最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉 作:カブトムシの相棒
リンは弟子に入った日に犬太郎を説教してる感じです。ストーリーとしては、犬太郎の件もあって少し早く雲嶽山に入ったとなります。なので、調査はまだしていません。もう少し先に正規ルートに入ると解釈して頂ければと。
前半と後半でかなり違う内容となります。お気を付けくださいませ。
では、本編です。
▽雲嶽山:適当館……中庭。
”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………”
「………あ、あのぅ」
「誰が」
「勝手に喋って良いって」
「言った?」
「ぁ、すんません…」
あー、こんにちは。
俺は狼谷犬太郎……年齢19歳、血液型O型で実はRH陰性、身長190くらい、体重90㎏くらい、誕生日は12月30日の何処にでも居る普通だと思う男だ。
いや、違う違う。いま俺の目の前で起きている絶望でつい意味分からん自己紹介と謂う名の自己開示をしちまった…。あと所々文脈おかしいし。
その、俺は今……適当館の中庭で正座をさせられている。
先ず俺の前で仁王立ちする儀玄ちゃん、その左隣で腕を組んで怒気を含ませるオーラを放つリンさん。何で居んの??
そして……右には冷徹に、そして無表情を極めて俺を見下す福福。ぶっちゃけ一番怖い……。
そんで後ろ。少し離れにライトさん、藩さん、釈淵くん、そして複数の弟子たちが見ている。
一般の弟子達に関しては3人のオーラにビクビクと震えている。
「犬太郎。お前さんは阿呆だ馬鹿垂れだと、常日頃思ってはいたが……まさか此処迄の男だとは思わなかったぞ?」
「あ、あざすぅ…」
「は?」
「あ、いや、何でもないす…」
儀玄ちゃんにそう言うも、マジギレで。どうやらふざけて良い立場ではないらしい。
だが俺は俺だ。此処は一発なんかおもろい事を言って和ませよう。
するとタイミング良くリンさんが話しかけてきた。
「あんたさぁ、自分が置かれてる立場分かってる?私たち怒ってるんだよ?ねぇ」
「そ、それは重々承知してると言いますか……あ、リンさんその服、似合ってて良いな!修業者って感じで!あ、あははh…あべしッ!?」
「あたしが居る前で、お弟子ちゃんを口説くとはイイ度胸ですね?」
「い、いやリンしゃんとは、旧知の仲でぇ……ッ」
「ふむ、やはり処すか」
「うん、処そう」
「しゅ、しゅみまひぇん……それだけは勘弁をぉ…」
「今のはお前が悪いぞ犬太郎……」
福福に頬を両手で引っ張られる。爪が喰い込んで地味に痛い…。
クソ、なんでこうなった……ライトさんの所為か(他責)(ゴミ)
いや待て待て。確かに俺が悪いとはいえ、こんなに怒るか!?
「犬太郎くん、覚えてますか?貴方が4日前にした事」
「え?あ、あぁ、うん」
すると、福福が頬を引っ張るのを止め、俺にそう問う。
4日前は……うん。俺が雅とセヴェリアンと喧嘩した日だ。
「それで、貴方はどう成りました?自分の口で言って下さい」
「あっとぉ……怪我した。そんで多分儀玄ちゃんに最後気絶させられた…………くらいしか覚えてないな」
「ほう?私がしたと気付いていたのか」
「いや分かったのは今日起きた時だ。俺の剣圧を止めれんのは雅かセヴェリアン、それか儀玄ちゃんくらいしか思いつかないからな」
どうやら当たっていたらしい。まぁ、そうだろうとは思っていたが。
気絶一歩手前とはいえ、俺の剣圧を止めれんのは挙げた3人くらいだ。
腕力に自信がある。それに殺す気で振るったしな。儀玄ちゃんで良かったまである。
「……それが何だよ?」
「ッ……何故、あんな状態になるまで戦ったんですか。お師匠さまが発見しなければ、貴方は死んでいたかもしれないんですよっ」
「何故って、まぁ……あの2人を前に逃げるなんざ有り得えなかった。それだけの話だよ」
「あんたねぇ…!福福先輩がどれだけ心配したと思ってるのっ!!」
む?リンさんがキレたぞ。なんでだ??
