、焦燥に滲ませた表情で発語する。
これは、マジで緊急な事態が発生した時の感じだ。
儀玄は一度ライトの方へ眼を向ける。
ライトは一度頷き、問題ないと了承。
それを見て、儀玄は藩に何があったか問う。
「それで、何があったんだ?」
「そ、それが……犬太郎が…」
”ピクッ”
まさかの人物の名。先程まで、その男について話し合っていたが故、ライトも反応。
「犬太郎?アイツがどうしたんだ?」
「その、六分街でとんでもない人達と戦闘してるって聞いてよ!街を段々と破壊してて、緊急避難警報が出る程の事態にまで発展してるらしいんだっ!」
「なにッ?」
「ッッ!」
「しかも、その内の1人が…ッ」
その内容は、正に今……巻き起こっている事。
「────星見雅みたいなんだっ!」
儀玄、そしてライトの顔に緊張が走る。
▽
────その頃、六分街。戦地にて…。
”ザシュッッ!!!”
「ゴフッ……」
「はぁ、はぁ…」
「ふぅッ…ふぅぅ…」
凡そ30分間の激闘。
周囲は既に倒壊した建物が離散しており、唯一傷一つないのは犬太郎が務めていた弁当屋だけか。
それ以外…15㎞範囲のありとあらゆる建造物は、殆どが無惨な姿と化していた。
治安局が総動員して前住人を緊急避難させて居なければ、間違いなく死者が出ていただろう。それ程の規模間の戦闘だった。
六分街の街道で巻き起こったモンスター達の戦闘。それは、今。
「はぁ、はぁ…ふぅッ………終わりだ、犬太郎ッ」
「………」
雅の一太刀により、動きを止めた。
横一文字によって犬太郎の胸部が裂かれる。これまで徹底防御とカウンターに徹していた犬太郎だったが、圧倒的速度と攻撃性を誇る雅と、超強力且つ無駄のない洗練された戦闘者であるセヴェリアンを相手に、その牙城は遂に崩れた。
「ゲフッ……ふぅ、随分と暴れてくれたなッ」
「ッ…まさか、我々を追い詰めるとはな……この世の特異点とは、云ったモノだ」
雅、セヴェリアン共にボロボロの状態だ。
2人が此処まで傷を負う。それは正しく異常。
自他共に認める最強格の虚狩りである雅、そして治安局が誇る最高戦力のセヴェリアン。
服は千切れ、腹部や背中、脚に顔まで、打撲や切傷など確かな傷が残っている。
それ程まで、犬太郎はこの両名に対し確かなダメージを与えていた。
だが、一番ヤバイのは……犬太郎だろう。
「……ゴフッ」
「もう倒れろッ。そして適切な治療を受け、我が対六課の戦闘要員として轍を歩け。貴様と私なら、きっと……」
雅の震えた声が通る。犬太郎は既に限界を超えている。
腹部に4箇所、背中に2箇所、顔に3箇所、脚に7箇所、腕に3箇所、そして胸部に3箇所。
計21箇所の裂傷。そして身体の彼方此方に打撲等の怪我を負っている。
本来ならもう死んでいる。普通なら雅とセヴェリアンの一撃で既に倒れ伏している。
それを、此の男は何度も耐え続け、耐えて堪えて、反撃し続けた。
だが、雅の一撃に……その動きを制止する。
これ以上は駄目だ。本来の目的は【犬太郎を警察組織に取り組み、厳重管理する事】
その初歩がこのヘッドハンティングだった。
犬太郎が死ねば、目的のみならず、この世界にどのような影響を及ぼすか分からない。
第一として、それは雅が許さない。だからこれ以上の戦闘を彼女は望んでいない。
「………ふざ、けるなァァ…ッッ」
「ッ……」
「何という男だ…」
だが、それでも尚、犬太郎の眼は死んでいない。
鈍い動きで、だが途轍もない速度で雅から距離を取る。
血反吐を吐き、至る箇所から血流を噴き出し、血達磨に成りながら発語する。
「俺はッ、何が有ろうとッ、ゲフ……テメェ等には従わねぇ………俺は、お…ゴプクッ……そんな資格ねぇんだよ……分かって、んだろ……」
「それは違うッ!!何度も、何度も言っているだろうッッ……アレは不可抗力だったっ」
「狼谷犬太郎。貴様が過去の悔恨に呪われているのは、百も承知で告げる。貴様の故郷である村で起きた話は…」
「だと、してもだッ」
犬太郎は話を遮り、告げる。