普通に怖いから勘弁してほしいんだけど…。
「あーっと、六分街を滅茶苦茶にし掛けたのは悪かった。すまない…だが、身体は完治したぞ!」
「そういう意味で謝ってほしいんじゃないのっ!あんた、本当に死んじゃう所だったんだよ!?胸と背中の傷は深かったし、太腿なんて骨まで届いてたんだからっ……!」
「出血量含め、診断して貰った医者はこう言った────『どうして生きているか分からない』と。専門外の私等ですら当然そう思った……人間の構造上、お前さんが負った傷は本来なら既に黄泉へ向かう程の大怪我だ。お前さんは、それを自覚しているのか?」
「えっと……はいぃ…」
……ぶっちゃけ、この怪我は俺が負った中でも上位に入るレベルなのは自覚している。
だが、あれで死ぬ……とは思えん。あれしきで死ぬなんざ盾じゃねぇ。
って言ったら火に油な気がするから、言わないでおこう。
「犬太郎くん。あたし達が怒っているのは、貴方がボロボロになるまで戦ったから……それだけじゃないんですよ」
「なに?」
すると、福福が告げる。
俺は福福の顔を見て……唖然としてしまう。
「……ほんとうにっ……死んじゃうんじゃないかって……心配をかけたから、怒ってるんですよっ……っ」
身を震わせ、ポロポロと涙を流している。
頭が真っ白になる。マズイ、これは、マズい。
今直ぐにでも抱きしめたい……が、この空気の中、それは……。
「この4日間、ずっと生きた心地がしませんでしたっ……知らないでしょう?犬太郎くん…ずっと魘されていたんですよっ…?ぐすっ…苦しそうに、辛そうにっっ…ずっとぉ…………酷い発汗に、異常な熱……包帯だって血が滲んでて………怖かったんですよ…?」
「むぅ………」
「なのに貴方はっ……やっと起きたかと思えば、ふざけた置手紙をして……早々に脱走してっ!あたし達がどんな思いで…っ……今だって、胸の傷が開いて、血を滲ませてぇ……っ」
「す……すまない」
「………どれだけ心配したか……分かってるんですか………もっと自分を大切にして下さいよっ……ばかぁ」
手を使って涙を拭う福福。俺は、それを見続ける事は出来なかった。
面目次第も立たない。愛してる人を泣かせてしまった。
これは、重いな。反省しなければならない。
痛い沈黙が流れる。それを断ち切る様に、儀玄ちゃんが発語する。
「……福福が言っていた事が全てだ。お前さんは、もっと自分を鑑みろ。お前さんは盾である前に、1人の人間だ。そして────福福の傍で立ち続ける責務があるんだぞ」
「ッ!」
「それなのに、感情を抑えきれず殺し合いになるまで戦い続けおって。この未熟者が」
「……すみません」
言い訳の余地など無い。これは、全て俺が悪い。
未熟者、か……その通りだ。俺は未熟すぎる。
儀玄ちゃんの叱咤は響くな。流石は宗主というべきか。
「……犬太郎くん」
「あ、あぁ」
「約束して下さい。これから、絶対に無理はしないって」
福福がそう持ち掛けて来る。
彼女にそう云われてしまえば、そうせざるを得ないだろう。
俺は即座に二つ返事をする。
「あぁ、約束する」
「っ…もう、あたしの前に居なくならないでくださいっ」
「あぁ」
「自分を大切にして下さい…っ」
「あぁ……」
「
「あぁ、勿論だ………ふぁ?」
ん???
え、は?ん????
今、福福は何て言った?
てか待て、その赤い首輪はなんぞ??
「じゃあ、ジッとしてて下さい。付けるので」
「待て待て待て!!え、なに?急になに!?さっきまでのシリアスな空気は何処行ったの!?その首輪はなんなの!?その赤くて何か機械的な首輪はなんなの!?!??!?」
「言質は取りました。撤回は存在しませんからね……ッ」
「はぁ!?くく、首輪ぁ!?おぉ、えぇぇ!?ちょ、福福!落ち着け!お、おいお前等!!なに見てんだ止めろォ!!」
俺は訳が分からないでいるも、周囲の奴等に助け舟を呼びかける。
だが……。
「ん?何をしている。早く付けんか愚犬」
「それ、外したらアラーム鳴るからね。姉弟子さんと私と師匠しか解除できない様にしてるから」
「だろうねぇ!!?」
まぁ想定していた!儀玄ちゃんもリンさんも福福の味方だわな!!
クソ!こうなったら仕方ねぇ!!おいそこの男共!!
「藩ッ!釈淵くん!俺を助けろォォ!!」
「無理です」
「自業自得だぁ。諦めろ」
「クソッたれがァ!!」
藩も釈淵くんも使えねぇ!!
幹部的な立場の弟子だろうがあんた等!!ちょっとは男として何かしてくれよ!!
クソ!!こうなったらライトさんに…ッ!!
「一応言っておくがライトには話を付けてある。簡単に云えば此処に居る全員グルって事だ。まぁそれもこれもお前さんの為だ、諦めろ」
「……は???」
儀玄ちゃんがそう云う。は?どゆこ……っ!?!??
嘘だろぉ!?ま、まさか…………っ!!
『……許せ、犬太郎』
”バッ!”
「………(背中を向けて哀愁を放つライト)」
「そういう事かライトさぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!!」
貴方もグルだったんすね!?おいなに背中向けてんだ!!コッチ向けチャンピオンっっ!!
クソッ!説教なら耐えれたのに、こんな首輪付けたら渡世の恥さらしじゃねぇか!!
拒否!断固拒否とする!
俺が悪いとはいえ、此処迄される筋合いはねぇぞ!!福福!俺は抗わせて貰うからなぁ!!
「俺は嫌だぞ!断固として拒否してやる!俺のこの暴れに対応できると思うなy」
「ジッとしなさい」
「はい……」
まぁ、無理だわな(諦め)
だって福福こえーもん。俺無理だもん。こんな怖い福福初めてだもん。
あと儀玄ちゃんも何故かいるリンさんも怖いし。こんなんどうしようもないわな。
心の中で死んでいると、首に首輪が付けられる。
”カチャッ……ピコンっ”
〈起動:狼谷犬太郎の装着を確認。橘福福さま、リンさま、儀玄さまのみ解除可能となります。〉
「ん、なんて?」
「その首輪はあたしとお師匠さま、そしてお弟子ちゃん以外は解除できない仕様って事です。GPS付き、清潔感を保つ為の機能を備えているので、お風呂の時も問題ありません」
「無理に外そうとすればアラームが鳴り、私達の携帯に警鐘が来るからね」
「つまり、諦めろと云う事だ。良く似合ってるぞ?犬太郎」
「……いや……いやいやいや!!そr」
「なんですか?」
「なに?」
「なんだ?」
「……何でも、ありませぇん……」
終わった……俺は一生、この首輪をつけて過ごすんだ。
クソォ……福福は兎も角、儀玄ちゃんとリンさんはなんだ!
特に儀玄ちゃん!そんなデケェおっぱい見せつけといて舐めやがってぇ……邪気を払うとか言ってるけど、その邪気の発生源はあんただろ!なんだそのおっぱい!!このパイパイ宗主が!!三十路の癖にふざけやがって!!
「……なんだ犬太郎。私の方を見て」
「べーつに~?」
鼻をほじりながら舐め腐った目で儀玄ちゃんを見てやった。
へっ!この状況じゃ何も出来ないがな!脳内だったら幾らでも言えんだ!やーいやーい!儀玄ちゃん年増の癖にエグイ服~!!
”イラッ…”
「……ライト」
「あ、あぁ……」
「な、なんでしょうか?ライトさん」
すると、ライトさんが俺の目を見て来る。
うわぁ、睫毛なっがいなぁ……やっぱカッケェなぁ。
「……黙秘は駄目か?も、もうこれ以上は良いだろ?犬太郎は怪我人だぞ」
「それ相応の事は考えていたのだな?」
「!?」
「……あ、あぁ」
マズい!そうだ忘れてた!
ライトさんは俺が考えてる事は分かるんだッ……郊外で俺と過ごしてなんか会得した俺専用の能力!!当たってる確率は98%!!