「雅、セヴェリアン。俺は正義の味方じゃねぇ、弱き者を救う者……俺がした事を思えば、それだけの信念を有せる事だけでも慈悲────俺は薄汚い人殺しだ」
「ッ……」
「貴様…」
「だが」
犬太郎は薄く笑いながら、宣言する。
「────あと数歩、道を踏み外さなかった」
それは、自傷交じりの皮肉。
犬太郎の為した過去の行動は、確かに血に塗れた人殺しだろう。
だが、それには環境もあり、そして何よりも意味が有った。
犬太郎は後悔した。やり直したいと思った事は、数知れない。
それでも、自分が間違った事をしたとは、微塵も思えなかった。それが、今の犬太郎なのだ。
「そんな怪物を、グフッ……何年も渡って取り込もうとするテメェ等、に………従う気なんざ更々ねぇなッッ!」
「……愚か者が」
雅の顔は、悲しそうだった。
セヴェリアンもポーカーフェイスを努めるも、此の男を前に何かを想い浮かんでいる。
対する犬太郎は…。
「(クソったれ……血を流し過ぎて冷静に成っちまった。流石に今の俺じゃ、このバケモン共を殺すのは無理があったか……)」
冷静に至っていた。
感情の昂ぶりは最後に受けた雅の横一文字で落ち着いて居た。
本来なら当に死んでいる。今の犬太郎を支えているのは、強靭な精神力のみ。
「(こりゃ、店はクビだな。意外と早かったが……店だけは壊さなかった。それだけでも、高い報酬だな)」
周囲を見渡す。弁当屋以外の建造物は、殆どが倒壊している。
吹き飛ばし、斬撃を飛ばし……この戦闘の凄惨さをこれでもかと現していた。
至る所には血痕があった。その過半数が犬太郎のもの。
この出血量。犬太郎以外では到底無理だ……。
「────雅課長ッ!」
「────監察官っ!」
「なにッ…」
すると、四方八方から足音と共に声が響く。
それは犬太郎が片隅に考えていた、最悪の展開。
「……クソッたれが」
現実を突きつける様に、犬太郎の目の前には……。
「市民の避難、滞り無く完遂致したので応援に参りました!」
「あらあら、凄い状況ねぇ。これアタイら居るのぉ?」
「ッ!?あ、兄貴が傷!?しかも雅さんまで……マジで!?」
「……犬太郎、此処まで暴れては、我とて沈黙せん訳にはいかぬ」
治安局特務捜査班。その面々が揃った。
市民の避難を終え、この戦地にまで参戦したのだ。
それだけではない。
「ちょっ、大丈夫ですか課長!?あんたが怪我するって……」
「ぼ、ボス、痛そう……大丈夫なの?」
「……蒼角、私の後ろに」
なんと、対六課の面々も終結した。
「既に最終局面だが、有難い」
「この戦況なら無駄な破壊行為を為さずに済むだろう」
雅とセヴェリアンもこの盤面に成って、圧力が増す。
治安局、そして対六課。
その中で最強戦力である星見雅とセヴェリアン・ローウェルが事を構える。
ただでさえ劣勢だったのに、難敵が一気に参戦したとなれば……勝利など、無理に等しい。
「……厳しいな。神も仏も居ねぇってか」
正に過剰戦力。絶望に深さが増した。
「狼谷犬太郎っ!貴方は包囲されているっ!神妙になりなさいっ!!」
「大変な仕事だと思ったけど、課長達が痛く削ってくれてラッキーだね。さ、もう良いでしょ犬太郎。それだけの傷、なんで死んでないのか不思議だけど……もう立ってるだけでキツイでしょ?」
朱鳶と『浅羽悠真』がそう告げる。
最早、この戦況で逆転など有り得ない。そう確信したが故の発言。
だが、それは当然だ。雅とセヴェリアンは中々の傷だがまだ動ける。
その上、万全な治安局と対六課の精鋭が揃っている。
対する犬太郎は……極限状態。立っている時点で、称賛に与えられる状態なのだ。
犬太郎に、打つ手は……もう。
「……舐めんなよッ」
”出来るなら、使いたくなかった”
尚も────犬太郎の双眼は狂気に染まる。
この惨状なら、
犬太郎の圧力が極限を超える。
”ガギンッッ”
「悪戦苦闘。だが、そんな状況でも……」
犬太郎が大剣を地面に深く突き刺し、血反吐を散らしながら吠える。
「────死んでも折れねぇのがッ!!最強の盾だろうがァァァァァ!!!!!」
”ゾゾゾゾゾゾゾゾゾッッッ!!!”