「ふむ、では答えて貰おうか。この阿呆が私に対し何を思っていたかを、なぁ?」
「ライトさん、麗しの美人で最強の天才であり誰が見ても惚れ惚れする素敵な女である儀玄ちゃんと、俺……どっちを選ぶんすか?」
「………」
「俺まだ死にたくない~~!!!」
「ライトさん、言って」
「お願いします」
「……許せ────犬太郎は……〈そんなデケェおっぱい見せつけといて舐めやがってぇ……邪気を払うとか言ってるけど、その邪気の発生源はあんただろ!なんだそのおっぱい!!このパイパイ宗主が!!三十路の癖にふざけやがって!!〉……と、言っていたぞ」
”プツン────”
儀玄ちゃんの中で何かがキレる音がした。
────そこから先は、あまり覚えていない。
多分、リンさんと福福にはクッッッソ怒られた気がする。
特に儀玄ちゃんは本来の叱り方じゃなく、私怨交じりの怒り方だった気がする。ぶっちゃけ、一番怖かった……俺が何をしたって言うんだ()
その説教は……夕方に成るまで続いた。正座でだ。足痛いのに……。
エグイ様相の3人に、他の弟子たちはビビり散らかしてたな……何人か泣きそうだったもん。
まぁそんなこんなで、時間は……夕飯の時間になった。
福福には、隣で凄まじい顔で…『あ~ん!はい、犬太郎くん……食べれますよね?』と延々と飯を運ばれた。嬉しかったのに、怖かった。
……藩の飯は、美味かった。
▽
☆適当館:居間…。
「────犬太郎。少し良いか?」
「ういぃ!?も、もう説教は勘弁してくれぇ……」
「そうじゃないわ阿呆。その件はもう終えた。お前さんの件で少し聞きたい事があるだけだ」
夕飯を終え、リンが調査で衛非地区に来て雲嶽山の弟子となった経緯を聞いた犬太郎は……ふと、儀玄に呼ばれた。因みにライトは帰宅した。
あの大大大説教の後に呼ばれるのは正直、怖い。犬太郎は一定の警戒をとるも、どうやら用はその件ではないらしい。
そんな2人の会話に疑問を持った面々。福福が儀玄に問う。
「どうしたんですか?お師匠さま。犬太郎くんがまた何かしました?」
「俺がやらかした前提なのね……」
「ふむ……福福、いやお前さん等は此処に居ろ。少し犬太郎には個人的に問いたい事がある。重要なことだ、2人きりに成りたい。ちょこっと犬太郎を借りるぞ」
「へ?」
「えぇ、マジで何?怖いんだが……」
そう云いながら、儀玄は犬太郎の首輪のリングに指を掛ける。中々の絵面だ。
面々は思う。
儀玄の様子には……少し違和感があった。
顔は更に強張り、何かを決意したナニかで……彼女らしからぬモノだった。
とはいえ、此処で待てと言われたのなら仕方ない。
………。
あの儀玄が、あの犬太郎を連れ出す?
「……こっそり見に行きません?」
「賛成です」
「なーんかありそうだよね~?」
「おいおい……」
どうしても、気になる。
福福は疑いをかけるも、普通に気になるから。
他の面々は只の好奇心。バレないよう、そっと2人の後を着いて行く。
……数分後。着いたのは何と────。
「……中庭、ですね?」
「なんでまた此処に?」
そう、何と中庭。
さっきまで犬太郎が説教された場所。
儀玄が明かりをつけ、少しだけ2人が照らされる。だが既に7時を過ぎている故、光は薄い。
面々が陰で疑問に感じていると……儀玄が告げる。
「犬太郎。なんで此処に呼ばれたか、分かるか?」
「まぁ、此処に来る道中で薄々と感じてはいたよ。俺の力について……だろ?」
それは、犬太郎の【異能】について。
心当たりがない面々は、2人の会話についていけない。何の話をしているのか。
だが2人は続ける。
「ライトさんが此処に居る時点で、まぁ分かってたよ。聞いたんだろ?全て」
「……隠し事だったか?」
「いや別に隠してた訳じゃない。ただ……それを知ってどうすんだって話だ。儀玄ちゃん、お前は俺の力をライトさんから聞いて、どう想った?」
「────規格外。その一言だ……仮にそれが真ならば、その力はこの世界を滅ぼせる」
「………つまり、畏怖を抱いてるってか。まぁそらそうだわな、俺だってそう思う」
その話は、面々の脳を白くさせるには十分だ。
嘘みたいな会話……一体全体、どういう事なのか。
犬太郎が、世界を滅ぼせる力を持つ?
まるで中二病の会話。だが……妙な違和感があった。
「単刀直入に言おうか。なぁ、犬太郎────お前さんは一体何者だ?何を経て、その力を得た?お前さんに……何があった?」
儀玄が鋭い視線でそう問う。
その瞳には純然たる圧力があった。
問うのは、犬太郎の……過去。
真面目で、本気で、その真意を聞いている。
その意思が────儀玄から伝わる。
「……最悪な怪物だよ」
「なに?」
犬太郎の返答は、コレだった。
「ふぅ……もう誤魔化せる感じでもないな。儀玄ちゃん、ちょいと俺の話を聞いてくれるか?リンさんや福福には、言えん話だ」
「……あぁ、私とお前さんの身の内にしよう。内容次第ではあるがな」
突如、自分達の名が出て、内心驚くリンと福福。
犬太郎は自分達には言えないと云った。
「(私と…)」
「(あたしには、言えない事……?)」
その意味に、リンは僅かに思い立つ事があった。
それは……己に対する、犬太郎の接し方だ。
何処か、妙な親情を向けて来るような視線。
何故か、時折自分を妹の様な扱いをする。
それが偶に、いや多数あった。
「儀玄ちゃん。あんたは────【旧都陥落】で
「………旧エリー都の外れ区域にあった、小さな村……元来より身体に弱さを抱える者が集い、治安局を中心に保護下にあったとされる、確か名は……」
「────〈天病村〉……最早、天が民に病を与えたのだと揶揄され、そう渾名された村。俺はその村で産まれた」
身体が弱い者しか生まれない、呪われた村……天病村。
旧エリー都の外れにあった小さな村で、犬太郎は産まれたのだ。
それは誰もが驚愕する話。福福は少しだけ聞いた事があったが、そんな村に産まれていたのかと、心底驚いた。
だが、それを聞いて思うのは……。
「言いたい事は分かる。なら何故、俺の様な怪物が生まれたのか。そう思ったろ?」
「……すまん」
「良い。そこが俺でも良く分かってねぇからな……」
そう、そうなんだ。
天病村出身ならば、どうして犬太郎の様な怪物が生まれたのか。
その疑問は当然だ。しかし、儀玄は謝る。そう思う事は失礼だからだ。
心の中でも反省する。だが……犬太郎ですらそこを理解していないから、この反省はそれで終わり。
「俺の親父も肺が悪かった。妹とお袋は心臓が弱く、お袋に関しては重度の心臓病だった。俺が5才になる時には死んだしな。それ程までの弱さを抱える人間しか、居なかった」
「………」
「そんな村で、家族の中で唯一俺だけが何も弱さを得ず生まれ落ちた。当時の村じゃ過去でもなかった事。その前例の無さから奇跡の子って言われたな。俺の存在はそれ程までだった」
儀玄はその話を静かに聞いていた。
その村がある事は知っていた。歴史の教科書にも載るほどの、異例な村だったから。
だが、その村で唯一の五体満足で生を授けた子の話が、まさか犬太郎だったとは思わなかった。
それだけでも十分な情報。犬太郎は続ける。
「こう言っちゃなんだが、俺は恵まれたガキだった。村人も俺には優しかった。友人も沢山居た。家族にも愛された。俺は幸せだった。だから少しだけ調子にも乗ったさ……俺は凄いんだってな。まぁ、そんな天狗の鼻をお袋に見事に折られて、人を下に見る事は無くなったが。今の俺の在り方があるのは、親父や妹の存在もデカいが……一番はお袋だった。お袋は俺にはマジで厳しくってな?口を開けば俺への小言に説法。偶に飴をくれたら間髪入れずに鞭が飛んで来る始末。今でも夢に出て来ては、俺に何か言ってくる」
「……優しい母親だったのだな」
「あぁ……説法に関しては、儀玄ちゃんにも似て非なるな」
「私はお前さんの親には……成るかもな」
「はははっ!そうなればいいが」
義母として…。
つい、儀玄はそう思ってしまう。もし、犬太郎がこのまま福福とゴールインすれば、きっとそうなるのだろう。
そんな、未来を考えて。
「……すまん、話が逸れた」
「良い。偶には、過去を振り返るのも人間としての生き方だ。続けろ」