その咆哮は、その場に存在する全員の本能を刺激する。
戦闘者なら誰でも理解する……底なしの狂気を、肌身で感じた。
瞬間的に、それが何を感じ取った青衣がらしくもなく吠える。
「止せッ!犬太郎っ!!」
「ふッ!」
だが既に、セヴェリアンはナニかを感じ取り、猛突する。
「なにをする気だッ」
「遅ぇッッ!!もう範疇だッ、潰れてろよ」
瞬間……信じられない事が起きる。
”ズゥゥゥゥゥゥゥウンッッッ!!!!!!!”
「なッ!?」
「ぐおぉあぁ!?」
「ク…!?」
何と、セヴェリアンを筆頭に……その場に居る全員が片膝を着く。
まるで、身体全体に形容出来ない重量を一気に加えられたかのような、そんな重みを……突如として課せられた。
「犬太郎、貴様…ッッッ」
「クッ……ふぅぅぅ…」
雅とセヴェリアンも、それは同様。
違うのは、何度も立とうと挑む所。
だが、犬太郎はそれを分かっていたかのように……この両名のみ、出力を上げている。
「ゴフッ……うぶ、ガフッ………」
犬太郎は血を吐く。もう本当に限界だ。
この理解不能な現象を起こしている者。そう、それは……犬太郎だ。
彼が起こしたこと。
それは……犬太郎が見に持つ異能────【宇宙の干渉】基…【重力操作】だ。
「ここに来て、ソレを……ッ!!そんなにも、私達を拒むかッ!」
「その門答は、ごぷっ………既に終わっているッ……」
雅は怒りと哀しみに満ちた顔付で、そう叫ぶ。
それでも、彼女がそう叫んでも、犬太郎は拒み続ける。これは、もう折れないのだ。
雅は次第に対応していっている。片膝から、二足で立ち、何と…。
「ふぅぅぅ!!フゥゥゥゥ!!!」
一歩、二歩、犬太郎に歩を進める。
星見雅……正しく最強。この異能を前に、少しずつ適応していっている。
「……やっぱ、凄いよ。お前」
最後の切り札だったのに、それも超えようと進む雅を前に……犬太郎は感慨の声を上げる。
これ以上は犬太郎自身がヤバイ。それは本人が一番分かっている。
だが、犬太郎は無駄にこの力を行使した訳ではない。
「────この戦況なら、勝ち目はねぇ。護る者も居ねぇ。逃げるとする」
「んなッ!??」
瞬間、犬太郎が懐から何かを出す。
それはなんと煙幕弾。着火すれば爆煙を出す戦闘を攪乱させる為の物。
それを瞬時にZippoで着火させ、犬太郎は…。
「非行、逃走、残すは血痕…ゲフッ」
「待てッッ!!!」
煙幕を起こし、その数秒後に異能を解除する。
最後に妙な韻を踏んで、だ。
瞬間的に雅が最速で煙幕を掻っ切る。
「……犬太郎ッ…犬太郎ッッ…!!!」
怒気を含み、犬太郎の名を漏らす雅。
それが、答えだった。
「い……居ない?」
「嘘でしょ、まさかあの一瞬で……」
セスと朱鳶が信じ難い光景に、思わずそう告げる。
そう、何と犬太郎はあの一瞬で────この死地から離脱して魅せたのだ。
あの傷で、あの出血量で……まるで今迄そこに存在して居なかったかのように、血痕すら残さず。
「……任務失敗だな」
「ッッ……クッ…!」
雅に近付き、そう発語するセヴェリアン。
怪我を負わせ、弱らせ、捕縛した後に連行が本来の目的だった。
だが最終目的だった犬太郎を連行する件を、この面子で失敗してしまった。
コレは……この事実は、非常に大変な事である。
「……雅殿。気に病むなとは云えぬが、抱え込む必要はない」