「あぁ…………俺の親父は治安局員だった。生粋のムードメーカーで、この剣を使って【盾】として前線を張っていた男でな……だが如何せん弱いモンだから、巷じゃ【最弱の盾】なんて呼ばれていた。それでも、そんなバカにされた異名でも親父は喜んでいたな。盾って言われていたから」
「なるほど、それがお前さんのルーツか」
「あぁ。俺が【最強の盾】になる、そう決めた切っ掛けだ」
そう話す犬太郎の眼は、どこか優しそうだった。
福福はその話を知っていた。あの日、聞いたから。
あの時の犬太郎を、福福はよく、覚えている。
彼が【最強の盾】と成る事を語ったあの夜を。
「……妹と云うのは、もしや…」
「あぁ、桃子って言ってな……リンさんには言えんが、桃子は、リンさんに似ているんだ。ぶっちゃけマジでソックリでな、顔や口調が似てて……どうしても過っちまうんだ」
リンの眼が見開く。
桃子と云う名の妹の存在。彼が彼女に対し、妙にぎこちないのは……桃子と云う存在があったからだ。
「分かってる。リンさんは何にも関係ない。俺が、ただリンさんに対し桃子を重ねちまってるだけなんだ。こんなモン失礼にも程があるのは、百も承知だ……だけど、リンさんと長らく居ると、どうしても思ってしまう────桃子が成長したら、こんな感じに……元気に、人に優しく…在るのだろうかって」
「…………」
その重すぎる理由を聞いて、リンは……全て納得してしまった。
そうか、そうだったのか……だから、犬太郎は己に対し、そう在ったのか…と。
「(……犬太郎っ)」
思う。それが理由で、言えなかったのなら……とんだバカだと。
それを言って、己が犬太郎に対し対応を買えると思っているのか?
関係ない。変える筈が無い。己は己のまま、犬太郎と友達で居続ける。
リンは心の中で、そう思う……でも、犬太郎からしたら、それは無理な話なのだ。
「……9歳に成る時には、俺は親父の戦闘力を超えた。親父は悔しそうでも、笑いながら嬉しそうだった。俺は将来、親父の様に【治安局員】として【正義の心】を持ち、弱き者を救う【最強の盾】に成りたかった。そうすれば、きっと俺は……お袋が愛し、親父が望み、妹が……桃子が夢見た俺に成れると…思ったんだ」
そう語る犬太郎から、次第に……弱々しくなる。
「────そう、決めたのに……俺はッ…旧都陥落で、俺は…っ」
「ッ!」
瞬間。犬太郎の背が大きくなり、全身の筋肉が隆起する。
両手を握りしめ、その掌から血が滴る。
身が震え、その顔は強張っている。
そして、犬太郎は……震える声で、告げる。
「────俺はッ……誰よりも優しかった村の方々を、平等に接してくれた友人達を……愛してくれた家族を……家族をっっ………この手で…
「────」
儀玄は、その言葉を聞いて……目を見開いた。
そして…それは。
「────ぇ」
「な……」
「ッッ………」
「うそ、だろ……」
陰から見守る面々に、残酷にも……届いてしまっていた。
次回
犬太郎の抱える重み。福福の答え。
ここに来て過去の開示。
犬太郎のカミングアウトに、純粋で正義の志を持つ福福先輩は、何を想うのでしょうかね。
誤字報告、感想、お気に入り評価、ここすき。本当にありがとう御座います。もっと下さい。モチベがぐんぐにる。
あ、アンケートを取ります。出来たら、御解答して下さいませ。
読みたい話。
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邪兎屋との出会い。
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福福ちゃんとの健全デート。
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犬太郎と福福の助平な話(専用の場で投降)
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男子会(ギャグ)