「なに…?」
すると、雅に近付くもう1人……青衣がそう告げる。
それは謂わば侮辱に等しい。雅は己の戦闘力には誇りすらある。
だが、言い返せる状況ではない。現に己は力不足で犬太郎を逃がしている。
それを察知した青衣が、告ぐ。
「あの子の能力を我らが制止するまで削り切った、それだけでも偉業であろう。本来なら我は足止めすら出来ぬ凡夫。【怪物】狼谷犬太郎を死の淵にまで追い詰めたとなれば、面子は保てる」
「………」
「尤も、其方はそういう話ではないと、そう解釈しているのだろう。だが現に犬太郎の戯けは消え失せてしまった。これは抗えようのない現実である」
言うなれば────犬太郎の力が想像以上に規格外だった。
誰も予想など出来なかった。それだけの話なのだ。
雅は沈黙。それでも、勝ち切って最後まで任務を遂行するのが己の本懐。
それが出来なかったのは、この仕事に準じて初めての経験。
ショックは……大きい。
「……課長。先ずは治療に専念しましょう」
「特に耳からの出血が酷いですよ。なんです?犬太郎のヤツ音響爆弾でも使用したんですか?此処に来る前、随分とデカい爆発音が聞こえましたけど……」
「ぼ、ボス、元気だして…?」
次第に六課が雅に近付き、声を掛ける。
雅の雰囲気が段々と落ち着いてくる。
仲間にこうも言われてしまえば、落ち着くなと云う方が可笑しな話だ。
「……あぁ、そうだな」
雅達はその場を後にする。後は、治安局たちの仕事だ。
だが、雅の心の中には……燃え続ける信念が生まれた。
「(犬太郎……貴様は必ず、私が仕留める。福福が居ようが関係ない。必ずだ……首を洗って待って居ろッッッ)」
そうして、対六課及び、セヴェリアンたち治安局一行はその場を後にした。
「……結構な傷だぞ兄貴……そのっ」
「無駄な確認は不要だ、ローウェル巡査官。この程度の傷で狼狽を上げる必要はない」
「は、はぁ!?俺は心配で言ってるんだぞ!?」
「………」
「こんな状況でも、仲良く喧嘩するなんてねぇ」
「家族愛じゃよ、ジェーン」
セヴェリアンとセスが喧嘩する中、朱鳶は思いに耽っていた。
「(こうは言っているけど、歩くのすら覚束ていない……あのセヴェリアン監察官が……しかも雅まであの怪我を……犬太郎くん、まさか其処までの実力者だったなんて)」
犬太郎の危険性。それを、雅とセヴェリアンの傷具合を見て……戦慄してしまう。
今迄、犬太郎が騒ぎを起こせば殆どが朱鳶が対応に当たっていた。
偶に捕まえられ、時に逃げられる。そんな感じだった。
だがここ最近の彼は……起こす事件の規模が巨大になっている。
それもこれも、ヘッドハンティングに力を入れた辺りからだ。
「(………あの力。一体、なんなの?)」
犬太郎が起こした異能。
それを直接受け、何も出来なかった。
────狼谷犬太郎とは、一体何なのか。
先ずはそれを更に深く知る必要がある。
そう判断した朱鳶は……。
「(────橘福福……リストにあった雲嶽山の女性。彼女に聞くしかないようね)」
橘福福に、コンタクトを取る。
ほぼ意味ないが、そう決めたのであった。
次回
保護者達と愛し人による大大大説教。
超やらかし犬太郎。逃げた先に待ち受けているのは、一体…。
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